新種デジモンの構成情報が一気に増大したが、やはりデジモンの名前は分からない。というか他のデジモンとはファイル形式が異なり過ぎて解読ができないと言うべきか。
デジ文字のコードも見えたが……意味のない羅列にしか見えない。
「なんなんだこのデジモン……嫌な予感がします、十分に気を付けてださい」
既存のデジモンとの照合を行い、一番近い種類からどのような種か割り出しているが……やはり、どれとも当てはまらない。完全なる新種だ。
グレイモンたちも攻撃を仕掛けていってはいるものの、まったくダメージが入っていない。
「なんだよコイツ、グレイモンたちの攻撃を弾いていやがる」
「既存の種とは全く異なるデジモン――いや、進化段階だけは共通している、ヒット!」
本当に断片的な部分しかわからなかったが、成長段階だけは他のデジモンと共通になっていて助かった。
「太一さん、光子郎さん、アイツ完全体です!」
「なんだって!?」
「ボクの方でも確認しました。先ほどのは二段階進化です!」
おそらくはこの新種だけが持つ特性の様なものなのだろう。進化段階をとばすことが可能という性質のようだが、飛ばしたことで構造的には脆い面が見える。一応、リスクはあるみたいだな……
「だったら、光子郎!」
「ええ、こちらも完全体に進化して――」
グレイモンとカブテリモンの姿が変わっていく。だが、奴は笑いながら突っ込んできた。そして、その口から砲口が現れて――
「ってマズイ! シールド展開!」
キーボードを打ち込み、魔力接続を全開にする。グレイモンたちの周囲にシールドが展開されるが――奴が砲撃から触手による攻撃に切り替え、そのシールドも突破されてしまった。とたんに、頭に電流が走ったような痛みが来る。
グレイモンたちも進化を完了させることが出来ずに、攻撃を喰らってキャンセルさせられてしまった。そして、奴は笑いながらどこかへと逃走してしまう。
ケラケラと笑って、実にムカつくが……
「痛い……」
「アグモンに戻っちまったか」
『太一、ゴメン』
『光子郎はん、アイツえろう危険ですわ』
「いえ、テントモンたちもありがとう……しばらく休んでいてください」
結局奴の逃走を許してしまう結果になるとは……これ、追跡がきついな。
「カノンも大丈夫か? 何かやったみたいだけど」
「魔法でシールドを張ったんですけど、データごと食われました……その反動で頭痛がします」
「カノン、休む?」
「大丈夫だよドルモン……お前を送り込む準備も進めないといけないし、休んでいられないよ」
変換プログラムと、他にも色々と打ち込まないと……ただ単にゲートを開いただけじゃ無理なんだよな。
デジタルワールドを経由するという案もなくはないのだが、あのデジモンのせいなのかそっちはそっちで不安定となっている。僕のデジヴァイスでも今ゲートを開くのは難しい。
「二人とも、これを見てください」
光子郎さんが唐突にそう言いだして、彼のパソコンをのぞいてみると……メールが届いていたようだ。
どうやら、この戦いは世界中で見られているようで、海外から送られてきたメールらしい。
デジタルモンスターって初めて見ました……去年の事件は結構な人が目撃したと思うんだが、見ていない人もいたのか。
「というか普通にメールが届いているとはどういうこっちゃ」
「アドレスを普通に見たんでしょうね」
あ、非公開じゃないのね。いや、戦いを見ているんだから見えちゃっているのか。
しかし2対1で負けるとか弱すぎるとか好き勝手言っている人もいるし……こうなれば意地でも奴を止めるしかない。
「あ! クラゲからもメールが来てます!」
「なに!?」
「あの野郎なんのつもりだ! そして今の姿は蜘蛛だと思う」
「んなことどうでもいいからメール……なんじゃこりゃ」
メールの文面はもしもしもしもし……とそれだけしか書かれていない。怖いわ!
「何が言いたいんだコイツ」
「見てください、このアドレスのところ」
「アドレス? がどうかしたのかよ」
「――――嘘だろ、オイ」
「カノン?」
光子郎さんに言われてアドレスを見たが、絶句するしかなかった。パソコンに疎い太一さんがわからないのも無理はないが、僕たちが指さした場所。その英文字を太一さんも読み上げる。
「NTT……えっと、それって」
「はい。日本の電話会社です……つまり、奴がデータを食い散らかす前にみんなと連絡をとらないと」
「連絡つかなくなりますね」
「やべぇだろそれ――まずはヒカリ!」
太一さんがすぐにヒカリちゃんへ電話をかける。幸い、すぐにつながったようだが……
「来れると思います?」
「無理でしょうねぇ……ヒカリちゃん、空気読んじゃう子だし」
「そんなのいいから早く帰ってこい!」
「やっぱダメか」
「カノン君、プログラムの打ち込みは?」
「何とか――よし!」
あとは座標データの処理さえ何とかなれば……そっちもそっちで非常に面倒だが。
でも電話回線が乗っ取られたのか……何だろう、このとてつもない嫌な予感は。
「なあ、みんな話し中なんだが」
太一さんがやべぇって顔でこっちを見てきているけど、光子郎さんが冷めた顔で空さんの家は? と聞き返している。
「かけたよ、でもつながんねぇんだよ」
「そんなわけないじゃないですか」
「いえ、もしかしたら……」
そして僕の嫌な予感が的中したかのように、電話がかかってくる。太一さんがすぐに出るが――もーしもし、もーし、もしと言葉にすればこんな感じだが、実際は電子音を組み合わせてこの音を出し続けたようなものが流れ続けるのみ。
「や、やべぇ……」
「嫌な予感的中」
「どうなんてんだよ、これ」
「奴が交換機に潜り込んで片っ端から電話をかけて回線をパンクさせようとしているんです」
「どうすんだよ、みんなと連絡つかないし、インターネットだって電話回線を使っているとかって話だったよな!?」
「ええそうです……だから、もう間もなくですかねー」
僕がそう言った次の瞬間、ウィンドウがいくつか閉じた。インターネットから切断されたからだね。
「はい、パンクした」
「……」
きっと、僕たち三人はもうダメだみたいな顔だったんだろう。というか突入するぞって時にこれかぁ……ハァ。
「ボクちょっととってくるものがありますので――すぐに戻ります!」
「あ、光子郎……どうする?」
「光子郎さんの作戦まちですね」
「カノンの魔法でどうにかならないのかよ」
「インターネットの電脳空間にアクセスする道が無いことには僕もお手上げです」
せめて、奴が今いるアドレスさえわかればなんとかなるかもしれないんだが。
「とりあえずプログラムの打ち込みを続けますね」
「何もしないよりはマシかぁ……」
リビングに戻り、テレビを見るとやはり電話がつながらないという話をやっている。
電話会社の人たちも復旧作業を行っているが、原因は全く分かっていないんだから直しようもないな。
「父さんたち、大丈夫かなぁ」
「ああ、もうダメかも……」
「なによ太一、おかしな声出して」
「ちょっと大変な状況ってだけなんで」
だけって表現もおかしいけどね。
と、そこで一般の電話は控えるようにというニュースキャスターの言葉の後にどうしても伝言がある場合は災害用伝言ダイアルの説明があった。171という番号をつけて、別のサーバーか何かに伝言を保存する形式のものみたいだ。まあ、声の伝言板って奴か。
「こ、これだ!」
「確かにこれなら連絡つくかもしれませんね……うちも使っているかもしれないので、ちょっと確認してきます」
というわけでいったん自宅へ。というか隣だが。
確認してみると、流石行動が早いな僕の両親は……すでに伝言がはいっていた。
『父さんたちは騒ぎが収まるまで、こちらにいる。大丈夫だとは思うが連絡を入れておいてくれ』
『ごめんねー、一応身重だからー』
とりあえず無事っぽいからこっちも心配はいらない旨と、騒ぎは何とか解決するからと伝言を残しておく。
まあたぶん父さんたちもデジモン関連の可能性があると思っているだろうし、これで大丈夫だろう。
伝言を残して隣に戻ろうと、部屋を出たら……エレベーターが閉まるところだった。人影が見えないってことは、誰かが降りているのだろうか? なんか見覚えのある人影が見えた気もするんだが……空さんっぽい人影が。
「向こうも向こうで意固地になっているのかねぇ……今は仲裁している場合じゃないし、伝言を聞いてくれることを祈ろう」
扉を開けると、太一さんがちょうどミミさんに伝言を入れていたところだった。
これでほとんど全員に連絡を入れたのかな?
「ミミちゃん……うーん、あ、思い出した」
「どうかしましたか?」
八神さんが何かを思い出したようで、はがきを取り出してくる……何だろう、見覚えのある風景が見えたんだが。とてつもないほどの嫌な予感がする。こう、脱力系の。
「はい、ミミちゃんから」
「いったいどこにいるんだよ……」
「この切手ってまさか」
「カノン、なんでそんなに青い顔――は」
太一さんがはがきをひっくり返すと、そこには青い海の写真が――っていうかハワイだった。
「はわっ……」
「ハワイかぁ……そっか、海外旅行かぁ…………」
何故だろう、ミミさんが「ハワイってやっぱいいわぁ!」って叫んでいる気がする。
もうラプタードラモンに乗って無理やり拉致ろうか……いや、流石に時間が無さすぎるか。
と、そこで光子郎さんが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「あら、おかえり」
「光子郎さん……もう、アカン」
「ダメだぁ……」
「どうしたんですか、二人とも、疲れ切った顔をして」
ほらよと太一さんが光子郎さんにはがきを渡す。それを見て、なるほどと苦笑するが……いや、この状況でこれ見たら疲れ切りますよ。
「と、とにかく準備がありますから行きましょう」
「おおぉ……」
「太一さん、しっかりしてださい」
奥に戻ると、ドルモンたちが体をほぐしていた。いや、プロットモンは連れて行かないからな。
「です!?」
「そりゃそうだろうが。アイツ危険すぎるっての」
「もうダメだぁ」
「太一さん、本当にしっかりしてくださいよ」
床に寝そべって嘆きを表現している。こっちまで気が滅入るからやめていただきたい。
「ボクらっていまいちまとまり無いですもんね」
「光子郎さん、それは流石に……だめだ、否定できない」
年齢性別もバラバラだし、冒険中もまとまっていた時より別行動の方が多かったな。
「それこそエテモンとの戦いの間だけでしたからね、まとまって行動していたの」
「それも僕とヒカリちゃんを除きますが」
「チームワーク大事……」
「太一さんの言う通りですが……結局、なんだかんだでまとまって行動するのはサッカー部の3人ですしね」
まあ、今は空さんがいないが。そこに太一さんのお隣だったり光子郎さんとパソコン繋がりの僕が加わる形となっている。あとはヒカリちゃんがついてくるぐらいか。
他のメンバーは……デジモンに関わらなかったらそこまで接点なかっただろうな。
「結局、今はこの三人で何とかするしかないのかよ」
「ですね」
「ところで光子郎、お前何しに行っていたんだよ」
「これをとりに行っていたんです」
そこで光子郎さんが見せてくるのは携帯電話――いや、まさかその端末は!?
「衛星携帯です!」
「マジか!?」
「これを使えば、外国のアクセスポイントへ直結できますからNTTの交換機を通らずに行けます」
「なら、それを使えばヤマトたちに連絡がとれるんじゃ」
「ダメですね。国内だと結局交換機を通りますし」
なんだよと言いながら、太一さんが再び床に寝転がる。気持ちはわかるが、回線に接続できるだけでも御の字なのである。
こっちも変換プログラムの準備を進める。デジヴァイスのゲート機能を使い、僕とドルモンを送り込む準備を進めていく。
「そう言えば見られているんだったよな……ゴーグルで顔を隠さないと」
「直接入るとかカノン君、規格外すぎませんか?」
「やろうと思えば光子郎さんたちもできますよ。アポカリモンのデータ分解と原理は同じですし」
「あ、なるほど」
アレは攻撃として喰らってしまったらしいが、僕は自分自身でそれを行っているだけなのだ。そうやってデジタルデータ化した自分を直接回線に流し込んで適した形に再構築しているのである。デジヴァイスの補助があれば、光子郎さんたちも可能ではあると思う。まあ、変換する手段が今のところないのだが。
「そういえば太一さん、171に伝言入れたんですよね。そろそろ返事が来ているんじゃないですか?」
「そうだ忘れてた」
というわけで、光子郎さんのおかげで伝言のことを思い出したためすぐに聞いてみることに。
入っている伝言は、一件だけ。
「頼むぜ、聞いていてくれよ」
「……」
『もしもし、ヤマトだけど……急ぎの用ってなんだよ』
よし、
「やった!」
「やっぱアイツら頼りになるぜ!」
こうして171を利用して互いにメッセージを伝えあう形で話していったのだが……デイヴァイスは持っているが、パソコンが無いと。
『おばあちゃん家だからパソコン無いよ』
『無いよなぁ……島根にパソコンなんか』
おいマジか。
「ダメだぁ!?」
「お願いします! 何が何でもパソコンを探してください!」
「島根にだってパソコンあるだろうが!」
「頼みますから何としてでも見つけてください!」
結局、メッセージで発破かけるしかできないのか……
なんというか、無事に解決できるんだろうかこの騒動。
むしろ迷言だけどね。
ここら辺のくだりはカオスだったなぁ……