振動が伝わる。太一たちが地下都市を突き進んでから少しして、大きな音がこちらまで響きだしてきたのだ。
「どうやら、戦闘が始まったようですね」
「ああ……アンドロモン、それでどっちに行ったらいいんだ?」
「そうですね。こちらへ来てください……道中は入り組んでいますから、ムゲンドラモンのいるであろう管制室まで先は長いです」
「途中で敵に見つからないようにしなくちゃね」
タケルの言う通り、ムゲンドラモンにたどり着くまでに消耗してしまっては元も子もない。しかしもう一つ気になるのはこの地下の構造だ。
「まるで、世界中の地下を寄せ集めしたような感じだな」
「日本のはすぐにわかるけど……英語の看板とかもあるし、なんだかごちゃごちゃしてるね」
「でもちょっと汚くない?」
確かに、どこか薄汚れている。淀みというかあまり長いしたくない感じの場所だ。
「先を急ぎましょう――こちらへ行くと近いです」
アンドロモンの案内で先を急ぐが……思った以上に距離が長い。その間あたりを見ながら進んでいるが、本当に無作為というかどうやったらこんな構造になるんだと思える風景が続く。
以前、光子郎がデジタルワールドの構造物に対して考察をしていたが……なるほどと太一も思う。
「俺たちの世界から流れ着いたデータが形作っている、か」
「お兄ちゃん?」
「いや……近くて遠い世界だよなって思ってさ…………むしろ逆かな」
遠くて近い。世界の距離は次元を隔てている。それでもコインの表と裏のように隣り合った世界なのだ。ふと、以前どこかでその例えを聞いたような気がしたが……
「どこだったっけか」
ただ、もはや切り離して考えることはできないというのは間違いない。こちらが危機に陥れば地球も危うく。その逆もまたしかり。
だからこそ、自分たちがこうして戦うことになったわけなのだろうが――
太一が思考の海へダイブしかけていた時だ。唐突に、アンドロモンが子供たちの進行をとめる。
「どうしたのアンドロモン?」
「静かに――何かが奥にいます」
「たしかに……デジモンのにおいがする」
アグモンが鼻を動かし、気配を探る。その様子に子供たちも身をひそめながら先へとゆっくりすすんでいった。何か機械が動くような音が聞こえる。
また、バシッという音も響いてきていた。まるで、何かをたたきつけるような……
大きな部屋に出たのだろう。視界が開けてきたが、見つかる危険もある。身を隠しながら様子をうかがうと――たくさんのヌメモンが機械を動かしていた。まるで、奴隷のように……いや、まさに奴隷なのだろう。首輪のようなものをつけられ、黒い熊みたいなデジモンが鞭を打って働かせている。
「オラッ! 働け働け! でないと容赦しないぞ!」
何度も何度も彼らにむち打ち、ヌメモンたちを無理やり働かせていた。
「ひどい……」
「あれはもんざえモン? でも、もんざえモンは良いデジモンのはずなのに」
「いえ、アレはワルもんざえモンです。もんざえモンとは異なります」
太一が以前出会ったデジモンの名前を告げるが、アンドロモンによると別種のデジモンらしい。もんざえモンと同じく完全体のデジモンである。
彼はムゲンドラモンの部下らしく、労働力であるヌメモンを無理やり働かせているようだ。
「――許せない」
「ヒカリ?」
ヒカリは涙を浮かべて彼らを見る。心の中で何かが強く胎動を始めた。体が風邪をぶり返したときのように熱くなるが、その時とは違いふらつくことはない。
紋章の輝きが強まり――ヒカリ自身の体が輝きを放ち始める。
その光に反応をしたのか、ヌメモンたちの動きが止まる。そして、ヒカリの様子をみて全員の動きが止まった。
「な、なんだお前たち!? 働け! 働かないと容赦しないぞ!」
その様子に困惑したワルもんざえモンであるが、パニックに陥っている。
チャンスは今しかないと、太一は声を上げた。
「突撃! エンジェモンとエンジェウーモンはワルもんざえモンを頼む!」
「分かった!」
「任せて!」
進化した二体がすぐさまワルもんざえモンを攻撃する。咄嗟のことに反応できなかったらしく、ワルもんざえもんは壁まで叩きつけられた。
「こ、この……お前ら覚悟はいい――――」
すぐさまアンドロモンが追撃に動いていた。流石に多勢に無勢と判断したのか、言葉を中断して避けることに専念をし、脱兎のように逃げ出してしまった。
追おうとするものの、逃げ足がとんでもなく速い。
「目標ロスト。すいません……我々のことがムゲンドラモンに知られてしまうでしょう」
「……いや、これでいい。どのみち途中でばれることは想定の内だったんだ。それに…………いい作戦を思いついたぜ」
太一はそう言うと、ヌメモンたちを見回してにやりと笑う。
「サッカーと同じなんだよな。1人でやっているわけじゃないんだ……みんなそれぞれの役割があって、うまくかみ合うことでチームとして回る。だからこそ、みんなを信じないとな!」
あたりを見回しながら手ごろなポイントが無いかと思案し……すぐに答えが出た。
「アンドロモン、このあたりを爆破することってできるか?」
「はい、可能ですが……いったい何を?」
「ヌメモンたちがここを動かしていたってことは、ここは都市にとって重要なポイントなのか?」
「おそらくは電力の供給などを行っていたのかと」
「だったら、ここをつぶせばムゲンドラモンは困るよな。それこそ、自分で出張るぐらいには」
◇◇◇◇◇
直後に爆発が起きる。子供たちはただまっすぐに突き進む。ヌメモンたちも解放し、避難させておいた。流石に、ヒカリを教祖のようにあがめていたのには苦笑するしかなかったが。
(でも、やっぱりヒカリにもなにか特殊な力があるってことなのか……)
太一にはどうにもそこが気にかかる。妹の身にはどんな力が眠っているのか。ハッキリとは分かっていないが……とても大きな意味を持った力なのは間違いないだろう。
それに、もう一人……
(カノンも一体何なんだろうな……今日改めて分かったが、ヒカリとはまた違う)
似ているようで違う。根本的な何かが異なっているように感じられるのだ。
今考えても答えは出ないのだろうが……いつかは明らかにしないといけない。
「みなさん、止まってください――来ます!」
アンドロモンが制止する。直後に、壁を壊しながら銀色の巨体が躍り出た。それを合図にアグモンもウォーグレイモンへ進化する。
砂煙が晴れ、奴の姿がはっきりと映し出された。
「やっぱり出やがったな、ムゲンドラモン!」
「えらばれし子供たち……抹殺する!」
背中の大砲に光が集まりだし、発射準備に入ろうとしていた。その様子を黙って見ているわけもなく、エンジェモンが飛び込んでいく。エンジェウーモンが光の矢で援護し、ウォーグレイモンが一撃を決めるための隙を計っていた。
「邪魔だ」
「ぐっ!?」
「エンジェモン!?」
だが、腕の一振りでエンジェモンが吹き飛ばされてしまう。すぐにエンジェウーモンが牽制で攻撃を仕掛けるものの、全て弾かれてしまっていた。
今度はアンドロモンが組み付きに行くが――ムゲンドラモンは咆哮を上げ、彼らを吹き飛ばしてしまう。
「――ウォーグレイモン!」
「分かってる! ブレイブトルネード!!」
すぐにウォーグレイモンが攻撃を仕掛けるがムゲンドラモンは左腕を前に出し、ウォーグレイモンへ発射した。
「トライデントアーム!」
「――ッ、この技は」
メタルグレイモンと同じもの。それもそのはずだ。ムゲンドラモンの体は様々なサイボーグ型デジモンのものなのだ。特に、両腕は元のデジモンと同じ技が使える。
「ジェノサイドアタック!」
続いて右腕からメガドラモンと同じ有機ミサイルが発射される。流石にウォーグレイモンも突然のことであり対処ができなかったのか、弾き飛ばされてしまい――アグモンへと退化してしまう。ここまで戦わなかったことと、十分なエネルギーがあったことから幼年期にはならなかったが……状況は最悪だ。
「ごめん、太一」
「いや……甘く見ていた。ムゲンドラモンがここまで強いだなんて」
「昨日のことで警戒されたのでしょう……有機ミサイルを搭載している情報は無かったのですが」
自分の落ち度だとアンドロモンが悔やむ。しかし、その暇もなさそうだ。ムゲンドラモンが再びチャージをはじめ――体が緑色に覆いつくされていった。
「なんだ?」
「ヒカリさまたちを守れー!」
「れー!」
緑色――ヌメモンたちが駆けつけてきたのだ。自分たちを助けてくれたヒカリや、子供たちのために。普段は臆病なデジモンのヌメモンたちだったが、勇気を振り絞ってムゲンドラモンへぶつかっていく。成熟期どころか成長期のデジモンと比較しても弱いデジモンであるのに、ただがむしゃらに前へと突き進んでいた。
「――邪魔だ」
「――――ッ」
とっさに、ヒカリが前へ飛び出す。一番体の小さかったヌメモンを抱きかかえてると……その眼前に爪が迫っていた。すぐさまエンジェモンとエンジェウーモンがヒカリを守るが、彼らはまとめて吹き飛ばされてしまう。
「キャア!?」
「ヒカリ!?」
「ヌメモンたちも、消えろ!!」
一撃。それでムゲンドラモンへ絡みついていたヌメモンは消え去った。その様子を見たヒカリは涙を浮かべて、悔しそうに顔を歪ませる。
なんでこんなひどいことが出来るんだと。他人を傷つけて心が痛まないのか……
「こんなのひどいよ……わたし、絶対にあなたを許さない!」
再びヒカリの体が輝きを増していく。その光が周囲を照らし、ムゲンドラモンが少し後ずさった――しかし、彼の後方から黒い影が飛び出す。
先ほど、子供たちに撃退されたデジモン。ワルもんざえモンだ。
「このいい加減にしろよ小娘!」
ヒカリを殴り飛ばそうと、ワルもんざえモンの拳が迫る。しかし、それよりも早く動くものがあった。ムゲンドラモンに消し飛ばされたヌメモンたちのデータだ。それがヒカリが抱きかかえるヌメモンへと集っていく。
そしてヌメモンはその形を変えていった。ヒカリの力の後押しを受け、ヌメモンは進化を果たす。
「――ッ」
「なっ――!? お前は!?」
ヒカリを守るように立ちふさがるのは黄色い熊のようなデジモン。ワルもんざえモンに姿は似ているが、その性質は異なる。
ワルもんざえモンの拳を受け止め、今度は彼がワルもんざえモンを殴り飛ばした。
「うわあ!?」
「ヌメモンが、もんざえモンに進化した――」
茫然とするタケル。ヌメモンが弱いデジモンだと言うのは知っていたが、彼が進化したもんざえモンはワルもんざえモンを殴り飛ばして、更にムゲンドラモンへとぶつけてしまったのだ。
しかもすぐにムゲンドラモンにも殴りかかり、彼の攻撃をかわしてアッパーカットしてしまう。
「凄く、強い――!?」
「この――ザコが、調子に……!?」
ムゲンドラモンは苛立ち、反撃に出ようとするが――なにか嫌な予感が彼の脳裏によぎる。無機な存在であるはずなのに、嫌な予感が駆け巡った。
すぐに腕を振り、反撃したが……どうやら自分は勘もすぐれていたらしいとほくそ笑む。
「再び究極体に進化したのは驚きだが、どうやら無意味だったようだな」
「それは、どうかな」
ヒカリの力を受け、再びウォーグレイモンへと進化したようだが……すぐにコロモンへなってしまった。どうやら進化してすぐにとびかかり、攻撃を仕掛けたみたいだ。
だが、彼の額には切り傷があり、反撃を喰らったことを如実に語っている。それでも、コロモンは不敵に笑って見せた。
「ぼくには、太一やヒカリ。みんながついているんだ……お前なんかに、負けるもんか」
コロモンがそう言うと、ムゲンドラモンの腕が切り落とされた。一瞬、何が起きたのかわからなかったが――すぐに∞キャノンが切り落とされる。
ムゲンドラモンはまさかと思うものの、足の感覚もなくなり――やがて、思考能力すらなくなった。
そう、すれ違いざまに斬られていたのはムゲンドラモンの方だったのだ。
「…………勝ったよ、太一」
「ああ……よくやったなコロモン!」
太一がコロモンを抱き上げた直後、地面が大きく揺れ出す。
ムゲンドラモンも消滅し、このエリアの崩壊が始まったららしい。
「みなさん、すぐさま脱出しましょう。ここも長くない」
アンドロモンの言う通りすぐに逃げた方がよさそうだ。もんざえモンがみんなを抱き上げて、地上へと飛び出していく。
ほどなくして、ガルダモンとアトラーカブテリモンが迎えに来た。どうやら、あちらも乗り切ったようだ。
「太一さーん!」
「光子郎! 無事でよかったよ」
「ほとんどマサキさんのおかげですけどね。あの人たち、かなり強くて……探し物の反応がスパイラルマウンテンではなく下の方にあるそうなので分かれることになりましたが……空を飛べませんので地上に降りるしかないそうですし」
「あー、ラストティラノモンも巨体だしな……」
「ところで、そのもんざえモンは?」
「話せば長くなるけど……とりあえず、次のエリアに行かないとマズいな。光子郎に空、頼む」
「わかってるわよ。みんな、お疲れさま」
こうして、ムゲンドラモンとの戦いは幕を閉じた。彼らが空を飛んで次のエリアに進む際、赤色の巨体が見え、手を振っておいた。彼らもそれが目に入っていたらしく振り返してくれたが……次に会えるのはいつのなるのか。
「今度また、お礼言わないとな」
「ええ……いてくれたら心強かったんですけど」
「そうだけど……これは俺たちの闘いなんだ。だったら、誰かに頼ろうとしないでみんなで力を合わせて先に進もう」
決心を新たに先へと進む。
次に待ち構えるのは、最強のダークマスターズ。ピエモンだ。
マサキさんと三体の戦いはどうなったのか?
圧勝過ぎたんでカット。
作中ではほとんど語っていませんが、もっとヤバい状況を乗り越えています。
リリスモンとの戦いもリリスモンのネームバリューが凄いので彼女単体っぽく登場人物が語っていましたが、もっとヤバいのを含めた集団として戦っています。
……この時点でわかる人にはわかるんだろうなぁ…………
今後語る機会があるか微妙なので、今のうちに。