デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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ヤマト側の話はまるまるカット。ほとんど原作と変わらなかったので。


40.すれ違い狂想曲

 さて、ヤマトさんがどこに行ったのかはわからないがとりあえず探すことに。とにかく前進あるのみと言う感じで、太一さん先頭の元先へと進んでいるわけですが……正直疲れた。

 

「俺たちは9人そろっていないとダメなんだ」

「でもみんな疲れているよ、ここらで休憩にした方が良いと思うけど」

「丈さんに賛成です。それに、8人と1人ですのでそこのところお間違えないように」

「前から思っていたのですが、何故カノン君だけ例外なのでしょうか?」

「さぁ……そろそろ説明してくれてもいいころだろうに」

「カノン君?」

 

 チラチラと見てきている割には、じれったい……ヤマトさんもそろってからってことかね? となると結局見つけなきゃいけないわけね。ハァ、疲れる……

 

「そろったからってどうにかなるの…………」

「ミミさん?」

 

 なんかこっちもダウナーな雰囲気だな、と思っていると嫌な笑い声が聞こえてきた。そういえば何とかは高い所が好きっていうよな……木のてっぺんに人影が見えるよ。

 

「見つけたよ、タケル」

「なんだよ、ボクもう君とは遊ばないよ」

「いいさ、こっちも遊ぶ気はないから――やっちゃえお前ら!」

 

 その合図とともに、三体のデジモンが現れる。バケツの中に入ったピンク色のナマモノ。ガーベモン、完全体ね……えぇ、あれでも完全体なの? と、思ったがパンプモンの例もあるし完全体でもそれほど強くはないのかもしれない。

 

「カノンが失礼なことを考えている」

「顔に出てたか?」

 

 うんと頷かれるが、そうか……顔に出てたか。

 くだらないことを話していると、ガーベモンがバズーカを構えてくる――なんだろう、このくだらなくも嫌な予感は。

 

「ウンチバズーカ!」

「なんだその技は!?」

 

 思わず突っ込んでしまったが、奴の構成情報で少し納得した。どうやらトラッシュデータというかパソコンのゴミ箱機能のデータが基となったデジモンらしい。だからゴミデータを射出してくるわけか……

 そんな考察もそこそこにとりあえず逃げる僕たち。しかし、ミミさんだけがなぜかそのまま動かずに立っていた。

 

「ミミちゃん!?」

「――ッ」

 

 そのまま顔を上げて、あろうことか発射されたピンク色の汚物を鷲掴みにしてしまったではないか。あまりの出来事に口をあんぐりとさせるが……あ、目が据わっている。というかさっきまで落ち込んでいましたよね貴女!?

 

「何よこんなもん! いい加減にしてよね!!」

 

 そのままガーベモンへ汚物を投げ返すミミさん……空さんが引っ張ってくるが、敵も唖然としていて動くことが出来ていない。うん、仕方がないと思う。

 しばらく逃げたら普通に奴らも追いかけてくる。仕方がない、ここは応戦するしかないか。パタモンとドルモンを除くみんなが成熟期に進化し、応戦しようとするが……

 

「アイツら完全体ですよ!」

「マジかよ……でも、全員でかかれば」

 

 奴らもお互いに背を預け合って回転しながら汚物を発射してくるが、こちらも包囲しながら必殺技を放っていく。しかし、そう簡単に上手くいくとも思えない。とりあえず上のがうるさいから目ん玉に銃弾を撃ちこんでおく。

 

「目がぁ!? 目がぁああああ!?」

「カノン……お前、エグイな」

「そうですかね。それよりも来ますよ!」

 

 地面を掘り進んでいたらしきガーベモンたちが後方から出現する。腐っても完全体、速いな。

 そのバズーカがミミさんに迫るが――

 

「ミミちゃんアブナッ――うわあ!?」

「チューモンが投げ飛ばされた!」

 

 小さいからミミさんがもっていたチューモンを突如、こちらへ投げてよこした。僕は手が塞がっているので太一さんがキャッチしてくれたが……ああ、完全にキレているなあの人。

 

「もういい加減にしなさいよ!!」

「トゲモン超進化――リリモン!」

 

 リリモンへとすぐさま進化し、ガーベモンへと迫る。ガーベモンもうまく連携しており、正面からぶつかり合った一体の後ろにもう一体が隠れており、更に三体目も後方から追撃の準備に入っていた。

 ってあの陣形って……

 

「ジェットストリームアタック!? どこで覚えたんだよそんなもの!」

 

 案の定、一体目をかわしたときに二体目が現れるわけだが、すぐさま一体目を踏み台にして飛び上がったリリモンである。

 

「俺を踏み台にしたぁ!?」

「フラウカノン!」

 

 一体がやられる。さて、とりあえず援護射撃で撃とうとするが……弾切れか。捨てておこう。見ると、メタルグレイモンが対処してくれているし……ギガデストロイヤーと汚物砲では威力が雲泥の差だった。もういっそかわいそうなくらいである。

 あともう一体いたのだが、そっちもそっちでかわいそうなことになっていた。

 

「メガブラスター!」

「メテオウィング!」

「アングリ―ロック!」

「トリックオアトリート!」

「ハイパーダッシュメタル!」

 

 袋叩き……それでもしぶとさだけはすさまじく、ガーベモンはすぐさま逃げていった。あと横目で見ていたが、爆風で流れた汚物がピノッキモンの顔にヒットしているのが見えた。アレは嫌だろうなぁ……

 とりあえず追撃した方がいいかと思っていると、凍えるような息吹がガーベモンを襲った。

 

「これは……メタルガルルモンの?」

 

 光子郎さんたちの話だと、紋章が反応しなくなっていたらしいが……ヤマトさん、心の問題を克服したのか? しかし、あの瞳は明らかに危険な色をしている。ミミさんは色々なことが起こり過ぎて落ち込んでいたという感じだが、いつも通りの彼女でもある。

 しかしヤマトさんの瞳は据わっているどころではない。太一さんを睨みつけるように見続けていて、今にも一戦交えようという空気だ。

 

「……太一、俺と戦え」

 

 あちゃ……マジか。

 

「お、おいヤマトどうしたんだよ」

「そうだよメタルガルルモン、そんなに怖い顔をして」

「アグモン、究極体に進化しろ」

 

 しかしいくらなんでもここまでこじれることはないだろうに……誰かに何かを吹き込まれたか? ありそうではあるが……元々悩んでいたところに付け込まれたってところか。ガブモンが進化しているし、太一さんの話に聞く暗黒進化でもないってのが質悪いなぁ……間違ってないってことだよねコレ。

 

「や、ヤマト冗談はよせよ。なんで仲間同士で戦わなくちゃならないんだ」

「仲間?」

「そうだよ、えらばれし子供たちの仲間だよ」

 

 丈さんがヤマトさんを諫めるが、彼はフッと笑っただけで気にも留めていない。これは言っても無駄かも知れないな。

 

「じゃあ聞くが、誰が選んだんだよ」

「そ、それは……」

「誰が選んだかもわからないのに、仲間だって言えるのかよ」

 

 一緒に旅してきて、困難に打ち勝ってきて、ここまで来た。それだけで仲間と言っていいと思う。しかし、今それを言っても意味はないだろう。今のヤマトさんは正論を受け付けることが出来ない。それはこれまでの行動を見れば明らかだ。

 

「まったく下らねぇ。ようするにいじけているだけだろ」

「へぇ、太一は凄いな。俺には自分のことがわからないのに、お前にはわかるんだな」

 

 太一さんがぶつかり、ヤマトさんもそれに反発する。互いに平行線。いや、衝突しているが正しいだろうか。

 

「二人とも、その辺にしておきましょうよ」

「俺に言うなよ。ヤマトが突っかかってきているだけなんだから。俺はこんな奴相手にしない」

 

 そう言って、太一さんがこの場を離れようとするが、メタルガルルモンが太一さんの前に立ちふさがる。

 

「そうはいかない」

「太一、俺と戦え!」

「だから戦わないって言っているだろ! わかんないやつだな」

「――わからないのはお前たちだ!」

「…………本気か」

「太一、下がって!」

 

 アグモンがメタルガルルモンを睨み――ワープ進化を行う。すぐさまウォーグレイモンへと進化が完了し、二体が激突する。

 せめて僕らも究極体に進化できれば間に入って止めることが出来るって言うのに……

 ただ、僕らに被害が来ないように空中で戦ってくれているのはありがたいが。太一さんは無言でいたが、やがてヤマトさんの前に歩いていく。

 

「やっとやる気になったか――ッ」

「オラぁ!!」

 

 一発、ヤマトさんの顔にいいパンチが入った。

 続けてもう一発。

 

「俺がなんで殴ったかわかるか、ヤマト」

「俺たちもやろうってんだろ」

「――この、バカ野郎!」

 

 何度もなぐり合う二人。太一さんの性格なら、殴った理由はあらかた見当がつくが……ああアホらしい。これはスッキリするまでなぐり合った方が後々いいかもしれない。

 これ止めたら被害受けそうだから適当な木にでも背中を預けておこう。

 

「二人ともやめなさいよ! 太一、やめて!」

「分かってないぜお前ら……これは俺たちが犠牲にしちまったデジモンたちの分だ、ピッコロモン、ウィザーモン……他にもたくさんのデジモンたちが死んでしまっている。今まで出会ったデジモンたち、助けてくれたデジモンたちでまだ再会していない奴らだっているんだぞ、今あいつらがどうなっているかもわからないのに、こんなところで何やっているんだよ!」

 

 そう言って、ヤマトさんにもう一発パンチが入った。そこでヤマトさんの動きが止まり、太一さんも殴る手を止める。

 

「ヤマト、わかってくれたか?」

「――わからねぇよ!!」

 

 今度は逆にヤマトさんが太一さんを殴り飛ばす。

 上の方でも究極体同士がぶつかり合っているし……何もできないし、これを僕が解決したくない。

 

「何とかしたいけど、究極体同士の戦いをアタシたちが止められないし……」

「ねえドルモン、あなた何とかできないの?」

「無理&そうしてもこじれるだけ」

「そうね、好きなだけやらせてあげるしかないんじゃないの?」

「なんだよお前ら、仲間を思う気持ちは無いのかよ!」

「ゴマモン、落ち着きなはれ。二人ともそんなつもりでいっとわけと違いますし」

 

 デジモンたちも途中参戦組との間に亀裂が出来つつある。止めても止めなくても揉めるだけなんじゃないのかコレ? げんなりしていると、また例の声が聞こえてきた。

 どうやらヒカリちゃんの近くにいるらしい……近づいてみると今までよりもはっきりと例の声が聞こえてきた。僕とはチャンネルが違うのか、はっきりとはしてないが……ヒカリちゃんは分かるらしい。

 

「どうしたんですか、ヒカリさん」

「例の声ですよ。今度は今まで以上に近づいてきていますね」

「私たちには何も聞こえないが……カノンは聞こえるのか?」

 

 光子郎さんとテイルモンもヒカリちゃんの様子に気が付いたみたいだが、やはり二人には聞こえないか。

 となると想像通り……僕たちだけが持つ特異な何かが影響しているわけか。そろそろその問題にも向き合う時が来たのかなんて考えていると、ヒカリちゃんの体が光り輝きだした。紋章を掲げ、周囲に光があふれていく。

 

「なんですか、これは!?」

「ヒカリ!?」

「…………思い出した、ホメオスタシス!」

 

 周囲を光が呑みこんでいき、僕らは別の位相へ転送される。

 呑みこむ一瞬のことだが、頭に流れた情報で彼、ないしは彼女の名前を思い出した。ホメオスタシス、かつてバステモンが言っていた名前だ。

 他のところでも何度か耳にしていたが……色々なことがあって今の今まで忘れていた。

 やがて、僕らは真っ白な空間へと引き込まれていた。どんな力が働いたのかはわからないが、究極体たちも幼年期へ戻っている。

 さてと、ようやく説明があるってことだろうか。選ばれた理由やら今まで戦うことになった経緯やら……謎がまだまだ多いわけだけど。

 

 ふと、バステモンのことが気になった。デジタルワールドの時の流れの方が速いからこちらでは何万年も経っている可能性があるんだけど……彼女はどうなったのだろう?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とある遺跡の中、そこに水晶に閉じ込められたバステモンがいた。長らくその状態で今まで彼女の様子を見に来るものはいなかったが――ここに、彼女を覚えている存在が1人。

 

「……バステモン様」

 

 緑色の小さな姿。忍者とテレビを足したようなそのデジモンはバステモンの姿を見ると、何かを決意したかのように踵を返して走り出した。

 脳裏によみがえるのはかつて見た少年の姿。もしかしたら、彼なら助けてくれるかもしれない。自分が手に入れた情報では、彼はこちらへ来ているらしい。

 

「カノン殿……」

 

 かつて言葉を交わしたわけではないが、不思議と彼のメモリーに焼き付いた存在。

 彼ならばもしかしたらと思う。それに自分ではもう手が無い。彼が助けてくれるかわからないが……情報は手に入れた、取引の出来る材料はそろっている。

 一縷の望みに賭けて、彼は走り出す。邂逅はすぐそこに迫っていた。

 




ヤマトはカノンに対しては何も思わなかったのか疑問に思う方もいると思いますが、あまりにも無茶をし過ぎるのと、数年前から戦っていたという事実もありそこまで気にはならなかった結果です。
自分より年下で結果を残していようが、ぶっ飛び過ぎていて逆に気にならなかった感じ。

出る杭は打たれると言いますが、出過ぎた杭は避けますから。

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