プログラム解凍速度が上がっている……そうか、デジモンたちを倒したことでリソースが回されているのか。それに少しづつ場に慣れてきたのか、近いエリアで戦闘が行われているのが分かった。
ディノタイガモンたちの戦闘とは異なる振動が続いている。そちらでの動き次第では更に早まるだろう。
「時間が無い――ブレイクドラモンが守っている限り、僕じゃプログラムを壊せない。スライドするぞ」
「ああ。スライド進化――ガイオウモン!」
スピードは三つの究極体の中でも一番低いが、相手を考えるならばこちらを使う方がいい。ガイオウモンに向けて、強化データを付与する。
ガイオウモンはウォーグレイモンの亜種。ドルゴラモンの時はドラモンキラーのデータでバランスが崩れたが、すでに調整はしてある上にガイオウモンならそのリスクも最低限に出来る。
ガイオウモンが駆け出していき、ブレイクドラモンと激突――いや、刀で奴のドリルを受け流して横へと飛んでいく。
「コイツ、機械的にしか動かないぞ!」
「構成DNAのほとんどは機械系だ。ドラモンとはついているけど、ムゲンドラモン以上に機械に近いデジモンなんだと思う。その分、破壊力はムゲンドラモン以上だぞ」
同じドラモン種の機械系でありながら、更に際立った存在だ。
奴の左右にあるショベルアームが高速で動き出し、ガイオウモンへと振り下ろされる。刀で受け流して回避を続けているものの、パワーの差があり過ぎる。
「なんでガイオウモンなんだ!? ドルゴラモンでパワー勝負するかディノタイガモンで攪乱するべきだと思うぞ!」
「いや、これが一番の選択なんだ! 瞬間的な反射能力ならガイオウモンが優れている。もうすぐ、もうすぐ来るはずだ!」
やがて、ブレイクドラモンはそのまま続けていては無駄だと思ったのかショベルアームを止めて、ドリルを回転させ始める。
来た……先ほど見た、ドリルの動きを見て判断したガイオウモンが一番有効だと思った理由。
ドリルが射出されてガイオウモンへと突き進んでいく。触手、いやワイヤーで接続されたそれは執拗に狙ってくるが……奴が機械的な動きしかできないからこそ、そこに付け入る隙がある。
「ドリルの根元を狙え! 今の反射能力ならできる!」
「そういう事かッ――いくぞ、燐火斬!」
ガイオウモンの刀、菊燐の軌跡に炎が現れドリルの根元へと向かう。炎の斬撃が飛び交い、奴のワイヤーを焼き切っていく。流石に耐久度も高いが……異常な数値を感じ取ったんだろう。奴の動きが変わる。
ガイオウモンを狙ったものではなく、自身の防御へと。
「ぶち込め!」
「ガイア、リアクタァアアアアア!!」
刀の先、一点に集中させたエネルギーを飛び上がりながらブレイクドラモンの背中へと叩き込む。
爆発が起き、悲鳴のようにブレイクドラモンからノイズが上がった。
「やりましたです!」
「よしっ」
ブレイクドラモンの瞳がぶれて、消える――そう思った次の瞬間だった。
腕、尻尾、頭。すべてを地面に叩きつけてブレイクドラモンは飛び上がったのだ。マズイ。そう思ったが、奴は次の攻撃に移っている――ガイオウモンは地面に着地しているが、これは間に合うか――
「いいや、間に合わせて見せる!」
ブレイクドラモンは全体重と落下スピードを合わせた技を繰り出そうとしている。改めて上を見てみたが、天井までかなりの高さがあった。そこから落ちてくればただではすまない……それでも、ガイオウモンは奴を見据えて刀を連結させた。
二刀が一つとなり、弓の形へ。
「燐火撃」
まるで隕石のように落下するブレイクドラモンに対し、ガイオウモンはその弓から一筋の光を解き放った。
二つがぶつかり合い、衝撃波が発生する。力が拮抗しあっているが、どちらが勝つのか――いいや、勝たせて見せる。
「力を貸してくれ、ウィザーモン」
右手に杖を出し、デジ文字の魔法陣を展開させる。同時にブレイクドラモンがドリルのあった部位を爆発させて無理やりに加速した。どうやらデータをわざとクラッシュさせてジェット噴射の代わりにしたようだ。
だけど、こっちも負けていられない。
「ガイオウモン!」
「第二射――喰らえ!」
再びガイオウモンの弓撃が放たれ、魔法陣を通過してブレイクドラモンと激突する。今度は更に力が強まっている。
魔法によるブーストで燐火撃は強化され、ブレイクドラモンと削り合っているのだ。
「ッ、こっちの制御も持ってかれそう――」
魔法陣が消えたらブーストも切れる。あの一撃に力を集中している以上、即席魔法の制御を失敗したらアウト。
脳内でデータの雨が降り注ぐ。一瞬でも集中が切れればお陀仏だ。
「カノン、このままじゃ――バーストモードを!」
「ダメだ……そいつは次に取っておけ!」
「それって――」
今はここでこいつを倒さないと――もっと踏ん張れ。気合を入れろ。もっと前に押し込め!
「でりゃあああああ!!」
一瞬、何かが弾けてブレイクドラモンが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。いや、そう見えただけだろう。奴にそんな感情はないハズ……それでも、その時の僕にはそう見えた。しかし、次の瞬間――奴の体に大穴が開いた。
さらに加速した矢は奴の体を貫き、奴を打ち倒したのだ。
「――――ッ」
「カノン!」
「大丈夫です?」
「ああ……でも、やっぱダメか」
みると、デジコアとデータの融合は終わっているようだった、真っ黒いデジタマに変化していき、異常な数値が引き起こされる。
その姿がどんどん変質していき、0と1の羅列で出来たデジタマのような殻にこもって肉体を形作っていく。
殻を突き破り、最初に見えたのは手だった。続いて翼、赤い羽と悪魔の様な。紫のアーマーと全身が黒いベルトで拘束……いや、黒いベルトで肉体の形を作っている。
でもそのシルエットは僕たちがよく知っているものだった……でもこの特徴、以前に見たことがある…………はっきりとは覚えていないが、丈さんたちが言っていたデジモン。
「ドルゴラモン?」
「いや、デクスドルゴラモンって名前みたいだ……詳細はハッキリわからないけど、前にお前も進化したことがあるって聞いてるよ」
「それっていつの――メタルエテモンの時か?」
「ああ……」
「アイツ怖いです……まるでデジモンじゃないみたい。食べる、食べてやるっていってるです」
プロットモンがおびえ、リュックの中に籠ってしまう。
僕にもわかる……体の奥が底冷えするような感覚。僕はデジモンじゃないからか、そこまで強い恐怖を感じるわけではないが、アポカリモンとも違う本当にデジモンなのかと疑いたくなる存在。
「二人とも、こいつが怖いのか?」
「? どうしたんだガイオウモン」
「なんていうか、別に俺は怖くもないというか……不思議な感覚なんだ」
どういうわけかわからないが、ガイオウモンはこのデジモンに恐怖を感じていないらしい。
しかし、腑に落ちない点があるのか頭をひねらせている……しかし、こいつをこのままにしておくのも危険だ。今にも飛び上がっていってしまいそう――――まて、先ほどコンソールで見たドルモンの進化系に酷似したデジモン、その特徴と記載されていた機能。
「ガイオウモン――ヤバい、一気に決めるぞ! 飛行能力のあるドルゴラモンにスライドだ!」
「どうしたんだそんなに慌てて――」
「改めて解析しても間違いない。コイツ、Xプログラムそのもので出来ているんだよ!」
隔離されているこの空間ならまだいいが、外に出したらどうなるかわかったもんじゃない。
すぐにデジヴァイスを起動させて、ガイオウモンをドルゴラモンにスライド進化させる。
「――まったく、一難去ってまた一難かよ。カノン、どうする?」
「とりあえず発動していたXプログラムは全てそいつに集約している。そいつさえ倒せば少なくともXプログラムは阻止できるんだ! だから、最初っから――」
「全力全開だな。任せておきなッ」
ドルゴラモンが咆哮を上げると、その体の色が深紅に染まる。
デジコアの最深部からデータを引き出していき、一時的に限界能力を解放していく。
「ドルゴラモン、バーストモード!」
ドルゴラモンがデクスドルゴラモンに突撃し、殴りつける。だが奴はそんなこと歯牙にもかけずにその尻尾でドルゴラモンの体を拭き飛ばした。攻撃が当たった瞬間、ドルゴラモンの体にノイズが走ったが――何事もなかったかのように体を回転させて、蹴り上げた。
「サマーソルトキック!?」
あいついつ練習していたんだ……しかし、いいのが入った。流石に堪えたのかデクスドルゴラモンは後ずさり、こちらを睨んでいる。
続いて、体から衝撃波を発生させて――マズイ。アレはドルゴラモンがバーストモード時に使っていた技と同種のデータを吹き飛ばす大技だ。
「うおおおおお!!」
「ドルゴラモン!?」
だが、その攻撃をものともせずにドルゴラモンは前へと突き進む。爪で切り裂き、尻尾で叩き潰す。
どういうわけかは分からないが、ドルゴラモンに奴の攻撃は通用しないみたいだ。まるで、何らかのバグが良い方に作用しているみたいに。
「……バグというより不具合? 何だろう…………いったい何が起きて?」
わからない。だが、好都合なのも確かであるが――しかし上手くいき過ぎている。途中から、デクスドルゴラモンの動きが明らかに鈍くなってきていた。
それをチャンスと思ったのかドルゴラモンは奴に止めを刺そうと――――
「ダメだ!」
「ッ――急には止まれねぇよ!」
仕方がない。体を一気に加速させて、ドルゴラモンの体にタッチする。データを流しこんでドルゴラモンの放ったトドメの一撃に付与データを乗せる。
かすかにしか覚えていないが、まるでそうすることが正しいと言わんばかりに頭の中で付与データが完全な形で組みあがっていた。
デクスドルゴラモンはその体を崩壊させて――そのままでは消え去り、Xプログラムがまき散らされていただろう。だが、お台場の時やハワイの時と同じだ。奴のデータを内側に向けさせて変換が行われる。
「これは、デジタマ化か!?」
「あぶねぇ……Xプログラムがまかれたら本末転倒だった」
勝てないと思って自爆の方向にシフトしたのか……しかし、直接デジタマにしてしまえば――――え?
どうなっているんだ? そう思ったが、あまりの驚愕に声も出ない。その様子に退化したドルモンが訪ねてくる。
「どうしたのカノン? そんなに驚いた顔をして」
「これ……ドルモンのデジタマ?」
「何言っているの? おれはここにいる…………でも、ここって」
そう、過去の世界なのだ。でも、僕とドルモンが出会った時間は人間世界だと何年か先だからこのデジタマとドルモンのデジタマが同じ柄なだけだと思うのだが――ただ、一つ気になることも。
「はじまりの町じゃ見なかったんだけどなぁ……同じ柄」
「どういうこと?」
「単純に考えるなら、同種のデジモンだからなんだろうが……」
なんだか、話はそう簡単じゃないかもしれない。
考察を続けようと思ったが――爆音が聞こえてきたことで中断することに。
「まだ他の場所で戦闘があったんだよな。この場所も気になるし、デジタマのこともあるけど……」
プロットモンをリュックから取り出し、デジタマを詰める。こんなところにおいておけないし、プロットモンの抗議を無視して先へと進む。
いかんせん時間が無いのだ。事件が片付いたら何か買ってやるからと約束して、音の元へと向かって行く。
◇◇◇◇◇
イグドラシル、この世界のホストコンピューター。管理者、様々な呼び名があるが今の彼の存在を表す言葉は一つだけだろう。
終末。その一言だ。巨大な白い鎧のような物体が幾体も現れては彼らの進軍を止めている。今まで出会った仲間たちに送り出してもらったというのに情けない。
「クソッ――相棒、あと何発撃てるかわかるか」
「すまねぇ……弾切れだ」
「畜生、やっぱ俺が殴り飛ばすしかないか」
「無理だ。アイツらの硬さ見ただろう? チャージが完了するまでどうにかして持ちこたえないと」
「だと言っても……さっきの動きの悪さはどうしたんだよまったく」
イグドラシルの用意した化身体と戦っていた彼らであるが、途中なにかで処理が遅れたのか動きが鈍くなっていた。今はその様子もないが……
「俺らの他にも戦っている奴がいるのか?」
「かもしれないが、デジタルワールドにそんな奴がいたか?」
「俺と同じようにこっちに来た人間かもなぁ……まあ、今まで見たことないしそれは無いだろうが」
結局のところ、自分たちで何とかするしかないのだ。
これは命を懸けてでも先へ進むしかない――そう、決断しようとした時だった。
唐突に後ろから何か強力な波動を感じ取る。振り向こうと思ったが、それよりも早く黒い騎士が彼らの前に躍り出た。肩には赤毛の少年を乗せており、こちらをひと眼だけ見たかと思うとイグドラシルの化身体を次々に破壊していってしまう。
「つ、強ェ……なんだあの子供とデジモンは」
「見たこともないが……聖騎士型のようだ」
「アイツらの仲間か?」
「違うみたいだが……マサキのほかにも人間がいたんだな」
「ああ……なあラストティラノモン、どうやらツキが回ってきたらしい」
今ここに、時を超えた邂逅がなされた。
運命の歯車がまた一つ、回りだす。
まだはっきりと明言はしていませんが、なんとなーく見えてきたものがあると思います。
イグドラシル編はある一つの出来事に至るための物語です。
まあ、今後のこともあるから色々と他にもやるんですがね。