さて、現実逃避もそこそこに目の前の
ドルモンたちに詳しく聞くと、どうやらシャカモンのエリアでは力が供給されていたからかアルファモンの姿を維持できていたものの、ほとんど限界に近かったため地球に帰ってくるのにエネルギーが足りなかったらしい。
世界の移動には多大なエネルギーや防壁などが必要となるためそのままでは帰ってこれなかったのだが、そこで現れたのがこのギガシードラモンというわけだ。
「でもなんでXデジモンが?」
「イグドラシルがサンプルとして保存していたXデジモンが何体かいたんだって。それで、メフィスモンが時間を止めた影響で封印が解除されて各々が飛び出したらしいんだ」
「……それ、かなりヤバくないか?」
「大半は再回収できたらしいし、もしもの時のためにX抗体を取り除くプログラムも用意してあったみたいだよ」
「そんなのがあるなら、ドルモンたちにも使うんじゃ……」
「なんか、おれたちみたいにX抗体の解放段階が高いと無理なんだって」
「というかそんなのどこで知ったんだ……いや、もしかして」
僕の懸念は当たっているだろう。どうやらギガシードラモンの内部に入れるらしく、まるで宇宙船の中か何かみたいだな。SFものの。色々な計器や扉が並ぶ中、モニターもあった。そこには見知った顔が映っていた。
やっぱりアンタか。
「バグラモン」
『久しいな。私からすれば随分と長い時を感じるが』
「こっちはまだそんなに経っていないけど……X抗体の削除ツールなんて作っていたのか?」
『ああ。君たちが元の時代に帰ったのちに必要になると思ってね。時空の歪みや封印されていたデジモンたちが解放されたのを検知して私が彼を遣わせた』
「このギガシードラモンか……随分とおとなしいけど、どういうことだ?」
『もしもの時のための保険だからだろう。母艦としての役割を与えられたイグドラシルの兵の一体というわけさ』
「前にみたブレイクドラモンたちと同じか……」
『もっとも、自らが暴走したときの保険に用意したみたいだが……結局使われずに封印されていたところ、今回の騒動で封印が解けてしまったのだ。そこをイグドラシルと接続している私が利用したのだよ。
君もイグドラシルとつながっているから主人と認めているのだろう。利用可能範囲は私の方が上だが、権限は君の方が上なのも一つの要因だ』
「え、僕の方が権限上なの?」
『当然だろう。君は生者なのだからな』
その言葉に、ストンと胸の奥のつかえが落ちた。そうか、僕は”生者”なのか。
おかげで懸念が一つ消えた。しかし、彼にはもう一つ聞かねばならないことがある。
「今回のことで一つ聞きたいんだけど……器ってどういうことなんだ」
『…………予測はついていると思うが、君の中にある力は人間のままでは十全に使うことは出来ない代物なのだよ。故に、今回の様な事態にならずともいずれ君がデジコアを体内に宿すことは分かっていた』
「そう、か」
僕は一度死んだのだろう。それでも、この一度だけは生き返ることが出来た。
バグラモンはああ言っているが、デジコアを宿したときのことを考えると死ななければここまでの適合はできなかったかもしれない――つまり、僕が一度死ぬことは決まっていたのだ。
「…………死ぬことでデジコアを宿す。いや、死んだからこそ肉体から魂のデータが分離することでデジコアを受け入れる余地が生まれる」
マキナも死んだことにより魂と擬似デジコアが結びついた。
今の僕も彼女と同じ、半分は人間だが半分はデジモンという中途半端な状態なんだろう。もっとも、僕の場合は肉体が残っているからほとんど人間であるのだが。
「まあそれはもういいとして……結局、このギガシードラモンはどうすればいいの?」
『ふむ。次元の狭間に待機させておくといいだろう』
「ステルスが切れる前に作業しないとなぁ……」
幸い、内部に次元移動可能をするための機械が積まれていたため何とかなった。デジヴァイスXを利用して座標を登録しておいたので対処は後々時間がある時にでもいいだろう。
それと、Xデジモンはまだ数体確保できていないらしい。結局そっちも今後調査することとなるのだが……ああ、それでギガシードラモンを移動手段にしろということなのね。
◇◇◇◇◇
結局、今回の事件は誰にも言う事は無かった。というか言えない。
実は一回死んだんだよねーとか言えるわけないって。
母さんに僕が生まれたときのことも聞いてみたが……結局、何もヒントになるようなことは聞けなかった。
「夢でも見ているのかしらねー、とは思っていたけどねー」
「夢?」
「うん。どこか、生まれたばかりもそうだけど、とっても静かな子だったから。おなかの中にいるときも、静かすぎて少し心配だったぐらい」
懐かしむ様に言う母さんだが、そこに悲哀は無かった。心配とは言っているが、大丈夫だと確信していたようでもある。
「? 安心していた感じがする、かぁ……そうねー。ちょっとおかしな夢を見て安心したからかな」
「おかしな夢?」
「ええ。白いような緑の様な不思議な髪の色をした男の子が出てくる夢。あんまり覚えていないんだけど、その子が大丈夫って言っている気がしたの」
結局、それ以上のことは何もわからなかった。
僕がデジモンのデータを持って生まれてきた原因は母さんには無い。父さんにそれとなく聞いても、何もわからなかったし、結局のところ答えが出るのはしばらく先になりそうだ。
◇◇◇◇◇
体も再生されたので、しばらく疲れが残っただけで済んだのだが……流石に疲れも溜まっており、しばらくだるい日々が続く。
そういえばまだ4月だったなと、先の長さに落ち込んでしまう。
「Xデジモンの捜索もしないといけないし」
気分転換に外でデジモンの目撃情報が無いかパソコンで調べてみているが、芳しくない。
いやぁ、お台場が修復される際にどうせならと無線通信網が張り巡らされていたりなど、前よりも利便性が上がっているなと実感。
「……やっぱり情報は何もないか」
んー、と体を伸ばしてほぐすと耳に聞きなれた声が聞こえてきた。
ミーコ、と自分の家の飼い猫を呼ぶ声が聞こえる。そういや前にも何度かどこかへふらっといなくなったことがあったっけ。
「おーい、ヒカリちゃーん!」
「あ、カノン君! ミーコ見なかった?」
「見てないけど、散歩に出かけただけじゃない? たぶん夕飯までには帰ってくるとおもうよ」
「だといいんだけど……カノン、君?」
その時、ヒカリちゃんが僕を見て首を傾げた。何かとてつもない違和感を感じたかのように。
目を見開き、僕を見続けて――嘘、とつぶやくように後ずさる。
「別に、気にすることは無いことだよ」
「でもこの感じって……」
「なるようにしかならないし、僕は僕だから」
そう言って笑うと、ヒカリちゃんも納得したようにうなずく。ハッキリと口に出したわけではないが、僕の体がどうなっているか見抜かれてしまったのだろう。
その後、僕の言った通りにミーコは夕飯前には帰ってきたようだ。
僕の方はその後もXデジモンについて調べていたが、やはり情報は集まらない。それにDNAアクセルの製作者のことも調べないといけないし……
海外にいる可能性もあるし、これは時間かかりそうだなぁ……
◇◇◇◇◇
そんなこともありつつ、まとまった休みとなるゴールデンウィークがやってきた。
おかげでギガシードラモンの調査もとい改造がはかどるぜ。ちなみに、デジタルワールドへ行くときと同じく座標を入力したゲートを作ってこれるようにしてある。電脳世界に行くよりも簡単だった。
「改造だ、ふへへへへ」
「カノンが久々にマッドモードだよ」
「こ、怖いです!」
「コラそこ、人聞きの悪いこと言わない。改造って言っても内部のスペースを少しいじるぐらいだよ」
元々マシーン型やサイボーグ型のデジモンってのはそういうところ融通効くんだよ。プログラムをいじりやすいというか、改造前提な部分が存在しているというか。
まあ、過度なことをすると危険だけど内部の発艦スペースなどをいじるぐらいなら別段問題は出ない。
「それに、整備しないとどのみち危険だしねぇ……」
「危険ってどういうこと?」
「いや、ちょっと調べてみたら色々と壊れている部分やバグ化しているエリアが多くてさ、どうも長いこと封印されていた影響みたいなんだよ。で、完全修復はできないしとりあえず問題ない程度にいじろうかって話に」
「なんだよ。びっくりさせないでよ」
「です」
「というかドルモンの方がよっぽどな改造をされているだろうが」
「されている、っていうかカノンがしたんでしょうが」
「必要だったからだぞー」
と、軽口もそこそこに内部を改装する。
居住スペースやら簡易ゲートなどを設置し、ギガシードラモンの中からデジタルワールドへ行けるようにしてみる……いや、こっちは無理だわ。僕のデジヴァイスではゲートを開くプログラムを上手く組み込めない。
「別のアプローチが必要だな。まあ、基礎の部分は出来たし使うってわけでもないから気長にやるか」
「カノン、この冷蔵庫どこに置く?」
「居住スペースに頼む」
「ギガさんは平気なんです?」
「むしろ適度にいじってやった方がうれしいらしい」
改造、修理、メンテなどのことをされている時が一番好きなんだそうだ。
しかしこの広い空間を三人で改造するのは骨が折れる。
「っていうかヒカリたちも呼べばいいのに。デジタルワールドのゲートを開くより簡単だったんだから連れてこれるんじゃないの?」
「それはそうなんだが……なんか他8人はデジタルワールドに呼ばれているんだよ」
何があったのかはわからないが、僕以外のえらばれし子供たちはデジタルワールドに行っているのだ。
なんで僕たちだけ呼ばれていないのか。そのうっ憤を晴らすべく、改造を続ける。
「カノン、拗ねないの」
「拗ねてなんかいないやい」
ただちょっと寂しいだけだ。
それと、用意したパイプをとってくれ。耐水処理が壊れていたから直す。
「水中活動するデジモンだよね!?」
「だからこうやって作業しているんだよ」
幸い、魔法を使えば結構速いスピードで作業が進むからゴールデンウィーク中に改造が終わるだろう。
母さんたちにはぼかしつつ説明し、しばらく外泊することを伝えてある。まあ、何度か帰っているけど。ポスターで固定ゲートを作って自室に貼ってあるし。
「完成したら他の国をまわってXデジモンの反応を探れるしな」
「どうやって反応を検知するの?」
「ドルモンたちのデータをベースにX抗体を探す感じ」
モニターを表示し、近くにいるXデジモンを表示すると二つの光点が映っているのが見える。
「おれとプロットモン?」
「いや、プロットモンとギガシードラモンだよ。デジヴァイスとリンクしていると制御されて普段はX抗体が沈静化しているから」
「へぇ」
プロットモンの場合も長らく僕や他のえらばれし子供の力を浴びたからか色々と変質している部分もあるのだが。進化とは別の成長を遂げそうな予感がしてきて……
まあそれはなるようにしかならないというか、プロットモン自身の意思に関わるからなぁ。
「とにかく、さっさと作業を終わらせよう」
「そうだねぇ……」
「です!」
その後、無事に作業も終わり試運転を行ったわけだが…………結局、Xデジモンが見つかることはなかった。
実は全部回収していたのか? あるいはデジタルワールド側に落ちたのか……結局のところ地球で反応を見つけることはできなかったのである。
◇◇◇◇◇
ちょくちょく調べて回る日々が続き、結局Xデジモンの反応を発見できず、DNAアクセルを作った人間も見つからない毎日。デジタルワールドの側も探してみたが、データサイズが大きすぎてギガシードラモンは連れて行けないのでラプタードラモンに乗ってしらみつぶしに探してみたり……
どれも成果が出ずに何事も無い日常が過ぎていくばかりだった。
そして今日――8月1日。太一さんたちがデジタルワールドへ旅立ってから1年となる今日。みんなで集まろうかという話もあったのだが、僕は別の用事が出来てしまいそちらへ行くこととなった。
父さんと二人、車で急いで向かっている。
「父さん、そこ道違う!」
「すまん……どうにも焦ってしまっている」
「気持ちはわかるけど」
ドルモンたちには留守番してもらい、僕自身も全力で能力の封印を行っている。デジコアを宿した状態だからこれから向かう先では注意しないといけない。
「カノン、病院はどっちだっただろうか」
「……はぁ、この先の信号を右折」
「わかった」
「左折じゃないよ右折だよ!?」
「しまった!?」
ここまでテンパっている父さんを見るのは初めてだった。
それもそのはずだ。母さんが産気づき、もう間もなく妹が産まれるというのだ。
その後も道を間違えそうになったり、スピードの出し過ぎで危なかったりなどと色々とあったが、なんとか病院にたどり着く。
「えっと、どこへ向かえば……」
「僕が産まれたときはどうしたんだよ!」
「お前の時は緊張し過ぎていて逆にスッキリとしていたんだ」
「他に考えることが無いぐらい余裕がなかったってことね」
とにかく、父さんの手を引っ張って母さんの元へ。
そして聞こえてくる――赤ん坊の泣き声。
「――――ああ、そうか」
「うん。みたいだね」
そして看護婦さんだろうか? 女性が僕たちを呼びに来て、母さんの元へ向かう。その手に抱かれていたのは、小さな命。
「あら……二人とも、きてくれたの?」
「あたりまえじゃないか」
「カノンも、約束……」
「大丈夫。むしろこっちに来なかったら怒られてたよ」
「ふふ、そうね……ほら、橘ありあちゃんよ。私たちの、新しい家族」
――――ああ、こういう時は本当に言葉も出ないものなんだ。
色々なことが頭をよぎり、ただ思う。産まれてきてくれてありがとう、と。
カノンの妹、橘ありあ誕生。
あと少し閑話を入れたら4章の開幕となります。