「みゅう……んー、どなた?」
どなたと言われても困るのだが……この人? こそ一体何者なのか。
「あら? 人間さん……初めましてーバステモンは、バステモンだよ」
「ど、どうも……カノンって言います」
「ドルモンです。バステモンさんはどうして人間界にいるの?」
「んー……どうしてだっけー?」
いや、こっちに聞かれても困るんだけど。なんだろう、この普段の母さんを思わせるのほほん具合は。
というかデジモンが普通に人間界にいるのにかなりの疑問がある。そして、この洞窟の内装の生活臭漂う具合が、長い間ここにいることを伝えてくる。
「おもいだしたー。探し物があったの」
「探し物、ですか」
「うん。でも見つかるといけないから、ちょっとついて来てねー」
「「?」」
バステモンに連れられて、海岸を歩く。人目が無かったためバステモンは堂々と歩いているけど、ちょっとは気にした方が良いような……
というか、見つかるといけないならもう少しこそこそすると思うんだけど。
「うーん。人間に見られても、バステモンは別に驚かれないよ?」
「まあ、コスプレぐらいにしか見られない見た目だけど」
「それに見られたら困るのは人間にじゃなくて、イグドラシルにだからー」
「……そういえば、何度か聞いたことがあるけど、イグドラシルって何なの?」
「――――んー、デジタルワールドの神様みたいな奴かなー。アイツ結構カゲキって感じなの。だからこっちに来ているデジモンとかは問答無用で消されたりとか色々あるんだよねー」
「……でも、そんな奴見たことあったっけか?」
「うーん、なんだかそんなような話があったような無かったような……」
ドルモンの記憶にその名前はあったが、これまでそのイグドラシルに何かされたことはない。第一、そんな奴がいるのならダークリザモンの時に出てきただろうし、コロモンの時にも何かあったはずだ。
……ダークリザモン自体がそのイグドラシルが送り込んできた奴かもしれないけど。その前に出てきたワイヤーフレームのアイツも怪しいが。
「君らは大丈夫よー。そのデジヴァイスがあるからねー」
「……これ?」
「それがあるなら問題はないってことなんだしー。だからバステモンはあなたたちの近くにいれば安全なのー」
「そんな無茶な……」
「カノン、とりあえずバステモンの情報を見ておく?」
「だなぁ……」
ドルモンのインターフェースに触れて、バステモンの情報を引き出すと……えっと、完全体でウィルス種。うん、勝てないねこれ。
ダークリザモンの時にさんざん懲りた。格上相手に戦うのは後に引けない時だけだと。
「別にバステモンはそんなに強くないよ。完全体って言っても、上は究極体レベルだけど一番下は成長期より弱いってのもいるしー」
「進化しても必ずしも強くなるわけじゃないってことか」
とりあえず先に進んでいくと、巨大な岩壁にたどり着いたけど……行き止まり?
「えっと、行き止まりなんだけど」
「行き止まりじゃないよ。デジヴァイスをかざしてみればわかるから」
「う、うん……」
ちょっと怪しいと思いつつ、デジヴァイスをかざしてみると――――岩壁に不思議な文字や図形が浮かび上がったと思ったら、洞窟が出現していた。
あまりの出来事に茫然としているとバステモンは先に進み、はやくはやくーと呼びかけてくる。
「一体、どうやっているんだこれ」
「バステモンがまだウィッチモンだった時に覚えた魔術を使ったのよ。今も色々使えるよー。面倒だけど」
「ま、魔術……」
デジタルモンスター……だよね?
そんなファンタジーなことができるのだろうかと思うだが、バステモンが手のひらに魔法陣を出して見せた。そこから小さな炎が出て、あたりを照らすことで実際に使えるところを見せられる。
「これ、どうやってるの?」
「炎を出すプログラムを構築して、その術式をこうやって投影しているの。このぐらいならコツさえつかめば簡単にできるよ」
「コツ?」
「んー……デジタルワールドの文字で書いてあるね」
独自言語……これ、文字から覚えないとダメじゃないかな? ただ、その後も続いたバステモンの解説から察するにパソコンとかのプログラムみたいな感覚で使用しているっぽいことだけは分かった。
あと、その気になれば僕も習得できる可能性があるらしいのだが、本当だろうか……
と、そんな風にしゃべっていたら最奥にたどり着いた。池と言うかそこから先は水に潜らなければいけないらしく、これ以上先には進めなくなっている。
「イグドラシルの監視も最近緩くなっているし、行けるかなと思ったんだけど……やっぱりそう簡単にはいかないよねー」
「――――ッ、ドルモン!」
「分かってるよ!」
バステモンとは異なるデジモンの気配が近づいてくるのを感じた。ドルモンもすぐに対応できるようにしてもらいあたりを警戒をすると――水の中から、何かが飛び出てきた。
そいつの見た目はバステモンと同じく人に近い。だけど、下半身は完全に人のそれとは異なったシルエット。先にはヒレが付いており、人魚と聞けば彼女のような姿を思い浮かべるだろう。
「お久しぶりねー、マーメイモン」
「あらぁ……バステモンじゃないの。また性懲りもなくきたってわけ?」
「いい加減、お仕事終わらせないとねー」
「貴女も懲りないわねぇ……何、おかしな助っ人まで連れてきて再挑戦?」
それってもしかしなくても僕たちだよなぁ……しかし、この場所に何かがあるのか?
「あんたが盗んだデジメンタル、いい加減に返してもらうわよ!」
「アレは別に誰の物でもなかったはずよ。古代デジタルワールドの秘宝。もう使われないんだから、別に頂いたってかまわないじゃない」
「だからってあんたが盗んでいいものじゃないのよ! 人間界とデジタルワールドの境界の崩壊を少しでも食い止めるためには、デジメンタルを回収しないといけないの」
「相変わらず、スイッチが入るとウザいッたりゃありゃしない――そんなに欲しけりゃアタシを倒してみな、ホメオスタシスの犬が!」
「バステモンは猫! それに、イグドラシルに管理されるだけの日常なんてまっぴらごめん!」
交渉は決裂とばかりに、お互いがぶつかり合う。すさまじい衝撃波が僕らを吹き飛ばそうとし、体がふらついてしまう。
「うごッ!?」
「マーメイモンも完全体だよ! どうするのカノン!」
「どうするって言ったって……」
「カノン君、お願い水の中にあるデジメンタルをとって来て! こいつはバステモンが食い止めておくから!」
「ええい――だったら先にそのガキからッ」
そう言うと、マーメイモンは手に持った錨をつかい僕の体を吹き飛ばそうとして――ドルモンがかみつき、それを防ぐ。たしか、あの技の名前は……
「ダイノトゥース! カノン、よくわかんないけどとりあえずデジメンタルっての取って来て!」
「――分かった!」
どういう事情があるのかわからないが、なんとなくバステモンは信じていいように思えた。
水の中にもぐり、先へと進んでいく。その間も上では戦いが続いているのだろう。急がなければいけないが――ふと、首から下げていたペンダントが光っているのに気が付いた。
(――――、紋章が光っている?)
ペンダントの中央に、紋章が描かれたプレートが付けられているのに気が付いたのはいつだっただろうか。こいつについてはドルモンも知らなかったが、これが反応を示したのは初めてだ。
この先にあるデジメンタルに反応しているのだろうか……デジヴァイスも光を強くしていく。やっぱりか…………少しすると、デジメンタルらしきものが見つかった。
四角い台座の上に、卵型のオブジェが鎮座されている。色は真っ黒になっていて元の色がわからないが、これで間違いないだろう。
(なんだろう――不思議な暖かさを感じる)
手を触れてみると、ドクンと脈打つように熱が体中に駆け巡る。
紋章とデジヴァイスの輝きが更に強まっていき、そして――――
◇◇◇◇◇
洞窟内ではドルガモンに進化すると、移動範囲が狭まり余計に戦いにくくなるため進化せずにいたドルモンだったが、二体の完全体の力の前では時折援護をするしかできない歯がゆさを感じていた。
(――いくら進化できるようになったからって、進化して不利になるんじゃ意味がない……どうすればいいんだよまったく!)
縦横無尽に駆け回り、マーメイモンの攻撃をかわしつつ、バステモンの攻撃を援護する。バステモンはとても素早いデジモンで、マーメイモンの攻撃をかわしながら互角の戦いを繰り広げていた。
マーメイモンもその華奢な外見に似合わず、重い一撃を連続で繰り出してくるなどパワータイプの攻撃を仕掛けてくる。早さではバステモンが勝るが、流石完全体。一撃当たれば勝てるとでもいうように、次々に攻撃を仕掛けてくる。
「ほらほら! 避けてばかりじゃ勝てないわよ!」
「勝つ必要はないわ! デジメンタルさえ手に入ればそれで……」
「ふふん。なら、こうするまでよ!」
マーメイモンは錨を投げ飛ばし――水路をふさいでしまった。これでもう、カノンは上がってこれない。
「――ッ、カノン!?」
「こんの外道!」
「ハハハ! ウィルスの貴女がよく言うわよ。この化け猫。ホメオスタシスの飼い猫になるなんてお笑いだわ」
「属性なんて関係ないわよ……ただ自由なのがバステモンのウリ! ホメオスタシス様のために動くのもバステモンの自由! 自分がやりたいようになるのがバステモンよ! あんたこそデータ種のくせしてやることなすこと……」
ドルモンが急いでカノンを助けようと駆け寄っていくが、その隙を逃さないマーメイモンではなかった。
「――さあ、消えなさい!」
「逃げてえええ!!」
「え――――」
「あ、あああああああああ!?」
すでに握られていた錨が振り下ろされ、ドルモンの頭へと振り下ろされる。まさに、その一瞬だった。
崩落した岩が赤く染まり、炎が噴き出した。その炎がマーメイモンへと直撃し、彼女を吹き飛ばしたのだ。
「なんなのよ……何なのよ、いったい」
「あれって……デジメンタルが、起動したの!?」
炎はすぐに収まり、その中から人影が歩み寄ってきた。
右手には赤い炎のような模様の卵型の物体を手にしてる……胸の紋章は金色に輝いており、その光を浴びるとドルモンとバステモンの体の疲労は回復していった。
「これは……」
「凄い。これっていったい?」
「なんなのよ……あんた、一体全体何者なのよ!?」
「さあな。ただ、お前の中にあるそのいかれたデータを見逃すわけにはいかないな」
「――――ッ」
「行くぞ、ドルモン――進化だ!」
デジメンタルを掲げ、ドルモンへその力が注ぎ込まれる。
カノンにとって不思議だったが、自然とデジメンタルの使い方が頭に浮かんできた。デジモンを進化させるアイテム。普通なら使うことはできないかもしれないが、ドルモンはプロトタイプデジモン。
デジメンタルで進化させることの出来るデジモンは古代種のみだが――ドルモンは更にその大元であり、インターフェースによる書き換えが行われ、すぐに適応した。
「デジメンタル、アップ!!」
「――グオオオオオッ! ドルモン、アーマー進化!!」
ドルモンの体が炎に包まれていく。
体は大きくならないが、形が変化していく。
より四足で歩く形へ、以前とは全く異なる姿への進化を遂げた。
「――サラマンダモン!」
「うそ、アーマー進化しちゃったの!?」
「クソッ――だけど、すぐにはその力を使いこなせないハズよ!」
マーメイモンが再び錨を振り下ろすが、サラマンダモンがするりと体を錨に合わせて巻き付くように避けてマーメイモンの懐に入り込む。
「なっ!?」
「にぱぁ――ヒートブレス!」
口から炎を放出させ、マーメイモンの動きを止める。データがほつれはじめ、体内から黒色の0と1の数字が噴き出始める。
「しま――」
「見えたッ! バステモン、錨を弾き飛ばしてくれ!!」
「オッケー! いっくよー!!」
バステモンがその爪で連続で切り付け、隙の生まれたマーメイモンから武器を吹き飛ばす。体勢が崩れ、武器も失ったマーメイモンは既に丸裸だ。
あとは、データのほころんだところに最後の一撃を加えるだけ。
「サラマンダモン!」
「分かった! バックドラフト!!」
爆発。連続で強力な一撃を浴びせ続け、マーメイモンへと攻撃を仕掛ける。次第にマーメイモンの姿がぶれていき、そして黒い靄のようなものが噴き出した。
「ガアアアアア――――ッ」
「マーメイモン!?」
マーメイモンのデータと黒いデータが残り――マーメイモンのデータが崩れ、デジタマへと再構成されていく。
そして、黒いデータは小さな種となって落ちた。
「……マーメイモン、操られていたってこと?」
「それは分からないけど、悪いものは出したみたいだね。根本的な部分に根付いていたのか、デジタマになっちゃったけど」
「始まりの町に戻らないでここでデジタマになるなんて……でも、この種って何なのかな」
「さあね……残しておくのもマズイ気がするし、サラマンダモン。焼いちゃって」
「分かってるよ。ジューっとね」
サラマンダモンが火を吹き、種を焼き消す。
その後、ドルモンに戻りデジメンタルはカノンの手の中に戻り――彼の体の中へと入っていった。
「グオ!?」
「カノン!?」
「わああああ!? デジメンタルが!?」
「――――あれ? 別に痛くもない……」
「驚かせないでよ」
「いやいや、デジメンタルどうするの?」
「どうするって……どうしよう」
戦いは終わった。されど、まだ問題は片付かない。
しばしの間、三人は茫然とするしかなかった。
今回登場したデジメンタルについては、次回で補足いたします。
改めてアドベンチャーの設定を見たら四聖獣でビックリ……tryで語られるのだろうか。
というかアドベンチャーって語られてない部分多過ぎんよ。
まあこの作品内でネタを拾うのは難しいからあらかじめ言っておくと、先代の子供たちのパートナーのその後が四聖獣とファンロンモンとのこと。パタモンもいたけど別の役割になったとか。
15周年のドラマCD聞いてないから詳しくは知らないデス。
で、自分が問題にしているのは……時系列どこだよ。1995年から1999年の間ってのは分かるんですが……いや、及川の例があるから更に前になるのか?
少なくとも異常気象が起きる前だから99年はない。準備期間とかダークマスターズの活動とかあるからもっと前になる可能性も――いやそもそも時間の流れ方が――――以下、考察が長いので略
とりあえず、分かり難い部分ですので今後は――ボカシていきます。