デクスドルゴラモンを降した僕たちは、先へと急いでいた。爆音や何かが崩れ落ちる音などが響いているが、色々な方向から聞こえてくる……どうやら戦闘は数か所で行われているらしい。
とりあえず、X抗体のサンプルデータをフロッピーディスクの形で封じ込めたのち、先へ進みながらでも何かわからないかとコンソールから板状の端末を作って情報を逐一確認しているが……
「一体全体どうなっているのかさっぱりだな!」
「デジタルワールド中枢がこんなことになっているってヤバくない?」
「そりゃヤバいだろう。むしろ、下手したらこの世界が崩壊するっての!」
幸い世界のバグ化は起きていないようだが。データで構成された世界だ、何か一手でも悪い方向へ行ってしまったらギリギリのラインで保っている世界が壊れる恐れさえある。
地球ならコアの位置にあるのがこのエリアなのだろうが……たぶん、マントルかマグマの層にダークエリアがあって、その更に奥がこのエリア。
「地獄の更に先が機械的な空間ねぇ……」
今突き進んでいるのは廊下っぽいエリア。研究所のようになっているのは、実際にデジモンの進化や生態などを研究する施設としての側面もあるからだろう。といっても、実際にデジモンを使うというよりデータのシミュレートを行っている感じではあるが。
ブラスト進化を発動させた際にわかったことがいくつかある。デジモンのデータはデジタルワールドの中枢に記録され続けている。あくまでデータベースにだが。デジモンは進化する際、2つのパターンが存在しているようだ。
既存の形態のデータを引っ張りだして進化するか、新たな姿を構築するか。前者はこの中枢にアクセスしてるようなのだが、後者の場合はデジコア自体が構築しているらしい。そして、この中枢にデータが記録される。
パートナーデジモンは少々異なるが、基本は変わらない。
「その情報を基に、世界が崩壊しないようにバランスをとり続けるための研究施設ってところなんだろうけど……何らかの要因で暴走しているってところか」
「どういうこと?」
「さっきの黒いデジモン、ケンキモンを見る限り通常種とは違うんだろうな」
重機系ばかりだったのはエリアが壊れた際の修復などに使われていたデジモンなのだろう。黒いカラーリングになっているのはその証と言ったところか。
イグドラシルへ近づいているからか、頭の中に情報が断片的に入ってくる。ノイズが走っているが……この感じ、悪意ある改変を受けている?
「誰かがイグドラシルにウィルスを仕込んだ? でもこの世界でイグドラシルを改変できるような存在なんて……」
「どうしたんです?」
「なあ、プロットモン。お前って生まれ変わる前のことを覚えているか?」
「全然覚えてないです。でも、この感じ……どこかで?」
半ば予想はしていたが、プロットモンはメタルファントモンの時のことは覚えていないらしい。まあ、記憶を引き継ぐ方が稀なんだろうけど。
ヴァンデモンって意外と情報はたくさん持っていたし、何か伝えていたかもと思ったんだが……でも、プロットモンの感覚に何かがひかかっているのか。
「なんだか嫌な気分です」
「ああ、僕もだ……このねっとりとした感じ、暗黒の力?」
「ねえカノン、この感覚……どこかで見たことが無いかな」
ドルモンの言い回し、見たことがある――それで思い当たった。
これは、ゲンナイさんが黒い球を埋め込まれた時の感じだ。
「そうだ、あの暗黒の力だ。ピエモンがもっていた、アポカリモンとは別種の暗黒の力を感じるんだ」
やがて、開けた場所に飛び出た。
水晶の床の様な空間に、たくさんの白い鎧の様な物体。その前には巨大な機械デジモンと一人の人間が見えた。
「――ラストティラノモン、究極体……もしかして、あれが杉田マサキさん?」
「光子郎たちの話に出ていた人だね。でも、この時代にいるの?」
「いや、光子郎さんたちの話から逆算するとちょうどこの時代だよ。そうか、戦闘音は彼らか!」
僕は直接会ったことはないからどういう人かは分からないが、悪い人ではないらしいし……それに、あの白い鎧はイグドラシルの端末か。防衛プログラムか何かの一種みたいだが――あんなに大量にあるなんて。しかも全部究極体クラスだぞ。
どうやらラストティラノモンはかなり消耗しているらしい。究極体でもあれだけの数が相手じゃ……いや、戦闘音から考えるとすでに戦ってきた後なのかもしれない。その消耗した状態でここまで来たのか? 周りを見ると、他にも入り口があったらしい。
僕たちもこの奥に用があるわけだが……
「ドルモン、行けるか?」
「エネルギーないよ」
「だよなぁ……」
どうする? どうやって行けばいいんだ?
バーストモードを使ったのは失策だっただろうか……いや、Xプログラムを阻止できなかった可能性を考えるとあの場はあれでよかった……結局、一手足りないということか。
「――ここはプロちゃんの出番です!」
「プロットモン?」
唐突にプロットモンがそんなことを言い出し、その体が光り輝きだした。この感じ――ブラスト進化の時の!?
「使わなかったエネルギー、今返すです!」
「そうか――プロットモンはブラスト進化をしないでそのままエネルギーを溜めていた」
「はい! ドルモン、これを使ってくださいです!」
プロットモンから光の球が撃ちだされ、ドルモンの中へ入っていく。急速にドルモンのエネルギーが回復していき、限界を突破してさらなる力をもたらす。
「カノン、これならいけるよ!」
「ああ――ぶちかませぇ!!」
ドルモンに飛び乗り、彼の体が変質していく。巨大化し、その形は獣から人へ。
黒い鎧に、巨大なマント。圧倒的な力と共に顕現したその姿の名は――
「進化、アルファモン!!」
まずは一発、近くにいた鎧を殴り飛ばした。
奴らのターゲットが僕らに移ったらしく、次々に動いてきている。
「聖剣グレイダルファー!」
「気をつけろ、こいつら一体一体が究極体レベルだぞ!」
「分かっている――カノン、弱点は分かるか?」
「防御プログラムに近い。一撃で決めないとすぐに修復を行うみたいだ……中心部、コアの部分を狙え」
「オーケー!」
アルファモンはその光の剣で鎧の中心部、赤いバイザーの様な部分を狙って斬りつけていく。睨み通り、その奥がコアらしく次々に沈黙していく。
情報はハッキリと読み取れないが、ただの端末なら対処できる。
「次くるぞ、右だ!」
「――セイッ!」
数が多いが、やはりこういったプログラムを自分で消せないのが不具合の一つなのか。しかも一体一体の容量がデカい。一体倒すごとに動きが速くなっていく……
「まとめて吹き飛ばすぞ! 一体ずつだとスピードの上昇に追いつけなくなるかもしれない!」
「わかったッ――デジタライズ・オブ・ソウル!」
アルファモンが魔法陣を展開させ、そこから巨大な腕を召喚する。
その腕がまとめて鎧たちを握りつぶし、ミシミシと悲鳴のような音が響かせた。
「――ッ、流石に硬い」
「ならダメ押しッ!」
魔力強化を行い、腕の力を解放していく。火花が飛び散っていき、鎧たちがついに崩壊した。
予想以上に硬かったが……これで、全部か?
「この場はな……この先に、まだ何かいるみたいだが」
「ああ……そっちの二人は大丈夫かな?」
下にいる、彼らに話しかける。見たところ、結構ぼろぼろだがまだ戦えるって感じだな。
「危ないところを悪いな、まさか俺以外にも人間がいるとは思わなかったぜ。俺の名前は杉田マサキ。こっちは相棒のラストティラノモンだ」
「僕は橘カノン。で、こっちはアルファモンだ。元はドルモンってデジモンだけどね」
元はと言ったところ、彼は首を傾げたがまあ気にすることはないかとそれ以上は追及しなかった。
しかし、ここまでどうやってきたのだろうか。
「マサキさんはなんでこんなところに? デジタルワールドの中枢なんて普通の方法じゃ来れないだろうに」
「そりゃぁ、ダークエリアを突っ切ってきたんだよ。この奥にこの世界を狂わせている奴がいるらしいしよ。まあ、神様だろうが何だろうが、俺たちはぶん殴ってでも止めてやるってな」
「ああ、そうやって最高セキュリティの騎士どもを倒したのはいいんだが……見ての通り、連戦がたたってな」
やはり戦ってきたのか……しかし、相当強いみたいだな。エネルギーはあまり残っていないようだが…………でもこのぐらいならいけるか。
僕はアルファモンから飛び降り、ラストティラノモンの体に触れる。デジメンタルからエネルギーを分け与え、少しでも回復を図る。
「――――エネルギーが回復していく?」
「なッ――お前、何もんだよ」
「うーん……魔法使い、かな。僕たちの目的はこの先にあるイグドラシルの機能を停止させること」
「そうかこの先か――はやいところXプログラムも止めないと、この世界がぶっ壊れちまうし」
「そっちは僕たちが止めました。ただ、データ容量の問題を解決しないとこの世界が危ないですけど」
「…………マジでスゲェなお前。こんな小さいのに」
小さいのは余計だ。
◇◇◇◇◇
話している時間も惜しいということで、先へと進む。
迷路のような構造になっているが、端末を使用してルートを確認している。幸い、アルファモンの状態で長続きしているが……
「残り進化時間がわからない。短期決戦になるな」
「ああ――それに、奥に行けば行くほど圧力みたいな感じがある。気合を入れないと後ろに下がりそうだ」
「俺もだ、デジモンは本能的にこの先へ行くのを拒否したくなるのだろう」
「そういうもんかね……しかしなんだってイグドラシルは暴走なんかしやがったんだ」
「結構事情を知っているみたいですけど、何があったんですか?」
「俺も一年近く旅をしているが、イグドラシルとのいざこざはこれが初めてじゃない。ただ、色々と決着もついてこの世界の管理者が移行されるはずだったんだよ。その矢先にこれだ」
「……管理者の移行」
本来ならホメオスタシスへ安全に引き継がれたってことか?
だが、何らかの外的要因でイグドラシルが暴走した。
「そろそろ見えてきたぜ」
「デジタルワールドの中枢、その最深部……イグドラシルの心臓部」
「……なにかいるです」
プロットモンが何かを感じ取り、僕らもその異質な気配をすぐに理解した。
幾何学模様の空間、その中心部にクリスタルのようなもので出来たコアがある。しかし、そのコアに悪質なウィルスデータが群がっていた。いや、ウィルスデータというよりは悪意そのものだ。
「これが暴走の原因か」
「……やっぱり、あの時の暗黒の力」
シェイドモンのデータにも似ているが、その性質は更に邪悪。
黒い靄の様なものがイグドラシルのコアを侵食しているのだ……このままではいけない。
「アルファモン、行くぞ!」
「ああ」
「相棒、気張っていくぜ」
「任された!」
二体の究極体が戦闘態勢に入り、同時にコアが変質を始める。
この場に敵性反応を感知したことで、戦闘形態へ移行したのだろう。
『――警告。警告。警告』
バグったイグドラシルは警告の言葉しか継げない。何を警告するのかも定まらず、ただ同じ言葉だけを繰り返していた。
そして、コアの目の前に黒い影が現れる。
騎士の様な姿をしたデジモンが何体も現れるが……その全てが黒い靄の様なもので出来ている。
「あれは、ロイヤルナイツか? しかし、それにしてはあまりにも……」
「ロイヤルナイツ?」
「知らないのか……結構有名だと思ったけど、まあこの世界の守護者みたいな連中だ。もっとも、ほとんど俺と相棒で倒したんだが」
マサキさんのいう事が確かなら、この場にいるのはおかしいのだろう。
でも、アレはデジモンじゃない。
「アレはただのプログラムの塊、デジモンのデータをコピーしただけの分身みたいな存在です」
「なるほど……だから黒い靄なわけか」
形と能力を同じにしているだけで、デジモンじゃない。奴らはアルファモンたちに攻撃を仕掛けていくが、アルファモンが切り伏せ、ラストティラノモンが叩き潰した。
何度もわいてくるが、その度に彼らに叩き伏せられる。
「この程度のザコ、俺の敵じゃねぇ!」
「元は高潔な騎士かもしれないが、こんな影に俺は負けないぞイグドラシル!」
やがて、この方法では無駄だと判断したのか次の手を打ってくる。
イグドラシルのコアを中心に黒い靄と集まってきたクリスタルが形を変えていく。
どうやらイグドラシルのコアをデジコアの代わりにし、何らかのデジモンを模しているらしい。
体は赤色に、鳥か竜のような姿。力の圧力が段違いだ……
『データロード、完了。クロノモン・デストロイモード』
「うそ、だろ……超、究極体?」
予想すらしていなかった。デジモンの世代に更に上があるなんて……
しかも、現在のイグドラシルのリソースの限界までしようしている。
「それでも、諦めない。俺たちの未来のために」
「神様だろうが、超究極体だろうが、目の前の壁なんかぶち壊せ!」
「正真正銘、これが最後の砦だ。全力でぶつかるのみ!」
「勝ちましょう、です!」
ああ、そうだな……
「絶対に、勝つぞ!」
イグドラシルとの戦闘がついに始まりました。
色々と矛盾が出ないように調整するのが何とも……