デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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しばらく仕事が忙しくなりそうなので更新ペース落ちるかもしれません。


39.無邪気な悪意ピノッキモン

 いきなり太一さんが消えてしまい、何事かと思ったが……まさかとは思うが、位置情報を無理やり書き換えられている? え、そんなことできるの? こんな簡単に?

 と、混乱していると次々にみんなが消えて行って――やがて、僕も飛ばされてしまう。

 突然引き起こされるためすぐには対処できないのが悔やまれるが……とにかくどんな状況になってもすぐに対処できるようにしよう。とりあえずドルモンは掴まえておいたから一緒に転送されたしな。

 

「――カノン何してくれてんの!?」

「道ずれじゃあ!」

 

 空中に投げ出され、お互いにそのまま落下していく。あっはっは。こりゃ相当恨まれているな。間違いなくピノッキモンが相手だろう。うん。

 幸いなのはデジタマは体勢を直すのにパンプモンに預けたから体が動かせることだろうか。

 

「冷静に考察している場合じゃないでしょ! なんでおれまで巻き込まれているんだよ!」

「スカイダイビングとか初めて」

「そのうちママさんにやらされると思っていたけどねおれは!」

 

 まあドルモンの言う通り、母さんならやりかねないわけだが――さて、無駄話もそのぐらいにしておこう。別に空中に投げ出されたからといって何もできないってことにはならないんだけど……ドルモンと離れ離れになるのはまずいし、とりあえずゆっくりと下降していく。

 とりあえず近場の木に降りたが……さっきから変なリンクを貼られたような感覚がある。これ以上の干渉を受けないようにプロテクトしていくが、地味にきついな……ピノッキモン自体が持つ能力じゃないのか、ブロックできているだけマシか。

 

「カノン、何か聞こえない?」

「……なんか揉めてる?」

 

 ちょっと距離があって何を話しているのかは聞こえないが……どうやらヤマトさんとタケル君が揉めているみたいだ。珍しいこともあるなと思ったが――今の状況なら当たり前か。

 ヤマトさんはこの状況下でいつも以上にタケル君を心配している。しかし、タケル君自身も自分の意志がはっきりと出ているようになっているのか、過剰なまでに自分を心配する兄を訝しんでいる。

 

「これは……まーた不協和音」

「どうするの?」

「兄弟の問題に口出しするのはなぁ……」

 

 と、そこであーそーぼ、などというけったいな声が聞こえてきた。

 うん……間違いなく奴が来たのだろう。さて、本当にどうしたものか。気配がたどり難いし、なんて考えているとすぐに奴が現れた。

 

「バァ!」

「う、うわああ!?」

 

 タケル君の背後にいきなり現れ、軽業師のように跳んで一回転してから着地する。身のこなしは思ったより良さそうだな……

 

「タケル、大丈夫か!?」

「う、うん」

「へぇ……タケルって言うのか。ねえ、ボクと一緒に戦争ごっこしようよ」

「戦争ごっこ?」

「そうだよ。君にはこれを貸してあげるからさ」

 

 そう言って、ピノッキモンは何かを取り出すとタケル君の方へ投げ渡す。ってあれ本物のサブマシンガンなんじゃ……タケル君も重くて落としてしまい、その拍子に弾丸がばらまかれる。笑えねぇ……

 

「これ本物じゃないか!? こんなの使ったら死んじゃうよ!」

「そうだよ。だから面白いんじゃないか」

 

 そう言うと、ピノッキモンは無邪気に笑う。悪いことを悪いと思わず、本当に無邪気に笑っているのだ。

 

「でも安心してよ。すぐには殺さないから。だって、すぐに死んじゃったらつまらないもんね」

 

 いっそ狂気すら感じるが、彼は本当にそれが悪いことだとは思っていない。考えてもいない。初めから、それが悪いことだという認識が存在していない。

 無邪気ではある。だが、決定的に何かが間違っている。

 これはまずいと気配を殺しつつ奴へと近づいていく……一応母さんに使い方は聞いたことがあるし、身体強化をかければなんとかなりそうだな…………出来れば銃を回収しておきたいところだ。

 

「タケル、こんな奴のいう事なんて聞くな!」

「なんだようるさいなー。お前は関係ないだろ!!」

 

 ピノッキモンが投げたボールが弾けて、ヤマトさんをからめとる。縄で簀巻きにしてしまい、完全に動きを封じてしまった……まずいな。下手に近づけないぞ。

 本当にヤバくなったらケンキモンあたりで突っ込むしかないかと思っていると、すぐに状況が動いた。

 

「来ないんなら、つまらないし……コイツ、殺しちゃおっかな」

「……わかった、行くよ」

 

 そう言うとタケル君はピノッキモンへついていってしまう。銃を持って行ってしまって……ああ、回収したかったのに。

 さて、ヤマトさんを助けてついていくのがベストなんだが……今のヤマトさんの精神状態だとかえって危なそうだし…………助ける。ヤマトさん話を聞かずすぐに突撃する。ヤマトさん返り討ち、もしくはタケル君が撃たれる。

 

 さて、そのままにしていくか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ピノッキモンの……こう、アートな家ですね。というか結構大きいな……他のデジモンもいる可能性が高いし、隠れてこそこそと移動しているわけだが……

 ピノッキモンとタケル君が一騎打ちしている――しかし、タケル君が銃を撃てるわけもなく、ピノッキモンはその様子を笑いながらバンッと声で銃を撃った振りをする。

 

「うわあ!?」

「あはは! さあ早く逃げないと本当に撃っちゃうよ!」

「に、逃げればいいんだろ!」

 

 そう言うとタケル君は走って行ってしまう――しめた。銃は置いて行ってくれた。すぐさま回収して、二人の後を追いかける。

 曲がり角も多くて見失いそうだが、どうやらどこかの部屋に入ったらしい。ピノッキモンと部下と思しきデジモンの会話が聞こえてきた。

 

「タケル見なかった?」

「あちらの棚の奥に隠れました」

「そっか…………なんだよ、いないじゃないか。この嘘つき!」

 

 そう言うと、二回ほど銃声が聞こえてきた。ばれないように見ていたが……二体のデジモンが、消え去っていくのが見えていた……どうやら、ピノッキモンに射殺されたらしい。

 無邪気とは思っていたけど、ここまで来るとホント笑えない。まるっきり子供の癇癪だ。それも自分がやっていることが悪いことなのかどうか判別の付けることが出来ない、とても幼い子供の思考。

 恐ろしいのはその思考でありながら、究極体ってところか……ヤバいなマジで。ある意味一番厄介な相手じゃないか。

 

「あ、見つけたー!」

 

 タケル君はどうやらすぐに走り出していったようだ――だったら、ここらで撃っておくか。サブマシンガンを構え、タケル君の横へ飛び出す。彼は驚いていた表情をしていたが、近くの部屋に入っていく。とりあえず、弾をばらまいてピノッキモンの目をくらませて僕も離脱しておいた。

 一応、曲がり角を利用したから見つかってはいないと思うけど。

 

「なんなんだよいったい!」

 

 さてと、すぐに見つかるだろうし速く出ないと――ただ、この部屋が妙に気になるんだよな。みんなそっくりの人形があるし……

 ピノッキモンの様子から、タケル君が撃ったと考えているみたいだし……すぐに行動した方がよさそうだ。

 

「カノンさん、どうしてここに!?」

「静かに。あと、別にさん付けじゃなくていいから。まあ、ずっと木の上から見ていたからね……さてとあのガキどうしてくれようか」

 

 正直勝てる可能性が低いし、どうしたものか悩んでいるんだけど……

 

「ガキ?」

「子供ってこと。まるっきり僕らよりも小さい子供の考え方だからね。幼稚園児かそれ以下って感じの。できればアイツが自分からこの場から離れるようにしたいんだけどね」

「なら、ボクにいい考えがあるよ」

 

 そう言うと、タケル君はこちらをじっと見つめてきた――自分より小さいタケル君に任せてもいいのかと考えたが、この子だってデジタルワールドを冒険してきたんだ。

 だったら、信じてみるか。

 

「危なくなったら援護するけど――任せたよ、タケル君」

「うん!」

 

 そう言うとタケル君は飛び出していく。ドルモンはとりあえず、ここに待機。この部屋をみて彼も思うところがあるらしく、少々いじっている。

 

「謎解き任せた!」

「まあ、わかりやすいけどね」

 

 ドルモンの言う通り、ピノッキモン(子供)が使うための物だからか、わかりやすい仕掛けだ。凶悪だけど。

 さて、タケル君はと言うと……ピノッキモンが銃弾を撃ってくるのをかわしていた――いや、奴に当てる気はないのか。まずいかなと思い銃を後方から構えているが――弾切れになる。

 タケル君はチャンスと見たのか、すぐに口を開いた。

 

「あーあ、なんだか飽きちゃった」

「――え」

 

 思わず僕もピノッキモンと同じような顔になりそうになった。しかし、すぐにタケル君の意図が読めた。なるほど、その手があったか!

 

「だって君ワンパターンなんだもん。同じことの繰り返しでつまんないよ」

「……ボク、つまんないって初めて言われた」

「ええ、ホントにー? あ、もしかして友達いないんじゃないの?」

 

 おおう……結構煽るなタケル君。案外腹黒いんじゃないだろうか彼。

 

「い、いるさ友達ぐらい!」

「じゃあ紹介してくれる?」

「……そ、そのうちに」

「そのうちじゃなくて今紹介してよ」

「…………わかったよ! 連れてくるから待っていろよ!」

 

 そう言うと、ピノッキモンはどこかへ行ってしまった……予想以上に上手くいったな。

 

「ふぅ」

「やったな、タケル君。とりあえずさっきの部屋に――」

「その必要はないよ!」

「ピノッキモンの使っていたおもちゃは壊してきたよ!」

 

 ドルモンがすぐさまやってきたのだ。しかも、パタモンも引き連れて。どうやら、タケルを探しにここまで来たらしい。戦力が増えたのはありがたいことだ。

 とりあえず、すぐにこの家から脱出しよう。ただ、家を出た後デジモンが二体ほど僕らを見ていたと思ったのだが……普通に見て見ぬふりしてたな。もしかして、ヴァンデモン以上に人望がないんじゃ…………いや、確実にないか。あの性格なら。

 

 

 しばらく走ると、ヤマトさんが声を荒げている様子が見えてきた。何だか揉めているようだが、とりあえず全員無事みたいだな。

 

「おーいみんなー!」

「タケル!? 無事だったのか!」

「うん」

「カノンも一緒にいたのか……お前が助けてくれたのか?」

「ちょっと手を貸しましたけど、タケル君一人でも大丈夫だったかもしれませんね、最後は彼のアイデアで脱出してきましたし」

「凄いじゃないかタケル!」

「え、えへへ」

 

 喜ぶタケル君とは裏腹に、どこか意気消沈した様子のヤマトさん。タケル君の無事を喜ぶかとも思ったのだが――想像以上に根が深い問題になったみたいだ。

 

「動く地面とかの仕掛けも壊しておいたよ! あと、この人形でみんなを操っていたみたい」

 

 いつの間に持ってきたんだタケル君……キッチリ全員分あるな。変に触って怪我でもしないようにリンクは解除しておくか。ちょっとデータをいじるだけでそのぐらいはできるし――よし、大丈夫。

 

「凄いじゃないかタケル君」

「しっかし、変なところで芸が細かいというか……」

「ミミちゃんの人形結構似てるわね」

「えー、私こんなに不細工じゃないわよ。でも、お土産にちょうどいいかも」

 

 と、そこで僕も思わず目を放してしまっていたが……タケル君が気が付いた。

 

「お兄ちゃんは?」

「ヤマトなら、さっきアッチに……あれ?」

 

 丈さんが指さした方は、森が広がるのみであった。

 すぐに全員で探すが見つからない……何度も呼びかけるが反応が無いのだ。

 

「ヤマト、どこに行っちまったんだよ」

「もしかしてピノッキモンにさらわれたんじゃないの?」

「可能性はありますね」

 

 光子郎さんが同意し、今すぐにピノッキモンのところへ向かうことになりそうだと思われたが、丈さんが待ったをかける。

 

「いや、それは違うと思う。僕、ヤマトが離れていくのをみていたんだ」

「なんですぐに言ってくれなかったんだよ」

「用を足しに行ったのかと思って……ごめん」

「……まあ、いいか。少なくともピノッキモンにさらわれたわけじゃないみたいだし」

「だとしたらどこに行っちゃったんだろうね」

 

 アグモンの指摘通り、どこへ行ってしまったのか……まあ少しみんなから離れたかったんだろうとは思うが…………これはあの時すぐに助け出して一緒にタケル君のところへ行ったほうが良かったか? いや、やっぱりあの時は余計にこじれていただけだろうし……過ぎたことを考えても仕方がないか。

 

「――え」

「声?」

「二人とも、どうかしたのか?」

「また声が聞こえた」

「ヒカリ、本当か? ヤマトの声か?」

「……」

「……空耳か」

「でも、まだ近いのかもしれませんね、ヤマトさん」

「かもな。とにかく探すしかないか」

 

 すぐに、移動が開始する。しかし、僕とヒカリちゃんはその場から動けずにいた。

 今度は僕にも聞こえた。ハッキリとではないが、確かに誰かの声が。

 

「ヤマトさんじゃない……」

「……なんだろう、何かが引っかかる」

 

 聞いたことがあるわけじゃない。だが、この声が何なのか僕は知っているような気がするのだ。

 結局、考えたところで答えは出ないのだが。

 また一つ問題が増えた感じかなぁ……目先の問題だけでもいくつあるんだって話だよ。ホント、嫌になる。

 




以下、ボツシーン


「なんで銃を撃てるの!?」
「ハワイでおふくろに習ったんだ!」

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