デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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前半はギャグ回となります。


43.刻まれたデータ

 あれは、いつの話だっただろうか。

 僕の親戚にはいわゆるオカマ、というより怪物がいて……別に人の趣味にとやかく言うつもりはないし、そういう価値観もあるよねと思っていたんだが…………

 あの怪物がいけないのだ。いきなりハグしてきて処理の甘い青髭でじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょり――――ああ、身の毛がよだつ。

 しかも危うく口にはだせないことになりそうで……ううっ(ただのキスです)

 お前けに服を脱がされそうになって……気持ち悪くなってきた(ただ風呂に入れられそうになっただけです)

 あの時から男なのか女なのかどう判別していいのかわからないナマモノと遭遇すると、僕は体中に鳥肌が立って混乱してしまうようになりました。

 

 ちなみに、見た目が完璧にどちらかに判定可能なら平気です。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「……あはははははは」

「ヤバい、カノンが壊れちゃった」

「ちょっと大丈夫なのカノン君!?」

「カノンって、見た目がアレなオカマさんとかムキムキな女性ボディビルダーとか、性別判定が難しい感じの相手に出会うとエラー起こしちゃうんだよ」

「でも確かにアレは関わりたくないタイプだけど……」

 

 一行(いっこう)の目の前には究極体のメタルエテモンが歌にのせて自分がなぜよみがえったのか語っている。

 要約すると、メタルグレイモンとの戦いで暗黒世界に流れ着き破壊と再生を繰り返し続けた結果、現在の姿へ進化することが出来たという話だが。

 ほとんど逆恨みだが、その執念は本物だ。いや、怨念と言ってもいいかもしれない。

 そのすさまじいまでの思いが彼(彼女?)を一つの境地へたどり着かせ、今こうして次元の壁を突き破って舞い戻らせるまでに至ったのだ。

 

「センキュー!」

「誰も呼んでもいないし感謝もしていないけど」

「……あ、もう終わった?」

 

 あまりのアレさにピノッキモンも呆れていたが……メタルエテモンはまだまだ好き勝手している。

 

「まだ終わりじゃないわよ。ボウヤ」

「ぼ、ボウヤだって!? ボクをバカにすると――」

「邪魔ねぇ、バナナスリップ!」

 

 メタルエテモンがバナナを投げ、ピノッキモンが見事にそれにひっかかる。まるでコントのようだ。

 

「よくもやってくれたなぁ!!」

 

 それに怒ったピノッキモンがハンマーをメタルエテモンに叩きつけた。

 それも脛に。

 

「ミョガ!? ――い、痛いじゃないの!!」

「やーいやーい」

「この、へこきアタック!」

 

 ブォオオと下品な音と共にあたりに悪臭がまき散らされる。丈達もこれには苦い顔をするのみ。というかもはやコントそのものになってきており、二体の究極体(バカ)はえらばれし子供たちのことなど目に入っておらず、お互いに戦い始めた。

 

「あはは――はははは!?」

「ヤバい、カノンがもうヤバい」

 

 カノンは魔力を放出させ、手にナイフを出現させる。それを見たドルモンは一瞬、とても驚いた顔をするがすぐに正気に戻り、カノンの首根っこをつかまえた。パンプモンとゴツモンも飛びつき、ひょいと持ち上げる。

 丈たちも今がチャンスだとすぐに逃げ出す。メタルエテモンとピノッキモン共に互いしか目に入っておらず、不毛な争いは続くのみである。

 

「なんで僕たちあんな奴らに苦戦していたんだろうか」

「丈先輩、言わないでください。かなしくなるから」

 

 思わずミミも真顔になってしまうほど、くだらない争いを続ける二体だった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 気が付くと、木の洞の中だった。どうやらキャパシティーをオーバーしてしまっていたらしい。

 

「この借りは必ず返すからな」

「もう、別にそんなの気にしなくていいのに」

 

 前を見ると、オーガモンとミミさんが言い争っていた。いや、そこまでのものではないが。

 案外律儀な奴らしい。

 

「いや返させてもらう。出ないと俺の気が済まねぇんだ。仁義は通さなくちゃいけねぇ」

「仁義って、おひけぇなすって奴?」

「あら、時代遅れ」

「どうせ俺は古いデジモンでぇ」

「――――オーガモン、デジタルワールド古来より存在する種である。また、イリアスのデータの一部を持つためタ――モンへと至る可能性を秘めている」

「あれ? カノン君、目が覚めて……」

「どうも様子がおかしい。ピエモンの剣を出したことといい、何かが変だ」

 

 どうも頭がすっきりしない。というかなんで僕がピエモンの剣を出せるんだろうか?

 さっきから何かがかみ合わない。

 

「っていうか、イリアスって?」

「デジタルワールド・イリアス。別次元(サーバー)に存在するデジタルワールドの一つ。サーバー管理者――――現在、閲覧不可。守護者(セキュリティ)、現在不明」

「まるで機械みたいというか……コンピューターみたいなしゃべり方になっている…………オーガモン?」

 

 なぜだ。何故オーガモンは僕を怖がっているのだろうか? いや、ありえないモノを見ているような感じだ。

 

「嘘だろ……コイツ、なんでこんな状態になってやがるんだ!?」

「ちょ、静かに! メタルエテモンがまだうろついている」

 

 ……自分の状態がいまいちよくわからない。ドルモンのデータのバランスが狂っているように、僕も何かが狂っているのだろうか? 体を動かそうとするが……手は動いてくれる。

 とりあえず文字を魔力で作ってだして会話をしてみるか。

 

「オーガモン、何か知っているのか?」

「……コイツ、イグドラシルに接続していやがる」

「イグドラシルって?」

「この世界の管理者だったモノって話だ。俺もデビモンから聞いた話だから詳しくは知らない。ただ、俺たちは本能的にそいつに対して萎縮しちまうんだよ。イグドラシルには善も悪もない。本当に機械みたいな存在だって話だからな」

「そういえば俺たちもヴァンデモンに聞いたことがあるような?」

「あんまり覚えていないけど、今のカノンは近づきたくないなぁ」

『なるほど、そいつに体の自由を乗っ取られているのか』

「……カノンくん!? 意識があるのかい?」

『なんとか……体が動かせないですけど、意識はありますよ』

 

 みんな驚きはしているが、一応意識はあることにほっとしてくれていた。

 

「それじゃあ、どうやったら元に戻れるかはわかる?」

『それがわかったら苦労はしないんですが……』

「検索――該当項目発見。橘カノンのデータにピエモンのデータが混入しています。解決方法、デジヴァイスのエネルギーの注入が最も効果的」

『――――って、体の方が勝手に解決策をたたき出した!?』

「体って言うか、イグドラシルだな。この世界のことがすべて記録されているって話らしい。もっとも、そこへ行くことはできないが」

「なんでそんなすごいものがあるのに? デビモンやヴァンデモンも知っていたなら手に入れようとするよ思うんだけど」

「この世界の根っこみたいなものなのが一つ、もう一つは普通のデジモンじゃいくことが出来ないんだとよ。というより、もう既に破棄されていて生きたまま行くことはできないんだ。俺たちは死んだらデジタマになっちまうから、どのみち行くことはできないしよ」

「なるほど……ほとんど不可能だから手出しはできなかったわけか」

「破棄されていて、使うことが出来ないって方が理由としては大きかったと思うがな。でもよ、解決方法が分かったんだから何とかしてやれよ」

「ああそうだった! ミミ君」

「うん――」

 

 丈さんとミミさんが僕に向けてデジヴァイスを掲げ――光が僕の中に入ってくる。同時にピエモンのデータが反応し、中和されていくのを感じたが……ダメだ。完全に消すのはマズイ。

 光をある程度受け取ったら、今度はそれをシャットアウトするようにしていく。

 

「カノン君!? なんで拒むんだい?」

「普通ならそれでいいんですけど……僕の場合はマズそうですね。どちらかにより過ぎてもダメっぽい」

 

 相反しているわけじゃない。バランスをとらないとダメなのだ。

 片方だけになっても一応は解決するだろう。だが、嫌な予感がした。聖なる力だけになった瞬間に僕が僕じゃなくなるような予感が。

 

「……とりあえず大丈夫ですんで」

「なら、いいけど」

 

 イグドラシルとの接続もそれで解除されたらしく、情報は引き出せなかった。ちょっともったいないことをしただろうか。

 結局それ以上は話の進展もしないので、今度はオーガモンの話を聞くことに。

 

「なぜレオモンと戦うのかだって?」

「そう、あなたたちの戦いにいったいどんな意味があるのか。それが知りたいの」

「意味なんてそんな難しいこと知らねぇよ」

 

 じゃあさっきのイグドラシルについては何なのだとも言いたくなったが、以前のドルモンやパンプモンたちの様子を思い出して聞くのをやめた。どうもイグドラシルについては知識として最初からある程度インプットされているらしい。

 しかしミミさんも僕たちが考えている以上に前に進もうとしているようだ。

 

「レオモンとは宿命なんだ。永遠のライバルっていうか……」

「じゃああなたたちのどっちかが勝つまで終わらないってこと? それで、勝ったとしてどうなるの」

「そりゃあ、やったって気分になるだろうな」

「それからその後は?」

「その後って……」

「それってライバルがいなくなるってことなのよ?」

「レオモンがいなくなる――――よしてくれ、そんなこと考えたくもねぇ」

 

 悲しことではあるが、オーガモンは元々レオモンの敵対者、というより彼と戦うために進化したデジモンというか…………デジコアの基本情報に刻み込まれていることはそう簡単に覆せない。

 

「レオモンとの戦いは俺の生きがいなんだ。レオモンがいなくなったら、俺は……」

「それって論理的に矛盾しているわ。もっとよく考えないと」

「ええい! そういうことは倒してから考える!」

「結局そういう結論に達するわけか……」

「まあ、それがオーガモンというデジモンなんですよ。種の本能には逆らい難いというわけか」

「? 種の本能って?」

「まあ、僕らの世界のデジタル技術が進歩したらそのくびきからも解放されるかもね」

 

 デジモンの自己進化はすさまじい。それが僕らの世界のデジタル機器の進歩も反映されている結果なのだとしたら、人間界で数年もすれば彼らの基本情報すらも発展していくかもしれない。

 たとえば、同じアグモンでも個体ごとに色々な個性が付与されたりとか。

 

「まだ僕らに言っていない何かを隠していないかい?」

「デジモンはデジタルデータで出来た生命体。だからインプットされている基本情報ってのがあるんですよ。ドルモンみたいに割と自由なのもいれば、オーガモンみたいに生き方に至るまで定められているのまで」

「それって……」

「もっとも成長進化しますので、絶対ではないですよ?」

 

 と、そのとき何かの爆発音が聞こえてきた。

 また誰かが戦闘でもしているのだろうか?

 

「なんだろう? ちょっと見てくるよ」

「あんまり深追いはしないでくださいね。下手したら見つかりますし――」

「みぃつけた♡」

「――まあ、三十六計逃げるに如かず」

 

 すぐさまメタルエテモンに見つかった。というわけで、全員ですぐさま脱走することに。

 急いで走っていくがすぐに追いつかれてしまうだろう。というわけで、すぐに茂みに隠れたわけだが……

 

「どこいったの子供たちー! あとお初にお目にかかるボウヤー!」

「ひぃいいいい……ロックオンされとる」

「カノン、顔が青いぞ?」

「こうなったらゴツモンシールドでなんとかいくしかないのか」

「ヤダよッ」

 

 冗談である。心情的には逃げ出したいが。

 こうなったら先ほどの感覚を思い出してピエモンの剣を再現できないかやってみるしかないか……いや、闇系に闇系ぶつけてもあんまり効果が無いかもい知れない。

 だったら僕の知っている武器データというと……ドラモンキラーは開いてドラモンじゃねぇよ。グレイダルファーはダメだ。意識が消える。あとは……そうだこれなら――

 

「なんでカノン君はウィザーモンの杖を出しているの?」

「全力砲撃なら吹っ飛ばせるかなって?」

「やめておきな。出来て精々成熟期までだぜ」

「だよねー」

 

 自分でも相当慌てているらしい。それでも普段よりとんでもないことをしているような気はするのだが……

 

「パンプモン、完全体なんだから何とかできないか?」

「無理無理無理無理」

 

 うん……わかってはいたけど。チューモンは……ごめん、ゴツモンよりも弱いんだった。

 あとはデジタマが一つ。戦えるわけないっての。

 ダメだ。ドルモンが究極体に進化できない以上、今の戦力だと厳しい。

 

「そういえばなんでお前らデジタマなんてもの持ってんだよ――いや、こんな時に聞くことじゃないけど」

「人間界でいろいろあって回収したんだけど、そんなに珍しいものなのか?」

「いや珍しいっていうか――」

 

 オーガモンの言葉は続かなかった。なぜなら、急に強い力の持ち主が走ってきたからだ。

 奥の森から駆け抜けてきたその生き物は、ライオンに似た姿をしていたが……

 

「今度は何!?」

「な、お前は――」

 

 オーガモンの唖然とする表情。僕もそのデジモンのデータを閲覧しようとして――――え、これって……

 どうやら、話は思ったよりも複雑になっていきそうだ。

 




カノンは復帰しました。
なお、カノンの親戚のオカマについては……ローラーのコーちゃんで調べてみてください。イメージ元です。

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