デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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とりあえず、映画の内容はこれで終わりかな。


76.転送

 とにかく、ウォーグレイモンたちを回復させないことにはどうにもならない。

 幸い、見た目よりかはダメージも通っていないため再起不能というレベルではない。何とか復旧しないと。

 流石に完全に破壊されたドラモンキラーを直すのは無理だからそっちは手を付けていないが。

 

「悪い、手間かけて……」

「大丈夫、応急処置にしかならないけどサポートのために僕が入っているんだし」

 

 ウォーグレイモンも意識をすぐに取り戻してくれたし、これなら少し休めばある程度まで回復すると思う。

 メタルガルルモンの復旧作業に取り掛かり、データの復元を行う。

 

「これなら、すぐにでも完全回復できるんちゃいますか?」

「いや、それは無理だよ。僕がやっているのは破損したデータの復元……とも少し違うな。言うなれば、絆創膏を貼っているだけなんだ。これ以上の出血を抑えたり、動かなくなった部位を無事な部分とつなぎ合わせて動かせるようにしているだけだから」

 

 回復ではなく復旧。動けるようにするだけで体力などはそのままなのだ。

 一応自己治癒力を高めたりはできるし、ある程度の回復も行えるのだが……一気に回復させると体力をかなり削るリスクもある。そのため、戦闘中に使うのは控えている。

 

「この場合は、動けるようになるのが第一だからね……よし」

「助かった。ありがとう」

「うん、どういたしまして……アッチはまだ揉めてるのか」

 

 手元にウィンドウを表示すると、太一さんと光子郎さんが喧嘩している様子が見える。それをヤマトさんが諫めているが……ハァ、まったくもう。

 どうやら原因はメールのようだな。えっと……また負けちゃったのとか、弱すぎるとか、何やっているんだとか色々とコメントが……あと、ジャパニーズニンジャってのも見えたけど、これもしかして僕のことなのか?

 

「…………いや、見えなくもないけど」

 

 しかしアイツもどこへ逃げたのか。アドレスを追っているが、まだ見つかって――と、そこでメールがさらに一通。アドレスは……やっぱりアイツは中身子供なのか。また挑発のメールだ。

 でもなんだか様子がおかしい。カタカナで読みにくいが……

 

「時計を持っているのは誰って聞いているんだよな……いや、どういう意味だよ」

 

 なんかカウントダウンも始まったし、10分ぐらいの。それに、背景で奴が増殖するアニメーションを流している。手が込んでいるが……何だろう、このものすごく嫌な感じ。というか、確実に増殖していやがる。

 

『た、大変です!』

「光子郎さん?」

『ペンタゴンに潜り込んだ台湾の中学生が知らせてくれたんですが、今から30分前にアメリカの軍事基地から核ミサイルが発射されたらしいです……』

 

 え、それっていわゆるハッキン……じゃなくて、核ミサイル? いや、ハッキングも気になるけど。というか何目的で潜り込んでいたんだそいつ!?

 いやいや、それを追求するのは後だ。今問題なのは核ミサイルの方。

 

『発射管制コンピュータのミスとなっていますが、もちろん奴の仕業です!』

『じゃ、じゃあこの数字は!?』

「――そういう、ことかよ」

 

 刻一刻と減るカウントダウン。

 10分の制限時間は……間違いなく、ゲームオーバーまでのタイムリミット。

 

『ミサイルが目的地へたどり着く時間、ですね』

『う、嘘だろ!?』

『核ミサイルは一発、射程は2万キロ……ほぼ地球全体ですね』

 

 名称はピースキーパー。マッハ23で進む死神。

 このレベルの代物になると、どこに落ちるのかすら予測できない。

 

『落ちる場所は分からないのかよ!』

『ダメです……時間もない、9分後には地球上のどこかで爆発します』

「どうにかしないと……いや、もしかしたら」

 

 奴のアドレスを利用して現実世界に出れば爆弾へ直接干渉できるかもしれない。

 ただ、そのためには奴自身に接触するまででなくても、確実に視認する必要がある。

 それでもひどい絶望感が僕たちの動きを止めていた。その間にもメールは届き続け、あの怪物を倒してくれやら頑張ってなどの応援が届き続ける。

 

「といわれても、残り8分切った……」

『どうやら、この爆弾は信管さえ作動させなければ爆発しないそうです。奴のメールからするに、ゲームとして行動しているのなら時計を持っているのは一体。そいつさえ止めれば……』

『どうやってその一体を見つけるんだよ』

『それは……一体ずつ倒すしかないです』

『そんなことしていたら日が暮れちまうよ!』

『でも、それしかないでしょう……』

 

 光子郎さんの言う通り、結局は一体ずつでも倒していくしかない。

 どれほど絶望的な状況だろうともやるしかないのだ。進化することが困難であろうパタモンとテントモンを下がらせ、僕たちは更に先へ進む。

 

「太一!」

『ウォーグレイモン……』

「俺たちはまだ戦える」

「ああ。アイツの居場所は分かるか?」

 

 メタルガルルモンも立ち上がり、準備をおえた。

 彼らの言葉に太一さんたちも覚悟を決めたのか、目の前にリンクが開く。

 

『奴のアドレスを送ります!』

「よし……気を引き締めていくよ。出来る限りブーストをかけておくけど、気休めにしかならないかも……」

「いや、助かるよ――準備はいいか?」

「ああ! 行くぞ!」

 

 回路を再び通っていく。すでに7分を切った。

 今度は黄色い光に照らされた、警戒色の通路。

 危険を知らせるその道を進んだ先には――絶望なんて言葉が生ぬるいほどの、衝撃が待っていた。

 

「嘘だろ……なんだよ、コレ」

 

 解析もほとんどできないが、コピーし続けた末に奴はあたり一面を埋め尽くすほどの数に増殖していた。

 倍々ゲーム……某有名漫画のヤバいアイテムじゃねーんだぞ…………

 

『4千、8千、1万6千……どんどん増えてます!?』

「は、ははは……ここまで来ると笑えて来るな」

『カノン君、このままだと――ッ』

 

 わかっている。僕の方も危ない。だが、これはもう最終手段をとるしかない。

 ドルゴラモンへスライドさせ、一気に力を解放していく。こうなればもうバーストモードでエリアごと破壊してしまうしかない。ウォーグレイモンたちに防護壁をはり、少しでも身を守ろうと――だが、それもできなかった。

 

「――ッ、処理が追い付かない」

 

 ドルゴラモンにスライド進化は出来た。だが、奴が次々に火の雨を降らせる中のバーストモードへの移行は困難であった。それでも、なんとか隙を見つけてバーストモードを起動させようとするが――そのための処理が格段に遅くなっている。

 ウォーグレイモンたちも動きが鈍くなっており、次々に攻撃を喰らっていた。僕のはっているバリアもすぐに破壊され、ダメージを負っていた。

 

「カノンッ」

「――――ドルゴラモン!?」

 

 ドルゴラモンが僕の体を包み込み、奴の攻撃を防ぐ。

 何発もの着弾音が聞こえ、ドルゴラモンの体が落下していくのを感じる――まだだ、せめて、せめて一撃でも与えねばならない。

 

「――――ッ!」

 

 その思いがドルゴラモンに届いたのか、右腕だけがバーストモードへ変化している。

 僕は彼の左手に守られながら下の方にいる奴らへとその拳が叩きつけられたのを見届けたが――それでも、カウントは止まらない。結局、倒せたのはコピーのみ……ドルゴラモンもそれで力を使い果たしたのか、ドルモンへと戻ってしまった。

 そして、奴らが再び増殖し、僕たちを埋め尽くそうと迫ってくる……

 

「動きが鈍くなったのは……メールが送られ過ぎたか」

 

 塵も積もれば山となる……悪い方向に作用してしまったか。

 これ、どうにもならないかな……上の方ではウォーグレイモンたちもボロボロで…………ははは、夢でも見ているのかな……太一さんとヤマトさんがこっちに入ってきている。

 力も使い果たして、僕も限界がきて……諦めるのか?

 

「夢、じゃないみたいだな……」

 

 絶望的な状況だ。それでも太一さんとヤマトさんは諦めていなかった。だからこそ、この世界までやってこれたのだろう。

 ここで諦めたら5分を切ったカウントダウンがやって来てしまう。そうなれば、大勢の人が死ぬ。父さんや、母さんたちが犠牲になるかもしれない。そうなったら、新しく生まれるであろう家族はどうなるのだ?

 

「こんなところで諦めるわけにはいかない」

 

 二人がデジモンたちへ届いたとき――世界中の祈りが届いた。

 単なるデータとしてのメールは僕らの動きを阻害してしまった。だが、そこに籠められた祈りは違う。デジモンたちは人の想いを受け取り、進化する。ならば、多くの祈りが一つに集約したのならば?

 メールが光となり、二体のデジモンを覆う。光り輝くデジタマとなって彼らを包み込み、その姿を変化させていく。この進化に名をつけることはできない。きわめてイレギュラーな現象であり、奇跡としか言いようがなかった。

 光が晴れた後に現れたのは白い聖騎士。マントをはためかせ、左腕はウォーグレイモン。右腕はメタルガルルモンが変化したものとなっていた。

 

「――究極体、オメガモン」

 

 ただ、名前だけが見えた。それ以上のことは分からない。

 今まで見てきたどんなデジモンよりも圧倒的で、光り輝くその存在は未来を願う祈りそのもの。

 その光を浴びたことで、僕の中の力も回復していく。

 

「カノン――力が、あふれてくる!」

「ああ……いまなら、行ける!」

 

 胸の紋章が∞へと変化し、力があふれ出てくる。

 そしてドルモンの姿が黒い聖騎士――アルファモンへと変わる。

 周囲のコピー体を消し飛ばし、殲滅する。オメガモンも剣の一振りで奴らを消し飛ばし、右の砲撃で次々にコピー体を消していた。

 

「あと残り時間は――見ている暇ないッ」

 

 次々にコピーが消えていき、そして残るは一体。

 あれがオリジナルで、時計を持っている!

 

『あれが最後の一体――お願いします!』

 

 光子郎さんも方でも捕捉してくれたか。

 だが、奴の動きが速すぎる。縦横無尽に飛び回り、こちらの攻撃を回避し続けていた。

 

『奴の動きが速すぎる……パワーで勝っていても、レスポンスの差でアウトだ!』

「それを差し引いてもこっちの動きが……」

 

 たぶん、処理が追い付いていないのだろう。いや、普段なら気にならないほどだけど大量のメールもあるしオメガモンとアルファモンの二体を処理し続けるのは大変なんだ。

 だったら電脳世界の裏技を使えば――ッ、そうだ。手っ取り早い方法があった。

 

『もう時間が無いよ!』

「光子郎さん! 僕とアルファモンごとメールを!」

『そうか、その手が――でもカノン君たちまで――――』

「いいから早く! 爆弾が誤作動しないとも限りませんし、そっちを対処します!!」

『分かりました――転送!!』

 

 急に加速する。同時に、デジヴァイスを使って僕らのデータを再分解した。

 奴を通して核ミサイルへ接続し、アルファモンのデジタライズ・オブ・ソウルを応用したゲートを展開する。

 

「流石、わかっているじゃないか!」

「付き合いも長いからな! こうすればいいんだろう!」

 

 一瞬だが、奴の体に砂時計が表示されたのが見えた。

 顔色のわからない顔に、苛立ちやら怒りみたいのが見えた気がしたが……もう気にする必要もない。これで、チェックメイトだ。

 少しの嘔吐感があったが、強風によりそれも霧散する。

 太陽の光を見てしまったのか、目がくらんだが――成功したのを感じた。

 

「よし、現実世界に出たぞ! ついでにミサイルに張り付いた!」

「まったく無茶する――で、どうする!」

「異空間に転送!」

「オーライ!!」

 

 アルファモンが魔法陣を展開し、そこにミサイルをぶち込む。

 流石に僕たちが減速するよゆうは無いが……この見覚えのある街並み、というかさっきまでいた場所。

 

「アイツお台場にミサイル落すつもりだったの――うぼっ!?」

「かの――ゴッ!?」

 

 水面にマッハで叩きつけられると普通に体が粉々になるんだろうが、流石にバリアもはっていたしアルファモンも全力で防御に回ってくれた。

 だが、それでも衝撃を完全に殺しきれたわけでもなく水面へとぶつかる。というか溺れる……

 

「――――ゲホッ!?」

「うぬぅ……」

 

 衝撃を殺すのにエネルギーを使い果たしたのか、ドルモンに戻ってしまっていたが……どうにかなったみたいだ。

 っていうか、寒い……あと見つからないようにして陸に上がらないと……ミサイルを消したわけだし、後始末も大変だなぁ……

 

「太一たち、やったかな?」

「大丈夫だと思うぞ。最後まで見ていたわけじゃないけど、確実に止めを刺してくれただろうな」

 

 あの状況で失敗することはないはずだ。さて、陸に戻らないと……手ごろなボールがあったので浮き輪代わりに使うと掴んだが……なんだろう、この奇妙な感触。

 あと、生暖かい。

 

「……カノン、それ」

「なんだよドルモン、青い顔をして――――は?」

「――」

 

 クラゲのようなカワイイ外観だが、一つだけついた目が不気味に光る。

 その紫のデジモンは……名前だけ、やっとわかったな。

 

「幼年期Ⅰ、クラモンって言うんだって」

「そんな場合じゃないでしょうが!」

 

 とりあえず麻痺させて、家に持ち帰ることにしたが……やべぇ、どうしよう。

 




カノン、ディアボロモンとの相性の悪さによりほとんどいいところなしでしたが……彼がこの事件で真に活躍するのは後始末ですので。
というわけで、妙な問題を残しつつ次回へ続きます。

ところで誰かディーターミナルの配布時期を知っている人っていますかね?
詳しい時期がわからなくて扱いにくい……あれも結構謎なアイテムなんですよね。

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