デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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3章突入。


3章・無垢と憎悪のウォーゲーム
73.開幕


 3月になった。去年の事件のせいで学校側のカリキュラムの調整やらなんやらで少々早いが春休みに入ったある日のこと、母さんの妊娠が発覚し父さんと共に検診で家を空けている。

 光が丘のおばあちゃん家に報告に行ったりなどでしばらくかかるだろうし、帰るのはいつになるのやら……ついでとばかりに我が家のネット回線は修理中である。ネズミめ…………まあ、父さんのパソコンも買い替えとかで現在家にあるのは僕のノートだけだったけど。

 最近はデジタルワールドでの用事もなく、平和なものである。太一さんと空さんが喧嘩するという実にくだらない騒動もあったりするのだが。理由? くだらないのでスルーした。当人たちでどうにかしてほしい。

 

「ねえカノン、なんかこの試合おかしくなってるよ」

「点数がおかしいです」

「どうしたんだよドルモン、プロットモン……ホントだ」

 

 野球の試合みたいだが、点数がおかしなことになっている。100点近い点数を片方のチームが取っているが……野球でそれはありえないだろう。というか途中でコールドになるだろうに。

 点数表示がバグっただけだろうけど……なんだろう、この嫌な予感は。

 と、同時に我が家のインターホンが鳴り響く。ドアを開けてみると、光子郎さんの姿があった。

 

「どうしたんですか光子郎さん」

「ネット!」

「はネズミのせいで切断されております。業者が来るのは夕方かなぁ」

「じゃあ太一さんの家に速く!」

「は、はい」

 

 なんかすごい剣幕で迫られたので太一さんの家に向かう。

 ドルモンたちもついてくるが、君たち普通にしすぎじゃないだろうか?

 ごめんくださいと太一さんの家にいくと、タマゴを持って太一さんが現れた。えっと、料理中ですか?

 

「た、タマゴが……タマゴが孵ったんです!」

「タマゴって……」

「太一さん、それ無精卵」

「そっちのタマゴじゃなくてデジモンのタマゴです!」

「ならデジタマって言っておかないと」

 

 というか光子郎さんも断片的すぎてわけがわからないですよ。

 とにかく詳しい話をするために太一さんと共に彼の部屋へといく。八神さんちのお母さんにも挨拶をするが……ドルモンたちも普通に挨拶しているこの光景、良いのかいつも不安になるんだが。

 

「慣れって大事だよね」

「おかげさまでな。とにかく何が起きたのかだけでも知っておかないとね」

 

 光子郎さんが携帯とノートパソコンを接続して画面に画像を一つ表示させている。一つ目のクラゲの様なデジモンみたいだが……情報が全くわからない。なんだコイツ?

 

「なんだかカワイイ見た目してんな」

「見た目はそうですけど、一つ目って不吉な感じしません?」

「まあな。で、こいつがどうかしたのか光子郎」

 

 アイスを食べながら問いかける太一さん……まあ、全員食べているけどね。まだ肌寒い季節だが暖房が効いた中食べるアイスはおいしいものである。人としてダメな気もするが。

 

「このデジモンは、バグなどが寄り集まって生まれたデジモンみたいなんです」

「なんでそんなことがわかるんだよ」

「ボクの知り合いがタマゴの殻のデータ構造を解析したんです。そいつはまだ小学生ですが、大学にも籍を置いているんですよ」

「…………」

 

 太一さん、絶句。いや、気持ちはわかるけども。

 

「俺も小学生だけど、小学校にしか通ってないぞ。なあ、カノン」

「いえ、僕は海外にいって飛び級するのが面倒なだけです。父が大学教授だから色々と見てもらってますよ」

「…………」

 

 そんな裏切り者を見るような目はやめてほしいんですが。大丈夫ですよ、歴史の授業とかは年相応の範囲しか知らないです……いや、この年で歴史勉強している時点でおかしいのか?

 

「だめだ、どこがおかしいのかすらわからねぇ」

「カノン君……あ、見てください!」

 

 なんか光子郎さんからも哀れみの視線を感じたが、パソコンの画面が切り替わった。というより、クラゲの姿が変わったのだ。爪の生えた手に目玉が付いたような姿になったけど……幼年期Ⅱか。

 

「進化したのか」

「クラゲから、メールが来ましたよ……オナカスイタ、とだけ書かれていますね」

「腹が減った!?」

「コイツ、データを食べて成長しているんですよ!」

 

 それってかなりマズいんじゃ……

 

「このまま進化していったらあらゆるデータを食い尽くしてしまいますよ!」

「そうなったらどうなるんだよ」

「世界中の、ありとあらゆるコンピュータが暴走してしまいます」

「世界滅亡の危機ですねぇ……真剣にヤバいなコレ」

「それじゃあ、さっきの野球の試合の得点って」

 

 ドルモンの一言であちゃぁとつぶやきが漏れた。太一さんたちにも説明しつつ状況をまとめると、すでに影響は出ているという結論に達した。あれ、データを食われたせいで得点表示がおかしくなったのか。

 

「どうすんだよ!?」

「とにかくネット回線につないで準備だけでも整えないと」

「僕、家に戻って自分のノートとってきます!」

 

 というわけでいったん部屋に戻って必要なものを持ってくる。八神さんにはすぐに戻ると言い、パソコンとついでにケーブル類、あと作っておいたデジヴァイスの変換アダプタを持って再び八神家に戻る。

 光子郎さんもすでに準備をおえたようで、回線に接続されていたが……そこに表示されたのは、大きくなったクラゲの姿。手がついており頭身も上がっている。

 

「進化しちゃったのか……」

「カノン君、そちらも準備をお願いします!」

「分かりました……なんつー厄介な事態だよまったく!」

 

 ゲンナイさんからは色々言われていたけど、よほどの事態じゃないかコレ。

 

「成長スピード速すぎるぞ!」

「今のうちに倒さないと、大変なことに……」

「結局、黙って見ているしかないのかよ! ――そうだ、カノンならどうにかできないのか!? 魔法で直接入るとか!」

「ネット回線に直接入れと? デジヴァイスの力で僕の肉体をデジタルデータ化することはできますし、やろうと思えば可能でしょうけど座標とか回線への接続とか色々とやらないといけないんです。そんなこと今まで思いつきもしなかったんで、やろうにもやり方がわかりませんよ」

 

 ぶっつけ本番でそんなことしたら別次元のデジタルワールドに飛ばされかねないし、肉体が消し飛ぶかもしれない。

 

「スマン……じゃあ、ドルモンたちは?」

「行けないことは無いけど……X抗体種ってデータサイズが大きいので、変換に時間が…………」

 

 結局、今のところは観測するしかできないのが歯がゆい。そう思っていたら、八神家のパソコンに変化が現れた。

 

「こんな時、アグモンがいてくれたら……」

「いますよここに」

「何!?」

 

 画面を見ると、太一さんの名前を呼ぶアグモンの姿があった。

 ゲンナイさんもいて、ガブモン達も続々と集結する。

 

『太一!』

「あ、アグモン!」

「テントモン、それにみんなも!」

『うむ。久しぶりじゃな二人とも。カノンもこの前はスマンな』

「いえ……それよりも、今ネットに現れた新種って」

『知っているのならば話は早い。特大の緊急事態じゃ』

『そいつはとても凶悪なデジモンなんだ。このままじゃ大変なことになっちゃう』

「でも、俺たちじゃどうすることも……」

『だから、オレたちがネットにはいって戦うよ!』

 

 ガブモンがそう言い、みんなが続いて僕たちの世界のために戦うと言ってくれる。

 デジタルワールドを守ってくれたからこそ、今度は僕らの世界の危機のために戦うと。

 

「みんな……」

「お前ら……よし、そうと決まったら俺たちがデジヴァイスで進化させてやるぜ! 光子郎、デジヴァイスは持ってきているよな!」

「もちろんです」

「僕たちは何とか突入できないか調整してみます」

 

 すぐにとはいかないが、自分の体のデジタルデータ化はどうになるはずだ。以前、ミラージュガオガモンとの戦いの時にやったことだしあの時のログを利用できればいける。

 

「後は奴の動向とか目的を探れないか試してみます」

「頼むぜ……そうと決まったらみんなに連絡だ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とまあ、意気込んだのはいいんだが何ともまあ間の悪い日があったものだ。

 

「城戸さんのお宅ですか? えっと、丈は……え、受験?」

「そう言えば私立中学を受験するとか言っていましたっけ」

「試験日今日だったんですね」

 

 丈先輩、参加できないなコレ。

 

「なら次はヤマト……え、出かけている? タケルも一緒に? …………島根?」

「島根……」

「うわぁ……」

「光子郎君、カノン君、ウーロン茶飲む?」

「あ、いただきます」

「とりあえず一杯だけ」

 

 八神さん、マイペースですね。いや、事件を知らないからだけど。

 ちなみにドルモンは奥でデータ調整中。

 太一さんが島根のヤマトさんたちに電話をかけるが……なんか相手が要領を得ない、そして切れた。

 

「切りやがった……」

「二人とも、春休みはどこかいかないの?」

「いえ、とくには」

「うちも母さんが妊娠しましたから」

「ぶほっ――そうなんですか!?」

「ええ……あ、八神さんケーキ作るの手伝います」

 

 というわけで光子郎さんと共にケーキ作りの手伝いをしながら太一さんを待つ。

 ミミさんの家、留守電。これは無理っぽいな。絶対に無理な気がする。

 続いてヒカリちゃん……お友達の誕生日会だとか。

 

「……誕生日会って都市伝説じゃないんだ」

「カノン君、そんな悲しいこと言わないでくださいよ」

「冗談ですよ……半分は」

「半分って」

 

 正確には、クラスメイトのと頭につくのだ。

 

「結局悲しい話じゃないですか」

「その哀れみの視線はやめていただきたい」

 

 その後、太一さんはロウソク消したら帰って来いよと言っているが……そんなご無体な。

 と、残るは空さんだが……ああ、面倒な。

 

「光子郎、空んちに電話してくんない?」

「空さん? 太一さんが電話した方が……」

「いいから頼むよ」

 

 そんなわけで光子郎さんが電話したが、居留守をつかわれる始末。

 

「まったく喧嘩なんてくだらない」

「お前が言うなよな!?」

「でも、なんで喧嘩なんてしたんですか」

「そ、そんなことよりそろそろ時間じゃないのか?」

「露骨に話そらした……何が原因なんですか?」

「くだらないので僕の口からは言いません」

 

 太一さんが空さんに誕生日プレゼントを渡したら、それが原因で喧嘩しただなんて僕の口からは言えない。というか言いたくない。

 

「とにかく行くぞ!」

「まったく意固地な……八神さん、どうかしましたか?」

 

 なぜか八神さんが玄関を開けて外を見ていたので、僕ものぞき込んだら……観覧車が高速回転していた。

 

「いつもより回っているわねぇ」

「そんなのんきな!?」

 

 というか実害出ているじゃないか、人命にかかわるから急がないと!?

 すぐに太一さんたちの後に続き、パソコンを操作して状況を見る。アドレスを見ると、案の定観覧車のデータを食べているところだった。

 

「アグモンたちの転送が完了しました!」

「カノン、そっちはどうだ?」

「今の転送で要領は分かりましたが、やっぱりドルモンだとデータ容量が……幼年期だと変換に耐えられるか不安だし、このままサポートに回ります!」

「仕方がない、二人とも頼む!」

『任せて!』

「奴はこっちに気が付いていません、先制攻撃です!」

 

 アグモンたちが攻撃し、続いて進化する。パソコンの画面には進化ムービーが流れているが……どうやらネット世界で進化すると画面にこうやって処理状態が表示されるらしい。

 そして、グレイモンたちの攻撃がヒットしていく。奴もろくに動けないのか攻撃を喰らい続けているだけだったが……

 

「やったか?」

「いえ、どうやら違うみたいですよ……」

 

 奴の姿が変わっていた。紫色の体が、白を基調にしたものへ変化しており、四足のクモのような姿になっている。動かないことで進化に専念したってところか。

 

「なんか、非常にまずい予感がプンプンなんだけど……」

 

 まだ、短くも長い一日は終わりそうにない。

 




今までカノンたちを助けてきたX抗体の力でしたが、ここにきて逆に邪魔することとなりました。そうそう上手くいってばかりではないのです。

というわけで、ウォーゲーム開幕。

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