モニタモンの頼みというのはこのエリア――ムゲンドラモンの支配領域の先にあるピエモンの支配領域の下の方に統合されてしまっている遺跡にいるバステモンを助け出してほしいということだった。
なんでも、かつての戦いでバステモンは凍結封印されてしまったらしい。そのため、今も生きてはいるが動けない状況にいるのだ。
モニタモンは無事ではあったのだが、あのゲンナイさんがピエモンに何かを埋め込まれた際のごたごたに巻き込まれていたらしく、長らく休眠状態だったとか。
「バステモンには僕も世話になったし、助けに行きたいのは山々なんだけど……」
丈さんたちの方をみる。仲間を集める旅が始まろうという時に僕だけ別行動するってのもなぁ……
「カノン君、デジヴァイスが壊れた状態でドルモンと二人だけで行こうと思っていないかい?」
「あちゃぁ……見抜かれてましたか」
「そのバステモンを確実に助けるためにも、全員で行くべきだと思うんだけど……それでも、自分たちだけで行くというのかい?」
「まあ、個人的なこともありますし。それに、安定を望むものも言っていたじゃないですか。進化にデジヴァイスは必要ないって」
「それって……」
そうだ。デジヴァイスはあくまで進化の補助をしてくれるだけだ。ドルモンの場合は他のパートナーデジモンと違って蓄積された経験も関わってくる。現在のドルモンが進化できないのは蓄積されたデータのバランスが狂っているからだ。
だったらどうにかしてそのバランスを直すことが出来ればドルモンは進化が可能になる。それに、デジヴァイスの修復もバステモンを助け出せればどうにかなるかもしれない。
「バステモンは僕に魔法を教えてくれたデジモンですから……一縷の望みがあるんです」
「……でも、何もカノン君たちだけで行くことないじゃない」
「ミミさんの言う通り、全員で行った方が速いかもしれませんが――何かあった時に、8人がそろわなかったらマズイです」
「度々言っているけど、8人と1人って分ける理由って……」
推測の域を出ないが、デジヴァイスが宿す力が異なることから暗黒の力に対抗するために選ばれたのが8人の子供。つまり、この戦いには僕以外の8人がそろっていなくてはだめなのだ。
「どうにかして進化できるようになれば、すぐに追いつけますから……だから、お願いします。行かせてください」
「…………わかった。元々、止められるような君じゃないしね。でも約束してくれ……必ず無事に戻ってくるって」
「わかってます――それじゃあ、モニタモン案内してく、れ――いてっ!?」
後頭部に何かがひっついてきた。その衝撃で頭が揺れてしまう。
白い触角が垂れてきたことから……どうやらトコモンが頭にへばりついているらしい。
「モン!」
「いや、お前は先輩たちと一緒にいてくれよ」
「ムー!」
「……嫌だと申すか。パンプモンたち、コイツ引きはがしてくれ」
「いいけど、禿げるよ?」
「中止。即刻中止。っていうかトコモンはなんでついて来ようとするんだよ」
「親だと思っているんじゃないの?」
「デジモンに親兄弟という概念は基本的に存在しないハズなんですが」
しかしトコモンを引きはがすことが出来ないのも事実。メタルファントモンだったころの面影が一切ありませんね。なんでここまで懐いているのか……
「致し方ありませぬな。このままいきましょうぞ」
「えー……大丈夫なのかな」
「それでカノン、どうやって行くの?」
「アーマー進化は使えるから……サンダーバーモンが一番手っ取り早いか」
すぐにサンダーバーモンの上に乗りこみ、目的地向かうとしよう。
パンプモンたちは丈さんと共に残り、仲間を集める道へ。僕らはモニタモンの顔に表示されたマップを頼りに進むこととなる。
サンダーバーモンの飛行能力のおかげで空から進むことが出来るわけだが……まずはどっちに行くべきか。
「でしたら、戻ったエリアの空中をお進みくだされ。街のエリアを突き進むとムゲンドラモンの部下に見つかる恐れもありますし」
「なるほど……サンダーバーモン、行けるか?」
「任せてくれ。この程度へでもないさ」
重力データが元に戻っているからエリアを飛び立つときに姿勢が崩れたけど……すぐに体勢を直したあたり、言葉通り大丈夫だったか。
しかし改めてデジタルワールドの状態をみるが……虫食いだらけみたいだな。海は戻っているし、陸地も結構な部分が戻ってはいるが、所々消えているのはまだ二体のダークマスターズが残っているからだろう。
ほどなくしてピエモンの支配する闇のエリアにたどり着く。再び重力データがスパイラルマウンテン側に引っ張られるため、気持ち悪くなる……急に重力が変わるから衝撃もあるし。
「うぷ……」
「とりあえず着陸するぞ」
サンダーバーモンが地面に降り立ち、ドルモンへと戻っていく。
モニタモンが肩を回しているが……こったのだろうか? あと、トコモンは僕の頭の上に乗っかったまま動かない。いい加減降りてほしい。
「つきましたな。それでは、こちらに続いてください――あと、ピエモンの部下にはお気を付けくだされ。強力なデジモンも多くいますので」
「知ってる。前に戦ったことがあるよ。ネオデビモンとか」
「おお、あの軍団のことをご存知でしたか」
「――――は? 軍団?」
え、どういうこと?
「む、ネオデビモンとはどこで戦いましたので?」
「人間界で、襲ってきた一体とだけど」
「なるほど……ゲートを無理やり通れるように改造したのでしょうね。ですので、その一匹だけと戦ったのでしょうが……ピエモンはネオデビモンを軍団で用意しております。お気を付けください」
「マジで……あんなのがまだたくさんいるのかよ」
「他にも様々なデジモンがいます。幸い、デジタルハザードは手に入れられなかったようですが」
「デジタルハザード?」
「このようなマークを持ったデジモンのことです。過去に何体か確認されておりまして、そのうちの一体。邪竜と伝えられているデジモンを確保しようとしていたらしいのですが……」
モニタモンの顔に丸と三角を組み合わせたような図形が表示される。なるほど、ハザードシンボルね。デジタルハザードってことはデジタルワールドそのものの危機になる存在という認識でいいのだろうか?
「おおむね合っております」
「でも、ダークマスターズにはついてなかったな」
「闇だとか光だとかは関係ありませぬ。そのデジモンの持つ力そのものが非常に危険なものである場合に刻まれるものですので」
「力そのものねぇ……」
いったいどういった質の力を指すのかはわからないが、相当危険な存在らしい。
「確保できなかったのは幸いだな」
「ええ。しかし、件のデジモンはデジタマの状態で封印されていたらしいのですが……いずこかに消えたようですね」
「そのデジモンって究極体だったのか?」
「おそらくは」
「……それほどに強力なデジモンだったら、いたらすぐにわかるだろうし…………ダークマスターズももっと積極的に探すはず。なら、今そいつのことは心配する必要はないと思う」
デジタマがなくなっているのなら、孵化しているかどこかへ流れついたのだろうが……ダークマスターズとの戦いが終わった後で探せばいい話だ。今そのことまで考える必要はない。
ダークマスターズが狙っているのなら話は違ったが、ピエモンが積極的に探していないのならとりあえず放置で大丈夫だろう。
「しかし、こちらが積極的に動こうとするとピエモンも動く可能性があるのですが……今更ながら、いきなり突撃して良かったのでしょうか?」
「自分で言いだしたことだろうに……まあ、そこは大丈夫だと思うよ」
「それはまた、何故?」
「ピエモンってかなり昔から生きているデジモンなんだよな?」
「ええ。存在は大分前から確認されております」
「ってことは……事前にアレコレ手を打てたはずなのに打っていないってことだ」
あまりにも長寿過ぎるんだろう。僕たちにとっての一秒が奴にとっての一年、十年なんだ。奴のナイフに刺されたときに、多少だが奴の考えが流れ込んでいた。本当に少しだけだったが、奴が考えていたことを覗き見ているのだ。断片的すぎて解読はできなかったけど、ホメオスタシスに見せてもらった映像やモニタモンの話を合わせれば推察はできる。
「つまり、いつでもできるから後回しにしているんだよ。たぶん、頂上に行くまで動かないんじゃないのか?」
モニタモンの話では、ピエモンは頂上にいるらしいし……ダークマスターズを二体倒しても現れないのがその証拠だ。
メタルシードラモンは血気盛んなタイプ。先鋒にくるのも納得だ。次に来たのはピノッキモン。中身が無邪気な子供な彼は遊び感覚で戦ってきていた。我慢が効かなくて飛び出してきたってところだろう。
次に太一さんたちが向かったのはムゲンドラモンのところだろうが……見た目通りの印象ならば合理的に詰めてくるタイプ。準備を整えて迎撃するってところか?
で、ピエモンはゲームのラスボスのようにどっしりと構えて待ち受けているってところだろう。デジモンたちはデジタルデータから構成されているから、案外こういう”らしい”設定に縛られてしまう生き物なのかもしれない。
「とりあえず、そのバステモンの封印されている神殿って近いのか?」
「ええ、それほど遠くはないですが――たしか、このあたりに目印があったはず」
しかしあたり一面不毛の大地というか……殺風景な地獄って言えばいいのか? 嫌な空気が充満している。
木々も枯れており、生命の息吹を感じない。デジタルデータであるはずなのに、他のエリアには多少なりとも命を感じたのだが……ここにはそれが無い。
「案外、ピエモンにとっては他のダークマスターズすらもどうでもいい存在なのかもしれないな」
「カノン、なんだか悲しそうな顔してるよ」
「モーン……」
「そうか?」
悲しそうな、顔か……
◇◇◇◇◇
モニタモンの言っていた遺跡というのはすぐに見つかった。話に聞いていただけではどういう状態なのかはよくわからなかったが……なるほど、これは厄介だな。
「わかりましたか?」
「ああ、スリープ状態……というよりは、電源を切られたパソコンみたいな…………データはあるんだけど、起動できない状態にあるって感じかな」
「カノン、戻せるの?」
「……まずはデジタルワールドのリンクを復旧させる必要がある。解凍もしないといけないし…………とりあえず、遺跡の中の改造から始めるか」
「改造、ですと?」
使えるリソースは全て使わないといけないだろう。
とりあえず壁画データを崩して、別のデータへ書き換えていく。こる必要はないから基盤そのままでいいか。
「随分と腕を上げられましたな」
「力をくれたデジモンがいたんだよ。まあ、他にも色々とね……とりあえず配線を作ったから僕の指示通りに繋いでいってくれ」
みんなの手を借りてコードをつないでいき、この遺跡を解凍を行うための施設へ作り替えていく。途中、ケンキモンでバステモンの入っている水晶を運びながら場を整えていき、準備が終わるころには丸一日が過ぎていた。
なかなか手こずったし、結構時間もかかったからトコモンは熟睡している。ドルモンも眠気が強くなってきたらしく、うとうとしていた。
「先に寝ていいぞ。どうせ解凍はひと眠りしてからになるだろうし」
「……ううん、手伝うよ」
そうか、と返事をして作業を続ける。
しかし長い間バステモンを閉じ込めていた水晶だけど……少しサンプルをとることが出来た。詳細は分からないが、かなり特殊な物質らしい。なんというか、デジタルワールドのデータのはずなのにこの世界由来のものとは思えないような何かを感じる。
「……これ、使えるかもな」
「? どうしたの」
「いや…………何が回り巡ってくるかわからないなって思ってさ」
準備はほどなくして終わり、僕らは眠りにつくことに。
今頃みんなはどうしているだろうか? 太一さんたち、無事だといいけど……
翌日の朝、ついに解凍を行うこととなった。
見た目は転送装置っぽくなってしまった解凍装置だが、ちゃんと使えればいいのだ。
「なんか不安になる見た目だね」
「それを言うなドルモン。モニタモン、始めるけど準備はいいか?」
「分かっております。お願いします、カノン殿」
「オーケー。デジメンタルをセットして、準備は完了」
エネルギーの確保にはデジメンタルを直接用いることに。装置を起動させて、解凍を行う。解凍というよりは凍結に使われている水晶とバステモンを分離させると言った方が正しいのだが、見た目的に解凍と言った方がいいか。
エネルギーの供給が始まり、水晶が発光を始めた。バチバチと電気がほとばしり、データの分離が開始される。
「……カノン殿」
「安心しろ。制御は問題ないし、ちゃんと水晶データも剥がれている」
ほどなくして、データの分離が終わった。発光が終わると白い煙があふれ出たが……視界が悪くて成功したかがわからない……
「バステモン様!」
「――――」
「バステモン! 無事なら返事をしてくれ!」
煙が立ち込めて確認できない――だが、返事がない。まさか失敗? そんなことが頭をよぎった時、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
煙も晴れると、バステモンが気持ちよさそうに寝息を立てているではないか。
「……バステモン様」
「そういえば、初めて会った時もこんなだったな。好意的に見るなら、スリープすることで自分のデータを守ったってことなんだろうけど……」
ま、成功してよかった。
それに……水晶データもキッチリ確保できたし。
機材も作れそうだし、何か知っているかもしれない人もいる。
いよいよデジヴァイスの修復に乗り出せそうだ。
カノンは再び戦えるようになるために、えらばれし子供たちとは別行動に。
ダークマスターズ後半戦は別メンバーの様子も描写します。