デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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初代のネーミングセンスのすさまじさよ――グフッ(吐血

あと、再び前日は二話投稿になりました。


36.ディープセイバーズ

 えらばれし子供たちを追い詰めたダークマスターズであったが、あと一歩のところで彼らに協力するデジモン――ピッコロモンの妨害を受け、彼らを取り逃がしてしまった。

 

「完全体で我ら4体を相手にするとは、正気とは思えませんね」

「確かにそうかもしれないッピ。それでも、誰かがやらなくてはいけないッピ」

「……まったく、あと少しであの0人目を殺せたかもしれないというのに」

「なるほど……どうやら、伝説は本当だったらしいッピ」

「――少し、口が過ぎましたかね」

 

 決着はすぐについた。ピッコロモンの抵抗もむなしく、彼はすぐに敗北することとなる。ただし、えらばれし子供たちを送り届けるという目的は果たしたが。

 

「勝負には勝ちましたが、試合には負けた。というところでしょうか……」

「ピエモン、なんでさっさと消し飛ばさなかったんだよ。それにあの0人目とかいう奴もすぐに殺せばいいのに」

「物事には順序というものがあります。それに……」

 

 ピエモンの脳裏に、自分のナイフが彼の肩へ刺さった時のことが浮かんでいた。

 出血もほとんどなく、空気に融けるように消えていったあのナイフが。

 

「…………どうやら、より厄介な存在になってしまったようで――これは作戦を練る必要があるかもしれません」

「どうしてそこまで警戒するのさ? ボクにはそこまで強く見えないけど」

「それで油断して吹き飛ばされたのはどなたですかな? ピノッキモン」

「うっ……」

「とにかくみなさん、それぞれのエリアへ戻ってください。後は自分の領域で彼らを迎え撃ちましょう」

 

 その言葉を合図にダークマスターズは各々が支配する領域へと戻っていく。

 ただ、ピエモンだけはスパイラルマウンテンの頂上へと向かって行ったが――道中、とある場所へと立ち寄ることとなる。

 

「デジモンたちはただ死ぬだけではデジタマに戻り、はじまりの町へ戻ってしまう。しかし、今かの町の機能が停止しているからこそ、デジコアから別のデジモンを生み出すことが可能!」

 

 システムのバグによって引き起こされた悪夢。

 ムゲンドラモンの管轄するエリアとピエモンの魔術が組み合わさり生まれた、さらなる軍団を生み出すための機構。

 

「フフフ……さて、準備だけは進めておいて損はありませんからね」

 

 カプセルのような機械の中には様々なデジモンが入っており、その中には――ネオデビモンの姿もあった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方、ピッコロモンのおかげで窮地を脱したえらばれし子供たちであったが、疲弊しており皆、意気消沈した様子であった。

 

「お前ら、無事か?」

「無事じゃないわよ……みんな疲れているし、カノン君だって…………丈先輩、カノン君は?」

「血は出ていないし、荷物の中に包帯も入っていたからとりあえずの手当ては出来たよ」

「血は出ていないって――それ本当なのか丈!?」

「ああ。不思議なことにね……すこし熱が出ているけど、今すぐ大事に至ることはない。呼吸も乱れてはいないし、命に別状はないよ」

「そっか……しかしここはどこなんだ?」

 

 カノンの無事を確認したため、次の問題に移る。今自分たちがいるのはどこなのかと言うことだ。スパイラルマウンテンに入ったことは確認できたのだが、どのあたりにいるのかがわからない。

 

「砂漠――いえ、砂浜でしょうか? 霧が深くてよくわかりませんが」

「霧も晴れてきているし、目印でもあればいいんだが……」

「なあ太一、あれ――見覚えが無いか?」

「あれって……あの黒焦げた残骸か? そういえばどこかでみたような……そうだ、思い出した。あれはファイル島の壊れた電話ボックスだ!」

「ってことはアタシたち、ファイル島に戻ってきたってこと?」

「どうやらそうらしいな――チューモン、お前もファイル島に住んでいたよな。ココはファイル島の海岸で間違いないか?」

「うん。確かに元はファイル島の海岸だよ。スカモンと海水浴に来たことがある」

 

 となると、間違いなくファイル島の海岸ということになるのだが、そうなると一つ疑問が生まれる。

 

「なんでまたファイル島なんだろうな」

「やっぱり意味があるのかしら。ピッコロモンにも言われた、足りないものに関係があるのかしら」

 

 去り際に、ピッコロモンから言われたことがある。今のままではダークマスターズには勝てない。まだ足りないものがあるというのだ。

 それが何かわからないが、子供たちにはファイル島だった場所へ戻ってきたことに意味があるように思えるのだ。

 

「カノンが起きていれば何かわかるかもしれないんだけど……」

「あまりカノン君を頼りにしない方が良いんじゃないかしら……この子、すごく無茶するわよ」

 

 空の言葉に一同が何も言えなくなる。確かにこの少年は無茶をし過ぎる。

 

「おいドルモン、コイツ昔からこんな事ばかりやっていたのか?」

「わりとね。でもカノンが無茶をしていなかったらもっとひどいことになっていた事ばかりなんだよ……それこそ無茶をしたから怪我で済んでいるんだ。まあ、詳しくは言えないかな……カノンにだって人には話したくないことはあるから」

 

 短い間だったが、カノンと遊んでいた少女のことがドルモンの脳裏によぎる。カノンは、あの思い出だけは人に話そうとしないのだ。だからこそドルモンも言わない。

 その意思を感じ取ったのか、太一たちも何も言わずに前に進むことにした。

 

「しかし、いったいどっちに進めばいいのやら――ん?」

 

 何か変な音が聞こえると海の方を見ると、水しぶきが上がっている。助けてくれという声も聞こえてきており、どうやら誰かが溺れてしまい、助けを求めているようだ。

 

「大変だ! はやく助けに行かないと!」

「でもデジモンたちは疲れて動けませんよ」

 

 ならばどうするかとあたりを見回してみると、近くにボートがあった。

 

「アレで助けに行くぞ!」

 

 そうしてデジモンたちを残し、太一たちが助けに行くと――なぜか浮き輪があるのに水しぶきが上がっていた。

 子供たちも流石におかしいと思っていたら、浮き輪の下から巨大な影が躍り出る。

 

「うわ!? シェルモン!?」

「お兄ちゃん、知っているデジモン?」

「アイツには前にひどい目に遭ったんだ! みんな逃げるぞ!」

 

 急いで岸まで戻ろうとするが、シェルモンが追いかけてくる。万事休すかと思われた――次の瞬間だった。

 

「マジカルファイヤー!」

「ポイズンアイビー!」

 

 一時的に退化していたが、成長期に進化したデジモンたちによってシェルモンは押されていく。

 

「プチサンダー!」

「イデェ! 今度は本当に助けてっ」

 

 そう言い残し、シェルモンは海の中へ入っていき逃げていった。その間に、ゴマモンの呼び出した魚でボートを押して子供たちは既に岸へとたどり着いていた。

 どうやら助かったようだと一安心し、太一はデジモンたちを見て思ったことを告げる。

 

「どうやら、えらばれし子供たちのデジモンは格段に強くなったみたいだな」

「どうしてそう思うの?」

「前にシェルモンと戦ったときは、グレイモンに進化してようやく勝てたんだ。でも、今は成長期のデジモンだけで勝てた」

 

 太一はかつて、ファイル島に来たばかりのころを思い出していた。まだわからないことだらけで、冒険も始まったばかりのことであるが、今もよく覚えている。

 

「実はピッコロモンに言われたことが頭を離れていないんだ。まだ俺たちはダークマスターズに勝てるほど強くはなっていない。でも、以前よりは確実に強くなっている。前には進んでいるんだ」

「ねえ空、あたしたち強くなってる」

「ええ、確かにファイル島にいたころよりもずっと強くなっているわね。バケモンたちとの戦いもそうだった。ファイル島にいたころは逃げてたけど、地球で戦ったときは成長期でも戦えてたじゃない」

「そういえば!」

 

 子供たちの明るさが戻り、次へ向かう気力がわいてくる。と、そこで急に陽射しが強くなってきた。どうやら霧が晴れたらしい。

 そこでタケルが遠くに何かを見つけたようで声を上げた。

 

「海の家があるよ!」

「ファイル島に海の家なんてあったか?」

「いえ、蜃気楼ですね。ファイル島に海の家があるのではなく、蜃気楼でそう見えるだけで――――いえ、どうやら本当にあるみたいです!」

「なら、食べ物も――」

 

 ごくりと、誰がのどを鳴らしたのかはわからないが、食べ物があるのではないかと思ったとたん、彼らは一目散に駆け出していった。

 

「おい丈! お前はいかないのか?」

「あっちの木陰でカノン君の手当てをしてから行くよ。あまり動かさない方が良いかもしれないからね」

「分かった――あれ、ミミちゃんは?」

「……ゴメン太一先輩、私もカノン君が目を覚ますまで待つわ」

「そっか――それじゃ何か持ってくるよ」

 

 そう言って、太一たちは海の家へ向かい、丈とミミ、ゴマモンにパルモンとドルモン、チューモンが残された。もちろん、寝たままのカノンもこの場に残っている。ちなみに、デジタマはドルモンが預かっていた。

 

「って、パンプモンたちは?」

「一目散に行ったよ。煩悩に負けて」

「らしいと言えばらしいけど……とにかく、カノン君の手当てをしよう…………これは、どういうことだ?」

「どうしたの丈先輩?」

「包帯がきれいなままだ――もしかして」

 

 すぐさまカノンに巻いた包帯をはがしていく――すると、彼の傷口が塞がっているではないか。

 

「ナイフが刺さっていたわよね! なんで、傷口がもう塞がっているの!?」

「こんなのおれも初めて見た……カノンは魔法で治りを早くできるけど、ここまでは無理だよ!」

「…………これはいったいどういう」

 

 ことなんだ、と言葉を続けようとした時だった。海の家から竜巻のような風が巻き起こり、砂が覆っていく。そして、みんなの悲鳴が聞こえてくる。

 

「あの声は!?」

「みんなに何かがあったんだ……僕たちは海の家を見てくる。二人はカノン君のことを頼んだよ!」

 

 そうして丈達が海の家に向かうと、砂に埋もれているではないか。緊急事態であることはすぐに分かり、物音を立てないように裏から覗いてみると――みんなが、砂にまみれて気を失っていた。

 

「みんっ――んぐ」

「静かに。見つかったらマズイ」

 

 ミミの口を押え、丈はあたりを見回す。すると、メタルシードラモンの姿が見えたではないか。

 

「流石アノマロカリモン。我がディープセイバーズ暗黒軍団の一員よ」

「――――ッ」

 

 思わずそのネーミングセンスで笑いそうになってしまう一同。暗黒をつければいいものじゃないと思いつつ、なんとか声を出さないようにする。

 あいつらは真面目にやってはいるのだろうが……

 

(なによあのふざけた会話は! 私たちあいつらにやられたっての!?)

(いや、あれでも真面目にやっているんだから笑っちゃまずいって)

「さて、褒美をやろう」

「アノマロカリモーン!」

 

 今度はお互いが体をつねることで笑うのを我慢した。ゴマモンとパルモンも口を押え、笑わないように必死になっている。

 ホタテみたいな貝をたくさん出したり、自分の名前を叫びながら食事するアノマロカリモンなど、色々とシュールである。

 しかしそのことに気をとられたせいなのか、頭の上にふってくる貝殻に気が付かず、ゴマモンは思わず声を上げてしまった。

 

「――んん?」

 

 メタルシードラモンが振り向き、なんの姿も確認できない。間一髪ではあるが、木の陰に隠れることで事なきを得たのだ。

 しかし、違和感は感じ取ったのかメタルシードラモンは海の家の中を確認している。そしてすぐに子供たちが6人しかいないのを見てしまった。

 

「どういうことだ、えらばれし子供は9人いるはずだぞ!」

「アノマロカリモーン」

「食ってないで探しに行け!」

 

 尻尾ではたき、アノマロカリモンを動かすメタルシードラモン。隠れて逃げ出そうとしていた丈達もすぐに見つかってしまった。

 

「うわぁああ!? ――あれ?」

 

 後ろを振り向くと、アノマロカリモンがいない。

 

「逃げた……わけないよな」

「たぶん隠れているのよ。今のうちに進化できるようにしないと……」

「ラッキー。貝みっけ」

「探せばあるわね」

 

 すぐに自分の食べられる食料を見つけ、ゴマモンとパルモンは回復を行う。ほどなくしてアノマロカリモンも現れるのだが――タイミングが悪かった。

 成熟期どころか完全体にまで進化し、両者がぶつかり合う。

 

「スティンガー……ッ」

 

 途中、アノマロカリモンが攻撃を仕掛けようとするが大量の貝をみつけてそちらへと夢中になってしまった。

 完全に隙だらけ。これには丈たちも呆れるしかないが……

 

「ズドモン、やってくれ」

「……ハンマースパーク!」

 

 そして、アノマロカリモンは気絶してしまう。

 メタルシードラモンがいつまでも我慢しているわけもない。とりあえず、気絶したアノマロカリモンを海の家の中に入れて囮にした上で丈たちはみんなを救出した。

 そのすぐあと、業を煮やしたメタルシードラモンが海の家を燃やす。本当に間一髪のことであった。

 




大変、カノンが一言もしゃべっていないの。

サブタイトルに暗黒軍団をつけるか悩んだ末に、やめました。
なんだろう、このつけた途端にダサく感じるネーミングは。なにか頭痛が痛いに通じるものを感じる。

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