デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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ついに50話到達よー。


50.大進撃! 都市解放戦の始まり

 結局、太一は眠ることが出来そうにないとみんなから少し離れて夜風に当たることにした。

 空を見上げてみれば、そこには地球が映し出されている。

 

「……俺、どうしたらいいんだろう」

「悩んでいるなぁ、少年」

「――なっ、マサキさん!?」

「おいおい。大声出すと起きちまうぞ」

 

 口に指をあてて、静かにしなと言う。太一も慌てて口をふさいで皆の方を見てみるが……どうやら、誰も起きた様子はない。ほっと肩をなでおろすと……今度はなぜ彼が起きてきたのかが気になった。

 

「なんで、起きて……」

「悩んでいるみたいだったからな。ついでに、あの空のことも気になるし……昼間は分かり難かったが、今こうしてみるととんでもないことになってんなぁ……」

「ダークマスターズのせいで時空が歪んで……こんなことになったんです」

「俺が年上だけど、別に堅苦しくしなくていいんだが……ま、君がそうするならいいけどな。しかし、知らない間に世界はとんでもないことになってたんだなぁ」

「……」

「なあ、何を悩んでいるんだ?」

「…………」

 

 太一は言うべきか言わないべきか悩む。あったばかりの人に話すことでもないし、自分でもどうすればいいのかわからない。そんな様子を見たマサキは首筋をトントンと叩きながら、何を話すべきかと思案し――ポンと手を打った。

 

「そうだ、一つ昔の話をしてやろう」

「昔の話?」

「ああ。まあ、俺がこの世界に来たばかりのころ……ちょいと後悔したことがある」

「後悔?」

「――スーパーファミコンやってみたかったな、って」

 

 がくりと太一は肩を落としてしまう。この人、いきなり何をいいだすのか。

 

「っていうかそれもう10年近く前のゲームですよ……」

「いやぁ、一度空気をかえようかと。そうか、向こうじゃそんなに経っているのかぁ……古崎の野郎くたばってくれてると助かるんだが」

「古崎?」

「いけ好かない男だよ。君らも気をつけな。特に、アイツにデジモンを見せたらどうなることやら……」

 

 心底嫌だという顔でその人物のことを話すマサキ。本当に嫌な相手らしい。苦虫をかみつぶすとはこのことか。

 

「マサキさんがこっちに来たのって……」

「90年だな。今は何年だ?」

「99年、8月3日でした」

「…………浦島太郎ってこんな気分なんだな」

 

 どこか遠くを見るようにつぶやくマサキ。その横顔を見て何かを言うべきかとも思う太一であるが、何も言葉が出てこない。

 

「……さて、本題だ。何を悩んでいるんだ? なーに、ここはお兄さんに話してみな」

「お兄さんって……俺、不安なんです」

 

 太一の頭の中に今日の出来事がグルグルと回り続ける。いや、それだけでは無い。仲間たちも別々に行動し、自分がどうしたら良かったのか。タケルたちまで危険な目に合わせて、自分が情けない。

 

「正しいと思った行動をして、それで結局みんなを危ない目に遭わせて……今日だって、マサキさんたちがいなかったらと思うと…………それに、妹の風邪がぶり返して倒れたとき、俺が出来たことなんてほとんどない。カノンが風邪薬を持ってきてくれていなかったらどうなっていたか。看病をし続けてくれたのだって空だし、俺が不安な時助けてくれるのは光子郎で……俺、助けられてばかりだなって」

「…………君は凄いな」

「な、何でですか!? 俺、助けられてばかりで自分が出来たことなんてほとんど……」

「いいや。君は凄いよ。仲間のことをしっかり見ている。誰がどんな時に何をしたのか。しっかりと見て、学習している。人間、他人のいいところを見ることは出来てもそれを認めることは難しい。人ってのは自分を良く見せようとする生き物だからね」

 

 マサキの瞳に灯る色が変わる――いや、これこそが彼の本来の色なのだろう。知性的で、長年生きた賢者のような雰囲気を纏っている。

 

「たしかに君の言う通り、今回出来たことは少ないのかもしれない。でもね、君が取るべき行動は何かを直接行う事かな?」

「……」

「分かっているはずだ。君がやるべきことは決まった形はない。なぜなら、君は先陣を切る者だからだ。後に続く仲間の道を作っていくのはとても困難で勇気のいることさ。今も不安なのは、ムゲンドラモンとの戦いをどうすればいいか悩んでいるから――そうだろう?」

「――はい」

 

 マサキは太一の頭をくしゃくしゃと撫でると立ち上がる。体をほぐし、空を見上げた。

 

「俺の仲間たちも待っていることだし、こっちに長居をすることはできない。それに、この戦いは本来君たちのものだ。君たちが、乗り越えるべきものだ……それを大人の俺が代わりにやっちまったら、嫌だろう?」

「嫌だろうって……」

「男なら、自分でやってこそだ。それに仲間に頼るのは悪いことじゃないさ……俺も結構助けられた口だしな」

 

 そう言ってニカッと笑う。

 太一にとってのトラウマ。それはかつて自分のせいでヒカリが生死の境をさまよったこと。今回の件でその時の出来事が何度も思い返されていたのだが……パンと自分の頬を叩き立ち上がる。

 

「ありがとうございます……いつまでもくよくよしていたって仕方がない。前に、進まないと…………」

 

 拳を握り、決意を新たにする。乗り越えなくてはいけない。過去も、今も。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌朝、全員で作戦会議を行うこととなった。

 

「みんな聞いてくれ。たぶん、このまま逃げていても状況は悪くなる一方だと思う。俺はこっちから打って出ようと思っているが……みんなの意見を聞かせてほしい」

「僕は賛成です。アンドロモンとも話をしたのですが、あれでもムゲンドラモンの軍勢の一部だそうです。それに、何か秘密兵器らしきものも存在しているそうなので……叩くなら、奴らが僕たちを探しているこのタイミングしかないと思います」

「……正直、私は危険じゃないかと思う」

 

 空の言う通り、危険なことには変わりない。いや、もしかしたら真正面から行っては一方的にやられるだけかもしれないのだ。

 

「太一、何か作戦はないの?」

「…………一つ、思いついたんだが……」

「太一さん?」

 

 太一の脳裏によぎるのは昨日の戦闘。確認をとった方がいいと判断し、アグモンに声をかける。

 

「なぁアグモン、お前の攻撃をムゲンドラモンは防ごうとしたよな?」

「うん。ぼくもそう思ってたんだ。仲間を盾にしてでも防ごうとしてきて、変だなぁっておもってたけど」

「――よし、勝機が見えた」

「…………そうか、ドラモンキラーですね!」

 

 そこで光子郎も気が付く。ドラモン系デジモン特攻武装であるドラモンキラー。デジコアの竜因子が高いデジモンの多くはドラモンと名がついている。すなわち……

 

「ムゲンドラモンにも効果を発揮するってわけだ。だからアイツはウォーグレイモンの攻撃を防ごうとしていたんだよ。だったら、ウォーグレイモンを送り届けて一撃でも食らわせることが出来れば」

「勝機がある、というわけですね」

「ああ……問題は、どうやってウォーグレイモンを送り届けると言う事なんだが……」

「でしたら、いい案があります」

 

 そこでアンドロモンが光子郎のパソコンに地図データを表示させる。サイボーグ型のデジモンだからこそコードで機械と接続が可能ゆえの裏技だ。

 

「あの街には地下都市があります。ワタシも昨日はそこに潜入していたのですが、偶然ではあるもののムゲンドラモンに見つかってしまいました」

「地下都市か……うまく使えればなんとか行けるか?」

「でもムゲンドラモンに見つかっているんだよね?」

 

 タケルの言う通りだ。ムゲンドラモンに知られているのなら、再発見されるリスクも高い。

 

「だったら、俺たちが手伝ってやるぜ」

「マサキさん?」

「俺たちが上の都市で派手に暴れてやる。つまり、囮役をやってやるよ。アイツらも相棒を警戒しているだろうしな」

「でも、危険なんじゃ……」

「たしかに数が多いとちと厳しいな……俺も成熟期相手なら殴り飛ばせるんだが、完全体以上は骨が折れる」

「この人間か疑いたくなる感じ……誰かを思い出しますね」

 

 今頃は何をしているのでしょうかと光子郎はぼやく。ちなみに、現在光子郎の脳裏によぎった人物は試練の真っ最中だったりする。

 話が少しそれたものの、現状ではその作戦が一番いいだろう。しかし、それだけでは危険なのもわかる。

 

「……よし、光子郎と空はマサキさんと一緒に上側を頼む」

「しかしそうしたら太一さんたちは?」

「考えてもみろ。地下でアトラーカブテリモンとガルダモンが戦えるか?」

「たしかに、進化してもそこまで大きくならないデジモンの方が良いでしょうけど……戦力の分散は危険なのでは?」

「俺もそう思ったんだが……あいつ等は空を飛ぶデジモンたちも大勢いるんだろ? だったら追加戦力をそろえられて囲まれる危険性をどうにかしたい」

「……わかりました」

「そうね……結局、それが一番か」

「よし。タケルとヒカリは俺と一緒に地下都市に。アンドロモン、案内役を頼む」

「わかりました」

 

 よしと立ち上がり、再び街を目指す。目標は一つ、ムゲンドラモンだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 街には静けさがある。道中、敵の哨戒部隊がいたもののアンドロモンからもらった地図と光子郎による監視をごまかすプログラムを都市のローカルネットに流すことでやり過ごすことに成功した。

 おかげですぐに都市に入ることは出来たのだが、どうにも嫌な予感がする。

 

「静かすぎる……」

「ええ、それに何でしょうか……このひんやりとした嫌な空気は?」

「――――どうやら、秘密兵器とやらを投入したらしいな」

 

 そこでマサキがあたりを見回し――手ごろな場所を見つけたのか、思いっきり殴りつけた。地面に穴が開き、あまりの出来事に子供たちは目を丸くする。

 

「こっから突入してくれ。5分経ったら埋めるから迅速にな」

「……本当に人間なのかよ」

「見た目以上に年取ってるからな。長年冒険していたらこれぐらいできるようになる」

「ハァ……いちいち気にしていたら身が持たないな。よし、行くぞ!」

 

 太一たちが穴の中に突入し――きっかり5分後に穴をふさいでいく。

 

「これでよし……これから来る奴らはヤバそうだからな。俺たちに任せて君らは上に飛んでいるのを頼むわ」

「ですが、全員で戦った方が……」

「君らはまだ経験が足りないなぁ……まあ仕方がないか。究極体ってのは独特の空気を纏っていてな、そいつが複数もいればこんなひんやりとした気迫みたいなのが漂うんだよ」

「それじゃあ、この体にピリピリくるのは……」

「光子郎はん……どうやら、おそかったようでっせ」

 

 ガシャン、ガシャンと機械が動く音がする。

 すぐに目を向けるが――ミサイルがいくつも飛んできて爆風を広げ、視界をふさいできてしまう。

 

「これは……!?」

 

 煙の中から見覚えのある大砲――∞キャノンが飛び出してくる。まさか、ムゲンドラモンがこちらの来たのかと驚く光子郎であるが、マサキが前にでて大砲に飛びつこうとして、すぐに蹴り飛ばしてその反動で元の位置に戻る。

 そのすぐあと、大砲のすぐ前を炎のカッターのようなものが通り過ぎる。その際、緑色の体が見えたが……どうやら、機械系のデジモンらしい。

 直後に、稲妻がほとばしり煙を吹き飛ばした。それを引き起こしたのは機械で出来たデジモン。黄色いカラーリングに、銀色の腕をもったデジモンだ。背中のタンクのような物体には雷神の文字が書かれている。

 

「あのデジモンは――ライジンモン、究極体!?」

「∞キャノンを持ったデジモンがムゲンドラモンと違う?」

 

 使っている武装は同じだ。長い腕に、四足をしたデジモン。赤色の体で肩に∞キャノンを取り付けていた。

 

「アレはスイジンモン。究極体です……」

「それじゃあ最後の一体。緑色の奴もか?」

「ええ――そうです。名前はフウジンモン」

「秘密兵器……なるほど、骨董品ってところか?」

「骨董品?」

「俺はおそらく大分昔のデジタルワールドを旅していたんだろうが……その頃は究極体ってのは結構いたんだ。今はどういうわけか、そんなにいないみたいだけどな。で、そん時の生き残りか――いや、マシーン型ってことは休眠状態で死蔵されていたのをどこかの誰かが引っ張り出してきたんだろうぜ」

 

 まったく、阿呆なことを考えやがるとマサキは構えをとる。流石に究極体相手に真正面から殴りつけるようなことはしないが……正直なところ、厄介なのが三体もいるとは思わなかった。

 

「お前ら、さっさと行け。こいつらはお前らの叶う相手じゃねぇ……」

「ですが――」

「いいから行け。なーに、子供の背を押してやるのが大人の役目ってな! それに、俺たちを舐めるなよ。この程度の修羅場は、幾度もくぐったさ!」

「……行きましょう光子郎君」

「ですが、空さん!」

「今私たちがやるべきことはこれ以上の戦力をここに集中させないことよ。確かに究極体相手は無理でも、他のデジモンの相手をしてマサキさんの負担を減らすことが出来るわ。それに、太一たちを追う戦力も減らさないといけない」

「――――わかりました。それじゃあ、お願いします!」

「任された!」

 

 戦いが始まる。三体目のダークマスターズ、ムゲンドラモンの軍勢との決戦が。

 それぞれの思いを胸に、自分のなすべきことをするために。

 




こちらも原作よりヤバくなっております。地味に伏線は張っていた戦力強化フラグ。
38冒頭でピエモンが言及していました。

というわけで難易度ベリーハードどころかアルティメットなムゲンドラモン戦、開幕です。

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