デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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アドゥラ君、これ以上風呂敷を広げてどうするんだい?


大丈夫さ、現状プロットの書き直しはしていないから。


38.広がる懸念

 ダークマスターズの城、そこでピエモンはメタルシードラモンとえらばれし子供たちの戦いを見ていた。自分の予想以上に速く成長する彼らに一抹の不安は覚えるものの、ムゲンドラモンの戦力として配備したモノを思い出し、より重大なことへ思考が動く。

 

「0人目……やはり懸念通り、暗黒の力に呑まれていませんか」

 

 自分の攻撃を喰らった0人目――橘カノンは体の中に流れる暗黒の力の影響を感じさせていない。刺さったナイフが空気に融けるように消えたのは、彼の体の中へ流れ込んだからだ。傷が速く治ったのも、その暗黒の力が影響している。

 もしもピエモンが手に入れた情報通りに彼の中に眠っている力が覚醒の兆しを見せていたのならば、体内に入り込んだ暗黒の力と反発しあって今頃は暴走を起こしていたハズであるのに……

 もっとも、彼自身は暗黒の力の影響がなぜか出ていないが――彼のデジモンは別だ。さて、今までドルモンが倒した暗黒のDNAを持ったデジモンは何体いただろうか。これまでに蓄積された経験はどのようなものだっただろうか。その影響は確実に現れている。

 予想外の方向からであったが……状況が一つ好転したことにピエモンは笑みを浮かべる。

 

「イリアスの守護者……彼の者の力が出てこなくなったことを喜ぶべきなのか、未知の存在が生まれようとしているのを懸念すべきか――まあ、状況は私たちにとっていい方向へ動いたようですし、ひとまずはピノッキモンに任せるとしましょうか」

 

 えらばれし子供たちが次に向かったのはピノッキモンのいるエリア。彼は0人目のデジモンに吹き飛ばされたことを根に持っており、彼を執拗に狙うだろう。今の彼に何が起きているのかを計るにはうってつけの状況だ。

 となれば――自分はもう一つの懸念を見に行くことにしよう。

 ピエモンはすぐさま行動を開始した。向かうのは自分のエリアに取り込んだ古代遺跡。かつて、デジタルハザードを起こしたと伝えられる魔竜の眠る遺跡だ。

 

 ほどなくして遺跡にたどり着いたピエモンであるが、この場所には進んできたきたくはないと思う。遺跡の入り口に描かれているデジタルハザードの紋様。この力は暗黒とは異なり、善でも悪でもない。ただ純粋に災害そのものと呼ぶべき力を持つ者にのみ刻印されるもの。

 

「……やはり封印がとけている」

 

 遺跡の中に入り、地下へと進んでいく。それほど大きな場所ではなく、情報によれば中には魔竜そのもの、あるいは魔竜であったデジタマが眠っているハズなのだが――最深部にある祭壇には何も残っておらず、デジモンの気配もない。

 懸念が現実になったわけではあるが……この祭壇には封印がされていてたどり着くことが出来なかったのだ。だからこそ、この場所の大きさを直に目にすることで最悪の予想が外れてくれたことにもほっとしていた。

 

「どうやらデジタマの状態で封印されていたようですね。暗黒の力の影響でデジタマがいずこかへ流れて行ってしまったようですが……少なくとも、今すぐにどうこうなるわけでもなさそうだ。いずれ捜索はする必要はあるかもしれませんが……」

 

 デジタマが必ずしも伝説に聞く魔竜になるわけでもない。あくまで可能性の問題だ。だからこそ、今起こっている問題に対処しなくてはならない。

 戦力をそろえ、奴らを迎え撃つ準備が必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を一体のデジモンが見ていることにも気が付かずに――緑色の忍者のような影が、じっと彼を見つめていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 デジヴァイスが壊れてしまった。うんともすんとも言わず、いつもの感覚でドルモンを進化させようとするが……まったく反応が無い。

 何が原因かは分からないが、どうやら壊れてしまったらしい。

 

「どうするかなぁ……」

「大丈夫だよね、おれ進化できるよね!?」

「うーん……原因を突き詰めている時間はなさそうだし、デジヴァイスを介していないアーマー進化なら何とかいけると思う」

「と、とりあえず何もできないなんてことにはならなそう……究極体になれないのは辛いけど」

 

 ドルモンが落ち込んでいるが、僕もどうしてこうなったのか知りたいところだ。というか今襲われたらヤバいな。残ったダークマスターズと、このエリアの構造から推察するにピノッキモンが支配するエリアだろう。となると……狙われてそうなんだよなぁ……

 目の前で戻っていくエリアを眺めつつ、そんなことを考えていると――何やらもめ事が起きたようだ。

 

「もう嫌、なんで私たちが戦わなくちゃいけないの!」

「ミミちゃん……」

「みんな危ない目に遭って、ピッコロモンだって死んだわ、それにウィザーモンも……カノン君だって、危なかったのよ」

 

 おおう……引き合いに出されると辛いものがある。まあ、無茶をし過ぎているのは自覚しているが……無茶をしないと犠牲も大きかったであろうことも事実だ。実際、僕がナイフで刺されていなければ、間違いなくチューモンが死んでいただろう。良かったとは決して言えないが、最悪の事態にはならなくて済んだことは間違いないのだ。誰も指摘はしないが、最悪の事態とも言うべき僕のデジヴァイスの故障だが……

 漠然とだが、デジヴァイスが壊れたことと僕が刺されたことは無関係だというのは分かる。となると、止めを刺したのは最後のデータ付与か?

 ヤバい。結局自分の無茶じゃないかよ。

 

「それでも前に進まなきゃ、ピッコロモンたちのことが無駄になっちまうだろ!」

「たしかに太一の言っていることは正しいよ。でもな、正しいだけじゃ割り切れないんだよ! もう少し考えることが必要な時だってあるんだ!」

「だからって立ち止まっていたらそれこそ――」

「ああもう! そこまでにしてくれよ! どちらにしろこのままこの場にとどまっているのはマズイ。とりあえず目につかない場所まで行こう」

 

 なんだか不協和音が聞こえるというか……比較的冷静なのは、丈さん、光子郎さん、空さんってところか…………しかし、空さんは不和の起きている間を取り持つ性格だし、そのうち危ないかもなぁ……

 太一さんは正論ばかり言っているが、ヤマトさんの言う通り正論じゃ納得できないこともある。正論は正しいからこそ、追い詰めてしまうこともあるのだ。

 

「というわけで、光子郎さん……デジヴァイスを直せる人っていますかね」

「その問題もありましたね……ドルモンは進化できそうなんですか?」

「アーマー進化は実のところ、僕がデジメンタルを起動させて使っているのでそちらは問題なくできます」

 

 ある程度の制御はデジヴァイスで行っていたのだが、ここがデジタルワールドなのが幸いした。デジヴァイスで行っていた補助をこの世界のリソースを利用して代用できそうなのだ。

 直接の戦闘には不安が残るが、フレイウィザーモンによる魔法やサンダーバーモンによる飛行などできることも多そうだ。

 

「ところでカノン君、左腕大丈夫ですか?」

「何がです?」

「いえ……先ほどから動いてませんけど」

「――――え」

 

 痛みが無かったから気が付かなかった。だらりとぶら下がっており、上手く動いていない……すぐに丈さんに見てもらうと、痛覚は通っていたからナイフの刺さり所の問題らしい。どうも、関節が外れているような状態みたいだ。とりあえず、はめ込むように動かしてもらうと――痛みが走った。流石に叫ぶほどじゃなかったが、とりあえず動きはするようになったものの、痛みが走り続けている。

 

「どうしたものか……」

「とりあえず、この飛行帽で腕を吊りますか。これなら頑丈だし」

 

 ゴーグルだけを取り外して、飛行帽を改造して腕を吊るために使う。いやぁ、流石データで構築されているだけあって、この世界だと魔法でこういったものをすぐに改造できて便利である。

 まったく別の物へ変えるとかはできないんだけどね。

 

「なるほど、構造体の情報の一部を書き換えたんですね……まさかここまで出来るものだとは」

「デジタルワールドだからこそですよ。現実世界じゃここまでうまくはいきません」

 

 しかし……いつもなら太一さんあたりがスゲェと言い、ヤマトさんも口には出さないが驚きの表情を浮かべているんだけど……だめだ。色々と頭の中で考え込んでいて見ていない。

 ヒカリちゃんの呼びかけにも答えないし――と思っていると、ヒカリちゃんが急に立ち止まった。

 

「どうしたのヒカリちゃん?」

「今何か聞こえなかった?」

「ヒカリ、何が聞こえたんだ?」

 

 テイルモンもやって来て、尋ねるが……何が聞こえたのだろうか。

 ドルモンも首をかしげているし。何の気配もしないのだが。

 

「なにか、人の声みたいなのが聞こえたような……」

「人の声ねぇ」

 

 何も聞こえな――何かノイズが走ったような気がした。一瞬だが、予知夢を見ていた時のような感覚が訪れる。しかし、すぐにそれもおさまり何事もなかったような気さえしてくる……

 

「気にしても仕方がないか、とりあえずみんなとはぐれるといけないから行こうか」

「うん」

「人の声なんて聞こえました?」

「全然」

 

 どうやら光子郎さんと丈さんは何も感じなかったようで、ヒカリちゃんだけに聞こえた声のようだ。僕のあの感覚と合わせて考えるのならば……情報が足りない。結局考えても仕方がないことなのだろう。

 太一さんたちと合流すると、ヒカリちゃんがはぐれそうだったことに怒ろうとしていたが、丈さんたちの姿をみて言葉を呑みこんでいた。まあ、一人にならないのならと言ったところか。

 と、そんなことを考えていると――突然地面が前に進みだした。まるで、ベルトコンベアのように。

 

「な、なんだ!?」

「地面が動いているんです! まるでどこかに出荷されるみたいに!」

「縁起でもない表現するな! とにかく横に跳ぶぞ!」

 

 全員で横に跳ぶと、なんとか一安心――なんて暇もなく、今度はこちらの地面が動き出した。

 

「これは間違いなく、この先に敵が待っているんだろうな」

「だまって敵の思うつぼにはまるのか」

「まあそうでしょうねぇ……今進化できるのって誰がいたっけ」

 

 コロモンはしばらく無理っぽいから、ウォーグレイモンはダメ。僕たちもデジヴァイスの不調がなくともエネルギー足りない。

 ゴマモンも海辺では結構戦っていたみたいだから無理そうだし……

 

「たぶんピノッキモンのエリアですから、炎系で一気に燃やしに行くのが効果的なんだけどなぁ」

「か、カノン君が黒いこと言っている……」

 

 おおっと、自重自重。さてと、一番いいのは体力の回復を行うことだが――どうやったら前に進まずに済むかだ。

 

「光子郎さん、どう思います?」

「地面にセンサーがある――いえ、もしかしたら監視カメラのようなものがあるのかもしれません。それでこちらを見ていて、飛び移ったあとに地面を動かしたと考えられます」

「なら賭けになりますけど、手が無いわけじゃないです」

 

 他にも数人は思いついているらしく、木の上を見ていた。まあ、となるとやるべきことは一つと言うわけですぐさま全員で木の上に登っていく。できるだけ木の葉が身を隠してくれそうなところにいくが、ヒカリちゃんやタケル君は登りづらそうにしている。パンプモンとゴツモンがすぐにフォローに入ってくれてよかったけど……

 しかし、デジタマもあるから登りづらくてかなわない。

 

「それでも登り切るんだね……垂直に木を歩いて」

「足の裏を吸盤みたいにしてみた」

「もはや何でもありだなお前」

 

 そこまで言われるとへこむのだが。

 しばらくすると、何度か地面の動く場所が変わっていった。隣のラインが動き出したところで変更は行われなくなり……どうやら向こう側は見失ったみたいだな。

 

「こんなことをするのって……」

「ダークマスターズの一人だろうな」

「メタルシードラモンの例からするにピノッキモンだとは思いますけどね。周りが木だらけですし。それに、他の二体がこんなやり方しますかね」

 

 見た目の印象が多くなるが、ムゲンドラモンは機械系のデジモンだ。植物だらけのエリアにいるとは思えない。まあ、ベルトコンベアで機械系と判断できなくもないのだが……なんか違う気がする。

 ピエモンの方だが……ダークマスターズのリーダーっぽいし、いきなりこういう事をする奴でもないだろう。むしろ頂上で待ち構えているようなタイプと見た。

 

「誰が待っているにせよ、敵に向かって歩いていたってことなんだよなぁ」

「丈さんの言う通りですけどね。ま、対策を立てられるだけマシってことで」

「確かに、カノンが言った通りだ。それにいつかは立ち向かわなくちゃいけないんだ。おんなじことさ」

「分かっているよそんなことは!」

 

 太一さんの言葉にすぐさまヤマトさんが反応した。最初に爆発していたのはミミさんだが、それはある意味いつも通りの光景だ。ミミさんの場合は素直に今思ったことを話し、行動する性格だ。ただいつも通りであったのだが――その言葉にヤマトさんの中で溜まっていたものが爆発してしまったのだ。

 彼がどんなことを悩んでいるかは知らないし、僕が何かすると余計にこじれてしまいそうでもある。

 

「お兄ちゃんたち、喧嘩しないで!」

「……タケル」

 

 なんとかタケル君が止めてくれたが、根本的な解決にはならないだろう。

 

「このまま何もしないわけにもいかない。敵がどこにいるのか突き止めよう」

「太一、ちょっと待てよ!」

「お兄ちゃん!!」

 

 太一さんが行動を起こそうとし、ヤマトさんが反発する。それをタケル君が止めようとして……これ、泥沼になるだろうな――そう思った時だった。太一さんの姿が一瞬で掻き消えてしまったのだ。

 ……え、何事?

 




変なところで次回に続く形に。

そして今回、妙なネタを盛り込んでおります。


デジヴァイスの壊れた原因やのちのことを予想した方もいましたが、これは突然起きた問題ではないのです。冒頭でピエモンが言っていた通りの話。
つまり暴食さんの懸念は……

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