アポカリモンが消えた。デジヴァイスの力で自爆を防ぎ巨大な力の塊は消滅してしまったのだ。
そして静寂が訪れたわけだが……
「えっと、どうなったんだ?」
「デジヴァイスの力で爆発を封じ込めたみたいですね」
「と、いうことは――勝ったの?」
「はい。そのようです」
光子郎さんは流石に冷静だな。みんなまだ実感がわかなかったが、すぐに喜びを表す。
手を上げて、やったー! 勝ったぞーとかあちこちから聞こえてくる……僕が呼んだとはいえ、かなりの数のデジモンがいるなぁ……
「う、うるせぇ……おいカノン、このデジモンたちどうしたんだよ!?」
「なんか呼んだらいっぱい来ました」
「呼んだらって……」
「ええ、その通り。彼の号令が皆を集めたのです。そして、どういったわけかは分かりませんが進化してここまでやってきました」
「ってホエーモン? さっきまで飛行船っぽい感じだったのに元に戻ってる」
僕も詳しくは分からないが、ブラスト進化は一時的なものらしい。自覚的に使用したことでなんとなくではあるがどういったものなのかはわかった。
アレは、ありえたかもしれないIFの姿へ進化させるのだ。と言っても、通常……というより現在ではまずありえない姿ではある。それに、特殊な要因さえもカバーしてしまう。たぶん、デジタルワールドのサーバーから無理やりに近い方法で情報を引き出して進化しているんだろうけど……
「色々と条件がそろって奇跡的に使えたようなものですからね。僕がやったことではありますけど、自由に使えることじゃないです」
「すごく強かったのに勿体ねぇなぁ」
太一さんのいう事は分かる。ドルモンが進化したあのアルファモンというデジモンはそれほどまでにすさまじい力を持っていたのだ。他のみんなが進化したデジモンもすさまじい力を秘めていた。
まあ、もう戦いは終わったんだし気にすることは無いのかもしれない。
と、緊張感もぬけてきたところに何かのジェット音が聞こえてきた。こちらへ飛来してくるが――どうやらメカノリモンらしい。すぐに降り立ち、中から人が降りてくる。
猫背姿の老人……そう言えば直接見るのは初めてか、ゲンナイさん。
「よくやったなお前たち。こちらも、人間世界も救われたようじゃ」
「じゃあ本当にアポカリモンを倒したんだな!」
「うむ。それに足元をみんしゃい」
ゲンナイさんに言われるままに足元を見てみる。そこには一つの島が復元されていっている様子が映し出されていた。
黒い粒子と白い粒子が飛び交い、デジタルワールドを創りなおしている。
どういうことかと思っていると、ゲンナイさんの隣にいたデジモン――ケンタルモンが補足してくれた。
「デジタルワールドは新たな天地創造の時を迎えたのだ」
「あの島はファイル島?」
「それにあの光は……」
「おそらく、デジモンたちも復活しているのだろう。徐々にではあるが、これでこの世界も元通りになっていく」
「なぁみんな、行ってみようぜ」
太一さんがそう言い、みんなで頷く。流石にデジモンたち全員がついてくるのは無理であったし、それぞれの故郷へと戻っていったが僕たちについてくるデジモンもいた。
バステモンとモニタモン、パンプモンにゴツモン。もんざえモンと、それにオーガモンも。チューモンやアンドロモンも一緒に来たし、エレキモンってデジモンもだ。彼ははじまりの町でデジモンたちと世話をしていたらしい。
僕たちがファイル島に降り立ち、再生が始まった場所へ行くと――そこは輝きを取り戻したはじまりの町があった。
「デジタマがいっぱい! まだまだ空から降ってくるよ」
「ここからデジタルワールドは再び再生します。時間をかけてですが」
「これみんなデジタマ?」
気の遠くなる数だな……
「これでみんなもよみがえるのね、ピッコロモンやスカモンたち。他のデジモンたちも」
「レオモンもよみがえるんだな」
「ああ、いずれは」
それに、たぶんダークマスターズも。
敵として戦ったが、彼らもそういう風に進化してしまっただけで最初から悪だったわけではない。生まれ変わった後どうなるかはわからないが、今度はもっと違う形で出会いたい。
ただ……別次元へ飛ばされたピエモンだけはおそらくここへは来ないだろうが。
「もーん!」
「トコモン、お前どこに行ってたんだよ……いきなりくっ付いて来て――って」
トコモンの体が光り輝いていく。体が大きくなり、四足歩行なのは変らないがより動物らしいフォルムに変化していった。
そして、その首には大きな首輪を下げている。
「トコモン進化――プロットモン!」
「進化した……」
「おそらくは、カノン殿の力を浴び続けた影響でしょうな。最後のブラスト進化の際もこの子だけは力を蓄えておりましたから」
「……どうもです」
「だが、私とは姿が違うようだが」
テイルモンがそう言うが……そう言えば、テイルモンの進化前がプロットモンなんだっけか? 彼女の進化前のプロットモンとは細部が異なるらしい。どうも首輪が違うとか。
「それがX抗体の特徴でな、デジモンの潜在能力を引き出す力を持つ。故に通常のデジモンとは姿も異なる。ただし、危険な力でもあるがの……まあ、こうして安定しておるし別段問題はないじゃろうて」
「へぇ……でも結局頭の上にのるのね」
「特等席です」
しゃべるようになったのは結構だが、重くなったので自重してほしい。その輪っかが当たるんだけど。
皆が笑っているが、こっちは結構キツイ。
「そうだ、みなさん記念写真を撮りませんか?」
アンドロモンがそう提案してくる。まあ、断る理由がないか。
そうして全員で並ぶが……結構多いな。パンプモンたちが前に出ようとしてもんざえモンが掴んで止めている。バステモンが眠くなってきたと寝ようとしてテイルモンがひっかいてキャットファイト的な……なんで太一さんと光子郎さんは顔を青くしているんだろうか?
他のみんなもわらわらと……シャッターがきられる瞬間、ヒカリちゃんの持っていたデジタマが孵って煙が飛び散って……カオス過ぎるだろう。
「あはは……笑うしかないなぁ」
「だねぇ」
「です」
プロットモン、いい加減降りてくれない? 嫌です。って言わないで……無理っぽい。
「さてと、ここにもう用はない。俺は旅に出るぜ」
そう言うと、オーガモンが三度笠などを着て今にも旅に出る感じの格好に……お前は清水の次郎長か何かなのか? っていうかどこから出した。
「そんな、行っちゃうの」
「私たちと一緒にいましょうよ!」
「いいや。俺は誇り高きウィルス種。ワクチンやデータのお前らと一緒にいられるかよ。じゃあな!」
そう言うと、オーガモンはこの場を後にしてしまう。
彼にも思うところはあるんだろう……レオモンもいなくなり、旅をすることで何かを探したいのかもしれない。
「バステモンもウィルス種なんだけどー」
「あら、お似合いじゃない」
「んーこの白いモドキちゃんは何を言っているのかなー」
「ハイそこ喧嘩しない」
なんで喧嘩しているんだあそこの猫二匹は。っていうかモドキってなんだろう。
「ウィルス種ってよくわかんないなぁ」
「まあそう言うでない。以前、アグモンが暗黒進化したときに間違った進化と言ったことがあるが、アレは間違いじゃ。おぬしたちの旅の目的から見れば間違っているからそう言ったまでで、進化には本来いいも悪いもないのじゃよ。それに、自ら暗黒の力を受け入れて使いこなしておるものもおるしの。光も闇も、ワクチンデータウィルスもあくまで要素の一つにすぎん」
「さーて、そんな無茶苦茶やってる人は誰かなぁ」
「お前しかいないだろうが規格外バカ」
バカとは何かバカとは。
まあ、無茶ばかりしているあたり否定はできないけど。
「おぬしたちのパートナー8体はあらかじめ想定された姿があるが、ドルモンにそれはないのも影響しておるじゃろう。経緯が特殊だったからじゃが」
「そう言えばずっと気になってんていたんです。敵もカノン君のことをある程度理解したうえで狙わないようにしたりしていた時もありましたし」
「うむ……それについて言わなくてはならないこともあるんじゃが…………どこから話したものやら。他のものたちにはいう事も禁じられておるし」
「なんだろう、ものすごく嫌な予感がしてきたよ僕」
何かを忘れているような気もする。こう、達成感が凄くて記憶があやふやになったというか。
とりあえずと前置きして、ゲンナイさんは続きを語る。
「まあぶっちゃけて言うならば、カノンとドルモンはアポカリモンではなく別の相手と戦わなくてはならないんじゃよこれから」
「まじかー。予想はしていたけどまじかー」
「そんなおれたちはまだ帰れないの!?」
「って、そもそもドルモンはこっちに残るんじゃないのか?」
「特撮見れないとか嫌だ!」
「すっかり現実世界の暮らしに馴染んでいますよね彼」
「いや、Xデジモンはこちらの世界にいては少々まずいんじゃ。よって、彼らは人間界へ戻ることとなる」
え、そうなの? Xプログラムがこっちで解放されたらマズイからだとは思うけど……
しかし現実世界で生まれ育ったシティボーイのドルモンがこっちで大自然の中生き残れるとは思えないから良いのか?
「そのことも含めて、おぬしたちに話さなければならないことがあるのじゃ。ちょっと、向こうで頼む。それに、他のものも積もる話がお互いにあるじゃろうて」
◇◇◇◇◇
ゲンナイさんに連れられてやってきたのは、みんなから少し離れた場所。
どこから切り出すべきかのうと悩んでいるようだし、一つ気が付いたことを先に片づけるか。
「ゲンナイさん、ゲートが開いていますよね」
「うむ。見えるか?」
「はい……それで、座標というか時間のスピードが完全に一致しているように見えるんですけど」
空、というより太陽を見上げる。日食がおきているが、あれがゲートとなっているらしい。
そこに見えるコードから推察するに、時間のスピードが同じなのだ。この世界と、向こうの世界の。
「アポカリモンの影響じゃろうな……おそらく、子供たちはまだ冒険を続けたがるじゃろうが、今すぐにでも帰らねばなるまいて。この世界にい続けたらどんな影響があるかわからんしの。おぬしみたいにデジモンのデータを内部に宿しているのなら別じゃろうが、そのような特殊な例は数少ない」
「まあそうですよね。ゲートがまた開くことは?」
「わからん。イグドラシルを利用すれば行き来は自在かもしれぬが、普通は使えんからの」
「やっぱり……」
ここでみんなの冒険は終わりってことか。それじゃあ、本題。
「僕たちはどうすればいいの? っていうかプロットモンもついてきているけどいいのかな?」
「ホーリーリングを持っておるし、おぬしのそばにいた方が後々よさそうなのでな。よいか、これから話すことは誰にも言ってはならんぞ。ある意味ではアポカリモンよりも危険な存在と引き合わせる――どうやら、来たようじゃ」
アポカリモンよりも危険な存在……どれだけヤバいのだろうか。
そう思って身構えていると、やってきたのは目覚まし時計みたいなデジモンだった。クロックモン、成熟期のようだが……あまり強そうには見えない。
「チチチ、仕事の時間ダ」
「このデジモンがアポカリモンよりも危険な存在ですか?」
「うむ――このデジモンはの、時を操ることが出来るのじゃ」
「……は?」
え、どういうこと?
僕もドルモンも開いた口が塞がらない。え、それって……
「時の巻き戻し、時間旅行、その他諸々。色々とできる」
「…………歴史の書き換えも?」
「好きにできるわけではないがな。1900年から99年の間なら自在じゃ。ゆえに、この世界の戦いには関わらないんじゃがな。光と闇、双方が手を出さぬようにしてきた。あのダークマスターズでさえ、クロックモンには手を出さないようにしておったしの」
「能力が続くのはあと1年?」
「うむ。であるから、おぬしをアポカリモンとの戦いに参加させたと言っても過言ではない。クロックモンの力が及ぶ範囲でおぬしたちの成長を促さないといけなかったのじゃ」
「…………合点がいった。っていうかなんとなくわかった。僕たちは、過去に戻って何かをしなくちゃいけないのか」
何かを知っている奴らがいたのはそういうわけか。僕たちが過去に戻っているから、何かをしてその結果が今も残っているんだ。歴史が変わる恐れがあるから教えてはくれないだろうけど……
その歴史が変わる可能性があったから僕に対してだけ対応が違うってところか。まあ、結局ピエモンとかは殺しに来てたけど。
「そう、過去に行ってもらう――時空の歪みはまだ観測されておる。未来から過去に向かって何かがさかのぼってしまい、今の歴史を書き換えようとしておる。おぬしたちはそれをどうにかするために呼ばれたのじゃ」
「他のみんなは?」
「…………おぬしを送る時代にはXプログラムが存在しておっての、他のデジモンたちでは消滅する可能性もある」
「それでプロットモンも一緒にってわけか」
X抗体があるのなら活動は可能だから。
でも具体的に何をどうすればいいのだろうか?
「わしも詳しい話は聞かされておらぬが、今回の特例の時間移動、クロックモンにはイグドラシルが暴走を起こした時代へおぬしたちをとばすようにプログラムされておる。おそらく、最終的にその問題を解決すればいいじゃろう。こちらへはあるデジモンが送り返してくれると安定を望むものが言っておった」
「あるデジモン、ねぇ……そのデジモンのところまでたどり着けばゴールなんだろうけどもうちょっとヒント解かないと」
「具体的に何を解決すればいいのかまでは知らないんじゃ……すまん。ただ、そのデジモンは魔王型とは聞いておる」
魔王型……また魔王型かい。
「さて、わしは他の子供たちのところへ行く。スマンがもう一仕事、頑張ってくれ」
「歴史が書き換わってアポカリモンが復活しても嫌だし、仕方がないか。ドルモン、腹くくれよ」
「そっちも疲れたなんて言っていられないよ」
「プロちゃんもがんばりますです」
さぁて、もうひと踏ん張りしますかね!
そして、新章イグドラシル編開幕。
以前言っていた中立はクロックモンのことでした。
各所にネタというかヒントはちりばめていたんだけど、わかった人はいましたかね?
というわけでカノンとドルモンの戦いはこれからが本番です。
むしろ今後のためのレベルアップや力の覚醒を行うのがアドベンチャー編の目的という長いプロローグ……
イグドラシル編は少しプロットを練りたいので、投稿が遅れるかもしれませんがご了承ください。そんなに長くやるつもりはないですが。