デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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とりあえず修業は終わりかなぁ


68.心技体

「むぅん……」

「た、食べないでです……」

 

 プロットモンの目の前に現れた巨大なデジモン。その名はブラストモン。かつてはバグラモンたちと共に戦ったデジモンであるが、今現在の彼はというと……

 

「俺が食べるのは宝石だけだぁ……それに、毒など食べんぞ」

「誰が毒です!? プロちゃんは毒なんかじゃありませんです!」

「? だが何か悪いものが入っているような――まあいいか」

「軽いです……重そうな見た目なのに軽いです」

 

 一体何なんだコイツはとも思わなくはないが、毒について心当たりがあるのも事実。

 X抗体はデジモンを殺す死のウィルスプログラム、Xプログラムを内包しているのだから。

 

「……これから先、二人は大変な戦いに向かって行くのに…………プロちゃんは弱いままでいいんです?」

「知らん! 俺はお前のことなど何も知らないし、別段興味もない!」

 

 なら話しかけんなです。そう思わなくもないが、それを言うとこじれそうなので放っておく。

 独り言のようなものだったのだが、反応を返してくれる当たり悪い奴でもないらしいとプロットモンはブラストモンを見上げるが……もぐもぐと宝石を塊を食べている様子が見えるだけだ。

 

「……うわぁです」

「むぅん。それに強くなる必要などあるのかぁ?」

「?」

 

 何を言うのだろうか。強くなる必要がないとでもいうのか。でもこれから先彼らと共にあるためには強くなるしかない。プロットモンはそう思っているが……

 

「貴様が共にいたい者たちは、貴様に強くなってほしいのか?」

「……それは」

「俺はバカと言われるが、これだけは分かるぞ。一緒にいるのに強くなる必要などない!」

「あ……」

 

 ブラストモンは簡単に騙される大馬鹿である。過去にそれで何度も失敗しているが、それでもバグラモンの仲間であり続けたのは彼がバグラモンを自分の大将と認め、タクティモンとリリスモンもバカではあるが実直で先陣を切って戦う彼を認めているからだ。

 強さも理由のうちに入るのだろうが、それは最大の理由ではない。

 

「それにその首の輪っかは飾りかぁ?」

「これです? 別にそう言うわけじゃないです」

「ならそいつを使えばいいではないかぁ……えっと、名前なんだっけ?」

「ホーリーリングです!」

「そうだそうだ。ホーリーリングデスだ」

「なんか違うです……でもこれが何なんです?」

「たしかぁ……あー忘れた」

「結局ダメじゃないかです!」

 

 ホーリーリングを使えばいいということしかわからなかったプロットモンであった。とりあえず、ホーリーリングに力をこめてみるが……クルクルと回転し始めるだけであった。

 

「…………」

 

 これって、ダメな感じじゃないのだろうか……そう思っていた時だった、ホーリーリングのデータが変質し始める。

 光輪は徐々に巨大化していき、プロットモンの体から――飛び出した。

 

「外れたです!?」

「外れたなぁ……ほれ、今度は飛ばすんじゃないぞぉ」

「あ、どうもです……え、これだけ?」

「それで飛ばしてぶつけるのか、なるほど」

「絶対に違うです!」

 

 何らかの機能があるのは間違いないだろうが、絶対にそういう使い方ではない。それだけは核心を持って言えるプロットモンだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 タクティモンとガイオウモンの戦いは終始圧倒的な実力を持つタクティモンへガイオウモンが打ち込むのみにとどまっていた。

 その攻撃の全てが完全に見切られている。

 

「――ッ、」

「これまで幾度の激戦を潜り抜けてきたのか。いやはや、力の入ったいい太刀筋だ」

「全部防いでおいていうセリフじゃねぇよ」

「もっともだな」

 

 カカカと笑い、タクティモンは腰に刀を構える。

 

「なんだ――刀を抜く気になったのか?」

「いや、この刀はおいそれと抜けぬ代物でな。陛下にいくつもの封印を施してもらっている……」

 

 タクティモンの刀、蛇鉄封神丸は抜刀すれば星を両断するほどの力を持つ。ゼロアームズ・オロチのデータが使われており、全ての力を解放すれば時空さえも切り裂いてしまうのだ。

 

「究極武神、スサノオモンにはいまだ届かぬが……貴様たちならば至れるやもしれんな」

「? 一体、何の話だ……」

「なぁに、かつての感傷だ。我が魂に刻まれた記憶(データ)の欠片が見せた夢とでも言っておこうか……さぁ、往こうか。我が武と技、貴様に受け止められるか?」

「……受け止めるんじゃない。ものにして見せるさ!」

「大きく出たな――ならば、いざ!」

 

 タクティモンが飛び出し、ガイオウモンと打ち合う。

 今度は互いの剣技がぶつかり合い、拮抗している。いや、わずかにだがタクティモンが押している――しかし、その都度にガイオウモンの動きが速くなる。

 

(ほう……これがX抗体の生きる力か。通常種をはるかに上回る生命力をもつXデジモンは、デジコアの力をより高いレベルで引き出す。その力を持って我が技を盗むか)

 

 それでもまだ差は歴然だ。タクティモンの動きがさらに速くなっていき、ガイオウモンを引き離す。そして、タクティモンがこれでトドメだと渾身の突きを放ち――その刹那、ガイオウモンから赤い粒子が放出される。

 

「――ッ!?」

「ウオオオオオ!!」

 

 今度はタクティモンが押されていく。突きを右の刀で受け流し、左の刀で手を切り払いに来た。

 思わず少しだけ封印を解除し、力を放出してしまうほどにタクティモンは彼の力に押されてしまったのだ。

 

「なるほど――面白い!」

「まだだ、まだ上げていく――!」

 

 ガイオウモンの動きがさらに早まり、その姿が変化していく。

 炎に包まれ、より荒々しい姿へと――今、自らの力でバーストモードへと進化したのだ。

 一気に加速していき、タクティモンへと迫る。

 

「――陛下!」

「うむ。良いだろう――許可する」

「ありがたき幸せ。一介の武人として、受けてたとう。そして、これが我が奥義――無の太刀、六道輪廻!」

 

 螺旋を描く剣筋と、ガイオウモンの振るう紅蓮の太刀がぶつかり合う。すでにタクティモンは刀を抜き放っているが、バグラモンが空間の保護を行っていた。

 それでも、強大な力のぶつかり合いは空間を歪めていく。

 

「――――ゥアアアアア!!」

 

 最後の一押しだと言わんばかりに、ガイオウモンが叫ぶ。その瞬間、彼の体がぶれていった。重なるように、ドルゴラモンとディノタイガモンの姿が浮かび上がっていく。

 もっと前へ。もっと先へ。タクティモンへその一撃を叩き込もうと――唐突に、その体が小さくなっていく。

 

「なに――!?」

「ッ、ダイノトゥース!!」

 

 時間切れ。バーストモードの持続時間を越えたことでドルモンに退化したのだ。それでも、残った力を最後の一撃に籠めることでタクティモンの顔に一筋の傷をつけた。

 ドルモンの体はボロボロで、タクティモンには傷が一つ。打ち合いの中でも彼にダメージは届いていなかった。むしろ、余波も含めてドルモンには多大なダメージがあったのだ。それでも、一撃。

 

「なんとか、一発入れたぞ……」

「まさか、ここまでに至るとはな……これから先が楽しみだ」

「ま、まだ……終わったわけじゃ――――」

 

 ばたりと、ドルモンは倒れてしまう。自身の限界を超え続けたのだ。疲労も相当なものだろう。

 それに、これ以上は体が危険でもある。

 

「……陛下、やはり彼らが?」

「ああ。予言にあったのは彼らで間違いないのだろう……ドルモンのX抗体は次の段階へ進んだが。プロットモンは…………ふむ、予言にある巫女が彼女かとも思ったのだが……いや、そうではないのか。橘カノンとドルモンが対の存在であるように、他にも必要な要素がある」

 

 世界を越える終末。星を呑みて終焉をもたらす。

 雷の御子と破壊の化身、巫女の願いによりて聖なる光輪が奇跡をもたらす。

 

「予言の最後の一節、そのほとんどが解析できなかったが……わかった範囲でも彼らがその予言の該当者であると思っていたのだが……」

「もしや、まだ足りないのですか?」

「ああ……我が右目で発見できないということは、別の世界にいる可能性もある。もしくは、まだこの時代では誕生していな――――ッ」

「陛下?」

「…………これはこれは……なぁタクティモン。人とデジモンのデータが融合した時、何が起きるかは知っているかね?」

「たしか、多大な力をもたらすと。精神データの干渉も強まるため暴走の危険性も高まりますが」

「ああ……だが、そのリスクを無視する方法があるのだ」

 

 実例が現れるとは思っていなかったがね。最後にそう言い、バグラモンはその瞳に写した者をそのままにする。カノンが解析しきれなかった歴史データ、その中に答えもあった。

 古代デジタルワールド、ルーチェモンの生きた時代。彼を倒した者たちの名前……

 

「なるほど。そういう事か」

 

 歴史データにプロテクトをかけ、カノンが解析できないようにする。これは、彼の眼には触れてはならない。

 万が一にも歴史が歪む可能性は避けなくてはいけない。ここに書かれていることは、彼らの旅路においての一つの答えだろう。だからこそ、先に知ってはいけないのだ。

 

「さて……肝心の彼はどうなっているのだろうな」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 リリスモンの展開する魔法陣から闇の力が濃縮された砲弾がいくつも発射されていく。その全てをカノンは両手に展開した剣ではじいていくが、いかんせん数が多すぎる。何度も剣が折れていき、その都度あたらたな剣を召喚して戦っていた。

 

「ハァ、ハァ……数が多すぎるだろ!」

「ほらほら、どうしたの? まだまだこんなもんじゃないでしょう」

 

 魔法陣に右手を突き出し、リリスモンの右手が肥大化する。いや、魔力で作られた巨大な右手を召喚したのだ。それが自分の右手と接続されたことでナザネイルの腐食エネルギーを増大している。

 腐食の津波がカノンへと押し寄せ、その体へと降り注ぐ。

 

「――ッ、この!!」

 

 カノンの体から魔力が放出されていき、バリアーとなって展開される。青白い色の魔力の壁が彼を守るが、すぐに崩れていく。

 これではダメだ。出力が足りない――更に力を放出していき、魔力の色が黄金へと変化した。

 リリスモンの魔法とぶつかり合い、放電現象が始まる。魔力と魔力の衝突により濃密なエネルギーが放出されているのだ。

 

「これを防ぐなんてねぇ……でも、ちょーっと出力が足りないわよ」

「……腐敗、腐食。ならこれで――ッ」

 

 カノンの右手に小さな火が灯る。左手をかざし、小さな円を描きながら炎となって回転していく。炎の輪が高速で回転して破壊力を高めている。

 その間にもバリアーは削られていくが、突如そのバリアーを解除してしまった。

 

「――!?」

「バックドラフト!」

 

 炎の輪が収束し、大爆発を起こす。腐食のエネルギーと衝突し、互いに打ち消していった。サラマンダモンの技、バックドラフト。カノンの体の中にはデジメンタルが宿ってる。そのため、アーマー体の技のデータもそこに刻まれていたからこそ再現出来たのだ。

 その隙にカノンは腐食の波を潜り抜け、リリスモンの懐へと飛び込んだ。右手には光の剣を召喚し、左手には闇の剣を召喚している。

 

「――アタシに、闇の属性が効くとでも」

「これは、こうするんだよ!」

 

 二つの剣をぶつけ、光と闇のエネルギーが混ざり合う。

 二人を取り囲むように半球状にエネルギーフィールドが展開されていった。

 

「名付けて、ケイオスフィールド!」

「この、なんて無茶な使い方をッ」

 

 カノンはまだ止まらない。リリスモンへ拳を振り上げ、叩き込んでいく。究極体相手にそれだけでどうにかなるものでもないが、カノンの攻撃は止まらない。いや、リリスモンの動きが鈍くなっておりカノンが押してさえいる。

 

「相反する属性を組み合わせることで、デジモンのデータを一時的にバグ化させる空間を作り出した!?」

「そして、これが――クロスファイアー!」

 

 火と風の属性を組み合わせ、火のエネルギーを増大させていく。拳に巨大な炎を纏い、リリスモンへ突進していった。リリスモンも全力で障壁を貼り、防御するが彼らはそのままフィールドを突き抜けて飛び出していってしまう。

 

「――力み過ぎた!」

「調子に、乗らない方がいいわよ!!」

 

 リリスモンがぐるりと回転し、カノンの背中に強烈な衝撃が走る。踵落とし。言葉にすればあっさりとしたものだが、空中で身動きが取れない状況でのアクロバットな技。カノンの右手を起点にリリスモンが行った神業だった。

 

「――ごほっ!?」

「さぁて、オイタした子供にお仕置き……え」

 

 一瞬、一瞬だけカノンの意識が飛んだ。地面に激突して次に使おうとしていたであろう魔法も中途半端な形となったため暴発し――デジメンタルが飛び出す。

 カノンの周りに十色の剣が周りはじめ、デジメンタルへと入っていく。

 

「ちょ、ちょっとまってよ――そのデジメンタルは――――!?」

「あ――」

 

 虹色の巨大な剣が出現し、そして――――

 

 

 

 ちゅどーん

 

 

 

 

「……リリスモン、詰めを誤りましたな」

「いや、アレはそういう類のものではないと思うが……しかし、無事に目覚めを迎えたようだな。仕方がない。回収しに行くとするか」

「ですな」

 

 やれやれといった形でバグラモンたちが彼らを回収しに行くと、目をグルグルと回した二人の姿があった。

 どうやら、最後の最後でカノンの力が暴発してしまったらしい。

 なんとも情けない幕切れではあったが、これでカノンは自らの力の一端を知ることが出来たであろう。

 

「うぼぇ……」

「お、覚えてなさいよぉ……」

 

 本当に一端であるが。

 




皆さま、夏風邪にはご用心ください。
最近落ち着いてきましたが、ここ数日きつかった……まだ喉痛い。夜寝る時が地獄。

カノンが使用していた技はたぶんどこかで見たことがある人もいると思う。

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