デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

33 / 119
ここまで来るのに、長かった。


33.ドラゴン

 まだ銃は突きつけられている。不用意なことをすればアウトか……彼が何者なのかはわからないし、聞いても答えてはくれなさそうだ。

 しかし、この場で立ち止まっているわけにはいかない。

 

「……悪いけど、行かせてもらえないかな?」

「そういうわけにはいかねぇ……お前にこのまま戦い続けられると困るんでな。特に、あんな奴と戦うってのはな」

 

 それがヴェノムヴァンデモンを挿しているのは分かるが、究極体相手では総力戦を仕掛けても勝てるかどうかは分からない。その状況で僕たちがいかないというのはマズイだろう。

 魔法で目くらましをするか? そう思ったが、それも効くのか怪しい相手だ。

 

「それに、お前たちが行ったところで何が変わると言うんだ?」

「なに?」

「お前たちが行かなくても状況は動く。活路を見出す奴らはいる。お前たちだけで戦っているわけじゃないだろう」

「だからこそ、加勢にいかなくちゃだめだ……四体しか戦っていない、もしかして……」

 

 他のみんなはまだエネルギーが回復していないのではないか? 今すぐ駆けつけられない自分が歯がゆい。それに、メタルグレイモンとワーガルルモンらしき姿が消えていく――いや、小さくなっていくのが見える。どうやら退化してしまったらしい。

 

「まあ見てみな――そう簡単にくたばるような奴らなら、とっくにくたばっているさ」

 

 不用意に動くことはできない。彼の言う通り、成り行きをしばらく見守っていたら――エンジェモンとエンジェウーモンの手に光の矢が現れていた。

 あれは……予言の一説か?

 

「なるほど、紋章の力か――複数の紋章でさらなる力を引き出すってところか? 悪くない手だ……」

「お前、妙に詳しいな」

「まあ紋章に関しちゃ、知り合いの受け売りだがな」

 

 エンジェモンたちが地面の方へ矢を放つと――さらなる光があふれ出ているのが見えた。ココからじゃ、何をしたのかよくわからないが……変化がすぐに表れていた。

 二体の今まで見たことのないデジモンの姿が見えていた。それほど大きくはないが――今までとは存在のレベルが違う。

 

「ウォーグレイモンにメタルガルルモン、共に究極体」

「――お前、この距離でもわかるのか?」

 

 なぜかこの男が驚愕しているのだが、何を驚くというのだろうか。

 

「究極体にもなればデータ量は圧倒的だ。ココからでも十分見える」

「それにしたって人の身で――なるほど、そういうことか……お前、体にデータ体を複数宿しているな」

「今更だよ。それに、それがどうかしたのか?」

「……予想以上に進行していやがる。お前、自分の状態がわかっているのか? 今まで何体の暗黒の力を持つデジモンを倒してきた…………」

「さぁね――それに、暗黒だとか光だとか善とか悪とかどうでもいいよ」

「――――」

 

 この男が何を論じているのかはどうでもいいし、何のために足止めしているのかは知る由もない。

 ただ一つ言えるのは――

 

「僕たちは、誰かに決められた運命を生きているんじゃない。自分たちで決めた今を生きているんだ!」

 

 男を睨み、宣言する。その時僕の中で何かが変わった――いや、定まっていなかった方向性が定まったというべきか。不確定な状態で、ある方向に進んでいた力が別の方向に切り替わり固定されたのを感じたのだ。

 それを男も感じたのか瞳は驚愕に見開き、足が一歩後ずさっている。

 

「この土壇場で選びやがった――いいのか? お前が選ばなかったものは、全ての暗黒を消し去ることだって可能なんだぞ」

「そんなもの願い下げだよ。光だけでも気持ち悪いっての――それに、それが本当に必要な力なら必要なときには出てきてくれるよ」

「……まったく、楽観視が過ぎるぜ…………悪いなサクヤモン、俺にはこういう腹芸は無理だわ。キャラじゃねぇっての」

 

 そう言うと、男は銃を下げてしまう。どうやら、行かせてもらえるようだ。

 

「しかし、もう戦いも終わるころだと思うがな。ヴェノムヴァンデモンも押されているだろ」

 

 地面から光の帯が8本出ている。たぶんデジヴァイスの力なのだろう。僕のは少し規格が違うからあのような事象は起きないだろうが……

 これで後は止めを刺すだけ――そう思われたが……

 

「いや――これで終わらないよ。何かが起こる」

 

 僕がそういうのと同時に――ヴェノムヴァンデモンの力の圧力が増した。まるで、デジコアを強制的に解放させたような感じだ。

 ヴェノムヴァンデモンの纏うオーラが増大していき、帯を引きちぎってしまう。

 

「おいおい……どこのどいつだよ。強制的にデジコアを解放しちまいやがった……擬似的ではあるが、バーストモードになっていやがる」

「バーストモード?」

「デジモンの限界能力を解放した姿だ。理論上はどのデジモンでも可能だが……使い手なんて長い歴史でもほとんどいない代物だぞ。一歩間違えばデジコアの方が耐えられないっていうのに」

 

 男の言い方から、誰かが強制的に解放させたらしいが……まったく結局やることは変わらないわけか。

 僕はドルグレモンの背に乗り、今すぐあそこへ向かうことにした。ま、やっぱりまた止めてくるんだねあなたは。

 

「待て。いくら究極体でもあれには敵わないぞ――それでも行くのか?」

「もちろんだよ。僕たちがそうしたいからそうするんだ……ここで立ち止まるのなんて、それこそごめんだね」

「おれたちはいつだって、そうやって進んできた。立ち止まりそうになっても、お互い足りないものを埋めて前に進んできたんだ」

 

 ふわりと飛び上がり、奴の元へと翔けていく。後ろは振り向かない。きっと、彼とはまた出会う時もあるだろう。今度出会うときは敵かもしれないし、味方かもしれない。

 奴の元へ向かう中、ゲンナイさんの送ってきた予言の一文が頭によぎる。二体の究極体が出てくるまでがあたり、その後僕が読んだ部分はバーストモードのことだろう。

 究極の敵にばかり気をとられていた……失敗だったな。そっちのことに気をとられて力の解放の方を言わなかった僕のミスだ。

 

「なあドルグレモン、今まで色々なことがあったよな。辛いことも、楽しいことも、悲しいことも……本当、色々な」

「今更どうしたんだよカノン。この状況でそういう事言うの、縁起でもないよ」

「だな……だったらいつも通り――いや、いつも以上に全力でぶつかるだけだよなッ!」

 

 ドルグレモンの頭の上に飛び乗り、仁王立ちをし腕を組んでヴェノムヴァンデモンを睨む。下で太一さんたちが叫んでいるのが聞こえる。まあ、ものすごく危なく見えるからね……

 しかし、究極体が二体いても押されているこの状況だ――ここでやらなきゃ、男が廃るよな。

 

「いくぞドルグレモン……今までの全てを、ここで出し切る!」

 

 魔力を解放し、ドルグレモンと接続する。デジメンタルが自分の内側でフル稼働するのが分かった。体が熱くなっていき、オーバーヒートしそうだが……それでも動かし続ける。

 ウィザーモンのおかげでより高度な魔法の行使が可能となったおかげで、デジコアの深部にまで意識をたどり着かせることが出来る。それに、さっきヒントを貰うことが出来た。

 

「元々、デジコアの奥に何らかのデータが眠っているのは分かっていたんだ。だったら、今持てるすべての力でそれを解放する! 限界を超えるぞ!」

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ドルグレモンの体が発光していき、力が高まっていくのを感じる。自分の中にも多くの情報が入ってくるのを感じ、酔いそうになるが意識を強く保とうと集中する。

 ヴェノムヴァンデモンはこちらに気が付いたのか、その腕を振り下ろしてくるが――

 

「邪魔だムシケラがぁ!!」

「――ッ」

「何ッ!?」

 

 放出されたエネルギーが盾となり、奴の攻撃を防ぐ。その隙にウォーグレイモンが回転しながら腕を吹き飛ばし、メタルガルルモンの放ったミサイルが着弾して奴を氷漬けにした。

 それでももがき、ヴェノムヴァンデモンは侵攻を続けようとする。目線を目的地と思しき場所に向けると……なるほど、ビッグサイト。さしずめ餌を手に入れようってところか?

 

「この――外道がッ」

 

 その叫びと共に、デジコアの最深部へ到達した。その奥に眠っていたのは――あまりにも強大な、ドラゴンのデータ。そのデータとインターフェースの力が合わさり更なる進化を作り上げる――その姿は、究極の敵と呼ぶにふさわしい姿だった。

 

「――なるほど、そういう事ね……いくぞドルグレモン!」

「ドルグレモン――究極進化ァアアアア!!」

 

 内部のデータを解放していく。頭の中に膨大なデータが一気に流れ込む中、過去の記憶がアルバムをめくるように過ぎていった。

 ドドモンが生まれた日のこと。初めての進化。初めて戦った日のこと。毎日がワクワクしていて――そして、出会った女の子のこと。

 あれ以来、心のどこかでもっと強くなろうと思っていたのだろう。戦うことから逃げないために。悲しい思いをしないために。

 デジメンタルを手に入れた時、魔法が使えるようになったとき……実はすごくうれしかったんだ。でもそれだけならいつか道を間違えていたかもしれない――マフラーに手を当て、この力を決して間違った方へ使わないと改めて決意しよう。

 

「グルァアアアアア!!」

 

 咆哮と共に、光が弾けて進化が終わった。皆が言葉を失っていたのだろう――その姿は、巨大なドラゴンだ。銀色の巨体に、人のような形でありながら巨大な翼をもった姿。

 まるで、世界を滅ぼそうとする悪魔のような出で立ち。

 

「ドルゴラモン!!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ドルグレモンが究極進化した……でも、これは…………」

 

 光子郎を含め、その光景を見ていたものすべてが愕然としていた。ドルグレモンが進化したデジモン――ドルゴラモン。大きさはアトラーカブテリモンよりも少し大きいぐらい。ウォーグレイモンたちとは違い、より巨大になる進化を遂げたのだろうが……何かがケタ違いに違う。

 

「ねえ、光子郎……あれって何なの?」

「カノン君のデジモンが究極体に進化したのでしょうが――」

 

 アナライザーですぐさまそのドルゴラモンの情報を引き出す光子郎だったが、その情報に思わず目を見開いてしまった。

 

「な、何だって!?」

「おい光子郎、どうしたんだよ!」

「なんでそんなに焦ったような声を出しているんだ?」

 

 太一とヤマトも駆け寄ってきてアナライザーの情報を見ていくと、そこには驚くべきことが書かれていたのだ。

 

「ドルゴラモン、究極体……デジコアの空想が生み出したデジモン。デジコアインターフェースの創造力が極限にまで解放されたことで進化した姿。破壊の権化であり、究極の敵の化身……究極の敵!?」

「予言はこのことだったのか……味方、なのか?」

 

 皆が見上げてみると、咆哮を終えたドルゴラモンは――そのままヴェノムヴァンデモンを殴りつけた。ヴェノムヴァンデモンも攻撃を行ってくるが、子供たちに被害がいかないように立ち回りながら戦ってくれているのがわかる。

 その巨体でヴェノムヴァンデモンに組み付き、奴の動きを阻害しているのだ。

 

「どうやら、理性はちゃんとあるみたいだな――なら、ウォーグレイモン!」

「メタルガルルモン! お前たちも続け!」

 

 その言葉と共に、二体のデジモンもヴェノムヴァンデモンへ攻撃を仕掛けていく。増大したオーラに阻まれつつも、少しづつ押していた。

 

「コイツ――思ったより硬いぞ」

「どうする、ウォーグレイモン」

「……」

「奴の防御を崩す――その隙に、ぶち込んでやれ!」

「――ドルゴラモン!?」

 

 それだけ言うと、ドルゴラモンは体からエネルギーを放出して一気に突撃していった。それこそがドルゴラモンの必殺技。その名も――

 

「ブレイブメタル!!」

「グガァアアア!?」

 

 突き抜けはしなかったが、あまりの威力に一瞬、ヴェノムヴァンデモンの体からオーラが弾け、よろける――その後ろから二体のデジモンが溜めに溜めた力を一気に解き放った。

 

「ガイアフォース!!」

「コキュートスブレス!!」

 

 二つの技がぶつかり、ヴェノムヴァンデモンのデータが崩れていった。そして、断末魔とともにその姿は消え去り、霧散してしまう。

 ここに、ヴェノムヴァンデモンとの戦いは終結した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 戦いも終わり、ウォーグレイモンとメタルガルルモンは幼年期にまで戻っているのが見えた。どうやら、エネルギーを大分消耗したらしい。

 

「ふぅ、片付いた」

「カノン、お前相変わらず無茶するなぁ……って、進化させた後どこにいたんだ?」

「ウィザーモンのおかげで、浮遊ができるようになったんです。最後は飛んでましたけど……見えませんでした?」

「全然……他のところに気をとられてたし」

 

 あら残念……ドルモンもお疲れさま。

 

「結構疲れたねぇ……」

「まて、なんでお前は成長期なんだよ」

「鍛え方が違う――というより、元々持っていたものの解放だから?」

 

 ドルモンは肩が凝ったように首を回しているが……本当に疲れているのかコイツ?

 エンジェウーモンも力を使いすぎて成長期に退化しているって言うのに……いやそっちも成長期ですか。話に聞くと、やはり予言の通りのことをしたら究極体に進化したそうだ。ただし、僕たちとは違い成長期からのワープ進化だが。

 あと、ヴェノムヴァンデモンを拘束したのもデジヴァイスからではなく紋章から出た帯だそうだが……てっきりデジヴァイスの機能かと思ったんだけど……

 

「ねえ、本当にヴァンデモンを倒したのよね?」

「心配なのはわかりますが、結界の魔力も消えていますから大丈夫ですよ。この分ならすぐに晴れ……る」

 

 霧が晴れていき、空が見えるようになった。時間は既に6時を過ぎている。朝の6時から始まった戦いだから、もう半日以上経っていたな。空がすっかり真っ暗――だったら良かったのに。

 空には帯状に謎の世界の姿が映し出されていた。まるで、空間そのものが壊れているように。

 

 どうやら、事件はまだ終わったわけじゃないようだ。

 




デジモンのモチーフ元を考えたとき、ドルゴラモンのモチーフって何なんだろうかと思い至る。
もちろん、ドラゴンなんだけどそれに加えて何かあるよなって色々調べてみた結果……
ウィリアム・ブレイクの書いた絵じゃないかと思った。結局黙示録ですかバンダイさん!

今回も伏線が多いですが、半分はアドベンチャーで回収すると思います。


ちなみに、暴食さんはカノン自身が知らない秘密を色々知っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。