デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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3章の大筋はこれで終わりかな。
たぶん誰も予想していなかったデジモンの登場です。


80.試練

 アルファモンとガルフモンの激突。それは両者のデータを削り合うものだった。

 互いの一撃一撃に籠められた力は通常の究極体のそれとはまったく異なる。

 

「おおおおお!!」

「ガアアア!!」

 

 叫び、吠え、持ちうるすべてをぶつけ合う。もはや存在するだけで世界を歪めてしまうほどに強大な力を持ったデジモンが二体。かろうじて己の力を制御しているからこそ、ぶつかり合う都度にデータの削り合いで済んでいるが……そうでなかったのならば、空間ごと消し飛んでいただろう。

 

「――――ッ」

 

 紋章の力はえらばれし子供の心の資質から生まれたもの。故に、カノンを通してアルファモンへと供給されている。王竜剣はあくまで紋章のデータとアルファモンの展開した魔法陣により具現化したものだ。

 力の供給そのものはカノンから行われている。8つの紋章が力を与えているとはいえ、カノンの生命活動を維持しつつ力の供給も行うのには無理がある。

 

(このままじゃジリ貧だ。それに、アルファモンもそう長くはもたない)

 

 ブラスト進化はごくわずかな時間の一時的な進化だ。ガルフモンも同じ制約があるだろうが……どちらが先にガス欠になるかがわからない。ガルフモンが先に進化解除されればいいが、もし逆だったのならばどうなるか。

 

(火を見るよりも明らかだよなぁ……それに、気になることもある)

 

 今も激突を続けている二体だが、ガルフモンは自己再生しているように見えるのだ。

 いや、確実に自己再生能力がある。それは、メフィスモンの時にも使われていた。

 

(あの右腕を再生した能力……それに、ブラスト進化を行うだけのエネルギー)

 

 血が流れ落ち、思考能力が落ちていく。それでもカノンは考えることをやめない。

 断片的にでも見てきた光景を思い出す。

 自分が切り落とした腕。この空間の性質。奴の言動。その全てから奴の能力を割り出していく。

 

(イグドラシルシステムは今の状況で使えそうもない……というかこの空間では無理か。暗黒の力が充満し過ぎている。吸い込むだけで息が苦しくて――)

 

 暗黒の力。その点に行き当たった時、カノンの中で何かが弾けた。

 周囲を見渡し、地面に手をつく。残った力はあとわずかだ。その中で奴を倒す方法を割り出していく。今もアルファモンは力を使い続け、自らのダメージを覚悟の上でガルフモンへと突撃する。腕や翼を斬り落とすものの――それも再びくっついて再生してしまう。

 

「そういう、ことか」

 

 その修復される光景。最後の魔力を使って解析を行う。それにより奴のからくりを見抜く。

 だが、対策法が……あまりにも危険である。アルファモンに進化している今だからこそ可能であろうが、これは下手をしたら自分たちも跡形もなく消え去ってしまうだろう。

 

「それでもこれに賭けるしかない――アルファモン!!」

 

 カノンは走り出し、プロットモンの元へといく。アルファモンの名前を呼び彼へ作戦をインターフェースを通して伝えた。その内容にアルファモンは驚愕するが――理由も伝えられてこれしかないかと、覚悟を決める。だが同時に、カノンの力が尽きかけているのも知る。

 

「カノン――ごめん」

 

 王竜剣を握る手に力がこもり、その一瞬の隙をついてガルフモンの腕がアルファモンへと迫った。

 

「戦いの最中によそ見か聖騎士よ!」

「――ッ」

 

 ガルフモンに掴まれ、アルファモンの動きが止まる。

 これでトドメだとガルフモンの腹の口が大きく広がり――そこに、王竜剣が突き刺さる。

 

「が、あああああああ!?」

「生憎だけど、お前を縫い止めるにはこれしかないみたいでね!!」

 

 王竜剣を押し込んでいき、ガルフモンを貫通して地面へと突き刺す。

 文字通り縫い止められたガルフモンは絶叫し、周囲から黒い霧のようなものを吸収していく。

 

「やっぱり、この街そのものがお前の力の起点なんだな!」

「――なぜそれを」

「カノンが見抜いてくれたんだ。お前が再生する原因、ブラスト進化に使ったエネルギーの出所」

 

 それは全てこの街そのものがガルフモンの力の源だったからだ。

 どういう原理であるのかまでは見抜いていないが、この街自体が暗黒の力の塊のようなものであり、ガルフモンの核でもある。

 この街がある限りガルフモンは消滅せず、力を供給され続ける。

 

「だが、それが分かったところでどうすることも出来まい! 私がいる限りこの街もまた消えない! この世界の狭間に作られた私の空間は確かに小さいが、この世界がある限り私もまた消えないのだ!」

 

 それが彼の自信の表れ。

 この世界がある限り自分は無限とも言うべき暗黒の力を持ち、自分が核となっているこの世界は自分が消えない限りなくならない。

 

「故に私を倒すことは不可能だ!」

「そいつは……どう、かな」

 

 どさりと、倒れながらカノンが現れる。腕には気絶したプロットモンを抱え、ここまで戻ってきたのだ。

 それをアルファモンが抱えて飛び去っていく。その光景に茫然としたガルフモンだが――やがて、彼らを嘲笑する。ここで逃げるのか。臆病風に吹かれたのかと。

 

「ふざけるな0人目! それは全てに対する裏切りだぞ。貴様がしたことはただの逃げだぞ」

 

 無言。アルファモンは翼をはためかせて無言で飛び去ってしまう。魔法陣を展開し、その中に入りこの空間から飛び出していった――巨大な何かを、落として。

 

「――――」

 

 それは、数か月前にアルファモンが異空間に転送したものだった。使い道もなく、どうやって処理しようかと色々と考えてはいたものの、アルファモンに進化できないためとりあえず放置という形で対処されていたものだ。

 使えば多くの命を消し去る、人間が作り出した怪物。その名称は、ピースキーパー。

 直後に――死の炎が小さな世界を消し去る。いかにガルフモンといえどもデータの塊であることには変わりない。いくら実体を持った存在であろうと――いや、実体を持つからこそすべてを破壊する光に呑まれてしまえばどうすることもできない。データが砕け、意識が消え、全てが消滅する。

 逃げることさえかなわず彼と、この世界は跡形もなく消え去り――この狭間は無くなる。アポカリモンの残滓も消滅した。

 怨念である彼は皮肉にも、人の業という悪意によって消えることとなったのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 世界を越え、王竜剣のリンクが消えたことを感じったアルファモンはガルフモンが消え去ったことを知る。

 それに、世界ごと消し飛ばせば奴のデジヴァイスも消し飛んだはずだ。

 

「勝ったよカノン……だから、目を開けてくれよ」

 

 もうアルファモンの姿を保つ力もほとんどない。もはや気力だけで世界の壁を越えているのだ。急がなければ腕の中のパートナーがどんどん冷たくなっていってしまう。

 彼の眼はもう開いていない。アルファモンが抱えたときから、すでに彼の意識が無い。

 

「ッ――」

 

 それでも助けなければいけない。たとえ心臓が止まろうとも、血が足りなくなっていようとも、そこに生気が欠片も存在しなくとも助けなくてはいけないのだ。

 

「――オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 嘆き。そんな叫びがアルファモンから上がる。

 プロットモンもその声を聴き目を覚まし――目の前の少年を見て愕然とした。

 

「…………カノン、なんで………………です」

「頼む、生きてくれ。こんなところで、死なないでくれ!!」

 

 必死に前へと進む。自分たちがどこにいるのかもわからない。だが、それでも助けなければいけないのだ。

 願い、祈り、涙を流しながらどこともわからぬ道を進む。

 すでに世界の時間は元に戻り何事もなかったかのように回っている。

 彼らだけが絶望の手前にいた。彼らだけが終わりの瞬間に近づいていた。

 世界は救われたというのに、一人の少年の命が尽きようとしていた。

 

「――――嘘だ……こんなの、嘘だッ!!」

「ダメです……絶対に、ダメです!!」

 

 ――――その叫びを聞き届けるものがいなかったらの、話であるが。

 彼らの叫びを聞き届け、黄金の光が彼らを導く。

 

「なんだ!?」

 

 体が引き寄せられ、世界の壁を飛び越えていく。自分たちが知らない場所。感覚はいつものデジタルワールドに近い。だが、今まで行った場所とはどこか異質。一番近いのはバグラモンたちがいた場所であろう。

 あの空間のようにどこか現実味がないようでいて確かな実態がある。まるで、自分たちの感覚では計り知れないほどの力を持っているかのようだ。

 そして、光のゲートを通り抜けその世界へとたどり着いた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その空間は光に満ちていた。データの残滓が浮かび、デジタルワールドの一エリアであることは分かる。だが、こんな場所がデジタルワールドに存在していていいのかというほどに力に満ちている。

 

「なんだこの世界……」

 

 あのアポカリモンさえも凌駕するデータ質量だ。一番近い存在を上げるならばイグドラシルだろう。

 アルファモンの眼前にいたのは、巨大なデジモン。だが、本当にデジモンなのか疑わしくなるほどに強大な存在感を放っている。

 人型ではあるが、その姿が本当なのかもわからないほどに。

 

『――――』

 

 その存在がアルファモンたちを視認する。言葉を発してはいないが、この存在に逆らってはいけない。それだけは分かった。

 アルファモンたちも何も言わずに、この存在へと近づいていく。

 

『試練を越えしものたちよ、案ずることはない。その者の魂はいまだ消えていない』

「――!?」

 

 その言葉通り。カノンの魂はいまだ体にとどまっている。いや、カノン自身が留め続けていた。

 残されたごくわずかな魔力を使って無理やりに魂を肉体に留めているのだ。肉体的には死んだも同然であるし、魂も奇跡的に欠損していないだけでほとんど消えかけている。

 それでも、まだ一筋の希望がそこにあった。

 

「それじゃあカノンは……」

『――』

 

 頷きを持って返す。同時にこの空間に新たなデジモンが現れた。

 その色は黄金。この空間の主ほどではないが強大な力を持つ存在――その名を、ファンロンモンという。

 

「あなたは……確か、カノンが封印を解いた…………」

 

 ファンロンモンは何も言わず、ただ一つのデジコアを残す。借りを返しに来たと。

 カノンが少し前にデジタルワールドへ行ったときに解除した封印とは、彼にかけられたものだったのだ。

 そして、デジコアを残してファンロンモンは帰っていき――あとは、この場の主の仕事だ。

 

『我が名はシャカモン。世に試練を与えるものなり。

 橘カノンよ、そなたはいまだ死ぬ運命にあらず。この先に待ち受ける試練はさらに過酷なものとなるであろう。この死もまた試練なり――この死を乗り越え、本来の力を取り戻す時が来た』

 

 カノンの中にデジコアが入り込んでいき、体が光に包まれて再生を始める。いや、再誕と言ってもいい。

 肉体とデータが混ざり合い、カノンの体を修復していく。

 

「これは――ッ!?」

「カノンの中に何かがいるです――とても大きい、とても強いデジモンです!!」

 

 黄金の鎧をまとった何者か。今までもその幻影はたびたび見てきたが、今度はハッキリと見える。

 両手にハンマーを持ったシャカモンやファンロンモンに近い存在の何か。それが、カノンの中にいたのだ。

 

『これは彼が生まれ持った力の根源だ。されど、それは彼の本質にあらず』

「でもこの力は明らかにデジモンのものだ――なんでそれがカノンの中に?」

『それを知る時はいまではない。今より未来――いや、遥かな過去において直面する時がいずれ来るであろう』

 

 そして、カノンの体が元に戻る。いや、デジコアを与えられたことで純粋な人間とは呼べない存在になってしまっただろう。しかし、肉体は再生しており息も吹き返した。ただ一つ、デジコアを宿したこと以外は。

 

「…………マキナと同じ?」

 

 アルファモンにはそこが気にかかる。人でありながら、デジコアを宿してしまった存在。これが意味するのは何か。カノンならば何か気が付くのかもしれないが、彼にわかったのは違和感だけだ。

 これらが意味するのは何か。その疑問だけが浮かぶ。

 

『試練を越えし者たちよ――さあ、帰還の時だ。しばしの休息もまた一つの試練なり』

 

 その言葉の直後、彼らの前に巨大な何かが現れ――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 波の音が聞こえる。目を開けると、海浜公園のあたりで寝そべっているのが分かった。ドルモンたちが僕を覗き込んでいたが……人目についたらマズいと思うんだ。

 

「カノン! おれたちがわかる?」

「ああ……ごめん、心配かけた」

「本当です!!」

 

 プロットモンにも本気で怒られ、流石に今回は無茶じゃすまないレベルだよなぁと反省。

 ドルモンにも散々心配をかけてしまったのだろう。

 

「……それにしても、シャカモンか」

「――記憶があるの!?」

「言ってただろ。魂はつなぎとめていたって。その間のことも認識は出来ていたんだよ。あの黄金のデジモンのこともわかってる」

 

 天使系に近い雰囲気もあったが、アレはそんなものではない。

 自分が知るデジモンで一番近いのはやはりシャカモンか……あるいはバグラモンであろうか。イグドラシルの化身体にも似ているかもしれない。

 

「…………一つ分かったのは、アレは僕が生まれたときから……いや、生まれる前から持っていた力だ」

「どういう事? 何か変な感じはしたけどデジモンのデータをなんでカノンが?」

「分からん。母さんに僕が生まれたときのことを聞いてみた方がいいかもしれないな……」

 

 ただ……解析魔法を試しに使ってみたところ――今までよりも遥かに効率が上がっているのが分かった。

 デジコアを宿した影響……いや、もしかしたら…………

 

「これが、器ってことか?」

 

 バグラモンの言っていた言葉が、妙に気にかかったのだ。

 今までの僕は器が未完成だった――ならば、今は?

 どうやら聞かなくてはいけない相手はもう一人いるようだ。

 

 

 

 

 …………よし、そろそろ現実を直視しよう。

 

「なあ、アレなに?」

「おれたちアレに乗って帰ってきたんだ。そっか、そっちは知らないんだね」

「大丈夫です。すてるす? がかけてあるです!」

「うん、そういう問題じゃないんだよ…………なんであんなのがお台場にいるって話なんだよッ!!」

 

 海の上に浮かんでいた巨大な何か。というかデジモン……ギガシードラモン、究極体。

 

「しかもX抗体持ちってどういうことじゃああああああああ!?」

 

 僕のシャウトがあたりに響き渡り、春の風がまるで慰めるように僕をなでていた。

 なんかもう色々どうでもよくなるほどの厄介ごとが目の前にあるんだけどどういうことだよ!!

 




ファンロンモンはチラッと伏線入れていたんだけど、わかり難かったと思う。すいません。

あとは後日談みたいなのと、間の日常などを入れて4章へ入ります。もちろん、目の前に現れたどでかいのも解決します。
まあ、2章あたりに入れていた色々と地味な伏線と、アポカリモンが現れたときの影響などを踏まえますと答えが出る人もいるかもしれません。

4章ではシャカモンの言及していたことなどを解決していくこととなります。
02編を期待している方、すいません。02編は5章からとなります。

ただ、4章に行く前に02キャラは1人先行登場する予定ですので。
ヒント:カノンの所属クラブ。

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