あと、新キャラが出ます。
びしょ濡れのまま戻った僕たちであるが、近くに落ちたため光子郎さんたちもすぐに駆けつけてくれた。
「対処するのはいいですが、外国だったらどうしていたんですか!」
「……あ、考えてなかった」
「まったくお前は……で、その手に持っているのって――」
太一さんも気が付き、顔が青ざめているが……まあ無理もないだろう。
奴の幼年期、クラモン。名前が分かったということはデジモンの種族として定着した……というよりデータベースに登録されたんだろう。あとでアナライザーを使えば調べられるかもしれない。
「転送時にデータの欠片か何かがくっ付いてきちゃったのかもしれません……他には反応がありませんでしたし、気絶させているので一応は大丈夫ですが」
「でもまた大騒ぎになるんじゃないか?」
「そうですね……でもデジタルワールドへ持っていくのも危険ですし…………」
とりあえず僕の部屋へと運び、どうするかを考えている。あとで母さんたちに連絡して核ミサイルの件も片付けないといけないし。
うーん……試したことないけど、封印魔法を試してみるか。
「封印魔法?」
「前にバステモンが凍結させられていた時のデータを参考に作ってみたんですけど、流石に実験するわけにもいかなかったので使ってなかったんですよね……ただ、媒介が必要なのでちょっと手間取るんですけど」
とりあえず適当に何かないか……これでいいか。机に置いてあった引き出し付きの箱から一枚の黒い板を取り出す。
「それって……フロッピーディスクですか?」
「買ったのはいいけど使わないでいたのがありまして、これの中に入れて封印します。回線からも切断した状態になりますし、とりあえずの措置としてはいいかなと」
「そうですね……ゲンナイさんにも相談した方がいいと思いますが、とりあえずはそれで行きましょう」
フロッピーディスクに魔法陣を展開し、クラモンを押し込む。
データ変換され、中に入っていくが――同時に、凍結封印を施す。ネット回線につながっていない状態で更に動けないようにしたが……これで済めばいいんだけど。
「どうですか?」
「成功、しましたね。幼年期だったのが幸いでした。ただ、デジタルワールドへ持っていくのは危険かも」
データを食べる性質を持つ以上、あの世界に持っていくのはX抗体以上に危険だ。
とりあえず今はこうやって保管するしかない。
「解析もしばらくはしない方がいいですね」
「パソコンに入れたら……想像もしたくありません」
結局、この問題は先送りするしかないのであった。
なお、後日ゲンナイさんから届いたメールでも対処法が無いため僕の方で保管しておいてくれという話になった。向こうに持っていけない以上、現状のままにしておくのが一番だったという事である。
◇◇◇◇◇
「そんなことがあったのねー」
「うん、それで母さんには伝手のほうでちょっと何とかしてほしくてね」
「わかったわー。貸しのある相手もいるし、ちょっとなんとかしてみるねー」
ずぶぬれになった際、結局風邪をひいてしまった。ひどくはないのだが鼻水が止まらないので病院に行くことになったのだが、ついでに母さんに後始末のことを相談している。今は病院からの帰り道、ドルモンたちは留守番している。流石に病院には連れて行けないし。
誤発射された核ミサイルについてはゲンナイさんの手も借りて何とか大事にならないように色々と情報操作しているんだけど……やっぱり限界はあるし、本職というか詳しい人が身近にいるから力を貸してもらうことに。
「母さんも身重なのにこんなこと頼んでゴメン」
「いいのよー。カノンったら頭良すぎて母さん的には頼ってほしいしー」
「あ、あはは……そういえば、おなかの子って性別わかっているの?」
「たぶん女の子だろうってー。カノンももうすぐお兄ちゃんねー」
「あんまり実感ないけどね……うちには似たようなのいるし」
「そうねー。あんまり心配していないけど、仲良くしてあげてねー」
「分かっているよ……」
少し不安というか、これから来る未来に対してなんだか言いようのない感覚がある。胸の奥がチクチクするというかなんというか……
ちなみに、生まれるのは7月か8月ぐらいになるらしい。
「それにしても、強い日差しねー。新学期、準備はできているの?」
「まあ、そっちは大丈夫だよ。特に問題はないし」
風邪も治っているだろうから、普通に行けるよ――と、続けようとしたが体が硬直してしまった。
母さんもどうやら同じ感覚に陥っているようで、体が動かなくなっている。いや、それどころかこれは……冷汗?
「母さん?」
「静かに……しゃべらないで、母さんに任せて」
静かに後ろを振り向き、この感覚――強烈な殺気の主の顔を見る。何度も味わってきたからこそ感じることが出来るようになってしまったが……どこか恨みの様なものも感じる。
後ろに立っていたのは、いかにも軍人か裏稼業の人間と言った風貌の男だった。金色の短髪で、身長は高い。左目に大きな傷があるのも厳つさを増す要因となっている。イメージで言うなら、ライオンだろうか。
「随分と久しぶりだが……この距離でようやく気が付くとは、ずいぶんとふぬけたようだな」
「……久々に会った先輩に言うセリフかしらね」
どうやら、母さんの昔の後輩らしいが……たぶん、仕事の後輩だろうな。というか絶対に。
しかしこの感じ……ピエモンやムゲンドラモンに近い感じがする。どこまでも非常になれるタイプというか、殺すことにためらいがみじんもない感じ。とても嫌な感覚だ。
「そいつはお前の息子か……それに、妊娠しているようだが…………平和ボケしたか?」
「あら、私が子供を産んじゃいけないかしら。ジャック」
「いいや……最初は憤りさえ覚えたさ。あんたは俺の憧れだった。女の身でありながら、どこまでも強かったあんたを尊敬さえしていたんだ」
「私としては、元教え子が外道になったのは人生唯一の汚点とさえ思っているけどね」
母さんは今まで見たことない眼をしている。刺すような視線という表現すら生ぬるい、射殺す視線とでも言うべき、ギラギラとした眼だ。
「久々に見たぜ、その眼……考えの対立から袂を別った身だったが…………」
唐突に、男の視線がこちらを向いた。
ゾクリと体に嫌な感覚が走る。思わず、魔力を放出しそうになるが――ダメだ、そんなことをしてはいけない。この場で僕が何かアクションを起こしたら、最悪の事態になる。
「――ほう、あんたの息子なだけはある。かつて憧れた化け物を越える逸材とは……この国には鳶が鷹を産むなんてことわざがあるが、これは鷹が竜を産んだな」
「言うに事欠いて人を化け物呼ばわり……それに、息子に手出しする気?」
「いいや……それは面白くなさそうだ。それに、クライアントに迷惑をかけるわけにもいかないからな…………久々にあんたの顔を見たくなっただけだ。もっと面白いものを見つけたが――ふはは。いつかまた出会う日が楽しみだ」
そう言って、男は去って行った……嫌な汗も止まり、奴がいなくなったことでようやく動けるようになる。
母さんもどっと疲れたのか、近くのベンチに腰を下ろした。
「ふぅ……ごめんね、母さんの昔の知り合いが」
「ううん、それはいいんだけど……あいつって?」
「名前はジャック・コバルト。昔の後輩、というか部下かな? 一応教え子だったんだけど……あいつ、色々と問題のある奴でね、考え方の違いから袂を別ったのよ」
母さんもまだ落ち着いていないのか、普段の口調ではなく偉く饒舌になっている。いや、おそらく昔はこの口調だったんだろう。父さんと結婚して今の感じになったのか。
しかし、とてつもない危険人物に見えるが……国内にはいって大丈夫なのか?
「一応、場はわきまえる奴だからそこは心配ないわ。テロをする奴じゃないし……ただ、カノンもわかっていると思うけどバトルマニアというか、戦闘好きというか……まあ、そう言う類の奴なの。放っておくと戦いを引き寄せると言うか……」
「うん、なんとなくわかった」
そして、そんな奴に僕が目をつけられたということも。
「アイツを観察し過ぎよ。それに、何かしようとしたでしょ」
「……踏みとどまったよ」
「考えただけでアイツは察知するの。ハァ……」
願わくば、もう出会わないことを祈るのみだが……不思議と、予感はした。
アイツとはいつか必ず戦うことになる。それがいつになるかはわからないが、きっとその日は間違いなく来る。
イグドラシルの未来予測演算を使用する手もあるにはあるが、それも完ぺきではない。というか、未来が決められている感じがして積極的に使わないだけだが。まあ、未来をあらかじめ知っていると変にこりかたまった考えしかできないからこれでいいと思う。
「…………アイスでも買って帰ろうかー」
「そう、だね」
僕が戦うべき相手が何なのか、その一端に触れたのはこの時なのだろう。
他のえらばれし子供たちがデジタルワールドで起きた問題を解決する存在ならば、僕の持つ役割とは――ただ、そのことを知るのは大分後になってのことなのだが。
◇◇◇◇◇
クラモンの進化先の情報も集まり、僕の中でディアボロモン事件と呼ぶようになったあの事件から2週間が過ぎた。ハワイに行っていたミミさんも帰ってきており、真っ白に燃え尽きていた丈さんも復活したのでようやく全員で集まることが出来たある日のことだ。
こういう時の集まりには大抵僕の家か光子郎さんの家になる。パソコンを使って作業できるからなぁ……あと、大っぴらにデジモンの話ができるし。
「太一さん、遅いですよ」
「悪いな。サッカー部が忙しくて」
この前見に行ったとき、かなり盛り上がっていたんだよな。あと、タケル君と同じ年頃の子が太一さんのことを見ていたっけ。アレは尊敬のまなざしっぽい。たぶんサッカー部に入部するな。
「光子郎もぬけてパソコン部を立ち上げるしよ」
「あ、あはは……どうしてもやりたいことがありまして」
「いや、それはいいんだけど……カノンも入るんだよな?」
「一応は。僕は頻繁にあっちに呼び出されているんで、いない時も多いですけど」
「そうよね。カノン君だけデジタルワールドとこっちを何度も行き来して、大変じゃないの?」
「…………この前、究極体と戦いました」
僕がそう言うと、場に沈黙が走る。僕は割と慣れているとはいえ、流石に究極体相手に頻繁に戦うというのは色々とおかしいんだよな。
ちなみに、僕たちが戦っているのは自由に行き来できるのとバーストモードがあるため対処可能だからだ。詳しいことは聞かされていないのだが、何らかの要因で究極体が発生しやすくなっているらしい。そのままにしておくのも危険な場合に呼び出されている。
まあ数年もすれば落ち着く見通しみたいだが。
「と、僕の話はいいんですよ。とにかく事件の詳細とその後のことを話すために呼んだんですから」
「ええ、一応事件の詳細をまとめたものをプリントアウトしていますが、説明もさせていただきます」
と言っても、簡単なあらましだけなんだけどね。バグやらのデータが集まって生まれた新種のデジモンが暴れまわった今回の事件、本当に薄氷の勝利だった。
まあ僕はいてもいなくてもあんまり変わらなかったかもしれないけど……ディアボロモンとは二度と戦いたくない。
「なんかカノン君、やさぐれているんだけど」
「アイツ、今回はあんまり活躍してなかったからなぁ……」
「へぇ、生身でもデジモンと戦えるのに?」
「相性最悪でしたからね」
「すいません、これでも落ち込んでいるんで追い打ちやめてください」
とにかく、僕の方からは後始末の方も説明しておかないと。
「核ミサイルの件は母さんの伝手とゲンナイさんの手を借りた情報操作で何とか終息させました。数日はニュースとかで見るでしょうけど、たぶんすぐに鎮静化します」
「色々と無茶したみたいだけど、本当に大丈夫なのかい?」
「丈さんの心配もわかりますが、問題は無いです。この件に関しては蒸し返す方が危ないですし」
「たしかに、その通りよね……近くにそんな危ない爆弾が残ったままってのも怖いし」
異空間にしまってあるので、一応周囲に被害が出る心配はない。ただ、あのまま放置しておくのも問題だしそのうち手を考えておかないといけないか。そもそもどうやって取り出すのかって問題があるが……何とかアルファモンへ進化する手段を考えておかないと。
「あとは、カノン君が発見したもう一匹のクラモンですが……こちらは静かなもので、目覚める様子もないです」
「ただ一つ気になるのは、なぜか属性が微妙に変質していたことなんですよね……」
ちょっとだけ調べてみたが、聖のDNAを持っていたのだ。
どこで入り込んだのかはわからないが……そういうデジモンじゃないのになぜだ。
「それって、お前があのビーム砲みたいなのを撃ったからじゃないのか?」
「砲撃魔法? 確かに光属性の魔法でしたけど……でもそれ以外に考えられないか」
まあ、結局のところは調べて目覚められても困るし、封印したまま放置ということで話はついたが。
あとはミミさんがお土産渡して来たり、太一さんと空さんの喧嘩の理由に呆れたりなど。ただ一つ言えるのは、不参加組の顔が渋かったことだ。事件の規模と自分たちがその時何をしていたのかを考えればねぇ……ミミさんが狼狽していたのは面白かったけど。
こうして、ディアボロモンの引き起こした事件は一旦の幕を下ろすこととなる。
そして、新学期がやって来て僕は4年生へ。
……もう一つのウォーゲームが、幕を開けようとしていた。
そろそろカノンがなぜ戦う運命にあるのかも出していく時期かなと。
ジャックさんとカノンが再び出会うのはしばらく先ですが、彼にはすぐに出番が来ます。
というわけで、3章後半戦に突入。改定前のを読んでくれていた方は、次の敵がわかると思います。