デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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今回が最グロ回かも。


79.進化

 ラプタードラモンが加速し、奴の攻撃をかわしていくが――奴の動きが予想以上に速すぎる。

 アポカリモンの時とは能力が大幅に異なっているのだ。あの強力なマイナスのエネルギーの塊であった時とは違い、おそらくは主観を持っていた意思のみ。なおかつ、戦闘力――それも魔法戦に特化したものへと変化し、格段に上昇しているのだ。

 

「どうした――逃げてばかりでは勝てはしないぞ」

「だからって、建物を落すとかッ」

 

 ビルの様な何かを僕たちの真上に召喚し、落下させて来る。休息旋回により回避するも――眼前には、メフィスモンの腕があった。

 

「――シールド、全開!!」

「槍よ!」

 

 奴の手に黒い炎で形作られた槍が出現し、それが投擲される。

 シールドが削られていっている音が聞こえる。というか、魔力そのものが腐食している!?

 

「リリスモンと同じ腐食系の固有能力――!」

「ほう、良く気が付いたな。だが、すでに遅いぞ」

 

 ――体が勝手に動いていた。ラプタードラモンは驚いた顔をしていたが……大丈夫だ。運命のデジメンタルで進化した今ならこの暗黒の世界でも一人で動けるだろう。

 ならば、僕がすべきことは一つ。ラプタードラモンの背中を蹴って飛び、奴へととびかかった。

 

「魔法剣、グレイダルファー!」

 

 手に魔法剣を生み出し、奴へと斬りかかる。それに槍を持って応戦するメフィスモン。

 二つの力がぶつかり合い、周囲の建物を吹き飛ばしながら力のフィールドが形成されだした。

 

「闇と光がぶつかり合えば、反発して力場が発生する……わかってはいたけど、キツイな」

「なかなか研鑽を積んできたようだが、後ろががら空きだぞ」

 

 僕の後ろに炎の槍が出現し、僕を貫こうとする。だけどそれは言われなくてもわかっているんだ、メフィスモン。結局のところ、こいつは他者を信じる心が無い。

 だからこそ、僕が彼から飛び降りたのだ。

 

「――ッ!」

 

 上空からラプタードラモンが落下してくる。いや、蹴り降りると言うべきか。槍を消し飛ばし、メフィスモンへととびかかっていった。

 流石に驚いたのか、つばぜり合いが終わりフィールドも解除される。ラプタードラモンの体にはフィールドを突き破ったからか、焦げ跡が残っていたが……

 

「ッ、肩が!?」

「後ろががら空きってね!」

「――なるほど、貴様は死にたいらしい」

 

 奴の口から呪文が聞こえてくる――体中に悪寒が走り、意識が遠のきそうになる。

 おそらくは呪文そのものを聞くことでダメージか何かがあるタイプの技。途切れそうになる意識を何とか繋ぎ止め、力を解放していく。

 

「なんだと?」

「生憎だけど、リリスモン直伝の解呪魔法があるんだ。今更呪い程度でどうにかなると思わないでくれ」

「フハハハハ! まさか七大魔王の一角から手ほどきを受けていたとは――光の力を持ちながら、闇の存在に師事するか! それがどういう意味を持つのかわかっているのか」

「お前こそわかっているのか怪しいんだけどな。光も闇も、誰しもが持ちうる性質だ。日が昇り、沈み、また昇る。そうやって繰り返してきたからこそ僕たちは生きている」

 

 光が降り注ぐ世界で生き物は生きられないだろう。光無き闇もまた同じだ。

 二つがそろって初めて生命は創られる。

 

「命ってのは、そうやって生まれたんだ――だから、お前みたいな暗黒で世界を覆いつくし、世を終わらせようとする奴をを野放しにするわけにはいかない」

「カノン――?」

 

 ラプタードラモンが息をのむのが伝わるが、どうにもわからない。なぜ、僕を見て驚いた顔をしているのか。

 

「…………貴様、気が付いているのか? それは人の身に余る代物だぞ。使えば使うほど、貴様の人格を蝕み別の何かへ作り替えてしまうだろう」

「黄金の姿をした誰かのことか?」

「――――」

 

 その瞬間、メフィスモンは初めて理解できないものを見る目をした。

 何故それを知っていてなお力を使うのか。何故それを知っていて、その程度の侵食で済んでいるのか。

 

「理解できないだろうな……僕だって、全部を知っているわけじゃない。でも、そんな道理なんて知るか。僕は僕だ。無茶苦茶だろうが何だろうが、全部ひっくるめて僕――橘カノンなんだよ!」

 

 右手に光が集まり、閃光となって弾けた。拳から放たれた力が、ビーム砲のような一撃となりメフィスモンへと迫り、我に返ったかのように奴が攻撃を避ける。

 だが、その進路には相棒――ラプタードラモンがいた。

 

「――ッ、貴様がいたか!」

「カノン、無茶し過ぎなんだよ! でも、結局いつも通りってか!」

 

 ラプタードラモンの一撃が決まり、僕も追撃を行う。今度は魔法弾。奴も応戦するがラプタードラモンとのコンビネーションで奴の攻撃を封じた上でこちらの一撃を決めていく。

 

「おのれ……見誤った。よもや貴様が人の身でありながら、その力を引き出せるとは思いもしなかった――使えば確実に、別の存在になり果てるはずだと言うのに、すでに別の何かに変貌しているとはッ」

「別の何かとは失礼だな! 何も変わらない。たとえどんな存在になろうとも、僕の心がここにある限り、僕は変わらない! どんな壁が立ちはだかろうとも、全部ぶっ壊して前に進むだけだ!」

 

 右手に光の剣、左手に雷の剣を召喚し、奴へ突っ込む。それだけでは奴の障壁を破ることはできないだろう。

 ラプタードラモンが突撃し、障壁を削っているがそれでも足りない――奴の障壁は玉ねぎのような何枚もの層となっているのだ、ならばもう一撃を加えるだけだ。

 

「プロちゃん、全力全開です!!」

「なんだと!?」

 

 プロットモンが飛び出し、声を上げると同時に彼女のホーリーリングが飛び出した。僕たちの目の前で巨大化していくそれは光のゲートへと変化する。輪の中には薄い膜の様なものが貼られており、そこを僕たちが通過したとたん――力が増大し、加速する。

 

「ハアアアアアッ!!」

「進化もしていない存在が、新たな力を手に入れるというのか!?」

「成長するってことは進化するだけじゃない。デジモンも人間も関係ない、前に進み続けたからこそ新たな道が見える。未来ってのは、突き進んだ奴にしかつかめないものだ!」

「だが、それは最早奇跡と呼んでいいレベルの力だ。他者の能力を増大させるなど――」

 

 わかってないな。奇跡なんて誰にだって起こせるものだ。だけど、誰にだってやろうと思ってできることじゃない。諦めない心。負けない強さ、立ち向かう勇気。それらが集まって突き進み続けた奴が奇跡ってのをつかみ取るんだよ。

 奴の障壁へと斬りかかり、削り取る。

 奴も魔力弾を撃ち続け、ぶつかり合う。かするだけでも結構な痛みが走る――それでも、前に進むんだ。体の痛みが何だ。こんなもの、ミラージュガオガモンの時の方がよっぽど痛かったぞ。

 それでも一歩届かず、光の剣が砕け散った。

 

「――これで、終わりだ!」

「まだだ――まだ、終わりじゃない!!」

 

 砕けた光の剣の欠片が雷の剣に集まりだし、一つになっていく。その形をかえ、雷の大剣へと進化した。

 

「オオオオオオオオオオ!!」

「そんな大ぶりの攻撃が――ッ!?」

 

 だから何度も言っているんだ。僕たちは一人で戦っているわけではない。本質的に一人であるメフィスモンでは理解もできなかった絆の力。

 みていなくてもわかる。彼なら、このタイミングで来てくれるって。

 

「デリャアアア!!」

 

 ラプタードラモンがプロットモンのリングをくぐり、一気に加速して障壁を全て突き破ったのだ。メフィスモンとぶつかり、奴の左腕を弾き飛ばす。奴が撃とうとしていた魔法を消し飛ばしたのだ。

 

「それでも、まだ右が――ッ!?」

「一瞬でも……プロちゃんだっていけるです!」

 

 プロットモンが体当たりで奴の右腕をそらす。それにより、魔法の発射が遅れた。本当にわずかな時間。それでも、この一瞬は僕たち全員で作り上げた一瞬だった。

 奴の懐に入り、大剣を振るう。

 肉を絶つ感触が手に伝わり、ぐるりと何かが飛んでいった。

 

「私の、右腕が――」

「ぶ――ッ飛べ!!」

 

 剣で突き飛ばし、魔力を全開放する。大剣が雷撃の塊へと変化して奴を吹き飛ばしてしまった。

 同時に、体が倒れる。何とか意識を保とうと膝をつくだけにとどめたが……瘴気が立ち込める空間だったな……ちょっと無茶し過ぎたか。

 

「カノン!」

「大丈夫です?」

「あ、ああ……何とか無事だよ」

 

 プロットモンたちも駆け寄ってきて、とりあえずこれで勝った。あとはデジヴァイスを破壊出来ているか確認して――そう思った瞬間だった、おなかに何か熱いものが流れる感触があった。

 そして、背中に違和感が走る。いや、体の中、腹と続いて違和感が出てきた。

 

「――カノン!?」

 

 ラプタードラモンが駆け寄ってくるが――黒い波動が彼を吹き飛ばしてしまう。プロットモンも蹴り飛ばされ、壁へと激突して動かなくなる。

 体を動かそうとするが、巨大な棘が腹に刺さっていて動けない。

 

「ゴフッ――」

 

 口から血が流れ出る。意識が遠のく。魔力を体に巡らせ、無理やりにでも意識を留める。

 腹に刺さった棘を抜こうとして――それが、ひとりでに出て行って体に大穴があいた。

 

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 痛い。頭の埋め尽くすほどの激痛。遠のく意識の中、痛みをシャットアウトするために術式を組む。

 体を動かすために、自己治癒――失敗。ある種の呪いを付与されている。それでも、これ以上の出血を防ぐために体の回路を無理やりにでも魔力で組み直す。

 眼前にはメフィスモンがゆっくりと歩いてきていた。切り裂かれた右腕を再びつなぎ直し、ゆったりとした動きで。

 

「なん、で……」

「不思議かな。だが、それを考え答えを出し、対策を考えるのが君の強みだ。ならば私もそれに習おう。貴様たちがどうあがこうが、どうすることもできない絶望を与えよう」

 

 左手にDNAアクセルを持ち、奴はトリガーを引く。何度も連打し、奴へ力が供給されていく。

 いや、供給なんてもんじゃない。これはリミッターの解除に近い。それに、僕はこれを知っている。

 デジコアへ直接アクセスし情報を引き出した上での強制的な可能性の解放。

 

「――まさか」

「そのまさかだよ――メフィスモン、ブラスト進化!」

 

 直後に闇が増大した。

 奴の体が肥大化していき、そのデータを変質させる。

 形も変化し、人型からケンタウロスのようなシルエットへ。

 とてつもなく大きな体、山のような巨体が僕を見下ろしていた。

 

「ガルフモン!!」

 

 咆哮が上がり、その叫びだけで僕の体が吹き飛ばされた。

 何度も地面を転がり、やがて建物へぶつかったところで止まる。

 出血もひどい……生暖かい血が不快感を増大させる…………と言っても、感覚がどこか鈍くなってきたが。

 

「……これ、本格的にまずいかもな」

 

 さっきの棘は斬りとばした奴の腕か。それを変化させて僕を貫いたってことだろう。

 完全に僕のミスだ。奴を甘く見過ぎていた。散々偉そうなことを言っておいて、こんなミスって……

 

「でも、諦めるわけにもいかないよな……」

 

 奴から放たれる魔力砲撃。僕を消し飛ばそうとしてくるが、全力のシールドで何とか防ぐ。魔力がガリガリ削れていく、力が抜ていく。意識が遠のいていく。

 それでも、奴の攻撃が終わる気配はない……これ、本格的にヤバい――

 

「まだです!」

 

 ――足に力が入る。支えるように、プロットモンが僕を押していた。リングがシールドとくっ付き、強靭な盾となる。

 

「そうだ――まだおれだって戦える!!」

 

 ドルモンに戻ってしまっていたが、それでも僕を支えてくる。

 そうだ。まだ終わったわけじゃない。勝機が見えなくても諦めることはしない。諦めてしまえばそこで道は途絶えるのだから。

 僕が諦めてしまったら、その後はどうなる? 脳裏に浮かぶのはみんなの顔。太一さん、ヒカリちゃん、空さん、光子郎さん……それに、去年であったえらばれし子供。ヤマトさん、タケル君、ミミさん、丈さん。

 父さん、母さんだって――生まれてくる妹だってここで僕が踏ん張らなかったらどうなるって言うんだ。

 

「それに、マキナとまた会うって決めただろうがッ!!」

 

 あの手紙のお礼を言わなくちゃいけないんだ。あの時、あれがあったから前に進めたんだ。

 絶対に――諦めるもんかッ!!

 

 その時、ガルフモンの体から8つの光が飛び出した。あまりの痛みに、奴の攻撃が止まり悲鳴が上がる。

 

「――なぜだ! 何故、えらばれし子供たちの力がここにあるのだ!?」

 

 勇気、友情、愛情、知識、誠実、純真、希望、光。8つの紋章がグルグルと飛び交い僕の体へと入っていくる。

 一つ一つが入るたびに、アポカリモンにデータへと変換されれた時のみんなの記憶が入り込んできた。

 

「そうか……これは、お前が破壊したみんなの紋章の欠片だ。お前が復元されたときに一緒に復元されていたんだ!」

「――ッ」

 

 僕の胸の紋章が大きく輝き、今再び∞を示した。

 

「バカな――この空間で進化だと!?」

「お前がやって見せただろうが……ブラスト進化は通常の進化じゃない。光にも闇にも属さないものだ。それ自体はリミッターの解除でしかない。だからこそ、僕たちだって出来る!! いくぞ、ドルモン!!」

「ドルモン、ブラスト進化ァアアアアアアア!!」

 

 暗黒を吹き飛ばし、黒き聖騎士が今再び現る。

 更に8つの紋章の力が彼に更なる進化をもたらした。

 

「アルファモン――究極戦刃王竜剣!!」

 

 8つの紋章が一つになり、アルファモンの展開した魔法陣へと集い一つの武器へと変化したのだ。

 強力な波動を放ち、アルファモンも巨大な翼を展開する。

 

「さぁ……決着をつけよう」

「えらばれし子供たち……やはり、どこまで行っても私の邪魔をするかッ!!」

 

 憎悪の化身と僕たちの願いを乗せた騎士がぶつかり、轟音があたりに響き渡る。

 僕たちとアポカリモンの真の決着の時が来た。

 




王竜剣の登場ってところで次回に続く。

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