すっかり周りは廃墟だなぁ……どうするんだこれ。
「ハァ……」
「あの大陸、一体なんなんだろうな?」
「流石にあそこまで飛んでいくのも一苦労だしなぁ……」
とりあえずみんなで集まってどうするか考えているんだが、ヴェノムヴァンデモンとの戦いの疲れもありいい意見は出てこない。というより現実逃避に近いか。苦労して倒したと思ったら、次の問題が出てきて気が滅入っているのだろう。
僕もどうするか悩んでいるのだが、パンプモンとゴツモン。マフラー引っ張って遊ぶのヤメロ。
「だって俺たちが考えたって仕方がないしー」
「なー」
「……」
魔力をカットして、マフラーを消すと二人はどさりと落ちていたそうな声を上げた。うん、真面目に考えてもらいたい。
「カノン、それ消せるのか?」
「魔力で編んでいますからね。まあデジタルデータの塊ですし」
と、与太話をしていると見知らぬ女性が駆け寄ってきたが……どうやらタケル君の母親らしい。ヤマトさんとお父さんも一緒にいるが、会話がぎこちない。まあ、他人が首を突っ込んでもいいことはないだろう。
人も集まってくるかなと思っていると、エンジン音が聞こえてきた。
「もしかしてマスコミとか?」
「それならヤマトさんのお父さんがいますよ」
「今更か」
光子郎さんからそんなツッコミが入り、エンジン音の正体が見えてきた。あれってたしか……丈さんのお兄さんか。
「シン兄さん!」
「みんな、ビッグサイトのご両親たちは目を覚ましたよ。無事、元に戻った!」
「よかった……」
ヒカリちゃんたちが喜び、家族が無事だったことに安堵していた。母さんたちもほっと一息ついている。結局助け出せなかったから心配だったのだろう。
口には出してなかったが、ヒカリちゃんを守り切れずにいたのを気にしていたからなぁ……問題が一つ片付いたし、やはり目先のことに目を向けるべきか。
シンさんがポータブルテレビか何かを取り出し、情報を集め出す。
『あの大陸は錯覚なんかではありません。確かに存在しているのです! このままでは世界中の空があの不気味な大陸に覆いつくされてしまうでしょう!』
ニュースキャスターか何かがそう言っているが、そういう根拠はない。しかし、その予測が間違っているともいえないか……霧が晴れたことで魔力の通りも良くなってきた。
これならもしかして、未来予知が使えるのではないだろうか――――
「いったい、どうなっているんだ……」
「ねえ、このままどうなっちゃうの? これもヴァンデモンの仕業?」
「そんなことない! ヴァンデモンは確かに倒したよ!」
「でも実際にこんなことになって……カノン、お前の魔法で何かわからないのか――カノン?」
◇◇◇◇◇
「警告――スパイラルプログラムにより、マップの構造が書き換えられました。警告――デジタマシステムの機能不全を確認。警告――警告、警告」
「おいカノン! しっかりしろ!」
突如として、カノンの様子がおかしくなった。まるで、機械みたいにしゃべるばかりで先ほどから意識がはっきりしていない。
いったいどうしちまったって言うんだよ……
「太一、カノンの奴いったいどうしたんだよ」
「俺にもわかんねーよ……橘さんは、何か知っていますか!?」
カノンの両親に聞いてみたが、二人とも首を振るのみだ。
「いや、私たちもこんなカノンは初めて見た……ドルモン、君は何か知っているのか?」
「ううん……おれも知らない。でも、カノンじゃないみたいだ」
「警告――時空の歪みを確認。人間界とデジタルワールドの境界線、崩壊。プログラムロイヤルナイツ――該当プログラムは存在しません。ガードプログラム四聖獣――現在利用できません」
「デジタルワールドとの境界線?」
それって一体――問い詰めようと思ったら、光子郎から声がかかった。
「あれ、見てください!」
「こっちもそれどころじゃ――あれはクワガーモン!?」
空の大陸から、クワガーモンが飛んできたのだ。すぐさま単眼鏡で覗いてみると――マズイ。
「近くに飛行機が飛んでいる!」
「なんですって!?」
「ワタシが行くわ!」
ピヨモンがバードラモンに進化し、飛行機の元へ行く。どうやら飛行機は墜落しそうになっているようで、バードラモンが下に入り支えた。しかしなぜ飛行機が墜落しそうになったんだ?」
「あのクワガーモンが飛行機にぶつかったように見えたんですが……もしかしたら、それが原因かも」
「ワテも加勢してきますわ」
そう言って、テントモンがカブテリモンに進化して飛び立つ。みると、バードラモンもガルダモンへ進化していた。カブテリモンが攻撃をクワガーモンへ仕掛けるが……すり抜けたように見える。
結局、二体は飛行機を着水させるにとどまりこちらへ戻ってきた。
「やっぱり、あのクワガーモンは大陸から飛んできたのか?」
「――となると、アレはデジタルワールドなのでしょう」
光子郎がそう言い、俺たち全員の顔が光子郎へ向く。そういえばさっきのカノンもデジタルワールドがどうとかって……
「みんな、こっちにきてくれ」
「シン兄さん、どうしたの――ってこれは!?」
テレビには、世界各地の様子が映っていた。その全てにデジモンたちが映っており、彼らが触れたものは固まってしまうようだ。
さっきのクワガーモンも飛行機に触れて……
「ねえ、プロットモン。あれがあなたのいた世界?」
「いや……アレはもう私の知っているデジタルワールドではない」
「デジタルワールド時間加速度、人間界換算では――」
「ああもう、しっかりしろ!」
思わず、カノンの頭を小突いてしまった。あ、と思ったときには遅く。カノンはそのままどさりと倒れてしまっていた。
「ちょっと太一さん!」
「ヤベ――だ、大丈夫か?」
「……なんか頭が痛い…………あれ? どうかしましたか?」
「覚えていないのか?」
すぐに目を覚まし、正気に戻ってくれたが……大丈夫なのだろうか。どうやら覚えていないようだが……
「なんかいつもの予知夢と違うな……頭のなかで進行途中のプログラムやらが一気に開いた感じでした」
「確かに言われてみればそんな感じでしたが、大丈夫なんですか?」
「……これしばらく予知はやめた方が良いな」
「大体、それどうやって使っているんだよ」
「今のでなんとなくわかりました。僕が予知しているんじゃなくて、どこかにアクセスして未来予測していたってのが正しいみたいです」
「アクセス? それがどこかわかりますか?」
「たぶん、デジタルワールドのどこかじゃないかと……理由は不明ですけど、そこと僕の意識がつながっているみたいですね。今のは逆流して色々な情報が流れ込んできたみたいです」
「ということは、カノン君はある種の端末となっていたという事でしょうか。ホストコンピューターみたいなものがあって、そこからデータを受信していたと」
「ま、そんなところですね」
「悪い二人とも。俺も含めてみんなついていけなくなるからそのぐらいにしてくれ」
第一アレだ。長い。
◇◇◇◇◇
「まあ結論から言いますと、こっちで数日過ごしたせいで向こうでは何年も経ってしまっているんですよ」
「はい。ですからヴァンデモンとの戦いの最中に向こうで何かが起きてしまった、ということだと……」
「そっか。ぼくたちデジタルワールドの歪みを正さないままこっちにきちゃったから向こうじゃ大変なことになっているんじゃないの?」
「その影響で、こうなってしまったということなのね……」
コロモンの言う通り、根本的な歪みの原因は向こうの世界にあるわけだ。必要なのは太一さんたち8人なのだが、ヒカリちゃんがこっちにいたことで人間界に戻って来てしまった。そのため、デジタルワールドで数年の時間が経過してしまっているわけだが……
元ヴァンデモンの部下の三体にも話を聞いてみるが、何も知らないとのこと。
「俺たちは大事な話一切知らないし!」
「なー」
「誇らしげに言うなよ」
「私も、幹部として扱われていたけど重要なことは何も教えてもらえなかったんだ」
「となるとやっぱり……」
「だな」
太一さんが空を見上げ、決意した表情で言う。ま、何を言い出すのかわかっているけど。
「もう一度行こう。デジタルワールドへ!」
「でも、どうやって行くの?」
「たしか僕たちがあっちへ飛ばされたときはデジヴァイスに導かれたんだ」
「えらばれし子供が全員そろった今なら、デジヴァイスの力で行けるんじゃないか?」
まあ他に方法が無いわけでもないのだが……それが一番確実か。次元の壁が崩壊しかかっている今、最も安全と思われる方法を使うべきだろう。それに、僕が思いついた方法だとたぶん使えるのは僕とドルモンだけだし。
とりあえず、全員でデジヴァイスをかざしてみるとすぐさま反応が訪れた。お互いに呼応し、デジタルワールドへのゲートが開かれる。虹色の光の道が現れた。
「僕のも反応したってことは……僕たちも行く必要があるみたいだな」
「そういえば、0人目ってことは……歪みとは関係ない使命があるってことなのか?」
「今反応したってことは違うと思いますけど」
今起こっている問題に対しては、僕も行かなくてはいけないんだろう。だからこそ、こうして反応しているわけだし。さて、突入するかという矢先――タケル君を呼ぶ声が聞こえてきた。
「タケル!」
「……せっかくみんな揃ったのに、ごめんね。でもちょっとしたらすぐに戻ってくるから――」
「ダメよ!」
まあ親としては当然か、だけどそれをすぐさま止めるものがいた。
「行かせてやれよ。俺たちだってさんざん勝手やってきただろ」
「……」
「母さん。色々言いたいことがあると思うけどさ――でも、このままじゃ地球はおしまいなんだ。だから、俺たちが母さんたちを守る!」
「ヤマト……」
「頼んだよみんな。夜が明けるのは当たり前だと思っていたけど、今度ばかりは夜明けは永遠に来ないかもしれないからね」
「そんな縁起でもない! 私はこの子たちを信じています」
シンさんが、光子郎さんのお母さんが言葉をかけてくる。多くの人に信頼され、未来を託されているんだ。
「大丈夫だよ兄さん、明日の朝日は僕が昇らせて見せる!」
「丈先輩カッコいい!」
「似合わなーい」
「君たちね……」
「ま、気合だけは十分ってことで」
そんなことを呟いた僕の前に、どさりとカバンが置かれる。置いたのは……父さん?
「なんとなく、妙な予感がしていてな。ちょっと色々と集めておいた」
「集めておいたって……食料?」
「クッキーとか乾パンぐらいしか集められなかったがな。それと、風邪薬も入れておいた……お前もヒカリちゃんもまだ風邪が治って日が浅いだろ」
「そういえば……」
「ぶり返すといけないからな。持っていけ」
「ありがとう」
「カノン、このタマゴはおいていくわけにはいかないのよね」
「そうだね……このデジタマも持って行かなくちゃいけないか。パンプモンとゴツモンも行くぞ」
「名残惜しいけど、いかなくちゃだね」
「みんな、元気でね」
デジモンたちも戻らなくてはいけない。丈さんが光に入ってしまい、宙へと浮き出した……
さて、そろそろ行かなくてはいけないか。全員で光の中に入るとゆっくりと体が浮いて、奇妙な感覚と共にデジタルワールドへ近づいていく。
「空ー!」
「ミミちゃーん!」
「お母さん……」
「パパ、ママ」
みると、大勢の人々がこっちを見ていた。その中には見知った顔もいくつか混じっていて……
「太一、ヒカリー!」
「お母さん……絶対、戻ってくるからぁ!!」
そうして、僕らはデジタルワールドへ突入していった。まだ見ぬ世界。きっと、大変なことの連続になるだろう……それでも、一人じゃない。僕らはみんなで立ち向かうのだ。
「ねえカノン、あれ」
「――、素直じゃないな」
倒れたビルの上に、黒のライダースーツを纏った男が立っていた。まったく……今度会ったらお礼でもいうべきだろうか? と、そう思っていたのだが――彼が突如別方向を向いたのが気にかかった。
同じ方向を見てみれば……光の筋?
「なんだろう、アレ」
「流れ星、かな?」
しかしそれにしては向きがおかしかったようにも見えるが……地上に現れたデジモンの仕業か?
「カノン、そろそろ突入するぞ! デジタマ落とすなよ!」
「分かってますよ!」
まあ今はこっちに集中するべきか。拳を握りしめ、空を見上げる。さあ、来るなら来い。この先に待っている者ども。
いよいよダークマスターズ戦に突入しますが、ヴァンデモンでここまで長引いたんだし、ダークマスターズはどのくらいかかるか……
後半、どのチームに入るかは決まっているのですが、カノンは今まで以上に苦労することになるでしょう。