デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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メタルシードラモン戦終結。そして――


37.ブレイブトルネード!

 なんとか丈先輩たちのおかげで助かったけど、まだ油断はできないな……それに、アノマロカリモンとの戦いでも話によるとズドモンやリリモンに進化しないと勝てなかったというし……

 

「これはまだまだデジモンたちの成長進化が足りないらしい」

「太一の言う通り、まだダークマスターズに勝てるほどの成長は遂げていないってことか」

 

 ヤマトがそう言った、次の瞬間だった。

 

「見つけたぞえらばれし子供たちッ!!」

「やばい、メタルシードラモンだ!」

 

 俺たちは走り出すが、奴の方が速すぎる!

 

「みんなはズドモンに乗って! アタシがひきつけるわ!」

「リリモン!?」

 

 リリモンが時間を稼いでくれている。その間にズドモンにのり、逃げ出そうとするが――ほどなくして、リリモンは吹き飛ばされ、パルモンへと退化してミミちゃんの手の中に落ちてしまった。

 

「喰らえ!」

「ぐああああ!?」

 

 ズドモンが突撃を喰らい、俺たちも投げ出されてしまう。すでに海の上、下手をしたら溺れて――マズイ。カノンが気絶したままだ。このまま海の中へ沈んでしまうのではないか、そう思った時だ。海水が盛り上がり、中から何かが飛び出してくる。あれは――

 

「ホエーモンだ! 助かった、体内で守ってくれるぞ!」

 

 ホエーモンが俺たちを呑みこみ、内部へかくまってくれる。横を見ると、ヤマトがカノンを抱き留めていた。デジタマの方もパンプモンたちが必死に支えてくれている。この様子なら、全員ホエーモンの中へ入れるだろう。

 とりあえず、一安心と言ったところか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 暗い暗い海の底。

 先の見えない道をひたすらに歩いていく。周りには何かの残骸が散らばっていた。もしかしたら、ここはデジモンたちの墓場なのかもしれない。

 だって、ムゲンドラモンの背負っていた大砲――∞キャノンと同じものをつけたデジモンの残骸が見える。他にも似たような機械が転がっているところを見ると、マシーン型デジモンの残骸だろうか。

 他には、巨大な砕けた骨や雷のような衣装を持った巨大な剣、何かのデジモンの武器や体の一部と言ったものが散らばっている。

 あの巨大な骨はどことなくグレイモンに似ているような気もする。

 

「……やっぱり、僕は死んだのかな」

 

 暗い暗い海の底。

 光も届かぬ暗黒の世界。ただ風だけが吹いていた。

 ひたすらに前を進む。諦めろ。もう無駄だ。何もすることはできないと僕の心にむなしい声が響く。

 前に進んでも辛いだけだ。痛い思いをするだけだ。助けられない命はあふれている。犠牲無くして先へ進むことは叶わない。

 マフラーの重みが増す。一つの命がのしかかる。それでも歩みをやめない。

 

「…………」

 

 僕たちが奪ってきた命がのしかかる。それでも歩みをやめない。

 かつて分かれた友達(女の子)の顔が頭をよぎる。それでも先へと進む。立ち止まる暇は無い。

 なぜ僕は前に進むのか。どうして戦うことをやめないのか。

 運命だからと言うのは簡単だ。でも、それが理由になるとは思わない。

 所詮、運命なんて選択肢の連続なのだ。どんな選択肢をとるかで未来は千差万別――だからこそ、自分の選んできた選択肢を恥じることだけはしたくない。

 辛いことも苦しいことも受け入れて進むんだ。

 僕が戦うのは善とか悪とかは関係なく、ただ己の正義に従って動いてきたから。だからこそ、最後まで貫き通すのだ。ここで立ち止まれば今までのことを裏切ることになる。それだけはもうしたくない。

 いつしか、ボレロの音楽と共に光が見えるようになってきた。光の向こう側には、二体のデジモンが立っていた。どちらも赤いマフラーをしているのが見えたが――片方が、黄金の鎧をまとった姿へと変貌する。僕が時折出現させたハンマーらしきものも持っている。もう片方は……逆光でよくわからないが、人型なのは間違いない。

 

「……まだそこまでは到達できないけど、いつかはたどり着くよ。だから、待っていてくれ――ってのもおかしいか。だってお前たちは――――」

 

 意識が浮上していく。僕が最後になんて言ったかはわからないが、嫌な気持ちは全くない。ただ、自分の中で何かが動いた気がする。

 ふと、マフラーを見てみると……彼らと同じ、深紅に染まっていたのだけはわかった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ひとまずえらばれし子供たちはホエーモンに連れられて無人島にやってきていた。体力の回復のため食料の調達をしつつ、体を休めていたのだ。

 ヤマトがハーモニカを演奏していたが、突然それをやめ、溜息をつき始める。

 

「はぁ……俺たちはダークマスターズに勝てるのか?」

「あんまりネガティブになるなよヤマト、気にし過ぎていたら勝てるものも勝てなくなるぞ」

「だが、メタルシードラモン一体にでさえ俺たちは手も足も出ないんだぞ」

「いえ――可能性はあります」

 

 そこで光子郎がパソコンを取り出しながらウォーグレイモンの情報を表示していく。

 

「ウォーグレイモンのドラモンキラーならばあるいは」

「ドラモンキラー?」

「なんだよそれ」

「ドラモン系のデジモンに効果のある武器です、ドラモン系のデジモンに対しては有効な武器で、彼らのデジコアに存在する竜因子に対してアンチコードが仕込まれていると推察されるのですが……」

「とりあえず、ドラモン系――つまり、メタルシードラモンとムゲンドラモンの二体に対して有効ってことだよな!」

「ええ、そう捉えてもらって構いません」

「よし! とにかく可能性が見えてきた――アグモン! お前の出番……だ」

 

 太一たちが後ろを振り向くと、なぜかデカい魚を丸呑みしているアグモンの姿が見えた。どうしてそうなったのかわからないが……コメントに困る光景であるのは間違いない。

 

「と、とにかく頑張れよ」

「――うい」

「大丈夫かよ……」

「カノン君も起きてくれていれば、なおのこと良かったのですが……ドルゴラモンは単純な破壊力で言えば僕らの中でもトップでしょうから」

「たしかに、あのパワーがあれば心強いが……でも起きそうにない――――!?」

 

 そこで太一が寝ているカノンの方を見ると、薄くだが目が開いているではないか。どうやら、起きたらしいが……反応が薄い。それに、なぜかマフラーの色が深紅に変わっている。

 

「カノン、お前起きていたのか?! いったいいつから……」

「ヤマトさんが弱音を吐いたあたりから、ですよ」

「……悪かったな」

「いえ、お気になさらず」

「――?」

 

 どこか様子がおかしい。そう思う太一であるが、何がおかしいのかわからない。別段嫌な感じはしないのだが、違和感だけが付きまとう。

 

「ドラモンキラー……確かに、メタルシードラモンとムゲンドラモンの二体に対して非常に有効です。メタルシードラモンはウォーグレイモンのサポートをしつつ攻撃のチャンスを作る立ち回りが重要になるでしょう」

「あ、ああ……」

 

 まだ寝起きだからだろうか、どこか淡々としているが――そう思って話しかけようとしたが、丈の叫び声で中断させられることとなる。

 

「うわあああ!?」

「みんなー! 敵が来るぞー!」

 

 ゴマモンが敵が来るという情報を持ってきたのだ。

 それだけではどういう事かパニックになる子供たちだったが、ホエーモンがすぐに補足を入れる。

 

「魚たちが後方200のところでメタルシードラモンの手下を見たそうです。ココもすぐに見つかるでしょう、すぐに私の中へ!」

 

 ホエーモンの言う通り、すぐに移動した方がよさそうだと子供たちはホエーモンの中に入る。

 そして、急速に潜航していった。

 

 

 

「おい光子郎、何しているんだ?」

「待っていてください……よしできた」

 

 ホエーモンの中、そこで光子郎はホエーモンと自分のパソコンをコードでつなぐことでホエーモンの視覚情報をパソコンに経由させることに成功していた。

 デジタルワールドでは情報が物質化をしたりと、物理法則などを無視した現象も意図的に引き起こせる。その性質を利用してこうした技もできるのだ。

 

「凄いじゃないか光子郎!」

「やってみてわかりましたが、カノン君の使う魔法も原理は同じですよね?」

「はい。光子郎さんの言う通り、僕の使う魔法もプログラムを組んで現実を拡張、もしくは書き換えているんです。なので、ここでは僕の力も現実世界以上に発揮できます」

「現実世界以上って……あれ以上をか!?」

 

 現実世界でも大分とんでもないことをしていたカノンだが、この世界では更に色々できるという。しかし先ほどから眉間にしわを寄せているのはなぜなのだろうか。太一が疑問に思ったとき、思いがけないところから答えが出た。

 

「うーん……耳が痛い」

「ヒカリ?」

「ああ、気圧が変化して耳鳴りが――って僕も痛いです」

 

 子供たちが全員耳を抑えている。どうやら、カノンもそのせいで眉間にしわを寄せていたようだ。

 

「お前、耳鳴りしているなら言えよ!」

「飛行機に乗ってもならなかったもので……」

「あるのか、乗ったこと」

「ハハハ。すぐに調節しますね」

 

 そうして、ホエーモンが気圧を調節してしばらくして――衝撃がやってきた。

 

「なんだ!?」

「――どうやら、見つかってしまったようですね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 メタルシードラモンの手下――ハンギョモンに襲われるものの、ホエーモンの策により彼らを撒くことには成功した。ハンギョモンが追ってくることが出来ない深海へ逃げることによるものだ。

 

「どうやらうまくいったようですね」

「ふぅ……とりあえず助かったぜ」

「でもこれからどうするの?」

「……そうだ、ヒカリさん、ちょっといいですか?」

 

 光子郎がヒカリに耳打ちし、次の作戦を伝える。ヒカリも了承して、みんなに一礼してから大きく息を吸い込んだ。

 

「おい、ヒカリ?」

「――ッ」

 

 一気にホイッスルに息を吹き込み、音を響かせる。突然のことにみんなが驚いたが――やがて、光子郎が成功だ! と声を上げた。

 

「なるほど、ソナーですか」

「はい。この先に横穴を見つけました!」

「私も感じました。どうやら、地上へ続いているようです」

「……」

 

 口に手を当て、カノンは何かを考えている様子だが、子供たちは喜び出している――ほどなくして、振動が襲ってきた。

 

「なんだ!?」

「メタルシードラモンです!」

 

 揺れが強くなる。ホエーモンもメタルシードラモンを引き離すように進んでいき、やがて海面へと浮上した。子供たちもすぐにでて、光を浴びる。

 周りは静かで、メタルシードラモンも出てくる様子はない。

 

「ふぅ……風が気持ちいぜ」

「だな。それに、太陽に光がこんなにも気持ちがいいものだなんて知らなかった――おい、カノン!?」

 

 カノンが飛び出し――それに続いて、ドルモンも走っていく。みんなが止めようとするが、すぐにその理由が分かった。海面が盛り上がり、メタルシードラモンが飛び出してきたのだ。

 

「逃げられると思ったのか、えらばれし子供たち!」

「そんな――」

「みなさん、しっかりつかまっていてください! ハンギョモン達をなんとかします!」

 

 そうしてホエーモンが水をかき回してハンギョモン達を吹き飛ばしていく。太一たちがホエーモンにしがみつく中、カノンはドルゴラモンに乗ってメタルシードラモンの眼前にまで移動していた。

 

「ハッハッハ! 馬鹿め、たった一人で何ができる」

「…………さてね。何ができるかわからないし、物事には順序ってものがある。まあおとなしく待てよ」

「――――貴様、何者だ」

「それは自分にもわからない。ただ一つ言えるのは、お前の命運もここまでだメタルシードラモン!」

「下らん――消えろ!」

 

 顔にある巨大な砲口――しかし、それを使う前にしたからオレンジ色の閃光が突撃した。

 すでにウォーグレイモンへと進化をしており、下の方ではハンギョモン達を蹴散らしつつ子供たちが岸へと向かっている。

 

「ぐっ!?」

「硬いッ――」

「馬鹿め、俺はクロンデジゾイドで身を守っている。いかに強力な武器であろうと、そのような攻撃びくともせんわッ!」

「だったら――二倍で行こうか」

 

 とんと、軽くステップをするかのようにカノンがドルゴラモンからウォーグレイモンへ飛び移る。その際、ドラモンキラーへタッチしていた。

 

「カノン!?」

「ウォーグレイモンはとにかく突っ込んでくれ! 援護は任せろ!」

 

 それだけ言うと、浮遊を行いながらカノンは狙いを定める――ドルゴラモンへと。その光景に一瞬言葉を失うが、彼を信じてウォーグレイモンはメタルシードラモンへと突撃していく。

 何か嫌な予感を感じたのかメタルシードラモンもウォーグレイモンへ反撃し、彼を口ではさんでしまう。

 

「しまったッ」

「ハッハッハ! 愚か者どもめ! いかに策をうとうとも私の敵では――」

 

 その瞬間、メタルシードラモンの横っ腹に衝撃が走った。ホエーモンが突撃をしていたのだ。同時に、カノンからドルグレモンへ弾丸が発射された。強化データ(パッチ)を乗せた、一つの弾が。

 

「コピーアンドペースト! ドラモンキラーのデータだ! 受け取れ!!」

「喰らえ――ブレイブメタル!!」

 

 ドルゴラモンへ弾丸があたり、彼にドラモンキラーのデータが追加される。そのままドラモンキラーをコピーするのは一瞬ではできないが、対ドラモン用のコードは付与させることはできる。

 オーラに包まれながらドルゴラモンがメタルシードラモンへと突撃していく。下あごに直撃を喰らい、大きなダメージを受けていた。その部分はメタルシードラモンの数少ない、サイボーグ化がされていない部分。

 

「ガアアアア!?」

「トドメだッ、ブレイブトルネード!!」

 

 高速回転しながら、再びオレンジの一閃がメタルシードラモンを貫く。今度は自ら砲口に入り内側から破壊していく。メタルシードラモンの体から飛び出し、ウォーグレイモンが退化しながら落ちていった。コロモンとなった彼を太一はすぐさま受け止める。

 

「うお!?」

「目が回ったぁ」

「ふぅ……お疲れさま、コロモン」

 

 カノンとドルゴラモンもゆっくりと降り立ち――バチリと嫌な音を響かせて元に戻っていく。痛みもなかったため、少し困惑した表情を浮かべたが、ドルモンも何ともないようだ。

 

「とりあえず一勝ってところか――ホエーモンもありがとうな!」

「ええ、みなさんも無事で何よりです――しかし、メタルシードラモンが倒された今、このエリアは元に戻っていきます。このままここにいるわけにはいきませんが、みなさんの健闘をお祈りしております」

 

 それだけ言うと、ホエーモンは消えていくエリアに巻き込まれないよう海を下って行った。メタルシードラモンも消えていき、スパイラルマウンテンの頂上の方へとデータが流れて行っている。

 

「どうやら、ダークマスターズを倒すことでデジタルワールドは元の形へ戻るらしいな」

「そのようですね――カノン君?」

 

 ふと、光子郎がカノンが目を見開いていることに気が付いていた。確かに今のは驚くべき光景だが、自分たちは海のエリアの隣にいるため巻き込まれずに済んでいるのに――いや、彼が見ているのは違うものだ。

 自分のデジヴァイスをみて、愕然としているのだ。

 

「カノン君――そのデジヴァイス、いったい」

「……さっき、妙な感覚があったんで何か悪いことでも起こったと思ったんですが…………なんか、マズいことになりました」

 

 カノンのデジヴァイスに、大きなひびが入っていた。画面は割れ、その機能を停止させていた。

 どうやら、また一つ代償が生まれてしまったらしい。子供たちの旅はまだまだ前途多難となるだろう。

 




カノンのデジヴァイス壊れる。さて、どうなることやら……

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