廊下っぽい場所で目の前には謎の珍妙物体Aから……何体いるのか数えるのも面倒だな。わらわらと出てきて鬱陶しいけど一度下がるべきか? とも考えたわけだが、なんとなーく後ろの方にはいかない方がいい予感。それに、前に進んだ方が目的を達成するのが速そうだ。
防衛システムがこうたくさんってことは、こっちに見られたくないような何かがあるんだろうし。
「ってことで行くぞドルモン!」
「それはいいけど、ここ狭いよッ」
僕が魔法剣、ドルモンが体当たりで蹴散らしていくものの……確かに狭いのがキツイ。プロットモンは頭にのせているのも結構キツイ……リュックにでも入っていてください。
「狭い通路なら、こいつだな。デジメンタルアップ!」
「結構久々かな! アーマー進化、サラマンダモン!!」
たしかに、使いどころ少なかったからなぁ……だが、体格が小さくなるってのも利点の一つ。今まさにその利点が必要な状況だ。
サラマンダモンは床と壁などに尻尾を叩きつけて飛び回り、ゴーレモン・プロトに体当たりしては燃やし飛ばしている。体から放出している炎の出力が以前よりも上がっているな……
「こっちも熱いんだけど!」
「贅沢言わない! 一気に吹っ飛ばすから離れていて!」
「ば、バカ! その技は危険――ッ」
慌てて退避すると、サラマンダモンは体を丸めていく。そして、ゴーレモン・プロトがわらわらと集まっているその中心へと飛んでいった。
全力で防御壁を展開しつつ、衝撃に備えると――
「バックドラフト!」
サラマンダモンを中心に、この場の空間が爆発していった。
ゴーレモン・プロトもガラスが割れるように粉々になっていき全滅してしまう。というか、こっちの防御もきついぐらいの衝撃が来るんだが!
「こわいですー!」
「あのバカやり過ぎだよ……」
もくもくと煙が立ち上る中、ゲホッとせき込みながらドルモンが出てくる。どうやら力加減をミスったらしい。
「何してんだよお前」
「いやぁ、なんだか前よりも力が強くなっていて……うまく加減が効かなかった」
「アポカリモンとの戦いでまた強くなったってことか?」
「そうみたい。アルファモンに進化したからかなぁ」
おそらくはそうだと思うが……光子郎さんのアナライザーで情報を確かめた方が良かったか。
なんというか、普通のデジモンとは異なる何かをアルファモンからは感じたのだ。あとは、エンジェウーモンが進化したマスティモンもイレギュラーな存在だろう。見た目の時点で丸わかりだったけど。
ブラスト進化はそういったイレギュラーな存在すらも制御した状態で一時的に進化させることが出来るみたいだ。もしかしたら、あのアポカリモンにすら進化可能かもしれない。
「まあ、形質が離れすぎている場合は無理だろうけど」
「それより、どうする? あたりが黒焦げになっちゃったけど」
「そうだなぁ……時間もないことだし、さっさと先に進むか」
「時間が無いの?」
たぶん。これだけの騒ぎを起こしているのに増援が無いのも気にかかる……いや、そもそもここが黒焦げのままなのがおかしい。
「デジタルワールドの中枢なら、すぐに自己修復しそうなものなのに黒焦げのままになっている」
「確かに、ちょっと変だね」
「なんだか嫌な感じがするです」
「……急ごう。思ったよりも悪いことが起きそうだ!」
すぐさま先へと進みだす。神経を研ぎ澄ませて、少し入り組んだ廊下を走っていく。
何度も経験した感覚。イグドラシルと接続したときの感覚を頼りにして進んでいるが……ほどなくして、巨大な研究施設のような場所にたどり着いた。
周囲の壁はガラスのポッドのようなもので埋め尽くされており、中央は円形の巨大なフィールドが存在している。まるで、SF映画に出てくる生物兵器のプラントと闘技場か何かを合わせたみたいな場所だ。
「案外、間違っていないかもな」
「コンソールがあってますます研究施設みたいだね」
「みたいじゃない。むしろ研究施設そのものだ」
近くにコンソールがあったので操作してみたが……厳重にプロテクトがかけられている。しかし、デジヴァイスを接続して簡単に解除が出来た。
「そんなにあっさりといくの!?」
「このデジヴァスの基盤はイグドラシルの欠片から作られているからな。デジタルワールドのロックのほとんどを解除できるんだろうよ」
生憎と予知能力の方は使えないため、完全に勘となっていたが。イグドラシルが健在な時間軸では使うことが出来ないのも当たり前だけど。
とにかく、コンソールを使って情報を引き出していく。どうやら、現在のデジタルワールドは総容量の限界近い状態まで使用してしまっているらしい。原因はデジモンの進化スピードに追い付けなくなったからみたいだが……
デジタルワールドに何が起きたのかまでは分からないが、これは時間が解決するはずだ。イグドラシルの方でも予測演算を行い、現実世界側の技術発展の結果デジタルワールドの容量も増えると出ている。そのため、現実世界との時間の流れ方が近しくなっているのがわかる。
「変だな……別に問題は無いはずなのに、なんで残ったリソースをこのプログラムだけに集中させて――――ッ!?」
「どうしたの、カノン」
「これ……Xプログラムを実行しようとしているのか」
更に進めていくと、増えすぎたデジモンを消してデジタルワールドをリセットしようとしているらしい。そこまでしなくても解決すると出ていたのに?
デジタルワールドの容量はどうやら現実世界から流れ着いたデータで増えるみたいだ。現実世界の技術発展のスピードが速まるため、デジタルワールドがパンクするということにはならないはずなのに……デジタルハザードに対する対策としてXプログラムを発動しようとしている。
これが発動してしまえば、デジタルワールドの消滅だってありうる。それほどまでに危険なプログラムなのに……
「とにかく防がないと……幸い、まだ実行はされていない。何とか発動前に潰さないと!」
「何か手伝えることは?」
「妨害が入るかもしれないから、周りを見ておいてくれ。とにかく時間との勝負だから」
幸いなのはイグドラシル側も圧迫されている状況のため簡単に動けないところだろう。
おかげで何とか作業を進められるが……全部消去することはできない。すでにX抗体の存在も確認しており、何体かサンプルが存在しているらしい。
「こっちはどうにもできないし、手を出さない方がいいか……しかしなんでこんなバグった行動をしているんだ?」
Xプログラムを発動させないように色々と書き換えていくが……完全に自滅しようとしている感じだ。
それに気になるのは、ドルガモンなどに似たデジモンのデータも表示されたこと。どうやらプロトタイプデジモンをベースにしたXプログラムを散布させるために作られたデジモンみたいだが……アンデッド型には嫌な思い出が…………
「……ふぅ、とりあえずプログラムの発動は阻止したか。後は、保管されているX抗体のサンプルを回収してプログラムが放出されないように潰しておくか」
「案外早かったね」
「向こうも使えるリソースがほとんど残っていないみたいで助かったよ……ん?」
なんだろう、何か違和感があるんだが――ッ。
その時、頭に強い衝撃が走った。体の感覚が途切れていき、目の前が暗くなっていく。
ドルモンとプロットモンが僕を呼んでいるが……ダメだ、声が――
『汝、世界の改革を妨げるものなり』
「……誰だ、僕に話しかけるのは」
『我が世界終焉の時。回避行動の開始。エラー発生。容量増加』
「イグドラシル?」
この感覚……イグドラシルが僕に語り掛けている? だが、思考パターンが違いすぎる。頭の中に違和感が吹き荒れているように言いようのない不愉快さが駆け巡る。
何を考えているのかがわからないどころではない。そもそもの精神構造が違いすぎて、頭の中がしっちゃかめっちゃかになりそうだ。
『デジタルワールド移行作業進行率0パーセント――エラー。100パーセント』
「おい、それはおかしいだろう。なんでデジモンの移行作業が終わったことに――」
『エラー。エラー。自己防衛プログラムの増設。過剰プログラムのため消去実行――エラー』
ダメだ。話にならない――しかし、少しだけ分かった。
イグドラシルに何かが起きているのかとも思ったが……予想以上に悪い事態だ。何とか読み取れる範囲でイグドラシルから情報を引き出していくが、頭痛がすさまじい。
「――ッ、良いから端的に答えろ。イグドラシルが使用しているリソースはどれくらいだ?」
『デジタルワールドの総量、その半分となります――エラー。アポトーシス、実行不可』
「そういう、ことかよ!」
ブツリと僕とイグドラシルが切断される。とたんに感覚が戻っていき、心配そうにしているドルモンとプロットモンが目に入った。
体中から汗が噴き出ているが……大丈夫。感覚は戻っている。
「カノン、大丈夫なの?」
「ああ……イグドラシルが話しかけていた。ずいぶんとマズイことになっている」
もしかしたら、今のはイグドラシルからのSOSだったのかもしれない。しかし、もう手遅れだ。
歯車がずれているだけなら直しようもあったのだが、これはそんなレベルじゃない。何か外部の手で歯車そのものを破壊されている。歯車がかけている状態で動いているため、エラーが取り返しのつかないところまで来ているのだ。
「なるほどなるほど、イグドラシルを直接叩けってことかよ」
とにかく先へ行かないと――そう思っていた時だった。空中に、何かの文字が出現する。
デジ文字であったが、幸い読むことは出来た……Xプログラムと書かれた文章と、デジコアのような物体が続いて出現した。それらはグルグルと回転をはじめ、別の形へと作り替わっていく。
「なんだか嫌な予感がするよ」
「僕もだ……どうやらXプログラムを一つだけ、すぐにでも発動できる状態で隠していたらしい」
「それってマズいです?」
「こっちがX抗体持ちってのを見抜いたのか、別の形で使うつもりらしいけどな」
とにかくアレをつぶさないと――そう思っていると、更にゲートのような穴がたくさん開いていった。丸い形の……そう、ホーリーエンジェモンのヘブンズゲートに似ているだろうか。
そこから、真っ黒な影がたくさん飛び出してくる。一つは、僕たちも良く知っているものだけど……色が違う。
「黒いケンキモン!? それに、あのライオンみたいなのは」
「ローダーレオモン。重機系のデジモンを引っ張り出してきたってところか。どういうわけかは分からないけど、セキュリティ役のデジモンは出てこれなかったみたいだな」
それでも、一番後ろにいるでっかいドラゴン型の重機デジモンはヤバそうだが。全部真っ黒にカラーリングされているのも怖い。
「ブレイクドラモン。アレ別格だね。下手したらダークマスターズ並みかも」
「ちょっとどうするんだよ!?」
「そりゃぁいきなり究極体に進化するしかないだろうが!」
デジヴァイスを構え、紋章も持つ。なんだかんだでエネルギー増幅には役立つから捨ててはいなかったのが良かった。すぐにドルモンへ力が送られていき、彼の体を急速に変化させていく。
数が多いし、バーストモードでケリをつけたいところだけど……それは得策じゃない。実行されかかっているプログラムを止めなくてはいけないし、しばらく進化できなくなるバーストモードはやめた方がいいだろう。エネルギーを数日間ため込んでいるのなら別だが、なんだかんだでアポカリモンとの戦いから時間も経っていない。
「スピード勝負で行くぞ!」
「ワープ進化! ディノタイガモン!」
ディノタイガモンはすぐに駆け出していき、黒いケンキモンの群れを吹き飛ばす。ローダーレオモンが削岩機の鬣を回転させながらとびかかって来て、ディノタイガモンの体に激突していくが――
「――オラァ!!」
そんなものにもびくともせずに、ローダーレオモンを返り討ちにした。流石に数が多いと思ったが、それでも圧倒的な力の差でローダーレオモンたちを薙ぎ払う。だが、そこに巨大なドリルが降りかかってくる。
「ブレイクドラモンの攻撃範囲が広い! 注意するんだ!」
「分かった――ドリルが触手みたいにのびるとか反則じゃねぇか!?」
「まずはスピードで攪乱しつつ周りのデジモンを!」
「オーケー!」
ディノタイガモンが加速していき、雑兵を蹴散らしていく。そして、彼が一気に飛び上がり地面へと向かう。牙に力が集中し、巨大な刃のような一撃が繰り出された。
「ハイランドファング!」
強力な衝撃と共にデジモンたちは消滅していく。そして、残るのはただ一体。
ちょっと、厳しい戦いになりそうだな……
誰も予想はしていなかったことでしょう。そもそもXプログラムの散布を阻止しようとは。