「そういえばなんとなく使っていたけど属性って全部でいくつあるんですか?」
「十種類ね。デジタルワールド最初の究極体である十闘士がそれぞれ持っていた属性。それがそのまま属性データとして存在しているわ。火、水、風、土、雷、氷、鋼、木、光、闇。魔法を使うデジモンにとってこれらは重要な要素であるし、そうでなくとも進化の過程でこれらの属性を無視することはできない」
十闘士って聞いたことがある単語だけど……どこだっけか? まあ、とにかく属性が十種類と。それぞれの優劣は分からないがデジモンごとにこれらの属性のどれかは持っているらしい。中には例外もいるらしいが。
また、DNAデータごとに適合しやすい属性もあるとか。
「例えば、アタシたち魔王型は基本的に闇属性が強く発現するけど……別の属性を併せ持った奴もいるわよ」
「DNAデータは暗黒ですしね」
「属性とDNAデータの比率で進化先が決まると言ってもいいわ。まあ色々な要因もあるから一概にとはいかないけど。陛下なら光属性ももっているし、イグドラシルの義肢をつけているから木の属性も入っている。あとは同僚のタクティモンは闇と鋼。ブラストモンは……土、かしらね?」
「なんで疑問形……」
「アイツ体が宝石の塊なのよ。それにバカだから何にも考えていないし」
「ひどい言いようだな!?」
でもバカなものは仕方がないじゃない。強いんだけど大馬鹿なのよ……と、その言葉にはどこか哀愁がこもっていた。一体、何があったのだろうか?
しかし属性か……そっちはあまり注目していなかったんだよな。知っているデジモンだと……ドルモンは鋼だろう。火属性の技もいくつか使っていたが。
アグモンなどの例を見るに、竜型のデジモンは火属性が多いよな。なるほどDNAデータというか竜だから火の属性ってイメージか。
手のひらにアグモンが使っていた炎のイメージを――いや、それよりも強烈に印象に残っている光が丘のあの熱線が頭に浮かぶな。
「……呑み込みが早いわね。火の属性の魔法剣を使えるようになったじゃない」
「大事なのはイメージか……過程を緻密に計算するんじゃなくて、結果に至るためのルートを構築するべし」
演算も必要になるが、それよりも明確に力の方向性を定める必要がある。まるで、思いが実体化するように構築されていく感覚だ。
「それじゃあ、他の属性もちゃっちゃっとやるわよ」
「結構、きついんですが……」
◇◇◇◇◇
さて、属性ごとの魔法剣を使えるようになった上に反属性を同時に発動させたりもできるようになったわけだが……そういえばバーストモードを調べていたのなら、バグラモンたちもバーストモードを使えるのだろうか?
「無理よ。アレは下手をしたらデジコアが爆発したり暴走を起こしてしまう可能性があるからうかつにリミッターを外せないの。それに、コントロールするには強い精神力が必要になる」
「僕ら普通に使ってますけど……」
「だからアンタらは普通の範疇じゃないっての。最初に使ったとき、大きなきっかけでもあったんじゃないのかしら」
「もっと先へ行きたい、強くなりたいって願ったけど……」
「まあそのあたりかしらね。デジモンは人の想いを受けることで強くなる。プラスでもマイナスでも。強いプラスの想いがバーストモードへ押し上げたってところか」
「マイナスだと、どうなるんです?」
「ルインモードっていう暴走状態になるわ。しかも暴れまわった挙句に死ぬわよ」
……これからはバーストモードも注意して使おう。元々リスクもデカいから切り札だったけど。
あとはブラスト進化も制御できればいいんだけどそっちは無理だろうか。
「無理ね。器が完成してもその力は自由に引き出せる類のものじゃない」
「結局運任せってことなのかな……」
「そう言うわけじゃないんだけど……そうね、アンタ自分の力を少しだけでも引き出せていることに気が付いている?」
「未来予知とか、そういうのなら」
「それはイグドラシルの機能を引き出しているに過ぎないわ。未来予測の演算を行っているの。デジタルワールドの予言や陛下の力も同じ類のものよ。アタシが言っているのは、アンタの魔力のこと。デジメンタルから供給していると思っているんでしょうけど、すでに自分のエネルギーで使っているのよ」
「――――そういえば、デジメンタルが機能停止していないな」
ここ最近は特に。結構無茶な魔法も撃っているけど、デジメンタル自体は動いている。いつもなら回復にしばらくかかるのに。
「その回復も、アンタの中の力を使っているんだけどね。まあ自覚が無くて当たり前だけど」
「でもこれってどういう……」
「そもそも”その力”が人間の体の中にどうやって入るのかが疑問なんだけど……そこはそのうちわかるんじゃない?」
「いや、僕は自分の中に何が入っているのかも知らないんだけど」
「それも含めていずれ知るべき時に知るわよ。今は七大魔王クラスの力が入っているとだけ知っていればいいわ」
え、それはそれで不安なんだけど。
「でも今までのアンタはそれを撃ちだす能力が無かった。そこでデジメンタルを手に入れたことで、撃ちだし方を知ったわ。でも、アンタの力に対して銃口が小さすぎるのよ」
たとえるなら、デリンジャーでロケットランチャーの弾を撃とうとしているようなものと言われた。そこまで言いますか? そこまで……
「本当はもっと差があるわよ」
「ええぇ……」
「話を戻すけど、魔法っていう改造手段を手に入れたことでロケットランチャーの弾をデリンジャーの弾に加工できるようになったのよ。もっとも撃ちだす機構もデジメンタルによるものだったからデジメンタルの消耗が速かったでしょうね」
「確かに、最初のうちはガス欠になることが多かったけど」
「でも慣れてきて、スムーズにいくようになった。そこでウィザーモンのデータによりあんた自身がデリンジャーの部分を担当できるようになった」
エネルギー効率が上がり、魔法の技術も上昇。それにより今度はデリンジャーの部分をロケットランチャーに改造することが出来るようになった。
「大出力の魔法も撃てるようになった。この時点で、あんた自身のエネルギーも使えるようになっていったってこと」
「無意識のうちに色々と変わっていたんだな……」
「で、今現在のアンタは自分自身ですべてのプロセスを行っているのよ」
「ってことはもうデジメンタルのエネルギーは……」
「使っていないわね。ついでに言うと、ウィザーモンのデータもね。その赤いマフラーはあんた自身に最適化したからってところ」
「もう、いないのかな……」
何だか寂しいものも感じるが、リリスモンは少々眉間にしわを寄せている。
「でも何だか違和感があるのよね……人間界で消滅したから? それにしては、こう……ウィッチェルニーのことは詳しくないし」
「魔法使いのデジタルワールドか」
「本場なんだけど、アタシみたいに強すぎると世界の壁をこえるのも一苦労なのよ。まあ、もうここから出ることはないだろうし、いいんだけどね」
「軽いなぁ……」
「長生きしていれば色々とあるのよ。まあ、半分死んでいるけど」
「重いなぁ……」
言葉は軽いけど。
「さてと、ここまでで質問は?」
「今のところは……」
「そう。なら本題。ブラスト進化のことね……こっちはそもそも副次的に生まれた力だと思う。イグドラシルへの度重なる接続、たまりにたまった力。他にも様々な要因が重なったことで使えたってところね」
「結局、単なる偶然の産物?」
「でも制御して見せたんでしょう」
「まぁ……」
「だったら必要な時には使えるハズよ。アタシは、バーストモードの発動と同じプロセスをアンタが行っていると思うのよ」
「同じプロセスって……リミッターの解除?」
「ええ。習うより慣れろ――さあ、お姉さんが相手してあげる」
「――――え」
「発動まではいけなくても、これまでに教えたことの復習よ。さあ、本気でかかっていらっしゃい」
「ちょ、まって!?」
結論、魔王型は規格外。色々な意味で。
◇◇◇◇◇
さて、ところは変わってドルモンたちであるが……今、彼らの目の前に現れたのは一体の武士のような出で立ちのデジモンだった。ガイオウモンに進化できるドルモンにはこのデジモンの規格外さがよくわかる。
「……強い」
「ほう、見ただけでそこまでわかるとは……陛下、彼らは?」
「イグドラシルの縁者たちだ。かつて、イグドラシルを破壊した者たちでもある」
「…………なるほど、例の予言の者たち」
「予言?」
「この世界の予言は未来予測演算の結果だ。その中で、私でも完全に見通すことのできない予言がある。この世界だけでなく連なる世界すべてを崩壊させる予言と、その崩壊に立ち向かう者たちのな」
「それって…………」
「もっとも、ピースがすべてそろっていない上に不明瞭な予言であったし、私の生きた時代よりも先の出来事だったので調べようもなかったのだが……こうして、目の前に予言に該当する者たちが現れたのだ」
ドルモンは自分の毛が逆立っていくのを感じていた。嫌な予感と言い知れぬ使命感。頭の中で何かががっちりとはまっていく。
プロットモンも不安そうにしているが、首のあたりがもぞもぞしてきたのを感じていた。
「どうやら、何かを感じ取ったようだな――君たちのデジコアに刻まれし使命を」
「でも、おれはともかくプロットモンは……」
「彼女が生まれた要因はどうだった? そこに君たちが関係してはいなかったか?」
「それは……確かに、そうだけど」
「であるのならば、それもまた必然なのだ。これから先も、きっと逃れられぬ運命が君たちを待ち受ける」
その言葉にドルモンとプロットモンは無言となる。
わかっていた事ではあるのだ。カノンと共にあるということは、これから先今まで以上にとてつもない何かが待ち受けていると。
「運命の紋章に適合する者たちはいずれも過酷な道を歩むこととなる。光と闇の螺旋にからめとられ、決断を迫られる日が必ずやってくる。その中でも、彼のは特大だ。何度もその選択肢が現れることとなるだろう……それでもなお、自らの道を選択した彼には畏怖さえ覚えるよ。私ではできなかったことだ。それは、彼が人間だからこそ選ぶことが出来た道だ……彼の存在のままであったのなら、無理であっただろうな」
「――彼の存在?」
「おっと、口が滑ったかな……これは、彼自身が見つけなくてはいけないことだ。さて、タクティモンを呼んだ理由がまだであったな――なぁに、簡単なことだ。プロットモンはともかく、君は更なる力を身につけなくてはいけない。いまだX抗体の神髄には至っていないからこそ、引き出してあげよう」
バグラモンは右手をドルモンにかざし、イグドラシルを利用して彼の力をブーストしていく。
ドルモンのインターフェースが輝きだし、その姿を変化させていった。黒い身体に袴や鎧。二振りの刀。
「――ガイオウモンへ強制的に進化させた!?」
「この空間でのみ可能な荒業だがな。ドルゴラモンやディノタイガモンでもいいのだがタクティモンと打ち合うのであればその姿が一番だ。色々な意味でな」
「しかし陛下、よろしいのですか? やれとおっしゃるのならば、かまいませぬが……潰してしまうやもしれません」
「と、タクティモンは言っているが――どうする?」
「……いいや、もう逃げないって決めたんだ。だから、全力で叩き斬る」
「ほう――面白い、このタクティモンを叩き斬るとは……こちらも、真剣に参ろうぞ」
いまだ未覚醒の力。今までドルモンの力の解放はカノンの力の後押しによるものが多かった。
だからこそ、彼自らの成長が必要なのだ。二体の武者がぶつかり合い、強大な力の波動が吹き荒れる。バグラモンは涼しい顔だが、プロットモンにはたまらずに転がっていってしまう。
「――――キケンです!?」
そのまま駆け出していき、森の奥へと進んでいく。バグラモンはその姿を一瞥し、戦いの余波で周囲に被害が出ないようにシールドを構築していく。
「まったく、私の身にもなってほしいな……しかし、プロットモンよ。君に課せられた使命も確かに存在するのだ。いまだくすぶっているであろうが、何も直接戦うことはない。君自身の力はそんなものではないのだ。世界をひっくり返すのは、案外君の様な存在かもしれないぞ?」
面白そうに笑い、今はただ戦いの行く末を見守るのみ。
それに、プロットモンが向かった先には”彼”がいる。いささか不安が残るが、それもまた一興だと。
「うう……頭、うったです」
「――――んあ? なんだぁ……」
「お、おっきなデジモンです!?」
「おっきなデジモンなんて名前じゃない。ブラストモンだ!」
「いやそういう意味じゃないです……」
少しだけ、バグラモンの不安が強まった。流石に右目はこちらに注目させようとも。
三者三様の邂逅は進む。彼らの更なる成長のために。
属性については、十闘士から使っているだけで公式ってわけじゃないヨ。
あと、別に修行編が始まるわけでもないです。すぐに三章へ行けるようにしますが、ウォーゲーム前に閑話を少しだけ挟みます。