デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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いやぁ、濃密だなこの映画。


あと台風すさまじかったですね。仕事行くときヤバかった……まだ影響がある地域もあるでしょうが、皆さまお気を付けくださいませ。


75.衝撃

 ヤマトさんたちにパソコンを何としてでも見つけてくれと頼んだ後、電子データ化変換のための最終準備に入った。

 デジヴァイスの補助さえあればできなくはないことなのだが、意図的に行うのは難しい。というより前例がないので似たような事例であるドルモンのデジコアへ侵入したときのログを流用しているわけだが……安全に変換するための処理と同時にドルモンも電脳世界へ突入させるための準備が大変である。

 よし、アドレスの記入も終わったからあとは突入――

 

「あれ……NTTを出ていますよ!?」

「――出鼻ッ」

「どこに行ったんだよ!?」

 

 謎のデジモンは既に別の場所に移動しているみたいだが、ご丁寧にメールを残していやがる。このアドレスからすると……あれ? おかしいな。僕の眼が疲れたのかな?

 

「カノン君、現実を見てください。アメリカです」

「アメリカ!?」

「野郎なにするつもりだよ」

 

 ニュースやら色々とわかる範囲で調べてみても、現地は大混乱になっているらしい。

 手当たり次第にデータを食い散らかしているようで、追跡もままならない。

 

「あと一歩だったのにッ」

「あいつ、面白がってやがるのか」

「完全体とはいえ生まれたての子供ですからね。頭の中は無垢な子供なんでしょう」

「これで無垢とか冗談きついですよ……いや、実際にそうなんだろうけども」

 

 アレに悪気はないのだ。本当に遊んでいるだけ。ピノッキモンを更に純粋にした感じだ。純粋過ぎる故に、まったくためらいも手加減もないのが恐ろしいが。

 力と精神のバランスが狂いすぎている。

 

「どうやったらあんな生き物が生まれるのか……」

「そうですね……確かに気になりますが、まずはどうにかしないと」

 

 そう言って、光子郎さんがコップをグイッと傾けてウーロン茶を飲み干す。あなたさっきから飲み過ぎじゃありませんか?

 ツッコミたい衝動に駆られるが、僕の作業も手が離せない。奴の足が速すぎてプログラムの打ち込みが終わらないのだ。

 

「ただのコンピュータの不調ではないことに気が付いている大人もいるハズです……ただ、原因がこのデジモンだとは思ってもいないでしょうが」

「母さんに連絡入れて、伝手を使うのも無理だろうなぁ……アメリカ相手だと戦争の引き金になりかねないし」

「もっと早くに連絡入れればよかったんじゃないか?」

「うーん……奴の移動スピードを考えると、それも無駄だったと思いますから言っても意味ないですね」

「結局、俺たちでどうにかするしかないのかよ」

「ええその通り、アグモンたちに頑張ってもらうしかありませんね」

 

 光子郎さんがそう言うと、画面に新しいウィンドウが表示される。

 そこに映っていたのは、金色が混じったような髪色の兄弟だった。

 

「ヤマトにタケルか!?」

「良かった、パソコンが見つかったんですね!」

「何とか望みがつながった……」

『待たせたな、お前ら!』

『デジヴァイスも接続したよ』

「島根にもちゃんとあっただろ、パソコン」

『ま、まぁな……』

 

 ……なんだろう、ヤマトさんの眼が泳いでいる。県を越えたのか? いや、流石にそこまでの時間は無かったからそれは無いか。でもなんで居心地が悪そうにしているんだろうか……

 

「おい! どうしたヤマト、おい!」

『い、いや……なんでも、ないけん』

 

 島根弁?

 

「でもこれで何とかなりそうですね」

「そうだな……おい光子郎、さっきから飲み過ぎじゃないのか?」

 

 太一さんがそう言っているが、また光子郎さんはウーロン茶を一気飲みしたのか。本当大丈夫か?

 しかしそっちにかまっている暇はない。こっちもプログラムの打ち込みが終わった。それに、今度こそアドレスを完全に捕捉したのだ。

 

「よし! 僕とドルモンも突入します! 何かあったらサルベージ出来るように僕のパソコンにプログラムを入れておいたので、あとお願いします!」

「わかりました、気を付けて行ってきてください!」

「ガブモン達もすぐに合流すると思うから、頼むぜカノン!」

「了解! 行くぞドルモン!」

「合点だよ!」

 

 ドルモンと共にパソコン画面に展開した魔法陣へと飛び込み、一瞬の意識の空白ののち、電脳世界へとダイブする。ドルモンのデジコアへ潜った時というより、デジタルワールドへ突入するときに近い感覚が体を走る。

 そして、すぐに世界が切り替わった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 デジタルワールドとは違い、実際のネットワークの電脳世界は妙に息苦しく感じる。存在を保つために色々と手を回しているが、ここまで息苦しいとは思わなかった。

 それに、回線そのものを破壊しないためにバーストモードは使用できない。

 

「ってわけだ。ドルゴラモンを使うのも危険かもな……」

「わかった。みて、アグモンたちが見えてきたよ!」

 

 先行していたアグモンたちが目の前に見える。ゴーグルをつけ、マフラーで口元を隠す。見られているみたいだし、出来る限り顔は隠しておきたい。

 と、ようやくアグモンたちに追いついたな。

 

「やっほー、手伝いにきたよ」

「ドルモン! それにカノンまで」

「相変わらず、無茶しますな」

「それが僕だからね。ガブモン達も来たみたいだよ」

 

 極彩色のレーンを通り抜けていくが、右側のレーンと合流した。ガブモンとパタモンが到着したのだ。

 

「待たせてゴメン!」

「ぼくたちも戦うよ!」

 

 よし、これで戦力はそろった。

 上部に画面がいくつも表示され、光子郎さんたちの顔が映る。

 

『合流したみたいだな。頼むぞお前たち!』

『ここからはボクが誘導します!』

「オーケー!」

「みんな気を引き締めていくぞ!」

 

 アグモンの号令におうと返し、僕たちは光子郎さんの誘導に従い突き進む。

 工事中と書かれた看板のある回線を通り、どこかのアドレスへと突入した。そこは、鉄骨が散乱する場所だったが……なるほど、”工事中”ってわけね。

 

「奴はどこに――」

「あそこだ!」

 

 みると、あのデジモンが鉄骨の上にいる。コッチダヨーンと書かれたウィンドウを表示させ、頭上に矢印を出していた。

 

『あの野郎、ふざけやがって!』

『一気に行くぞ! 二人ともいけるか?』

『究極体だな!』

「分かってますよ! バーストモードは使えないけど、ここは高火力!」

 

 デジヴァイスが輝きだし、三体の姿が変質していく。

 ワープ進化により、究極体へと進化していくのだが……やはり、ネット世界だと進化中の情報が色々と表示されるようだ。あれ? それってつまり奴もそれを見ることが出来るというわけで……

 

「ウォーグレイモン!」

「メタルガルルモン!」

「ガイオウモン!」

 

 三体が飛び出して、奴へ攻撃を仕掛けていく。

 短期決戦を仕掛けるため、怒涛の連続攻撃であったが……

 

「――ッ」

 

 間にあえと走り出す。いや、蹴り上げて跳んだというべきか。

 魔法剣を手に出し、奴の動きを阻害するプログラムを仕込んで攻撃を仕掛け――だが、奴が砲弾のように迫ってくる。

 

「カノン!」

「まずい――ッ」

 

 炎を噴射して、緊急回避を行う。魔法剣に奴の体がかすったが……剣が分解されてしまった。

 薄々わかってはいた事なのだが……

 

「やべぇ、アイツとの相性最悪なんだけど!」

 

 それでも、今の動きはウォーグレイモンたちが攻撃する隙となった。

 上方ではパタモン達も進化をしようと――奴の体が変質する。ウォーグレイモンたちが攻撃をしかけていたが、瞬きをした一瞬で奴の姿が変わる。

 そして、ウォーグレイモンとメタルガルルモンを振りほどき進化途中のパタモンへと迫った。

 

「ガイオウモン!」

「分かっている!」

 

 ガイオウモンが奴の前に躍り出て、その動きをふさぐが――奴が体を回転させて、長い腕を振り回す。

 両者の攻撃がぶつかり合うが、奴がニタリと笑った気がして気が付いたときには、鉄骨に体がぶつかっていた。

 

「ガッ――」

 

 あいつ、腹から砲撃を出しやがった。

 ガイオウモンも共に叩きつけられており、奴はパタモンとテントモンをはたき落としている。どうやら進化完了は無理だったようだ……それに、パタモンが進化をしようとしたときに是が非でも防ごうとしていたみたいだ。

 

「ってことは、アイツも暗黒系なのか? ガイオウモン!」

「分かっている!」

 

 刀を連結し、射撃を放つ。加速用魔法陣を展開し、奴が避けることのできないスピードで攻撃を放った。

 ウォーグレイモン達も連携して攻撃を仕掛けており、パタモンは何とか止めを刺されずに済んでいる。

 

「とりあえず僕はパタモンの回復をやってみる!」

「分かった! 奴は任せてくれ!」

 

 一気に下まで降りていき、パタモンを抱えているテントモンの元へとたどり着く。

 やはり、奴は究極体に進化しているのか……いくら進化中でエネルギーが供給されていたとはいえ、パタモンは成長期だ。かなりのダメージがあったのであろう。

 

「カノンはん、すいまへん」

「いや、こういう時のために僕も突入したんだ……あいつとの相性が悪いから、戦闘補助よりもこっちの方を何とかしないと……テントモンは大丈夫?」

「はい。何とか」

「よし――パタモンの回復に集中しないと」

 

 データの破損はそこまでじゃない。大丈夫、致命傷には至っていない。

 僕に出来るのは応急手当ぐらいだけど――とりあえず、なんとか動けるようなレベルへ回復させた直後、頭を殴られたような衝撃が走った。

 

「――ッ」

「カノンはん!?」

「だ、大丈夫……変な衝撃がはしった、だけ……!?」

 

 上を見上げると、ウォーグレイモンの動きが止まっていた。いや、処理出来ていないと言うべきだ。

 今の僕たちはパソコンを使って体の動きや思考を処理している。電脳世界での行動を行う上で必須事項とも言っていいだろう。

 たとえるなら、体は電脳世界内にあるのだが脳みそはパソコン内にあると言ったところか。

 

「まさかパソコンがフリーズしたのか!?」

「なら、なんでワイらは動いて……」

「たぶんウォーグレイモンを処理していた太一さんの家のパソコンがフリーズしたんだ! 通信は太一さん家のパソコンを使っていたけど、僕とガイオウモンを処理をしているのは自分のパソコンだし、テントモンも処理しているのは光子郎さんのパソコンだから……」

 

 とにかく、ウォーグレイモンたちが危ない。

 魔法陣を足に展開し、一気に加速する。空を飛ぶというよりは、階段を駆けあがるような動き。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 ガイオウモンも奴へ攻撃を仕掛けているが、やはり動けないウォーグレイモンをかばいながらでは満足に戦うことが出来ていない。

 なんでパソコンがフリーズしたのか議論している暇はない。大方、太一さんがフリーズさせたんだろうが、光子郎さんがそんな暴挙をみすみす見逃すとでも――――

 

「あの人ウーロン茶飲み過ぎていたじゃないかッ!」

 

 ――なんか頭の中で向こうの状況が手に取るようにわかってしまった。

 これは電脳世界へ入ったのは失敗だったかもしれない。しかし、今更そんなことを言っても仕方がない。なんか今日は裏目に出まくりの厄日だ。

 

「喰らえ!」

「――ッ」

 

 奴へ肉薄し、魔法剣を放つ。斬りつけるのではなく、投げつけていく。次々に召喚して奴の動きを封じる。

 その隙にメタルガルルモンとガイオウモンが攻撃を仕掛けるが……奴の爪からウィルスデータが発射される。それでも、奴が暗黒系の存在ならば――

 

「光属性最大出力ッ」

 

 ――極大砲撃。両手の魔法剣を一つに束ね、展開した魔法陣に叩きつけて内部のエネルギーを一気に放出する僕の切り札。リリスモンとの特訓で習得した技であるが、これが決まれば倒すことはできずとも奴のエネルギーを乱すことが――

 

「効いて、ない?」

 

 ――完全に判断を誤った。奴は僕たちの常識(ルール)から逸脱した存在だ。

 データを分解することはできずに、攻撃を喰らったもののそれだけだ。大したダメージにはなっていないだろう。本当に、少しの間だけ時間を稼げただけ。

 

「――ッ、ウオオオオオ!」

 

 ガイオウモンが奴へ斬りかかる一瞬を、稼ぐことが出来ただけだ。

 刀が肉薄していき、奴の頭上へ――しかし、奴の体が発光を始める。そして、周囲のデータが吹き飛ばされた。

 

「カノン!」

「――ッ」

 

 とっさに、ガイオウモンが僕をかばってくれたが……あまりの衝撃に僕たちは吹き飛ばされてしまった。

 メタルガルルモンもウォーグレイモンをかばって満足に動くことが出来ておらず、今の衝撃で体の動きが更に鈍ってしまっており――奴に、切り裂かれた。

 

「メタルガルルモン!」

 

 そのまま奴は鉄骨のデータを食い荒らし、壁際へたどり着いて――逃走した。

 くそっ……逃げられた。

 

 

 ほどなくして、太一さんたちの通信が回復したが……ウォーグレイモンたちはボロボロだった。

 ヤマトさんが太一さんたちを叱咤し、場には重い空気が立ち込める。

 だけど、これでもまだ最悪の状況ではなかった――更なる絶望と、戦いはこれから始まる。

 

 奴とぼくらのウォーゲームが。

 




実はカノン、ディアボロモンとは相性が悪すぎます。どれほどかというと、アポカリモンとのタイマンの方がマシ。
本人はそこまで相性が悪いとは思っていません。

あと1、2話でウォーゲームも終わります。
と言っても3章はまだ終わりませんが。

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