デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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ようやく長かった氷河期が終わる。


52.バースト

 斬撃の音が聞こえる。どれだけの時が過ぎたのだろう。暗い昏い夜道を行く様にただひたすらに前に向かって跳んでいく。一歩でも踏み外せば命は無い。一手でも間違えれば勝利は無い。

 詰将棋ならぬ、詰み将棋とも言うべき状況。一瞬の判断を間違えればすぐに詰んでしまう選択肢の連続だった。

 

「この――突破方が見つからないッ」

 

 青い巨体が風となり僕たちを襲う。僕とドルモンもかなり疲弊しており、あと一時間もしないうちに体が動かなくなってしまうだろう。

 極限状態の中で僕は魔力の効率的な運用法を見出し、ドルモンもX抗体の力を引き出すことが出来たのか格段に身体能力が上がっている。

 それでも、進化できないというのは圧倒的な差を生んでしまっているのだ。

 

「ドルモン……まだバランスは治らないのか?」

「ゴメン、気持ちの問題だと思っているのに――この状況でも進化のしの字も出てこないんだ!」

 

 ……ドルモンのメンタル面での問題だと結論が出ようとしていたが、まだ何か要素が足りないらしい。その要素を満たす何かを見つけないとこの状況を打破することはできないのだろう。

 と、一瞬思考が逸れたのがいけなかった。

 眼前に奴の凶刃が迫り――咄嗟ではあるが、魔力を放出して防御を行う。イメージするのは強靭な金属。クロンデジゾイドの構成をまだ理解していないため再現することはできないが、奴の攻撃を一瞬でも防げればそれでいい。

 

「――ッ!」

 

 ガリガリと防御壁が削られていく。同時に、体の内側からごっそりと力が奪われていくのも感じるが……命あっての物種、ギリギリ攻撃を回避して――唐突に、青い何かが目の前に迫っていた。体に衝撃が走り、気が付いたときには激痛と共に地面を転がっていた。

 

「あっ、ぐぅ……回し蹴りか?」

「カノン!? 大丈夫か!?」

「何とか意識は飛んでいない……そっちこそ大丈夫か?」

「大丈夫だけど……ひどい傷だよ。どうにかして上まで戻ろう。それで…………」

 

 いや、それも危ない。この空間に長くいたからか、それとも極限状態の影響かはわからないが、上の方から轟音が聞こえる。

 

「どうも、ピエモンあたりが何かやらかしたみたいだな……」

「そんな――それじゃあ、なおのこと戻らないと」

「バカいうなよ……今戻っても足手まといだ。それに、男が目の前の困難から逃げてどうするよ…………まあ、時には逃げることもあるけど、今はその時じゃない」

 

 乗り越えなくてはいけない。この壁を。しかし、壁が高すぎる……

 意識も飛びそうだ……今こうして会話している間にも、奴は次の一手を打ってくるだろう。

 

「そろそろチェックメイトかよ……笑えねぇ」

「笑い事じゃないっての!」

 

 ドルモンに肩を貸してもらい、なんとか起き上がるが――奴の胸に閃光が……どうやら、またデカいのを撃ちだすつもりらしい。これはヤバいな……

 

「カノン、どうする?」

「どうするって言ってもな――ん?」

 

 奴の放つ光を反射して、何かが輝いている。赤色の光が目に入って眩しいとおもったのだが……これは、ドルモンの額のインターフェースか?

 こいつを使ってデータの書き換えを行うってのがプロトタイプデジモンの特徴で――ふと、一つ大きな賭けを思いついた。

 この極限状態ではインターフェースを使って悠長にデータのチェックや書き換えを行う時間はない。しかし、それは正攻法ならの話だ。

 外法であるのならば案を思いついたが……

 

「なあドルモン、一つ賭けがあるよ」

「本当に?」

「ああ……失敗したら、お互いに死ぬよりもひどいことになるかもしれない。それでも、賭けてみるか?」

「何をいまさら――おれたちは一蓮托生。これまでだって、二人で乗り越えて……ううん。壁をぶち壊してきたんじゃないか。だったら、今回もおれはカノンを信じて突き進むだけさ」

「ありがとうな……だったら行くぜ、この橘カノンの一世一代の大魔法ってやつをよ!」

 

 体に力を入れ、立ち上がる。全身に魔法式を張り巡らせ体を構成しているデータを分解し、ドルモンのインターフェースへ流し込んでいく。

 激痛が走るが、四の五の言っていられない。やるしかないのだ。世界がスローになっていき、僕の体は0と1のデータへ分解されていく……いや、この言い方は正しくないだろう。この世界では僕たちの体もデジタルデータで構成されているのだから、形式を変えると言った方が正しいだろうか。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 やがて、意識は遠い所へと運ばれる。景色が目まぐるしく変わっていき、頭の奥底にある知らない何かが目の前に現れる。

 黄金の鎧をまとった天使のような何か。僕の運命が始まった時から結びついている存在だが、今は関係ない。続いて現れるのは赤いマフラーをした誰か。いまだ出会うことは叶わない存在。いずれ目にすることになるだろうが彼を振り切って先へと進む。

 続いて現れるのはワイヤーフレームで構成された巨大な何か。僕ではなくドルモンの運命に結びついている存在。しかし、こいつもいまだ出会うことはないだろう。そして、最後に見えたのは黒い騎士。邂逅は迫っている。だが、まだ先にやるべきことがある。

 奇妙な浮遊感と共に、ドルモンのデジコアの最深部へとたどり着く。長い管のようなイメージを落下していき、やがて青い海の中のような空間に躍り出た。

 

「意識をしっかり保たないと……ドルモンと僕のデータが混ざり合って、二人とも消えるぞ」

 

 自分を保つためにも言葉に出して言い聞かせる。長くい続けると互いのデータが混ざり合ってしまって意味のない羅列へと変化してしまう。そうなれば、もう二度と元には戻れない。

 だからこそ必要なことだけをしなければならない……底の底、丸い球体のような物体に手を触れる。おそらくはこれこそがドルモンの根源(ルーツ)。危険な賭けであるが、このデータを解き放つことが出来れば――そう思い、触れた瞬間であった。

 

「――――ッ、アガアア!?」

 

 体中に電流が走ったように、激痛が走る。同時に、何か気味の悪いものが僕の体を這いずり回っているような感覚さえしてきた。

 これは……Xプログラムか!? どうやらデジモンのデータを破壊するためのプログラム……いや、病原体と言った方がいいだろう。ドルモンのX抗体の中にあるXプログラムが僕の体を駆け回っているらしい。

 しかし、僕はデジモンではない。体中を駆け回るこのプログラムもすぐに鎮静化し、体から消えていった。

 デジコアを持たぬ僕に効かないのは道理ではあるけれども。しかし、今のは少し危なかった……ちょっとだけだが、ドルモンの内部のデータが入りそうになってしまった。配列を学習した程度で、混ざることはなかったけど。

 

「まったくおどかしてくれて……ドルモン、ちょっと我慢してくれよ!」

 

 データを解放する――開示されていくすべてを読み取ることはできないが、どうやら暗黒のデータと取り込んだウォーグレイモンのドラモンキラーのデータによる影響で究極体どころか成熟期への進化も定まっていない状態になってしまっていたらしい。

 よりわかりやすく言うのならば、経験値はそのままに次の進化がリセットされた状態になっている。ドルモンの内部でどのような処理が行われてしまったのかはわからないが、体の方がドルガモンやラプタードラモンに進化したことを覚えていないのだ。心は別であったのが幸いだ。すぐにデータを修復していき、内部の不和を取り除いていく……それでも、取り込んだデータが消えるわけではないのでまた同じ状況になってしまうかもしれない。

 

「それは、マズいよな……だったら、使えるものはとことんまで使ってやろうぜ!」

 

 僕の言葉にうなずく様に、球体が光り出す。暗黒のデータとウォーグレイモンのデータが結びついていく。もちろん、ドラモンキラーのデータだけでは不完全のためアグモンのカードのデータも合わせる。さらに、潜在的なものを引き出すX抗体の力が合わさりアグモンというデジモンの持つグレイモン種のデータをベースに、新たな進化を構築する。

 と、そこでまだ取り込んだデータがあるのに気が付いた。これは……

 

「そっか、レオモンの置き土産か……だったら、ありがたく使わせてもらうよ!!」

 

 デジヴァイスを握り、データの構築を加速させる。さらに、必要な情報を引き出す。ドルモンというデジモンの持つ可能性を最大限に引き出し、途中をすっ飛ばして一気に更なる究極へ。

 ドルモン自身のデータも多少変化がみられる状態になってしまったが……まあ、この程度ならどうということはないか。

 

「それじゃあ、反撃と参りますか!!」

 

 意識を浮上させていく。体が浮遊感と共に上がっていき、やがて光が見えてきて――――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 戻った先には、今にも攻撃を放とうとしていたミラージュガオガモンがいた。

 

「カノン!? 一秒も経ってないんだけど!?」

「時間が加速していた? いや、更に細かいデータへ変換したことで時間の流れ方が……まあ考察は後だ! 行くぞドルモン!」

「行くって……おれ、もう進化できるの?」

「ああ……それに、おまけつきだよ。後、悪い。今までデータ種だったお前のデータを直すときにバランスをとる都合でワクチン種に変化してる」

「え……そうなの?」

 

 どうやら本人に自覚は無いらしい。まあそれほど大きな問題にはならないってことか。とにかく、今この状況で有効なのは一撃の突破力。

 

「行くぞ――ドルモン、ワープ進化だ! 最初はこっちでアシストする。思いっきり暴れて来い!」

「分かった――――うぉおおおおお!!」

 

 ドルモンの額が光り輝き、彼の姿を変化させていく。体の色は黒に。どこかウォーグレイモンにも似た姿ではあるが、鎧と袴が侍のようなイメージを持たせている。

 そして、二本の刀を持ったそのデジモンの名は――

 

「ワープ進化、ガイオウモン!」

 

 今ここに、新たな進化が誕生した。

 すぐさまミラージュガオガモンの光弾が発射されるが……ガイオウモンはその光弾を切り伏せてしまう。

 

「――スゴイ、何だこの力は?」

「別に暗黒も全て拒絶する必要はないってね。昼が来れば夜も来る。光と闇は表裏一体、どちらも切り捨ててはいけないものなんだ……だったら、むしろ受け入れて自分の力にしてしまえばいい。ガイオウモン、今ならわかるよな?」

「ああ……俺は自分が自分じゃなくなるみたいで怖かったんだ。まったく別のデジモンになって、カノンたちを襲うんじゃないかって……今も体に湧き上がる力がすさまじいものなのを感じている。でも、それなら乗りこなすだけだ!」

 

 ガイオウモンがとびかかり、ミラージュガオガモンの両腕を刀ではじく。奴も負けじと高速で動きガイオウモンへと迫るが――

 

「遅い!」

 

 ――その右腕を一瞬で切り伏せる。移動スピードではガイオウモンは勝てないだろう。しかし、その斬撃の速度だけならばガイオウモンは更に上を行く。

 

「――ッ、コード解放。バーストモード!」

 

 ミラージュガオガモンの声が響き、彼の姿が変化していく。

 右腕も合わせて閃光に包まれ、完全に復元された状態で再び出現する。しかし、その姿は劇的に変化していた。マントは消え、長い髪が見えている。更に光り輝く武器を手に持っていた。話には聞いていたが……

 

「これがバーストモードってやつか……肌にビリビリ来るこの感覚…………ヤバいなこりゃ」

「カノン、策はあるの?」

「そんなものない!」

「……この状況でいう事かな?」

「策は無いが……僕たちも、もっと先に行こうじゃないか。もっと強く、究極も越えて」

「――そうだね。究極も越えて……どこか、究極体で満足していたのかもしれない。まだまだ先へ、進化するんだ!」

 

 紋章が光り輝きだす。デジヴァイスからあふれる光も力を増していき、ガイオウモンのデジコアが脈動を強めた。もっと強く、さらなる次元へ突き進むんだ。

 運命だとか未来だとか、今この時にどうするべきかなんて考えている暇はない。

 

「「もっともっと、上げていくぞ!」」

 

 デジヴァイスが更なる輝きを放ち、バースト進化の文字を表示させた。

 

「うおおおおお!!」

 

 ガイオウモンの体が炎に包まれていき、その姿を変化させる。より力強く、より強大な存在へ。

 そう、僕らも到達したのだ。デジモンの限界能力の解放、バーストモードへと。

 

「――ッ!」

「行くぜ、必殺の一撃!!」

 

 直後に二体の究極を越えたデジモンがぶつかり合う。

 爆発と轟音と共に、決着がついた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 バステモン達は疲弊していた。流石に多勢に無勢……いくら魔法が扱えると言っても限度がある。かなり健闘した方ではあるが、すでにネオデビモンたちに取り囲まれていて万事休すだ。

 

「モニタモン……ごめんね、バステモンがふがいなくて」

「いえいえ。あれだけの軍勢……三桁相手にすさまじい戦果ですぞ。ネオデビモンも10体以上は倒されていましたし……それに引き換え、私は隙を作ることしかできませぬし」

「それでも十分だよぉ……ああ、でも…………ここまでかぁ」

 

 いきなり無茶な試練を出してしまったが、一言謝りたかったなとバステモンが思った、その時であった。

 遺跡がいきなり爆発し、中から何かが飛び出してきたのだ。

 

「いきなりどういうこと!?」

「あれは……あのデジモンは!?」

 

 中から飛び出してきたのは銀色の巨竜だ。その巨竜が咆哮を上げるとネオデビモンたちはいっせいに彼の方へと飛んでいく。しかし、巨竜の色が紅く染まった次の瞬間には――彼らは全てデータの塵へとなっていた。

 

「強すぎ……なにあのデジモン」

「該当データなし。未知の存在です」

 

 巨竜が地面へと降り立つと――光に包まれて小さくなっていく。その背から人影も飛び降り、やがて見慣れた姿が現れた。

 

「カノン……カノン!」

「ご無事で何よりです――ッ!?」

「あびゃぁ!?」

 

 戻ってきた彼ら――カノンとドルモン――に抱き着こうとした二人であったが、いきなり殴り飛ばされてしまう。地面をずさーっと滑り、体中が砂だらけになる。

 

「なにするの!」

「いや、いきなり突き飛ばしたお礼に」

「同じく」

「……すみませんでした」

「で、でも試練だったし……」

「他にいう事は?」

「……ごめんなさい」

 

 よろしい。とカノンたちは頷く。元々必要な試練ではあったと分かっているものの、それでも事前告知無しがむかついただけである。

 と、その時遠くに見えていた街並みがズルズルと音を立てて横に流れていくのが見えた。

 

「あれは……」

「どうやら、ムゲンドラモンが倒されたみたいね」

「そのようですな」

「そっか、太一さんたちやったんだ……」

 

 これで残すは一体か。もーんとトコモンも声を上げてカノンの頭に飛びついてくる。見れば、カノンたちが飛び出したときの影響で砂まみれだ。

 みんなの大なり小なり傷だらけで、砂まみれである。

 

「どっかで体を洗う場所さがすか」

「だねー」

「ふふふ、そうですな。それに、皆疲れておりますし……次はいよいよ正念場ですぞ」

「ああ……ピエモンに借りを返さないとな」

 

 決戦の時は近い。

 今試練を乗り越え、カノンとドルモンは再び立ち上がった。

 




進化復活&、超強化。
さらに未使用の力も残しつつ、カノンとドルモンが完全復活しました。

今後はドルシリーズはワクチン種になります。といっても、作中で属性が重視されたことってあまりないですけどね。

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