さて、デジヴァイスXも完成したことだし……どうやって元の時代に帰ればいいんだろうか?
「そういえばそれがあったね……人間界へのゲートを開くんじゃだめなの? 新しいデジヴァイスでゲートを開けるようになったって言ってたよね」
「言ったけど……時間軸が違うだろうが」
色々と機能をつけれるだけつけてみたが、やはり自在にデジタルワールドへゲートを開けるようにした方が都合がよさそうだったので付与してみた。ただ、X抗体制御プログラム第一だったので開けるゲートも小さいものとなってしまった。人間1人とデジモンが数匹が限度だろう。デジモンもサイズが小さくないとダメだ。
まあ、その方が空間へ与える影響も小さそうだけど。
「ふむ。君たちは人間世界での時間でいつから来たのかね?」
「えっと……ダークマスターズとの戦いが終わったのってどのくらいだっけ…………デジタルワールドに突入したのが1999年8月3日の夜で、デジタルワールドでそれなりに過ぎたから……8月4日の日の出ぐらいか?」
「たぶんそうだよね。アポカリモンを倒したのがそのあたりだから」
「出発地点は……お台場のどこだっけ?」
「廃墟になっていたからなぁ……」
アポカリモン出現時に時間の流れが同じになったと仮定しても……まあ8月4日よりも後ということは無いな。
「ならば、私がクロックモンの能力をイグドラシルから引き出して送り届けよう。君のデジヴァイスの力と組み合わせれば直接人間界に出られるはずだ。デジタルワールドが再構築中ならば人間界へ直接帰った方がいいだろう。
場所もこちらで都合がよさそうな場所へ送る」
「何から何までありがとうございます」
「稽古つけてくれて、ありがとう」
「楽しかったです」
ドルモンたちも頭を下げ、お礼を言う。
短い間だったけど、本当に助かった。
「なに。礼はいいさ。君たちが前に進むことで、今の私たちがあるのだから」
「? それってどういう……」
「いずれ分かる時が来る。その時を楽しみにしているといい」
結局、それ以上は教えてくれずにバグラモンは微笑むのみだった。ただ、少し嫌な予感もするんだが……何だろう。また厄介ごとが待ち受けているような気がする。
しかしいつまでもここにいるわけにもいかない。バグラモンが右腕をかざし、空間が歪む。僕もデジヴァイスを歪んだ空間に向けて光を照射する――すると、X抗体の様な紋様が浮かび上がり、ゲートが開いた。
「正確な時刻がわからないため、日の出のあたりに設定しておいた」
「ありがとうございます……でもこれ、普通に飛び込んで大丈夫なんですかね?」
「たしかに……普通に飛び込んだだけでは危険だな。最高速度が出せるデジモンは何かね」
「ラプタードラモンだけど……大丈夫かな」
来る時よりも不安定に見える。なるべくデータサイズは小さい方がよさそうだ。
「ならば、アーマー進化を使うといい。君のデジメンタルは特殊なものだ。製作者はおそらく彼の十闘士、エンシェントワイズモンだろう。君の能力と組み合わせれば新たなアーマー体を構築することも可能なはずだ。もっとも、イグドラシルの補助も必要だろうが」
「でもこれ、プロトタイプだって聞いていたけど……」
「いいや。これはそういう風に偽装されてはいるが、きわめて特殊なものなのだ。バステモンならば知っているかとも思ったが……なるほど、彼の偽装は完璧だったというわけか。私もイグドラシルシステムが無ければ気が付かなかっただろうな」
「これ、そこまでの代物だったんだ……でも、他のデジメンタルを知らなかったから気が付きようもないんだけど」
「確かにそうだったな。バステモンが気が付かなかったのも無理はないか」
とにかく、こいつを使えばいいわけか。でも、どの性質にすればいいんだろうか。
「君本来の特性を使いたまえ。ラプタードラモンのデータをベースにすればいけるはずだ」
「帰る前にまだやることが出来るとは……」
イグドラシルに精神を集中し、ラプタードラモンのデータとデジメンタルを同期していく。
運命の紋章に意識を集中……するまでもないか。元来の特性なんだからすんなりといく。そして、ドルモンの額に触れてデータを構築する。
プロトタイプデジモンのインターフェースは本来こういう使い方をしていたんだよな。直接データを書き換える。失敗すれば大変なことになるが……元々持っているデータをベースにしているため難なく終わる。
肉体データはドルモンのまま、上から鎧を装着する形になるし。デジメンタルの形も変わっていき――黄金のデジメンタルへと変化した。球体に翼のような飾りが一つ。
「運命のデジメンタル……なんだか今までのよりもはっきりとした形になっているな」
「君本来の特質を利用したからだろう」
「これでやっと帰られるんだね」
「ようやくな――いくぞ、デジメンタルアップ!」
「ドルモン、アーマー進化!!」
ドルモンの姿が変化していく。
体が大きくなり、体に黄金のアーマーが装着されていく。シルエットはラプタードラモンのままだ。ただ、カラーリングが以前とは異なり、体毛はドルモンと同じで機械化している部分は金色だ。そして、胸のあたりに運命の紋章が追加されている。
「ラプタードラモン!」
「って、ラプタードラモンのままなんだ」
「ああ。力もX抗体を解放する前と同じぐらいだな。安定感も結構ある」
「普段の戦闘でもそれなりに使えそうだな。それじゃあ、いくか!」
ラプタードラモンにまたがり、ゴーグルをつける。そういえばこれも久々につけたな……あー、ヤバい。飛行帽どこかになくしちゃったんだ。母さんになんて言われるか……
他の荷物は……よし、大丈夫。
「それじゃあみなさん、色々とありがとうございました。いつか、未来で会いましょう」
「ああ。その時を楽しみにしているよ」
そして、僕たちはゲートへ飛び込んだ。
体が奇妙な浮遊感に包まれ、時の流れの変化に酔いそうになるが……しばらくすると、時空の回廊へ飛び出した。
なんだか懐かしい気もするこの光のトンネル。加速によりGがかかっている……
「結構、長く感じるな!」
「疲れるです……」
「二人とも、口を開かない方がいいぞ」
ラプタードラモンは涼しい顔しているけど、こっちはそうもいかないんだ……というか、速いところ出口へ――その時、何かの気配を感じた。いや、空間の歪みというか……前から、誰かが来ている!?
「僕たち以外に時間移動している人がいるぞ!?」
「なに? 本当だ、すぐに接触する――間に合わないッ」
攻撃されるか――バリアーをすぐに張ろうとしたが、それは杞憂に終わった。だが、むしろそんな緊急事態の方が良かったかもしれない。
目の前にあった光景は、僕たちを混乱させるには十分だったからだ。
背丈は太一さんと同じぐらいだろう。特徴的な赤毛は見慣れたもの……ただ、違和感はある。
「――え」
そいつは、僕を見てにやりと笑いすれ違っていく。またがっていたのは……黄金のラプタードラモン。プロットモンも連れており、ただ気になったのは同じ年頃のフードを被った人影も一緒にいたこと。
赤毛の方に気をとられてそっちまではハッキリ見えなかったが……たぶん黒いフード付きのパーカーを着ていた。スカートをはいていたから女性だろうけど……
「あの赤毛、僕だったよな?」
「ああ。俺たちも一緒にいたな……もう一人、誰かいたが」
「よく見えなかったけど、女の子だったです」
あれは一体誰なんだろうか……それに、少し成長した僕。というか、逆方向に行ったってことは……
「また、過去に戻って何かしないといけないのかよッ」
「バグラモンが言っていたのはこのことなんだろうな」
「です」
わかってるよ。なんかまた厄介ごとが待ち受けているのもわかっているよ。
そして未来の僕よ。隣にいるの誰だよ。
結局スッキリしないというか新たな謎というか待ち受けている試練が一つ増えて僕たちは現代へ帰還する。
まあ、少なくとも1年以上は先のことだと思うし。その時になってから考えれば。
◇◇◇◇◇
ゲートを飛び出し、地上に降り立つ。周囲の森というか見慣れた光景に出くわす。というか
なんかもう実家の様な安心感さえある。そして、空を見上げるとちょうどデジモン軍団がアポカリモンを倒しているところ――ってオイ。
「早く戻ってきちゃったみたいだね……」
「だねぇ……どうする?」
「みんなの眼が上に行っている間に海を渡るか」
手段が増えたから色々と迷うところだが、マフラーを具現化して翼形態に変化させて飛んでいくことに。ふわふわと漂うだけだが、今はこれで十分か。
というわけで、向こう岸にたどり着きフジテレビ跡地まで歩いていく。ドルモンもドリモンになってもらいプロットモンに乗せる。プロットモンは普通に犬に見えるからそのままでもいけるし。
「ここが人間の世界……建物が崩れてるです。でも見覚えがあるようなです?」
「そりゃあ生まれ変わる前に見ていたからなぁ……人格とか完全に違うから覚えていなくても無理はないけど」
「そろそろ決着がつくね」
ドリモンの言う通り、すぐに決着がついた。アポカリモンを倒し――そして自爆しようとしたがすぐにそれも封じ込められてしまう。
そして、空間の歪みが直っていく。急に一筋の光が出てきて眩しさに顔を歪ませるが……どうやら日が昇ったらしい。
「これで、一件落着か」
「あらー……カノン、いつ帰ってきたのー?」
「うお!? 君、さっきまであっちにいなかったかい!?」
保護者たちが集まっているところまでやってきたのだが、急にしゃべったから驚かせてしまったらしい。丈さんの兄のシンさんが驚きのあまりに腰を抜かしかけている。
あと、母さんはマイペースすぎると思う。
「カノン、流石に戻るのが速すぎないかい? それに、他のみんなはいないようだが」
「あー、諸事情で帰ってくる時間がずれたんだよ。大丈夫、数時間以内にみんなも帰ってくるだろうから」
だから他のご両親方、詰め寄らないでください。怖いです。
八神さんちも心配なご様子……いや、ヴァンデモンに眠らされていて起きたら旅立ったところだから混乱しているんだろうし説明したいのは山々なんだけどね。
「ミミちゃんは無事なの!?」
「空は、空は帰ってくるんですよね?」
「お母さんたち詰め寄らないで頂きたい! 帰ってくるから! すぐに戻るから!」
結局、太一さんたちが帰ってくるまでカオスな状況となってしまったのである。本当疲れた……
皆が帰ってきた後の各々の家族の様子は割愛しよう。僕が語っていいものでもないし、語るのも無粋だ。
我が家は割と緩い所があるから意外とすんなり話も終わったんだけど、やっぱり帽子のことは追及された。まあ、流石に激戦続きだったため怒られずにすんだんだけどね。
あと、廃墟になってしまった場所を立て直すために父さんたちが色々と手配してくれたらしい。少し時間はかかるだろうけど何とかなるだろう。
こうして、僕たちの夏休みの冒険は幕を閉じることとなる。最初の冒険譚の幕が。
◇◇◇◇◇
冒険は終わったが、夏休みは続いている。被害もそれなりだったので色々と大変な日々だが、人間は意外とたくましい。母さんたちを見ていると結構順応しているのがわかる。八神さんたちも井戸端会議で苦労しますねーなんて言っていたけど案外何とかなっていたし。
「カノン君、どうしたのこんなところで」
「んー……いや、なんとなく」
家にいるのも何だったのでドリモンとプロットモンを連れて海浜公園まで来ていた。アイツらは熱いと言いながら寝そべっているが……
僕も動く気になれなかったので座って海を眺めている次第だ。
そんな感じでぼーっとしていたらヒカリちゃんに話しかけられたのである。ちょうど気になっていたこともあるし、太一さんもいないときならいいかな。
「そういえばヒカリちゃんはみんなとわかれたのに、残念そうじゃないよね」
そう。他のみんなはデジモンたちと別れたのがショックだったからか、すぐにデジタルワールドの話はしないようになった。僕たちは一緒に帰ってきちゃったからなんとなく顔を会せるのが忍びなくて最近はあまり会話していない。
ただ、ヒカリちゃんだけはそんなそぶりが無いのが気になっていたのだ。
「だって、また会えるから」
「……そうだね」
ヒカリちゃんの言う通りだ。ゲートが完全に閉じたわけではない。僕のデジヴァイスでゲートが開けるといってもそれはこちらとあちらにつながりがあればこそだ。
今は無理でも、いつか必ず再会できる時が来るだろう。
「まあ、また厄介ごとじゃないといいけどね」
「そうだね……それだけは心配かな」
そう言って、ヒカリちゃんはにっこりと笑った。
ようやく現代へ帰還したカノンたち。
なんか不穏なフラグもいくつかありましたが、とりあえず2章の本筋は終了。
あとは小ネタな話などをいくつか消化して、ウォーゲームへ突入します。
というわけで、3章・無垢と憎悪のウォーゲーム
近日公開予定です。