ピエモンの使った布に包まれた結果、太一さんたちは消えてしまった。いや、あれは……何か別の形に変換されたようにみえる。しかし、何が起きたのかははっきりとはわからない。
「ふはははは!」
「お兄ちゃん!? そんな、消えちゃって――」
「いいや、消えたわけじゃないさ……ほうら、頑張ったご褒美に私のコレクションに加えてあげたのさ」
ピエモンの手の中にはキーホルダーにされてしまった4人が握られている。あの布をかぶせられると強制的に体のデータが変換されてしまうらしい。
なんてでたらめな能力だよ……
「マズイ、一旦逃げよう!」
「逃がすと思うかい? 君たちも人形にしてあげよう!」
ピエモンが迫る。丈さんの声に合わせてみんなが逃げ出すが……僕とドルモン。それに完全体の3体がピエモンに突撃する。みんなは驚いた表情をしているけど……体が動き出していたんだから仕方がない。
なんというか、結局無謀だなとも思うんだけど……こういう時に逃げるのって僕らしくないしね。
「貴様――その剣は」
「魔法剣、名前は付けていないけどとりあえずそう呼んでいるよ」
ドルモンのデジコアに触れた際に僕に流入したデータはグレイダルファーだったのだ。完全ではないし体に残り続けるようなものでもなかったが、それを基に魔力で剣を形作ることに成功した。それが、この剣だ。
「消耗はでかいけど――ぶっ飛べ!」
「ッ」
「いくよー! バステモン必殺の一撃!」
「スパイラルソード!」
僕がピエモンの体をとばし、バステモンとアンドロモンが追撃する。僕もすぐにドルモンに飛び乗り、続いていく。もんざえモンがすでに次の攻撃を仕掛けるために動いていた。
「みんなは逃げて! モニタモン、先導よろしく!」
「任せてくだされ。この居城は既にマッピング済みですぞ!」
「小癪な……それに、いつの間にマッピングを」
「あの子は弱いデジモンだけど、隠密に関してはすさまじいのよ。封印してくれたお礼、たっぷりしてあげる」
「私たちでは及ばないかもしれませんが、それでも食い止めさせてもらいます」
「――!」
「つーわけだ。悪いけど、先へは行かせないよ」
「しばらく進化できないけど、みんなとは鍛え方が違うんだよ。カノンの足代わりにはなれる」
「…………本当に、甘く見過ぎていたようですね。0人目、どうしてあなたはこうまでして戦うのです? 誰よりも過酷な運命を持つあなたが――この戦いはあなたにとって寄り道みたいなものであるのに。よもや、自分が何者なのか本当に理解していないとでも? 心の奥底では、感づいているはずだ」
「寄り道とか……勘違いするな。それは僕が決めることだ。つーかグチグチうるさいんだよ陰険ピエロが。自分が何者なのかわかっていないのはお前の方だろうが――この道化」
少しの静寂ののちに、ピエモンが動く。数十本の剣が僕たちに殺到するが、その全てを同じ見た目の剣で迎撃する。そこそこ消耗が激しいが、直接喰らったからワクチンプログラムは作ってある。
バステモン達が僕のことを冷めた目で見ているが、ずっと我慢していたのが一気に噴き出したのだ。反省はしないし後悔もしてない。
「カノン、おれもどうかと思うんだけど……キレすぎじゃない?」
「うっさい。アイツだけはどうにも合わないというか――ブッ飛ばしたい」
「――奇遇ですね、私もですよ!」
攻撃が効かないと判断したのか今度は直接殴りに来るものの、もんざえモンが組み付いて動きを阻害する。そこにアンドロモンが攻撃を仕掛けるが、ピエモンは体を回転させて両者を吹き飛ばした。
しかし、そこにバステモンが魔法を使ってピエモンの動きを拘束しようとする。
「この程度の魔法で私を止められるとでも?」
「生憎、バステモンはダメでも弟子ならどうかな――いって、カノン!」
「オーライ! 魔力全開!」
ドルモンと共にピエモンに突っ込んでいき、加速プログラムを連続で付与していく。さらに、剣の形が
なんだ? 何を笑っているんだ?
「――まったく驚かせてくれる! だが、貴様らの相手をしている暇はないようだ」
ピエモンがそう言った瞬間――ぞくりと、嫌な予感が走った。すぐに目標を変えて突撃槍を投げつける。方向としては明後日であったものの、何かに着弾して爆発が起きた。
「貴様らの相手はそいつにしてもらおうか! ついでに、お前はコレクションに入ってもらおう!」
「しま――」
体に布がかぶせられる。体が変換されていくのを感じるが――これ、前にも感じたことあるよな。というか自分で変換したじゃないか。とすればあの時の感覚で自分の体を再変換するように構成して……布を切り裂いて、ピエモンへとびかかるが……逃げられていた。
「はったりかよ……チクショウ」
「カノンをよっぽど足止めしたかったみたいだね」
「……太一さんたちを戻されるのを嫌がったってところか」
「ねえカノン、無駄話はそれぐらいにして……こっちを見てくれるかな?」
バステモンの言った方向を見ると……三体のデジモンが出現していた。その全てに言えるのは、骨で体が構成されていることだろうか。あと、ヤバい感じがする……おそらく先ほど感じた嫌な予感は真ん中にいるグレイモンっぽいやつが撃ってきたミサイルだろう。
「スカルグレイモンにスカルサタモン!? それにスカルマンモンとか……ピエモンのやつ、どんだけ戦力を隠し持っていたのよ!」
「うひひひひ! ピエモン様は0人目のことを知った日からもしもの時のために我らのようなデジモンをご用意されていたからなぁ! もっとも、貴様らのせいで大半を失ったが」
「だったら出てくんな! はた迷惑!」
「そうもいかんのよさ!」
まずい事態になった――それにスカルマンモンは究極体。ドルモンの回復には一時間ほどかかる……これは逃げ続けるしかないか?
と、僕が思案していると無駄無駄! とスカルサタモンが大笑いしだした。
「このスカルマンモンはな! ”ウィルス種”を執拗に狙うぞ! そこのバステモンを集中して狙うだろうなぁ! それにスカルグレイモンだって通常の個体よりも強化されてんだ! 逃げたって無駄さ」
「……敵味方じゃなくて属性で判定してんの?」
「おうよ!」
「それじゃあバステモンにジャミングかけて……バステモン、自分でかけられる?」
「なるほどー、属性データを隠ぺいしたのかー……これでバステモンは狙われないね!」
ってことは、この場にいるウィルス種は……
「――あら?」
直後に、スカルグレイモンとスカルマンモンがぶつかり合う。オブリビオンバードという究極体に匹敵する技を持ったスカルグレイモンと、元々究極体のスカルマンモンのぶつかり合いは熾烈を極めた。流石にこの場から離脱しようものなら巻き込まれそうになるので注意しながら回避に専念するしかなかったものの、直接戦うことはまぬがれたのである。
ただ、ピエモンは見た目で部下を選んではいやしないだろうか? いや、スカルサタモンが集めた気もする。
「ぐえぇ!?」
「……あれでネオデビモン100体レベルの闇の力があるのみたいなのになぁ」
ゲンナイさんに埋め込まれた黒い何かを使われているのだろうか? とても強い力を感じるのに……
「耐久度はすさまじいね。究極体の攻撃を喰らっても生きてるよ」
「みんなを助けに行きたいのに――アホなのに強いとか厄介だな」
スカルサタモンの攻撃も時折飛んできているが、割とシャレにならない。このエリアの暗黒の力が同じ属性の力でかき消されているレベルなのだ。
◇◇◇◇◇
その一方でタケルたちは窮地に立たされていた。1人、また1人と仲間たちがピエモンの魔の手にかかっていく。みんなが人形にされる中、残されたのはタケルとパタモン、ヒカリとトコモンだけであった。
「もん……」
「どうしよう、もう逃げ場がないよ!」
道中はモニタモンの案内でスムーズに逃げることが出来ていたのだが、ピエモンもそのままにしておくはずもなく彼を集中的に狙っていた。エンジェウーモンが彼をかばったものの、人形にされてしまった。
その時の隙を突いてゴマモンがヤマトの人形を奪い、それはタケルへと届けられたが……
「――」
今、なんとかできるのは自分しかいない。ピエモンの腰にカノンたちの人形が無かったのは見ていたが、この場に来ていない以上なんらかの妨害を受けているはずだ。
(僕がヒカリちゃんを守らないと……)
現在はベランダのような場所に出ている。下に降りるにも崖みたいになっており、飛び降りるのは無理だ。何かの爆発音も聞こえてくることから、どこかで戦闘が起きているらしい。
「この音……」
「たぶん、カノン君たちだよ」
「ねえタケル! これ使えるんじゃない?」
パタモンが何かに気づき、ツボのようなものからロープを取り出した。なるほど、これで下に降りれば――と思ったが、そのロープが勝手に上に登っていき、黒い雲の中に入ってしまう。
タケルはそのロープを引っ張ってみるが、どうやらしっかりと固定されているらしい。
「固定されている……ヒカリちゃん、とにかく上に逃げるんだ!」
「う、うん!」
「急がないとピエモンが――来た!」
ゆっくりとピエモンが歩み寄ってくる。あたりを見回してにやりと笑い、もうゲームオーバーだと告げる。
「もう逃げ場はありませんよ。おとなしく、人形になってもらいましょうか!」
白い布を投げつけ、それが彼らにかかろうとしたところで――トコモンが飛び出した。彼が自ら布に包まれることでタケルたちを守ったのだ。
「トコモン!?」
「素晴らしき自己犠牲精神です。しかし、その程度で私を止められるとでも……?」
ピエモンが何か違和感を感じ、その動きをとめた。その隙にタケルたちは上に上がろうとするがピエモンがそれを許そうとするはずもなく、彼らを捕えようと――その手を伸ばしたときに、トコモンにかみつかれてしまう。
「――ッ、この!」
「もーん!?」
淡くだが、白く輝いていたトコモンは流石にパワー差があり過ぎたためピエモンが腕を一振りしただけで遠くへ飛んで行ってしまう。
そして、ロープを登っていた彼らもトランプソードでロープを斬られ、下へと落とされてしまった。後には彼らの悲鳴のみが残る。
「……手が火傷している――聖なる力だと? それに、私の術が効かなかった…………それに通常のトコモンとは特徴が異なって――まさか、X抗体を持っていたのか!?」
X抗体をもつデジモンは潜在的な力を引き出された姿に変化する。通常種のデジモンとは一線を画す力を持つためか、ピエモンの力が効かなかったのであろう。現在のデジタルワールドに彼らは存在していないハズであったため、あまり詳しく知ることはできなかったが……
「だが、それももう終わりか……ふふふ、ふははははは!」
「――生憎だが、終わるのはお前の方だ」
高笑いを上げていたピエモンであったが、唐突に目の前に天使型のデジモンが現れる――一瞬、冷汗が流れ出したもののすぐに攻撃を仕掛けようとしたが、すでに時遅し。
「ハァッ!」
「――ッ!?」
下へと落ちていき、ピエモンは何度も地面を転がってしまう。
(えらばれし子供、最後のデジモンが完全体に進化したのか。それに、人形を奪い返されてしまった……おのれ、だがこの場にはまだアイツらが――――まて、音が聞こえない?)
すぐに立ち上がり、スカルサタモンたちを呼び出そうとするが……反応が無い。
それに、何やら大勢の足音が聞こえてくる。
「…………そうか、8人そろってしまったか」
1人足りないとは思っていたが、どうやらダークマスターズに反抗していたデジモンたちを集めてきたらしい。もっとも戦いに向かない性質の子供だと思っていたのだが……どうやら、とんでもない才能を持っていたようだ。
たしかに自身が戦うには向かないだろう。だが、彼女を中心に軍団とも言える数のデジモンたちが立ち上がったのだ。これは歴とした一つの力だ。
「太刀川ミミ、侮っていましたよ……それに、完全体、ホーリーエンジェモン。私の術を解呪しましたか」
「どんなもんよ! ついでに、カノン君たちも助けたしね」
「いきなりスカルサタモンが吹っ飛ばされたときはびっくりしましたよ……おかげで、他の二体も何とかできましたし。消耗した状態なら、究極体も対処できるってのがわかりました」
「ってわけだ――行くぞみんな! 総攻撃だ!」
太一の号令にあわせ、みんながピエモンに向かって行く。彼も指を鳴らし、残っていた部下を集めるが――
(イビルモンたち、だけか……ネオデビモンは0人目に倒されていたな。だが、ただでやられるつもりは――――?)
ふと、誰かの視線を感じた。ピエモンが上空を見上げてみるとメカノリモンらしき影がみえる。ムゲンドラモンの部隊の生き残りだろうか? そう思ったがすぐにどこかへ去って行ってしまった。
(別に気にする必要はありませんか……危ない予感はありませんでしたしね、さあ――最後の戦いです)
ピエモンがえらばれし子供と応戦するものの、イビルモンたちは倒されていく。
彼も子供たちのパートナーデジモンを弾き飛ばし、蹴り上げ、切り刻もうと今まで以上の力で戦うが――ここにきて、彼らの連携が上がっている。
(これまでの戦いで得た経験が彼らを成長させたのか――ッ)
ならばせめて、0人目だけでも抹殺せねばなるまいと彼に向って剣を投げつけようとして――逆に、自らの額に剣が刺さった。
「な、に――?」
「左肩を狙ったんだけど、外れたか――だけど、これでチェックメイトだな」
ドルモンがタックルを仕掛け、ピエモンの体が後退していく。ダメージを負うほどではなかったが……その隙が命取りとなった。
「ヘブンズゲート!」
ホーリーエンジェモンが展開したゲートにイビルモンたちが吸収されていっている。ピエモンも踏ん張らねば吸い込まれそうで――そこで、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが自らに攻撃を放ったことに気が付いた。
(なるほど――いいでしょう、私はここまでのようだ……だが、いずれ必ず貴様らを――――)
ゲートへ吸い込まれる直前、0人目――橘カノンをにらみつける。この屈辱を忘れはせぬと。そして、自らの運命に押しつぶされる様を見れなくて残念だと、最後にほくそ笑んだ。
そして、ダークマスターズ最後の1人はこの世界から消えた。亜空間へ葬るホーリーエンジェモンの必殺技、ヘブンズゲート。もうこの世界からピエモンはいなくなったのだ。
ダークマスターズとの戦いは終わり、暗黒のエリアも元のデジタルワールドへ還元されていく。
こうして、えらばれし子供たちの戦いは終わったのだ――――
――ダークマスターズとの戦い、は。
明日はついにメモリアルですね。
あと、サブタイは別に誤字ではないです。
福袋、ダブり……うっ、頭が