ムゲンドラモンを倒した太一たち一行ではあるが、ピエモンのエリアに入ったはイイものの……現在地がよくわからない。とりあえず休憩を挟みながら進んではいたのだが、見た目以上に広大なスパイラルマウンテンで方向感覚も鈍くなりそうである。
「一本の帯の上を歩いているってのに、普通に重力を感じるし……地球上を歩いているのと感覚が変わらねぇな」
「そういう風にプログラムされているんですよ。エリアの端に行けば端だと言うのは認識できるんですが、ある程度離れるとその認識も薄れますし……たとえるなら、ゲームのフィールドでしょうか。
デジタルワールドは地面を四角いパネルで区切っているみたいなんです。それがたくさん集まってデジタルワールドを形成しているんですよ。この世界に宇宙空間はないと思いますが……そこのところはどうなんですか?」
光子郎がアンドロモンに尋ねると、少しの思案ののちに回答をする。彼もそこまで考えたことはないがメモリーに該当する項目が見つかったのだ。
「別のエリアが広がっていると思われます。天使系デジモンの住まう天界、あなた方で言う地獄のような場所であるダークエリアなど、地表エリアとは異なる層に存在する場所もありますから。しかし、通常はいく手段がありませんし……どちらもこちらへ干渉することが困難なのです」
「天使系デジモンが住んでいる場所があるなら助けてくれてもいいじゃないかと思ったけど……そういうわけにもいかないのか?」
「ええ。そもそもかつて存在したルーチェモンに関わることですので……天界は存在こそしていますが、今も天使系デジモンがいるとは限りません」
「場所はあるけど、住人はいないと? ダークエリアは……聞かない方がいいですかね?」
「通常行くことはありませんし、死んだデジモンがデジタマになる際に通るのですが……アヌビモンというデジモンがそのシステムをつかさどっています」
「でも、今そのシステムは……」
「正常に機能していません。ダークマスターズが何をしたのかはわかりませんが、彼らのせいではじまりの町の機能は停止しています」
アンドロモンから彼らは聞いていたのだ。死んだデジモンたちがデジタマとなることが出来ないのを。
ヌメモンたちの墓を作り、手を合わせていたが……彼らのためにも先へ進まなくてはならない。
「ヌメモンさんたち……」
「――」
ヒカリが涙を浮かべそうになっていたが、もんざえモンが彼女の頭をなでる。どういう力が働いたのかはわからないが、彼はこの姿で固定されたらしい。
「しかし、貴方無口ねー」
「……」
「なんとなく、手ぶりで言いたいことは分かるのだが……徹底してしゃべらないな」
「進化すると性格まで変わるの?」
「そうだな。そういうデジモンも数多いぞ」
長らく色々なデジモンを見てきたテイルモンが空の疑問に答えた。
デジモンは進化すると属性が変化する者もいるため、性格まで変貌する者も数多い。オーガモンなどのデジモンのように種族自体に性格の方向性が刻まれている者もいるぐらいだ。
中には例外もいるようではあるが。
「進化前の性質を引き継いでいるデジモンもいると聞く。珍しい事例ではあるがな」
「へぇ……例えば?」
「そうだな…………タンクモンを覚えているか?」
「うん。ムゲンドラモンの仲間にいた戦車みたいなデジモンだよね」
「ああ。アイツはゴツモンなどから進化することがあるんだが……ゴツモンの性質を残したまま進化すると、岩を砲弾として発射出来たりするんだ」
「それだけ?」
「例えばの話だ。組み合わせ次第では強力な力となる例もあるが、私たちが見たデジモンで例えるとこれぐらいしか出てこなかった」
「……そういえば、カノン君がそんなデジモンと会っていたよね?」
そこでヒカリがあることを思い出す。たしかカノンの過去の話を聞く際に聞いたことだと思ったが……
「バステモンって言うデジモンが、進化前のウィッチモンの力を使えるって」
「……」
「テイルモン?」
「なぜだかは分からないが、あまり会いたくないなそのデジモン」
むずむずするとテイルモンは首をかしげる。
会えばわかるかもしれないが、少し嫌な予感がしてきた。
「話を戻すけど、今はどのあたりにいるんだろうな?」
「そういう話でしたっけ……」
「悪い。いい加減場所を把握しないとと思って俺が話しかけたんだ……光子郎、何かいい案はあるか?」
「そうですね……アンドロモンとパソコンをつなげて、スパイラルマウンテンの地図を表示することはできますか?」
「可能でしょう。ムゲンドラモンのエリアでやったようにやればいけるハズです」
光子郎のパソコンとアンドロモンが接続され、アンドロモンを通してスパイラルマウンテンの地図を構築する。CG画像に光点を表示することで自分たちのいる場所を示したのだが……
なんと、スパイラルマウンテンの帯の部分ではなく頂上の皿のような部分にいたのだ。つまり、スパイラルマウンテンの頂上にたどり着いていたのである。
「もう頂上についていたのか!? でも、まっすぐ歩いていたし、こんな直角に曲がった場所なんて……」
「僕たちから見ればまっすぐ歩いているように見えるんですよ。見た目通りの空間というわけではないようですね。これはデジタルワールド自体が球体ではない可能性も……」
「と、とにかくそういう難しい話は全部終わってからにしようぜ。もう頂上についていたのなら気を引き締めないと……」
それに、ピエモンも俺たちに気が付いているはずだ。そう言おうとしたが、何かの気配を感じて太一は振り向いた。見ると、黒色の影が空から降りてきているではないか。
ボンテージ風の格好をした女性型のデジモン。どこかデビモンに似ているのが気になるところだ。
「光子郎、あのデジモンは?」
「レディーデビモン、完全体ですね」
「オーッホッホッホ! よく来たわねぇ、えらばれし子供たち」
「なんかヤな感じのデジモン」
女性陣はものすごく嫌な顔をしている。自分たちの中の何かに触れたようだ。もう睨んでいると言ってもいい。
「疲れたでしょう? ゆっくり休んでいきなさい! 永遠にね!」
「いいじゃない――やってやろうじゃないのよ!」
空が今にもとびかかろうと前に出るが、それを太一が止める。
「何よ、止める気?」
「ああ……悪いんだけど空には他にやってもらうことがある」
ゴーグルをつまみながら太一が真剣な表情で語り掛ける。その様子に空も闘気を収め、耳を傾けた。
「残るダークマスターズはピエモンただ一人……だけど、何が起こるかわからないし、簡単に勝負がつくとは思えない。ムゲンドラモンの時はドラモンキラーがあったから良かったけど、アイツ相手じゃそうもいかないからな」
「太一、何の話……まさか」
「ああ。お前には、ヤマトを迎えに行ってほしい」
ここから先は今までのようにはいかないだろう。
完全体一体だけなら他のデジモンでもなんとかなるが、ピエモンとの戦いでは確実に究極体が複数存在していないと厳しいでは済まない。
「できればカノンたちも探したいところだが、先へ進んでいたヤマトの方が近いはずだ。だから、頼む……アグモンは温存しないといけないしな」
「ぼく、戦っちゃダメなの?」
「お前はピエモンって大仕事が残っているからな……」
上を見ると、すでにエンジェウーモンとレディーデビモンの戦いが始まっていた……なぜかキャットファイトの様相を呈してきたが。ヒカリも興奮しているようで、やっちゃえやっちゃえとか言っている。我が妹ながらこんな一面もあったのかと冷汗が出てしまう太一だ。
「……あ、あとのことは任せろ。ここから先のことを考えるとブレインの光子郎は残しておかないといけないんだ……だから、頼む」
「そうね。まったく、リーダーらしくなっちゃって。それじゃあ、行ってくるわ。ピヨモン!」
「うん。任せて!」
ピヨモンが進化し、空たちはヤマトを探しに向かった。
最後の戦いが近い。すぐにでも仲間たちを集めなくてはいけないのだ。
「頼むぞ空……それにしても、なんて泥沼な」
「アトラーカブテリモンも援護に入っていますが、邪魔者扱いされていますね」
「がんばれ、アトラーカブテリモン」
男性にはわからない、女の戦いが繰り広げられていた。
◇◇◇◇◇
一方その頃、カノンたちは休息と食事を終わらせて準備運動していた。
「体を良くほぐしておけよ!」
「わかってるよ」
「それで、ムゲンドラモンが倒された以上ピエモンもすぐに動くわけだけど……どうやって向かうつもり?」
「あの紅いドラゴンのような姿で飛ぶのですかな?」
「ああ、ドルゴラモンのバーストモードか? あれ消耗が激しいみたいだから移動には向かないんだよ。バーストしなくても飛行能力こそあるけどスピードはいまいちだし」
「ドルゴラモン……なるほど、あの銀色の竜ですな」
「バーストモードを使えるようになったの!?」
「コンディションが最高である必要と、消耗の激しさがネックだけどな。進化できない状態でため込まれていたから長く続いていたけど、本来は短期決戦用だよ」
本当の意味で切り札なのだ。そう簡単には使うことが出来ない。だが、手に入れた力はそれだけではない。
アグモンたちとは異なりドルモンは今までワープ進化を行うことはできなかったのだが、今回のことでそれは解消された。更に、第三の究極体まで獲得したのだ。
「いくぞ、ドルモン」
「うん。レオモンの置き土産、みんなを守るために使わせてもらおう!」
カノンのデジヴァイスが光り輝き、ドルモンの姿が変化していく。
四肢は強靭に、竜ではなくより獣らしく。超硬質化した体をもつ究極体、その名は――
「ワープ進化! ディノタイガモン!」
「み、三つめの究極体!?」
「すさまじいですな……」
「これで三属性そろい踏みってね。サーベルレオモンのデータも取り込んでいてくれて助かったよ……ガイオウモンの時よりは楽に構築できた。それじゃあ二人とも乗ってくれ。全速力で突っ切るから」
バステモンとモニタモンもその背に乗せ、ディノタイガモンは駆けだした。その際トコモンが彼の頭の上にしがみついた。
サーベルレオモンに比べればスピードは劣るものの、十分速い動きでスパイラルマウンテンを駆けあがっていく。
「速い速い! すごいスピード!」
「これは、まことにすさまじいですぞー!?」
「このまま一気に行くぞ!」
景色が目まぐるしく変わっていき、廃墟、森、おもちゃの街並み――が見えたところで一旦止まった。
「もーん?」
「どうかしましたか、カノン殿」
「デジタマがいっぱいある……でも、機能が停止している?」
「ここははじまりの町。死んだデジモンがデジタマになって戻ってくる場所」
「……ダークマスターズのせいで、機能が止まっているのか?」
「うん。本当にひどい……同じデジモンとは思えない。七大魔王だってここまでのことはやらないのに」
「本当にデジモンなのかも怪しいな。特にピエモンは」
「カノン?」
「まあ、直接見ていないとわからないか……」
「――カノン、知ったにおいが残っている。たぶん、ゴマモンたちだ」
「丈さんたちはここにきたのか……」
「どうする? 追いかけるか」
ディノタイガモンの言う通り、合流することも選択肢の一つなのだが……
どうにも嫌な予感がする。もっと先の方で、良くないものが生まれようとしている。そんな気がするのだ。
「……いや、先へ行こう。残されたエリアがピエモンのエリアだけである以上、奴も動いているかもしれない。それに、まだ戦力を持っていても不思議じゃない。前線に出ている太一さんと合流することを考えるべきだ」
「その方がよろしいですな。ピエモンもダークマスターズ以外の究極体を確保している可能性がある以上、カノン殿たちがいかなくては大変なことになるでしょう」
「それに、その子たちも太一って子に合流しているかもね」
「その可能性もあったか……でもまあ、最短ルートで突っ切るぞ!」
カノンは左肩を抑えて感覚を研ぎ澄ませる。依然受けた傷を使い、ピエモンの暗黒の力を探っているのだ。
微弱なもので方角がなんとなくわかる程度のものだが……それでも最短ルートを進むのならばそれで十分。
「よし、進路まっすぐ突っ走れ!」
「了解!」
再び風のように突き進む。
景色は森となり廃墟となり、黒い大地に変わった。空も黒く、暗黒の力に満ちている。
やがて、目の前に小さな山のようなものが見えてきた。おそらくは、あれが……
「ピエモンの居城」
「まったく陰気なところだな」
「封印してくれやがった借りを返すときね!」
「最後まで、おとも致しますぞ!」
「もーん!!」
ダークマスターズ、最後の1人との戦いが今始まろうとしていた。
ドルシリーズがワクチンに変化したため、ドルゴラモンがワクチン種。
ディノタイガモンがデータ種。ガイオウモンはウィルス種。
これで三属性の究極体になれるようになったドルモンです。