その後、数日にわたり修行が続くこととなった。
正直なんでこんなことになったのか疑問に思うし、夕食に毎度豆腐が出てくるのも疑問だし、プロットモンがホーリーリングを高速回転させてドヤ顔するのも疑問だし、なんかもうわけがわからない。
そう言うわけで今晩も豆腐である。
「色欲の魔王。なんで豆腐を作れるんだ」
「色々と暇なのよここにいると」
だからってなぜ豆腐……気にしても仕方がないのだろうが。
修業の成果はそこそこ出ていて、複数の属性の組み合わせや新たな魔法の習得などをしている。ドルモンも着実に戦闘能力が上がってきていた。ダークマスターズ戦の終盤は力押しが多かったからなぁ……修行相手のタクティモンは優れた戦術眼を持っており、理論詰めて戦うタイプのデジモンだ。ドルモンも彼から様々な技を吸収している。
プロットモンに関してはよくわからないが、力の解放を第一にやっているんだろう。たぶん。修行相手と思しきブラストモンであるが……恐ろしいほどのバカである。大丈夫なのだろうか?
と、そんなけったいなことを考えていると突然バグラモンが口を開いた。
「さて、そう長居するわけにもいかんだろう……最後の仕上げを行う。時間的にもいい頃合いだからな」
「また全力で戦うのか……ハァ」
「いいや。君のデジヴァイスを作るのだよ」
「――――え」
それは一体どういうことなのだろうか。
疑問に思ったものの、詳しい話は明日にすると今日は寝ることとなった。
なかなか寝付けない夜になりそうだけど……ドルモンたちは疲れも溜まっていたのか、すぐに寝てしまっている。
まったくのんきなものだな。
「ハァ……ちょっと涼むか」
外に出て、体を動かす。我流で拳法ともいえない動きだが、なんとなく体を動かしていくたびに動きが良くなっていっているようにも思う。
この空間、イグドラシルの力が作用しているのか一つ一つの動作が最適化されているようなのだ。
「……ふぅ」
「まったく、精が出るね」
「おわ!?」
いきなり話しかけられてびっくりしたが、バグラモンが背後に立っていたのだ。
というか気配を感じなかったんだが……
「すまないね。邪魔をしては悪いと思って」
「それはいいけど……そういえば、なんで僕たちを鍛えてくれるんですか?」
「そうだな……私には弟がいてね。私とは違い、生まれながらに暗黒の力を持って生まれてきた。そのことや他にも思うところがあり、私はホメオスタシスに反旗を翻したのだよ。
イグドラシルの時とは違い、安定を望む彼の存在の管理するようになってからのこの世界は、多少の異端も受容される。そのため、人間もこの世界へやってこれるようになった……進化も更なる多様性を見せるようになった。だが、同時に強すぎる暗黒が暴走を起こすこともある」
「…………」
たしかに、アポカリモンの根底にあったものを考えれば、その通りなのだろう。
彼はとても生真面目なデジモンなんだ。自分が間違っていると思ったことを正そうとし、そして魔王にまでなってしまった。
「結局、私自身が可能性を信じ切れていなかっただけなのかもしれないがね……結局、私を倒したのは人間と…………彼によって成長した、私の弟だったよ」
「杉田マサキさんと……そのパートナーのデジモンが?」
「いや、彼のパートナーのラストティラノモンではない。おそらく、今も彼と共に旅をしているだろうが……彼の仲間は相当な面子がそろっているからね。今頃は何をしているのやら」
どうやら、件の弟はラストティラノモンとは別のデジモンらしい。今もマサキさんたちと一緒に旅をしている……そういえば光子郎さんがそんなことを言っていたな。他にも仲間がいるって言っていたって。
でもそれと僕たちを鍛えるのにどんな関係が?
「……なに、私でもこうして感傷に浸ることはある。ならば、誰かを助けようと思うのも不思議なことではないだろう? 理由など、後からついて回るものさ。まあ、今のために君たちを助けなくてはいけないのも事実なのだが」
「結局、理由はあると……」
というか、今のためにってどういうことなんだろうか。
話は終わりだと言わんばかりに、彼は去ってしまう。君も早く寝たまえよと言われたが……
「…………最後に、これだけ試しておきたいんだよな」
雷と光の属性を合わせた魔法剣――やっぱり、これが一番使いやすい。
属性には向き不向きがあるらしいが、僕が一番しっくりくるのはこの二つだ。他の属性も使えることには使えるのだが。
「まあ向いている属性が分かったからってどうってことは無いんだろうけど――僕が使っていた、電撃のパンチとかを考えると……なんかあるんだろうな」
ドルモンと出会ったときに何かを得たんじゃない。デジメンタルを手に入れたとき? いや、それも違う。
色々な場面を思い出すが、僕自身の中にある力はどこかで手に入れたものではない。最初から持っていたものだ。それが、ドルモンと出会ったことで覚醒していった。
「…………今はまだ、わからないか」
結局のところ、そこにいきつくんだろう。
この問いに答えが出るのは、しばらく先のことであった。
◇◇◇◇◇
翌日、イグドラシルの根元へとやってきた。さて、デジヴァイスを作るとはいったいどういう事なのだろうか?
「まず最初に君のデジヴァイスを改造する必要がある」
「そんなことが出来るんですか?」
「リリスモンに魔法の手ほどきをしてもらったんだろう。ならば大丈夫だ。デジヴァイスは製法こそ特殊なものであるが、機械だ。作れないことはないし、この場なら改造も容易だ」
「それはそうなんだろうけど……」
とりあえず、パーツごとに分解……そこまでする必要はないか。外装は自分で作ったんだし。
外装を外して、基盤を取り出す。画面部分とアンテナを外して……ボタンとつながっているし、色々とくっ付いている部品もあるんだよな。
よくよく見てみると……使われていない配線がある?
「前に修理したときは急いでいたから気が付かなかったけど……改造できるように組まれているのか」
「なるほど、やはりこの時のために拡張できるようにしてあったのか」
「なんだか含みのある言い方……」
「そういえば、これってイグドラシルの破片から出来ているんだよね。バグラモンの義肢と同じで」
「あー、そういえば」
「素材としては一級品だからね。さて、君のデジヴァイスにはひとつ足りないものがある。それが何かわかるかね?」
「足りないものって…………聖なる力とか?」
「いや、確かに他のデジヴァイスには搭載されているが必須の機能ではない。言うなれば、君とドルモンにのみかかわりのある物に対しての機能だよ」
「……X抗体の制御プログラムか何かってこと?」
「ああ。より正確に言うなれば、今までのデジヴァイスではX抗体の力を進化の際に利用できないようになっていた。君たち自身の力で無理やりにこじ開けてようやく使えていたのだよ」
「なんでそんな仕様になってんだよ!?」
改造の余地が残っているのなら普通にX抗体対応版にしてくれやしませんかね!?
「いいや。自分が使うことになるデジヴァイスは君自身が作るのだよ。君が作って、この時代の君自身に贈るのだ」
「犯人は自分!?」
「カノン、落ち着いて……ねえ、もしも最初からX抗体を解放していたら、どうなっていたの?」
「デクスドルゴラモンよりもよりXプログラムそのものに近い存在になっていたかもしれないな」
……ああなるほど。暴走の危険性もあるか。混乱していてそこまで頭が働かなかった。
それに、他のえらばれし子供との兼ね合いやアナライザーを使用する時のことを考えると同じ型にしておいた方が色々と都合が良かったのだろう。後で壊しちゃったし、修理の時に他のみんなのデータを使ったことを考えれば……ってこれって…………
「タマゴが先なのかニワトリが先なのか」
「あまり悩まない方がいい。君たちに関してはその命題は終始付きまとうだろう。むしろ、始点は無いと考えた方がよいだろうな」
あ、頭が痛くなる……
とにかくこれでようやくX抗体に対応したデジヴァイスへとバージョンアップができるというわけだ。
あと、並行してこの時代の自分が使うデジヴァイスも作っている。基盤にはイグドラシルから削り取った木片の様なものを使っているが……イグドラシルに接続するきっかけになることを考えると、自分の力の覚醒を促したのは自分自身ということに……うん。考えるのはやめよう。
「とりあえず、この時代の自分用のデジヴァイスは完成。プログラムはまだ入れてないけど……そういえば、紋章とタグは?」
「タグに関しては用意がある。紋章も君自身のデータから作り出せるが……そのままでいいのかね」
「いや、力の暴走を抑えるための機構が必要なんだ」
ブラスト進化がリミッター解除を行うことを考えると、やっぱり必要なんだろうな。
そちらも並行して作業を進める。なお、データの同期にはドルモンにも協力してもらい、この時代のドルモンに接続することで進化先をある程度コントロールする機能もデジヴァイスに付けておく。
鉱物データはブラストモンに用意してもらい、リリスモンにも手伝ってもらって紋章を作る。ほどなくして、デジヴァイスと紋章は完成した。あとは、僕自身のデジヴァイスの改造だけだ。
「このデジヴァイスと紋章は私が送り届けておこう。君の家のパソコンでよいかね」
「うん。たしか、父さんのパソコンから出てきたはずだから」
小さい時のことでよく覚えていないけど。
まあ、大丈夫だろう。実際に過去で起きた出来事なんだし。いや、今の時間だとこれから起こるのか。
何ともややこしい話になってきたが――無事に、デジヴァイスと紋章は送り届けられた。それにミスをしていたら僕のデジヴァイスと紋章が消えている……どころかこの歴史も書き換わるんだから知覚することすらできないか。
それもないんだから平気だったんだろう。
「さてと……どうするかなぁ」
「どうしたの?」
「アナライザーには接続できないなこれ」
むしろ今までのは他の8人との旅を見越してデチューンされていたのだ。そのおかげで、ある程度の互換性が生まれていたのだが……改造している過程で、つけれるだけ機能をつけていったのだが――接続端子の形が変わりそうである。
いや、それは変換アダプタを作ればいい話か。
「…………いや、そもそもイグドラシルへの接続能力が上がったんだから、アナライザーでいちいち検索する必要ないじゃないか」
一目見ればわかるんだし。アナライザーの方が詳細なデータが見れるけど、最低限必要な情報は分かるから大丈夫だった。それに端子もアナライザーとの接続にしか使っていなかったし。変換アダプタ作ればいい話だし。
というわけで続行。外装は……板状にしよう。カード型のマシンにするのだ。
「カノン、鼻歌なんて歌いながら……」
「楽しそうです」
「クロスローダーの図面引いていた時の陛下にそっくりであるな」
「小さい陛下だ。小さい陛下がいるわ」
「妙に放っておけないとは思っていたのだが……そうか、そういうことだったか」
周りでみんなが何か言っているが、そんなことには気にも留めずに作業を続ける。
ただ、一つ気になったので……
「クロスローダーって何ですか?」
「ほう、耳ざといな」
(むしろなんでそれだけ聞き取れているのよ。しかも作業しながら)
(陛下も楽しそうであるな……良いことだ)
(ええぇ……)
なんだか周りの様子がおかしくなったが。まあ、いいか。
それよりもそのクロスローダーについて聞きたい。
「私が作った、デジヴァイスの様なものだ。様々な機能を付けた高性能機なのだが……理論実証機も完成し、実験も行ったのだが……肝心の機能が使えなくてね」
「肝心の機能?」
「デジクロスという、デジモン同士の合体を行うのだよ。ジョグレスというデジコア同士の融合現象が存在するのだが、融合失敗を起こし、不完全な状態になってしまう存在がいる。それをカオスモンという名で我々は呼んでいるのだが……このデジクロスは、デジコアが融合させずにかつ、カオスモン化しない方法の合体なのだ。
デジモン同士の能力の組み合わせで、強力なパワーアップが可能だったのだが……使用するために、人間の中でも特異な資質を要求してしまっていてね。結局、試作品がいくつか存在するのみだ。
スペックも高すぎて、現在のデジタルワールドではパーツを集めるのも困難だ……実用できるようになるには、人間界でのデジタル技術の発展が必要であろうな」
「なるほど……やり過ぎたのか」
ちなみに、僕はその特異な資質を持っていないらしい。クロスローダーに触れれば資質のあるものだと反応するらしいが……無反応であった。
まあ、別段必要もないからいいか。それに、まだ実用に耐えられる代物ではないらしい。とりあえず、理論実証のためってことか。
◇◇◇◇◇
そんなこんなで、僕の方も完成した。
カード型のデバイスでカラーリングはドルモンに合わせてある。メインカラーは紫で、ふちは白。
左上に画面を持ってきて、その右にX抗体を模したランプが搭載されている。左下にボタンを三つ配置してみた。
「これが、Xデジモン専用デジヴァイス。その名も、デジヴァイスXだ!」
「名前、まんまだね」
「うるさい。いいんだよ、こういうのはシンプルで」
というわけで、デジヴァイスX(ペンデュラムエックス)へ改造完了。
カードゲームではこの名称だったのよ。
修理したときに見た基盤とバステモンの解凍に使われた基盤が似ていたのは、製作者が同じだったから。
あと、さらっとデジクロスについて言及しているけど――作中で出す予定はないです。
もちろんカノンは使いません。というか使えません。