デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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名前だけ出ていたあの人登場。そして、裏で起きていた出来事に少し触れてます。


49.放浪者

 デジタルワールドにおいて、デジモン以外の生き物は以外と多い。ゴマモンが時折使役している魚や、ゲンナイ達など様々である。デジモンとの違いは属性データやデジコアを持たないこと――そのため、街のエリアには小鳥のさえずりさえもするのだ。もっとも、それが本当に小鳥に当たる生き物がいるのか、小鳥の鳴き声が再生されているだけなのかは確認をとることはできないわけだが。

 なぜか? それは子供たちの目覚めが唐突なものとなったからだ。

 地面が突如として隆起し、轟音と共に砂煙が上がる。ぐっすり眠っていた子供たちも何事かと飛び起きてしまう。

 

「な、なんだなんだ!?」

「地震でしょうか……いえ、あれは――――」

 

 光子郎が窓をのぞくと、外には砂煙の中に蠢く者が見えた。銀色の巨体、背中についた二門の大砲。

 

「ムゲンドラモン!?」

「なんだって!?」

「太一、何があったの」

 

 空たちも集まり、全員が太一たちが寝ていた部屋に集まってきた。太一はヒカリの様子を見るが、眠気眼ではあるものの、熱は下がっているように見える。

 とりあえずその心配はせずともよさそうだと判断し、自分の頬を叩いて気合を入れた。

 

「太一?」

「よし……外にムゲンドラモンが現れた。急いでこの場から――」

「待ってください!」

 

 離れるぞ、と太一が言葉をしめようとした時だった。光子郎が待ったをかける。アグモンが鼻を動かして何かを感じた表情になり、戦闘を行おうと腕を回し始めた。

 

「どうしたんだ、光子郎?」

「ムゲンドラモンと戦っているデジモンがいます……アンドロモンです!」

「なんだって!?」

「この感じ、ファイル島にいたアンドロモンだよ!」

 

 アグモンが光子郎の言葉に続き、太一の中で葛藤が生まれる。心情としては助けに行きたい。しかし、今後のことを思えば一度離脱するべきだとも思うが……

 

「太一さん……」

 

 その時、タケルが太一の腕をつかんだ。名前以外には何も言わないが、その瞳は揺れていて何かを伝えようとしていて――再び、太一が自分の頬を叩く。

 何を迷っているのだろうか。

 

「アンドロモンを助けるぞ!」

「はい!」

 

 外へ飛び出し、ウォーグレイモンとアトラーカブテリモンがムゲンドラモンへ突撃していく。どうやらムゲンドラモンにとっても子供たちがいたことは誤算のようで体を押されてしまい、アンドロモンの身が自由になった。

 

「無事かアンドロモン!」

「あなた方は――ご無事そうで何より」

「そっちも大丈夫みたいだな。いけ、ウォーグレイモン!」

「ああ……ブレイブトルネード!」

 

 ウォーグレイモンの体が高速回転をはじめ、ムゲンドラモンへと迫る。しかし、どこから現れたのかガードロモンたちが現れてウォーグレイモンの進路を阻む。成熟期では歯が立たないため、当然彼らは消えていくが数が多い。さらに、メガドラモンとギガドラモンという、サイボーグ型のデジモンが現れてウォーグレイモンの動きを封じようとする。

 アトラーカブテリモンも応戦するものの、メカノリモンが群がり、タンクモンという戦車のようなサイボーグ型のデジモンが砲撃を続けて手が回らない。

 ドラモンキラーの作用により、ウォーグレイモンへ絡みつこうとした二体は倒されるが――ムゲンドラモンのチャージが終了した。

 

「∞キャノン!」

「――ッ」

 

 ウォーグレイモンの回転とムゲンドラモンの砲撃がぶつかり合い、爆発が起きる。幸い退化はしていなかったものの、ウォーグレイモンが弾き飛ばされて地面へ叩きつけられてしまった。

 その様子に握りこぶしを作る太一であるが、一筋縄でいかないのは予想通りだ。

 

「アンドロモン、他に仲間はいるか?」

「いえ、私は一人でレジスタンス活動をしていましたので……運悪くムゲンドラモンに見つかりこのようなことになりました」

「よし、空!」

 

 太一が叫ぶと、後ろの林からガルダモンが飛び出す。すぐさま太一たちを回収し、アトラーカブテリモンに群がっていたメカノリモンを蹴散らして飛び去ろうとする。初めから二段構えの作戦だったのだ。ウォーグレイモンがムゲンドラモンを倒しきれなかったときはすぐに離脱し、体勢を立て直すという手筈なのだ。

 メカノリモンはすぐに吹き飛ばされ、タンクモンもガルダモンが蹴り飛ばした。ガルダモンの肩にはエンジェモンとエンジェウーモンが控えており、それぞれが援護をしている。

 

「状況が悪い! 離脱するぞ!」

「――逃がさんぞえらばれし子供たち」

 

 ムゲンドラモンの言葉に合わせて、更に状況が変化する。

 上空に金色の巨大な物体や、大きな飛行船のようなものがいくつも現れたのだ。更に、そこからたくさんの黒い点が飛び出してくるではないか。

 

「あれはバルブモンにブリンプモン!?」

「知っているのかアンドロモン?」

「……どちらも中に多数のデジモンを搭載可能なデジモンです。特に、バルブモンの搭載数は他の乗り物デジモンと比較しても多い。それが複数も……軍団が舞い降りてきます」

「なんだって!?」

 

 上空は包囲された。すでに地上も新たな軍勢が地下から湧き出てきている。

 さらにはムゲンドラモンまでもが目の前にいるのだ。

 

「これでチェックメイトだ。おとなしく倒されるがいい」

 

 ムゲンドラモンの背中にエネルギーが集まっていく。数秒の時間があるが――その時間がひどく長く感じられた。

 

「すいません、私のせいで」

「いやアンドロモンのせいじゃない……全員でムゲンドラモンを攻撃するべきだった。俺のミスだ」

「ううん。太一のせいじゃない」

「そうです。太一さんは本当に短い時間で有効な作戦を考えてくださいました……」

 

 唇をかみしめ、死の瞬間が今にも迫ろうとして――

 

「お兄ちゃん……」

「ヒカリ、ごめんな」

「ううん……手、握ってて」

「ああ――」

 

 もはやこれまでなのか。そう思った……次の瞬間であった。

 バチリと電気が走る音が聞こえ、子供たちが振り向こうとしたときにはムゲンドラモンが吹き飛ばされてしまう。

 

「な、何なんだいったい!?」

 

 あまりの出来事に茫然となるが、追撃は終わらない。空を飛ぶデジモンたちも地面からの砲撃に吹き飛ばされ、蹴散らされていく。

 チャンスは今しかない。しかし、この砲撃の嵐の中を飛び交えばどうなるのかわからない。

 彼らが悩んでいる、そんな時であった。

 

「――――何が起きているかはわからねぇ。久々のデジタルワールド、大きく変わっちまったが……まあ、それはご愛嬌。こちとら根無し宿無しただ一人と一匹の、旅人でェ」

 

 足音がこちらへと聞こえてくる。

 煙の中から少年とも青年ともつかない外見の男が歩んできた。所々ほつれたジーンズに長年着ているのであろうジャケットが目に入る。みすぼらしいというわけではなく、まるで傷跡だ。長年戦い続けたもの特有の空気を纏っているのだ。

 

「見たところ、同じ人間さんだ。久々のデジタルワールド、暴れるぜ相棒!」

「おうよ!!」

 

 彼の背後からムゲンドラモンに匹敵する巨体が躍り出る。全身は機械の体で赤い色をしている。よく見てみれば、錆のようなものにおおわれているのだ。

 背中には巨大な大砲を背負っており、それでデジモンたちを吹き飛ばしたのだろう。

 

「もう一発、デカいのをお見舞いしてやんな!」

「テラーズクラスター!!」

 

 背中か極太のビームが放射され、デジモンたちを蹴散らしていく。あまりの出来事に子供たちは唖然とすることしかできないでいた。

 一仕事終えたかのように男はでこを腕でぬぐい、子供たちを手招きする。

 

「お前ら! ぼーっとしてないで速くこっちにこい! 流石に俺たちも全部相手にするのは面倒だからよ! とっとと逃げるぞ!」

「え、逃げるってどこへ!?」

「んーとりあえずついてこい!」

 

 一体何者なのだろうかと疑問は尽きないが、悪い人ではなさそうなのは分かった。

 とりあえず、子供たちは彼の後をついていくが……人間であるはずなのに、デジモンと同じスピードで走れる彼はいったい何者なのだろうか?

 

「あなたはいったい……」

「俺か? 俺の名前は杉田マサキ。旅人さ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その日の夜のことだ。なんとか窮地を脱した子供たちではあるが、やはり目の前の男――杉田マサキのことが気になるようで、なんて切り出すか悩んでいた。そんな中、ヒカリが前に出てマサキに頭を下げる。

 

「危ないところを助けてくれてありがとうございました」

「なに、困ったときはお互いさまってね」

「いや……本当に助かりました、ありがとうございます」

「別に堅苦しくしないでいいぜ。まあ、これでも30は過ぎていると思うけどな」

「え――冗談、ですよね?」

 

 彼はどう見ても高校生ぐらいなのだが……どうみても30過ぎのオジサンには見えない。

 

「俺はずっと人間界とは違う世界を旅していたからなぁ……時間の流れが違うんだっけ? そのせいなのかこんなふうに見た目は年取らないんだよ。まあ、元々向こうに帰るつもりはないからいいんだけど」

「ずっと旅をしているって……家族が心配しないんですか?」

「うーん、家族はいないんだけど……いけ好かないやつと顔を合わすつもりもないし」

「いけ好かないやつ?」

「いや、こっちの話」

 

 それだけ言うとマサキはでかい肉にかぶりつく。どこから取り出したのかはわからないが、彼がもっていた食糧だ。ほれ、食べなと子供たちにも渡してきたが……

 

「いや、デカ過ぎんだろこれ」

「ははは……」

「それにしても、大きなデジモン」

「ぼくたちも知らないデジモンだよ」

 

 アグモンたちもこんなデジモンは見たことが無いと口々に言う。別のデジタルワールドのデジモンなのか? そう思って光子郎がアナライザーで調べると――思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「ええ!?」

「どうしたんだよ?」

「ら、ラストティラノモン……ティラノモンの最終進化形態。究極体です」

「――こいつがティラノモンの最終進化形態!?」

 

 ティラノモンといえばえらばれし子供たちも何度か戦ったことがある相手だ。亜種もそれなりに多く、ヴァンデモンの配下にも一体いたほどである。

 しかも究極体とは……

 

「でも、ウィルス種のデジモンなんですね」

「? それがどうかしたか? 俺の仲間には属性なんて気にしている奴はいなかったぜ」

「仲間って……他にも仲間がいるんですか?」

「おう。今はみんなでちょいと大きな戦いの準備をしていてよ、俺はこっちにある宝石を手に入れるために戻ってきたんだ」

「宝石、ですか?」

「ブルーディアマンテっていう珍しい宝石でな、向こうじゃ手に入らなくてよ……こっちにならあるかなと思ったんだが、まさかこんなことになっていたとはなぁ」

 

 いやぁ、まいったまいったと頭を掻くマサキ。あまりにも軽い様子で子供たちは皆拍子抜けしてしまう。

 と、そんな様子に気が付いたマサキは話題を変えるべきかと思案し……

 

「そういえば、お前もアグモンを連れているんだな。俺とは違って黄色だけど」

「お前もって……もしかして、そのラストティラノモンが?」

「ああ。最初はこいつもアグモンだったのさ。まあ、色は黒かったが」

「黒いアグモン……出ました。ウィルス種のアグモンみたいですね」

 

 そのラストティラノモンであるが、ぐぅぐぅと寝息をたててぐっすり眠っている。どうやら子供たちのパートナーとは違って退化はしないようである。

 

「マサキさんもデジヴァイスを持っているんですか?」

「デジヴァイス……ってなんだ?」

 

 力強くそんなことを言うマサキにがくっ、とずっこけてしまう太一と光子郎。突然現れて戦況をひっくり返した凄い人、という認識だったのだが……どうやら結構な天然らしい。

 

「えっと、僕たちが持っているこれです。僕たちはこのデジヴァイスの力を借りてデジモンたちを進化させているんです」

「ほへぇ、それで成長期に戻るのか……そっちのアンドロモンは?」

「私は彼らと協力関係にあるデジモンで、だれか特定のパートナーというわけではありません」

「なるほどなるほど……まあ、似たようなものは持っているかな」

 

 ほれ、と彼は腰につけていたキーホルダーを光子郎に投げ渡す。いきなりで驚いたが、小さなものであったし難なくキャッチしてその機械を眺めてみる。

 

「これって……さらに小さいデジヴァイス?」

「俺はペンデュラムって名付けた。俺がこっちにきた最初のころに作った機械で……まあ、色々なことが出来る。簡易的だがデジタルワールドの地図を表示したり、デジモンの状態を調べたり、出会ったデジモンの情報を記録して名前ぐらいはわかる」

「他にも、時計機能とか色々入っていませんよね?」

「よくわかったな。入っているぞ」

 

 ……それ、僕たちのデジヴァイスにも似たような機能が多数入っていますが…………という言葉が出てきそうになったが、光子郎はそれを呑みこんだ。

 

「おい、光子郎。俺たちのデジヴァイスの方が多機能だけど……言わなくていいのか?」

「たぶん、マサキさんが旅している世界とこの世界では時間のずれがあります。おそらくこちらの方が速く流れているんでしょう……彼はデジヴァイスが誕生する前のデジタルワールドを旅していたんですよ」

「なんでそんなことがわかるんだよ」

「デジヴァイスは聖なるデバイスとして伝説が残っています。旅をしていたのなら耳にしていると思いますし……それに、機能を聞いてみてわかりました。おそらくは僕たちの使っているデジヴァイスにはこのペンデュラムのデータが流用されています」

「それって……」

「まあ、今は気にしても仕方がないでしょう」

 

 そう言って光子郎はペンデュラムをマサキに返す。

 結局、答え合わせをするには判断材料が足りないのも事実。それでも、真実に一つ近づけた。

 

「僕にはそれがうれしいので……しかし、カノン君がいてくれればもう少し何かわかったかもしれませんね」

「カノン?」

「どうかしたんですか?」

「その名前聞き覚えがあるような、ないような……うーん? そいつもパートナーを連れているのか?」

「ええ。太一さんのアグモンと同じく、究極体に進化が可能だったんですが……今は諸事情で別行動中です。パートナーはドルモンという成長期ですね」

「究極体の姿は、黒い騎士か?」

「? いえ、ドルゴラモンという巨大なドラゴン型のデジモンですけど」

 

 正確には獣竜型なのであるが、見た目は完全にドラゴンなので光子郎はそう言った。他に、銀色や鉄の属性の攻撃を得意とするなどと情報を加えるものの、マサキの眉間にしわが寄るばかりだ。

 

「あの、どうかしましたか?」

「いや……前にあったことがある奴かななんて思ったんだが…………そいつのデジヴァイスもお前らと同じ形なのか?」

「はい。そうですよ」

「なら違うか。俺が出会ったドルモンのパートナーは板みたいな感じの機械を持っていたからな……アレもデジヴァイスって名前なのかは知らないけど」

「まだ他にもデジタルワールドを旅している人が……その人はどこに?」

「さぁ? あの頃は大変だったからなぁ……俺がこっちに来て一年ぐらいで、世界の危機だとか、Xプログラムだとかよくわからん感じの出来事がたくさん起きていたし。結局、イグドラシルの機能を停止させるためにてんやわんやで……」

 

 いくつか強烈な単語が聞こえた気もするが、マサキはあくびをするとすぐに横になって眠ってしまう。

 

「寝る前にあれこれ考えてもまとまんないぜ。とりあえず、休んでおけ。今はそれが一番大事だ」

「そうですね。太一さん、今は休むのが一番です」

「…………だな。それじゃあ、また明日」

 

 そうしてその日は終了する。遠くまで逃げてきたこともあり疲れからかみんなはすぐに眠りにつくこととなった。

 ただ一人、悩める太一を残して。

 




ちらほらと情報を小出しにしていましたが、イグドラシルは現在機能しているわけではないです。ごく一部の機能のみが例外的に稼働している状態。

マサキはカノンのやるべきことや戦うべき相手をつなぐキーパーソン。彼自身がカノンと直接関係があるわけではないのですが、彼の行動を紐解くことでカノンの使命も明かされる形になっています。

というわけで、今までの話と彼の語った過去からカノンたちの身に今後何が起きるのか予想がついた人もいると思いますが、出来ればそっと胸にしまってください。

……ネタバレし過ぎたかな。

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