デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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今回から新章突入ですが、前半は他の子供たちなど。


2章・追憶のイグドラシル
59.時空の回廊


 カノンに話を告げた後、すぐに時間移動を行うというわけにもいかないのでゲンナイは他のえらばれし子供たちのところへ来ていた。

 そして、やはりと言うか彼らはまだ冒険を続けるつもりであった。悲しいことではあるが、それはできない。

 

「すまんの子供たち……話さなければならないことがある」

「なんだよもったいぶって」

「ねえ、それって悪い話?」

「まあそうなるじゃろう……悪いことだけではないのじゃが、今この時においては悪い話じゃろうな」

 

 どこから話したものやらとゲンナイも悩むが、やはり直球でいくしかないと結論が出る。話を先延ばしにしてもいいことはない。

 

「アポカリモンの影響でこちらの世界と向こうの世界の時間の流れが完全に同期した。よって、今すぐにおぬしたちは帰らなくてはならない」

「――ちょ、ちょっと待ってくれよ! それってどういうことだよ!?」

「アポカリモンは存在自体が世界を歪めることは伝えたな? その歪みの方向性が、二つの世界の時間の流れに現れたのじゃ。いや、もしかしたら元に戻ったのかもしれんが……」

 

 以前にアポカリモンが現れた際にも時間の流れが変化した可能性もある。今となっては確認のしようがないが。クロックモンもそういった話はできないことになっているので聞くこともできない。

 

「でも、夏休みはまだ続いていますし一か月ぐらいなら……」

「それもダメなんじゃ……みよ」

 

 そう言って、ゲンナイは天に登っている太陽を指さす。日食が起こっており、欠けた太陽になっていた。

 

「アレはこの世界とおぬしたちの世界をつなぐゲートじゃ。もう、長くないじゃろう……次にゲートが開くのがいつになるのか皆目見当もつかん。そもそも、ゲートが開く保証もない」

「そんな……それじゃあ、本当にここでお別れだなんて」

 

 デジモンたちと子供たちの間に沈黙が走る。

 唐突にだが、冒険が終わりの時を迎えた。当然だ。別れまで時間があると思っていたのだから。

 

「一つだけ、好意的にみるとするのならばおぬしたちが人間世界に帰っても今生の別れとは限らなくなったことじゃろう。時間の流れが同じになれば、永遠の別れとは言えぬからの」

「…………たしかに、そうかもしれないけど」

「すまんの。ワシにはどうにもしてやれんのじゃ……すぐにでもおぬしたちを送り返す準備を始める。光子郎、スマンが手伝ってくれんか?」

「はい。わかりました」

「光子郎はん……」

「テントモン、大丈夫です。それに、手を動かしていた方が気が楽ですから」

 

 せめてもの救いは、二度と会えなくなるという話ではないことだ。それでも、ゲートが開くかは未知数なのであるが。

 

「ねぇ、ゲンナイちゃん。バステモンの魔法でゲートを開いてあげるってのは?」

「現在のデジタルワールドは不安定じゃ。おぬしの魔法でも開けるかはわからん。どのくらいで安定するかはまだ未知数じゃからの……というかちゃん付けって」

「だってバステモンより年下じゃないの」

「……それもそうじゃの」

「そうだ。魔法ならカノンはどうだ? って、いないし」

「アヤツにはこれからやるべきことがある。重ね重ねすまんがこの後は別行動となるじゃろう」

「別行動って……それじゃあカノンはどうやって帰るんだよ」

「あやつらだけなら別の方法で人間界へ行く方法がある」

「そういえば、ドルモンたちだけは人間界に行かなくちゃいけないとも言っていたけど……アグモンたちはダメなのか?」

「デジモンが長く人間界にいるとどうなるかはわからないんじゃ。一部の特殊な例を除いては」

 

 それこそ、X抗体種という通常種よりも高い生命力と適応能力を持ったデジモンや七大魔王のような高次元の存在でなければ世界の違いで自らの体を亡ぼす可能性さえもある。今の地球ではデジモンは暮らしにくいのだ。

 その逆もまたしかり。

 

「杉田マサキには出会ったのじゃったな……ならばわかるじゃろう? 違う世界にい続けるリスクが」

「ッ……ああ」

 

 なんてことのないように言っていたが、マサキは実年齢と肉体年齢が齟齬を起こしている。自分でも人間かどうかも怪しいと思っていながらそれを悔いていないから明るかったが……子供たちは同じ道をたどることはできない。

 

「なんかしんみりしちゃったわね……カノンのところに行っているね」

「バステモン様、お待ちくだされ」

「どうする? 俺たちもいくか?」

「だな」

 

 バステモンたちはカノンのところへ向かう。

 結局、この問題に自分たちは関わることはできない。別れが来るわけではないカノンとドルモンも他のみんなに言葉をかけることはできないだろうし、彼の様子を見に行くしかないのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とりあえず、クロックモンからこれから行うことについて話を聞いた。

 まず僕たちは過去のデジタルワールドへ向かわなくてはならないこと。その際、クロックモンが時空の回廊という時間軸を飛び越えることのできる道への扉を開いてくれるということ。

 その時空の回廊だが、普通のデジモンではかなり危険な道らしい。X抗体を持つデジモンなら通れるのだが、それでもかなりのスピードが必要だとか。

 

「というわけダ。一番速く飛べるデジモンに進化して通行しロ」

「一番速い……やっぱラプタードラモンか?」

「だね。でも、成熟期のデジモンだけど大丈夫かな」

「それはさしたる問題ではなイ」

「なら大丈夫か。今すぐにでも出発した方がいいんだろうけど……みんなになにか言っておいたほうがいいかな?」

「それはやめた方がいいんじゃないかなー」

 

 ん? なんか後ろからいきなり抱き着かれたが……この長い爪はバステモンか。

 

「いきなり抱き着いて来て、どうしたんだよ」

「一度やってみたかったのよー。うん、よしよし」

「何が良し何だか……で、やめた方がいいって?」

「結構ブルーな感じよ。ヒカリって子だけは違っていたけど」

「たぶんゲートはまた開くって確信してんだろうな。僕もそうだけど、別に永遠に別れるわけじゃないと思うし」

「ふーん……案外あっさり言うね」

「近い未来、また何かありそうな予感もするんだよなぁ」

 

 ダークマスターズとの戦いでは発動していなかった未来予知であるが、ここにきて多少は回復した。イグドラシルに会えばこの力の詳細がわかるかもしれないな。

 で、予知というか予感ではあるんだけど……

 

「アポカリモンとダークマスターズを結び付けて考えてみたけど、ピエモンの使っていた暗黒の力との間に違和感を感じるんだよ」

「違和感?」

「そのうち解決しそうな気もするんだけど、なんだかスッキリしない部分があるんだ」

 

 下手に手を出すと藪蛇どころじゃすまない気もするし、とりあえずやるべきことを片付けるだけだが。

 でもまあ、ゲートの問題はそれとは関係なく解決すると思う。

 

「そのぐらいの報酬はあって当然だと思うよ。僕が神様なら、それぐらいは何とかするさ」

「……そうだね、その通りかもね」

「それでカノン殿はこれからどうなさるので? そちらのデジモンから推察はできますが……」

「時計みたいなデジモン……なんか聞いたことあるような?」

「どこだっけか?」

「パンプモンにゴツモン……いたのね」

 

 いたよ! と怒られてしまった……すまん。素で最後の方忘れていたわ。というかゲコモンたちに混じって戦っていたから目立ってなかったし。

 

「にゃはは……たぶん、これから先も大変なことが待っていると思うけど、頑張ってね」

「分かってるよ」

「それじゃあ、これは激励とお礼ね」

 

 そう言うと、バステモンは僕に近づいて……なんかおでこのあたりに暖かい感触がしたんですが。

 プロットモン、ぺしぺし叩かないでくれ。痛い。

 

「それじゃあ、行ってらっしゃい!」

「……まったく自由だなぁ。でも、ありがとうな。行ってきます!」

「ドルモン進化――ラプタードラモン! 準備万端、エネルギーも大丈夫!」

「はやくいきましょうです!」

 

 ラプタードラモンにまたがり、プロットモンを抱えてゴーグルをつける。

 すぐにクロックモンが何かのコードを起動させ、たくさんの青いリングで作られた道が完成する。チューブのようになっているその先には、時空の歪みみたいなものが見える。

 

「あれが回廊の入り口ダ。心してかかれよ。これから先はお前たちだけで何とかしなければならないのダ。仲間を見つけることもあるかもしれないガ、今までと同じかそれ以上に過酷な旅となるだろウ」

「分かってるよ――ラプタードラモン発進!」

 

 一気に加速していき、道を通っていく。リングを一つ通るたびに座標データなどが付与されていき、目的地までのルートがインプットされる。

 そして、すぐにゲートを通過した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 時空の回廊は幻想的な空間となっていた。たくさんの光の粒子が飛び交っていて、とてもきれいである。しかし、同時に危険な場所ということもわかるが。

 体の表面にノイズが走ったようになることがあるのだ。長くい続けると、意味のないデータの塊になってしまう可能性すらある。

 

「確かに危険な場所だな……」

「カノンは大丈夫か? おれはちょっとこそばゆい感じだが」

「プロちゃんもです」

「僕も似たようなものかな。しかしタイムスリップを可能にする能力とか……絶対に他の人に知られてはいけないな。太一さんたちにも言えないかも」

「どうしてだ?」

「それこそ、死んだ連中を助けるために使うとか言い出しそうなんだよ……それで歴史が悪い方向に変わる可能性だってあるんだ。僕たちが使うことが出来るのは、すでに過去に行くことが決まっていたからなんだろうけど」

「どういう話なんです?」

「タイムパラドックス系の話はややこしいんだけど、これまでに出会った奴らの言動とかから推察するに、僕たちが過去に戻って何かをやったのを知っている奴らがいたんだよ。だから、僕たちが過去に戻って何かをするのは歴史上ですでに定まっているってこと。それこそ運命ってやつ……なんだ、ろう」

 

 まさか、僕が運命の紋章に選ばれた本当の理由は――いや、確証がない。今はまだ判断をする時じゃない。

 とにかくやるべきことをやらないと。

 

「カノン?」

「ああ悪い。まあ、今まで歩んだ歴史がそもそも僕たちが過去に戻って何かしている前提の歴史なんだって話。だから僕らが過去に戻るのは決定事項なんだ。

 で、ここからが本題。太一さんたちが仮にクロックモンの力をしって、過去を変えると今まで起きた出来事と矛盾する。この時点で歴史は書き換わるんだ……そうなると味方の誰かが死んでいなかったり、違う人が死んでしまったり、最悪アポカリモンが生きていたりする」

「それってマズいよな?」

「ああ。とてもマズイ。光子郎さんなら危険性を理解してもらえるだろうけど……話がややこしすぎるから他のみんなだとどこまで理解してもらえるか」

 

 ヤマトさんと丈さん、空さんは良いとしても太一さんは納得するまでに時間がかかるか。一番聞かせてはいけないのはミミさんだな。優しい分暴走しやすいだろう。

 

「っと、見えてきたぞ。アレが出口だな」

「しっかりつかまっていろよ二人とも。衝撃があるかもしれない」

「わかったです!」

「ラプタードラモンも安全運転頼むな!」

 

 そして、ゲートを通り抜けた。

 体が奇妙な浮遊感に襲われ、三半規管が刺激されたが……ヤバい、ちょっと吐きそうなんだが。

 

「うっぷ」

「大丈夫か?」

「なんとか……それで、ここはどこだろう?」

 

 ラプタードラモンもドルモンに戻ってもらい、先へと歩いていく。デジヴァイスを見ると時間表示は……91年ぐらいかな? よくわからないけど10年近くは昔に戻ったらしい。現実世界換算でだけど。

 デジタルワールド換算だと相当昔だろうなぁ……ドルモンと僕が出会う前だし。コロモンが光が丘に現れる前かぁ……そもそも僕が1歳になっているかいないかってぐらいか。

 

「なんていうか研究施設みたいな場所だね。ココは通路って感じ」

「だなぁ……」

「デジモンのにおいもほとんどしませんです」

 

 地面に手をついて、データコードを読み取るが……嘘だろ。今まで旅したエリアのどこよりも頑強だ。しかも暗号化がすさまじくて解析もほとんどできない。

 何とか断片的に情報を読み取っていくが……

 

「デジタルワールド中枢部。言うなれば、デジタルワールドのサーバーそのものってところか」

「なんかいきなりとんでもない所にきちゃったね」

「……気をつけろよ、そうなると警備が厳重だぞ」

「カノン、言っているそばから来たみたい」

 

 ドルモンがそう言うと、これまた懐かしいのが団体で出てきた。ワイヤーフレームだけの人形っぽい何か。ずんぐりした体系のそれは、ミミさんの仲間にいたユキダルモンに少し似ているだろうか?

 成長した今なら名称が見える。ゴーレモン・プロト。おそらく、プロトタイプデジモンの一種なのであろう。

 

「さっさと蹴散らすぞ!」

「了解!」

 




アドベンチャー最後の別れのシーンですが、カノンたちは別れるわけではないので、彼らがいると無粋すぎるんでカット。

ゴーレモン・プロトはデジワーに出ていたっていうあれね。画像検索でゴーレモンって打てばでるんじゃないかな?
すさまじい見た目からプロトタイプの一種として扱います。

というわけで2章・追憶のイグドラシル。開幕です。

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