デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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第2章も半分ってところかなぁ。


64.リスタート

 気が付くと、涼しい風が頬をなでていた。

 息を吐くと少々肌寒さを感じることが出来る。それに、この肌にピリピリとくる感じ……デジタルワールドとは異なる、大気の息吹。

 ただ、この場に出た瞬間頭に電流が走ったような感じがしたが……すぐに収まったか。

 しかしこの周りの風景、なんかもう懐かしい。

 

「現実世界に戻ってきたみたいだな――で、あのでっかいタマゴは何かな?」

「なんじゃありゃぁ!?」

 

 空が歪み、巨大なタマゴが落ちてきている。いや、アレはタマゴというよりはカプセルと言ったところか。表面は何らかのデータの羅列に見えるが……遠くてよくわからない。

 そして、そのタマゴが割れて中から巨大な何か――緑色の怪鳥が現れた。

 

「あれ、デジモンです?」

「ああ――パロットモン、完全体のデジモンだな」

 

 ということは、ここは……

 

「ねえカノン、この状況って見覚えがあるんだけど」

「分かってる。僕も実際に見ていたしな。それに、改めて教えてもらったし――とにかく、近くまで行くぞ」

 

 ドルモンとプロットモンを抱きかかえ、身体強化をフルに使い走る。この時はどういうわけか人目につかないから全力を出せる。

 とりあえず、手ごろな屋上まで駆けあがればいいだろう。見ると、見覚えのある赤毛の子供が走っているのも見えたが……

 

「あの時は何かに呼ばれたような気がしたんだけど……もしかして、僕がこの時代に移動したのを感じ取ったのか?」

 

 やはりここは1995年の光ヶ丘なのか。小さい時の僕がいるし。

 時間移動をした場合、自分に会ってはいけないという話もあるぐらいだ。何らかの反応を示しても不思議じゃないけど。とにかく、自分に見つからないようにしないといけないな。

 手ごろな屋上から戦いの様子を見る。まだアグモンのままみたいだが……

 

「カノン、そんなに足速かったの?」

「身体強化をフルに使えばこのぐらいはな。流石に悪目立ちするし疲れるからやらなかっただけだよ」

 

 あのミラージュガオガモンとの戦いの中で魔法の腕も上がったからってのもあるが。より効率的な使い方ができるようになったおかげである。

 

「しかし、アグモンなのに結構でかいな……」

「なんか不思議な感じだね、成長期のデジモンのはずなのに異常進化しているっていうか」

 

 通常の個体とは明らかに異なる。あの時はグレイモンとパロットモンしか見ていないし、小さかったから周りもちゃんと見ていなかった。

 太一さんたち8人以外にも、結構子供が見ていたようだ。

 

「……たしかホメオスタシスはヒカリちゃんのデータと共通するものを持つ子供を選んだって言っていたか」

「どういう事なんだろうね?」

「さぁな」

 

 やがて、アグモンは劣勢となり歩道橋か何かが崩れ落ちてしまった――何らかの力の波動を感じ、その直後にグレイモンが姿を現した。横を見ると、ドルモンも眠気眼だったのがしゃっきりしている。

 

「復活!」

「ってことはヒカリちゃんか。それか、太一さんとの相乗効果。異常進化させたのはヒカリちゃんだろうけど」

 

 この後の決着は知っているし、準備をした方がいいだろう。デジタマを取り出して記憶から思い出せる限りの状況をひねり出す。たしか、あの時は……どこかの路地裏でデジタマを見つけたんだよな。

 おばあちゃんの家と、この場所の位置関係からするに……よし、大体の目星はついた。

 この場を立ち去ろうとして、ふとグレイモンの方を見ると決着がつくところだった。メガフレイムなんてもんじゃない。言うなればメガバーストってところか。炎のブレスがパロットモンを吹き飛ばしていた……よくよく考えたら、あのグレイモンって世代とか無視しまくりの個体だな。データもはっきりと読み取れないし。

 

「見入っている場合じゃなかった。僕たちも仕上げをしないと」

 

 屋上から降りて、先回りをする。この時代の僕が来る前に目的地にたどり着いて、デジタマを下ろす。

 確実に持って帰って貰わないといけないから隠れて様子をうかがうが……

 

「ねえ、やっぱりあれっておれなの?」

「そのはずだよ。過去に戻ったのはドルモンが誕生して僕と出会うという出来事を果たすためだったってことなんだろうな」

 

 随分と回りくどいが、イグドラシルの暴走よりもそちらが重要なことだったらしい。すでに歴史では起きたことだが、その起きたことを僕たちがやらなくてはいけないというのは……

 

「ってそれじゃあカノンはえらばれし子供って言うよりも――」

「自分で選んだことになるな。だからアイツらしきりに0人目とか言っていたのか」

「……それでいいの? 自分でわざわざ戦う道を選んだりして」

「決めたことだし、自分から飛び込むんだ。後悔なんてないさ――それに、ほら」

 

 この時代の僕がやって来て、デジタマ――ドルモンを持ち上げた。その顔は、未知なるものへの期待や興奮で彩られていた。

 

「……案外、恥ずかしいな自分のあんな顔見るのって」

「うれしそうな顔です!」

「あ、あはは……ノーコメントで」

 

 なんだろう、若干後悔してきた……

 

「でもよくわかったね。あのデジタマがおれだって」

「最初に見たときにそんな予感はしていたし、それにお前ってプロトタイプデジモンじゃないか。そんなデジモンが、あの中枢以外にいるとは思えなかったんだよ」

 

 全部の区画を見て回ったわけじゃないが、他にも保管されているデジモンやらがいたみたいだ。バステモンに施されていた封印も元はあそこで使われていたプログラムか何かじゃないかな。

 助け出すという選択肢もなくはなかったのだが、中には危険なデジモンもいるだろうし……それに過去に過度な干渉をするのは危険だ。

 

「丈さんたちにお前がデクスドルゴラモンに進化していたのを聞いていたってのも大きいかな。でもこうしてこの時代の僕がデジタマを持って帰ったことで色々と確定したわけだけど……」

 

 まさしく、ホメオスタシスの言っていた通りに僕を良く知る人物がデジタマを託したわけだ。そりゃそうだよ、だって自分自身だもの。それも未来の。

 この先に起こることを知っているんだから、間違った進化はさせないもの。

 この時代の僕、これから先大変なことがいっぱいあるし、辛いことや苦しいこと、逃げ出したくなることはたくさんある。それでも、たくさんの出会いや冒険、大切な思い出ができるんだ。

 だから、頑張れ。

 

「さてと、パトカーもやってくるだろうしいかにも怪しい格好の僕らがいるとマズいよな」

「だねぇ……それで、どこに隠れる?」

「光が丘だし、公園の近くにでも行けばいいかなとは思うけど」

 

 しかし他にやるべきことがあるんじゃないかとも思うわけで、これで終わりとはあっけないというか。

 

「これでいいんだよなぁ……たぶん」

「たぶんって……」

 

 いや、流石に確証がないというか推察に推測を重ねて予測で行動したみたいな頭の悪い感じの出来事だし。

 なんか流れに身を任せていたらこうなっていたというか……

 

「なるようにしてなった、ってことだろうね。あんまり気にし過ぎてもしょうがないよ」

「なんだかなぁ……で、どうやって帰るんだよ。流石にノーヒントじゃキツイ」

「また時間移動です?」

「手段がないからなぁ…………この時代にベルゼブモンがいるかはわからないし、あったところで時間移動に関して知っているかは微妙なところだし」

 

 いくらなんでも時間移動を僕自身が行う事なんてできない。っていうかそれこそ神の所業を越えている。

 と、悩んでいるといきなり目の前の空間が歪み始めた。これって、デジタルゲート? しかし、そこから骨で出来たような巨大な腕が伸びてきたことで僕たちは放心してしまう。

 

「――え」

「ちょ、逃げ――――」

 

 とっさに逃げようとするも、すぐにその腕に掴まれてしまい歪んだ空間の中へ引きこまれてしまう。

 妙なねじれと圧迫感を感じながら僕たちはその腕によってどこかへ連れ去られてしまったのだ。

 

「ただ、これ骨じゃなくて木で出来ているね!」

「それこそどうでもいいだろうが!!」

 

 むしろそんなくだらないポイントでも考えていないとこの状況にパニックになりそうだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 再び体が変換されていく。妙な息苦しさを感じながら、次元の壁を突破しようとしていた。

 体がミシミシと悲鳴を上げて、やがて霧の立ち込める丘へと放り出される。

 

「うわぁ!?」

「――げふっ」

「ですぅ……ここ、どこです?」

「乱暴な転送だな……デジタルワールドみたいだけど、なんだか妙な場所だな」

 

 なんとなくデジタルワールド中枢に似た空気を感じるが、微妙に異なるというか……位相(・・)が異なるといった感じがする。自分たちの知っているデジタルワールドなんだけど、次元が半歩ずれているとでもいえばいいのか?

 とにかく、通常空間ではないみたいだ。

 

「…………どこなんだろうな、ここ」

「さぁ? 石碑がゴロゴロしているし、木の根っこみたいなのが飛び出ているね」

 

 解析してみればわかるかもと思ったが……なんだろう、ハッキリ見えない? もっと集中すればわかるだろうか――――ッ!?

 集中してデータを読み取ろうとしたとたん、強烈な頭痛が駆け抜けた。頭が割れるどころじゃない。まるで、銃弾を受けたような突き抜ける痛みだ。

 

「カノン!?」

「しっかりするです!」

「……大丈夫、ちょっとびっくりしただけだ」

「それにしてはひどい顔だよ?」

「…………そりゃあ、あれだけの情報量を一気に読み取っちまえばな」

「あれだけの情報量って……」

 

 一瞬だけでも頭がパンクするかと思った。今読み取ったのはおそらく、歴史のデータ。それも、数万年分を一気にだ。しかも詳細な部分を含めた膨大なテキスト。あまりの量に記憶すらできていない。

 それにこの根っこ……ようやくわかった。

 

「ここはイグドラシルのサーバー本体だ」

「本体って……コアはおれたちが壊したはずだよ!?」

「ああ、そのはずだったけど……元々根底にあるシステムだ。あのコアもデジタルワールドに出力するためのもので、記憶装置やら演算装置やらの本体は別にあったんだよ。それが、このバカでかい樹だ」

 

 霧が立ち込めているが、ようやく見えてきた。上を見上げると葉っぱは無く、焼け焦げたような枯れたようなそんな大樹が存在していたのだ。根っこはまさしくこの大樹の根だったということ。

 情報樹イグドラシル……そうだ、僕は前にここへ来たことがある。夢の中でのことだったはずだが……

 

「はっきりとは覚えていないけど、ここで何かがあったんだよな」

「で、どうするの? こんなところに連れてこられて……あの右手、なんだったの」

「その右手も見たことあるんだよ……光子郎さんがいればすぐに調べられるんだけど、僕じゃ直接データを見るだけで検索まではできないんだよなぁ……まてよ? イグドラシルを使えばすぐに調べられるんじゃないか?」

 

 なにせデジタルワールドの情報がすべて刻まれているんだし。

 歴史データは危険だから触れたくないが、デジモンの情報を検索するだけならいけるんじゃないだろうか? そう思って意識をイグドラシルに接続しようと――――

 

『――――イグドラシルへのアクセスを確認。不明なコード。殲滅を開始します』

「なんだ!?」

「不用意に触るからぁ」

「触ったわけじゃない! 意識をつなげようとしただけだ!」

「同じことだ!」

「来ますです!」

 

 流石に言い合いをしている場合じゃない。何かが転送されてくるのを感じる。

 小さなキューブが集まって、デジモンの形へと変換されていく。緑色の鎧に、悪魔の様な翼。それが10枚。そしてバッテン印みたいな顔の兜……オイオイオイオイ。

 

「あれも夢で見たことあるぞ――名前は、ブラックセラフィモン」

「殲滅対象発見。排除スル」

「カノン、どうする?」

「現代へ戻るためには倒すしかないだろうな……どのみちイグドラシルを使わないと帰れなさそうな気がするし、魔王型のデジモンもどこにいるのやら……ドルモン、時間を置いてないけどいけるか?」

「回復してるから大丈夫! いつでもオーケー」

「そうか。なら、昔のリベンジだ――ぶっ倒す!」

 

 サイズは人間大。ホーリーエンジェモンと同サイズってところか。だったらこいつで――

 

「ドルモン、ワープ進化――ガイオウモン!」

 

 かつての出会い、はじまりの日。そして、最初の敗北。たくさんの出会いがあった。戦いがあった。別れがあった。辛いことも悲しいことも、楽しかったことも、今僕たちがここにいるのはその全てがあったからだ。

 これがはじまりではない。されど、最後でもない。道半ばの戦い。それでも、これは再出発のためのものだ。ココから再び始まる。

 

「今までの全部を乗せて、お前に勝つ!!」

 




ようやくこの戦いに持ってくることが出来た。
序章時点でこの場面まで持って行こうと色々やっていたけど、結構長くかかった……

そして、巨大な右手の正体とは――いや、バレバレでしょうけどね。名前は前に出しているし。

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