デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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31.魔法使い

 しかしデジタマのかさばることかさばること。

 何とか上層まで上がってきたが、人の気配は感じない。バケモンたちがいたことから、社内にいた人たちもつかまってしまったのだろう。

 

「やっぱり、芸能人とかもつかまっているんですかね」

「でしょうね……しかしこの時間って朝のニュースとかやっていますよね。大丈夫なんでしょうか……」

「全国的にフジテレビは映らない事態でしょうねぇ……いやぁ、ヴァンデモンめ恐ろしいテロをしやがる」

 

 各所に被害が出そうで今も怖いです。

 ウチの両親の伝手でどうにかならないだろうか……

 

「そういえば、光子郎さんのご両親は大丈夫ですか?」

「ええ。ゲンナイさんからデジタルバリアというプログラムが送られてきまして。それで、バケモンたちにも見つからずに済んでいます」

「便利なものを……再現できるかな」

 

 たぶんデジモンの視覚情報をごまかす類のものだと思うけど……今考えても詮無き事かな。

 とにかく、人はいないみたいだし結界の起点を破壊する方が先か。白衣がちらっと見えたかと思ったらバケモンが出てきて見つかるところだったし、また見つかるかも――と思っていると、案の定だ。

 

「――バケモンがこっちにきまっせ!」

「なら下がって――しまった、挟み撃ちだ!」

 

 なんと、廊下の前と後ろにバケモンが。進化して迎撃してもいいが結界が破壊される恐れが出てくるとヴァンデモンがやってくる可能性もある。

 ここは見つからずにやり過ごしておきたいところだが――横は窓と扉だけか……扉!?

 

「ここならっ」

 

 開けようとすると、手が届く前に扉が開く。まさか、こっちからもバケモン!? ドルモンも驚いて鉄球を放つ体制に入ったが中から人の手が出てきて慌てて口を閉じた。

 

「こっちだ!」

「うわぁ!?」

「光子郎はん!?」

 

 光子郎さんが引き込まれ、僕も飛び込んですぐさま扉を閉める。

 驚きのあまり、光子郎さんは騒ごうとしてるが大きな人影がそれを抑えていた。

 

「静かに、奴らが去るまで物音をたてないほうがいい」

「――――」

 

 やがて、バケモンたちが去って行くのを感じるとその人は光子郎さんを放した。僕たちもふぅと一息つき、緊張を解く。

 どうやら何とかなったみたいだ。

 

「行った、みたいだな」

「助かった……えっと、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 しかしこの人何者なのだろうか。ドルモンとテントモンを見ても驚いた様子はないし……それに、どこかで見たような気も……ここで働いている人らしく、首からはカードを提げている。名前は……石田さん?

 

「石田ってどこかで聞いたような……ってもしかしてヤマトさんのお父さん?」

「ええ!?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヤマトさんのお父さんに連れられて、広い場所に行くことに。しかし、その途中で外から轟音が響いてきたため慌てて窓の方を見ると――黒い球体にヒカリちゃんがとらわれていた。さらに下の方にはガルダモンと、狼のようなデジモンがいるのが見える。

 

「あれは、ガルダモンとガルルモン! 空さんとヤマトさんもいます」

「何!? ヤマト!?」

 

 よく見ると、パンプモンたちや父さん母さんまでいるが……どうやら、ヒカリちゃんを奪われてしまったらしい。どうする? 今、どうするのが正解だ?

 

「……カノン、自分がやりたいようにやるのが一番だよ」

「そうだな――」

 

 選択肢の一つとして、下に行くというのもある。だけど……ヒカリちゃんはどうやら球体展望台の方へ連れて行かれたらしい。どこか別の場所に運ばれる可能性もあるし、ここは行くか。それに結界の起点はどうやら球体展望台のようだし。

 ドルモンの体力に不安が残るが……

 

「光子郎さん、僕は先に行きます!」

「カノン君!? 一人で行くんですか!?」

「一人じゃありません! ドルモンが一緒ですよ。光子郎さんたちはみんなと合流してください。ウチの両親もいましたから、よろしくお願いしますね! あと、このデジタマも預けておきます!」

 

 それだけ言い残し、僕らは走り出す。

 中にバケモンもいるが、僕らが暴れれば光子郎さんたちが外に出やすくもなるだろう。

 

「いたぞー! えらばれし子供だー!」

「かかれー!」

「邪魔だぁあ!」

「ダッシュメタル! ハイパーダッシュメタル!!」

 

 バケモンを蹴散らしていき、球体展望台を目指す。一旦下に降りて石田さんから近道を教えてもらって全員で乗り込んだ方が良かったか? 道順がよくわからないな……

 とりあえず上がればいいとばかりに上へと上がっていくが……そうだ、一般の人も入れる場所なんだからわかりやすいルートがあるよな。

 

「案内板、案内板……あった! 行くぞ!」

「急がないとヒカリちゃんが別の場所に連れて行かれるかも!」

「分かってる――うん?」

 

 外を見ると、コウモリの群れと共に誰かが飛んできているのが見えた。って、あれってヴァンデモン?

 そういえばいかにも吸血鬼って見た目をしていたよな。

 

「……場所が狭いからサラマンダモン――やっぱデジメンタルは反応しないか」

 

 僕の側ではなく、ドルモンの側で適合できなくなっているみたいだ。もしかしてX抗体の影響なのか?

 今考えている余裕はないのが悔しいところ……

 

「グレイドモンをもう一度使うけど、行けるか?」

「大丈夫!」

 

 そうして球体展望台を目指す。ようやく到着して身を隠しながら様子をうかがっていると、やはりヒカリちゃんが8人目だというのはバレてしまっているようだ。

 やがて、ヴァンデモンがその場に現れた。猫のようなデジモンを手につかんでいるところを見ると――アレがテイルモンか。

 

「さぁて、どうするか……」

 

 デジヴァイスを握り、タイミングを計っているとヴァンデモンがヒカリちゃんに問うた。何故、自ら8人目だと名乗り出たのかと。自分よりも他人を優先するヒカリちゃんらしいが、まったく相変わらず危なっかしい。

 いや、人のこと言えないか……

 

「あなたが、みんなを苦しめるから!」

「……気丈な娘だ――ッ、この気配は!?」

 

 一気に超進化してグレイドモンに進化してもらい、ヴァンデモンへ迫る。突然のことにヴァンデモンも驚いているようで、思わずテイルモンを放してしまっていた。

 

「そうらニンニク投げつけるぞ!」

「ッ」

 

 まあ、(ブラフ)だけど。それでも一瞬の隙をついてヒカリちゃん共々テイルモンを救出。さらに、外から狼男のようなデジモンが入って来て、ヴァンデモンを殴りつけた。

 

「おのれ――貴様、どこまでも私をコケに」

「どこまでだってしてやるよ、この外道が!」

 

 グレイドモンと共に屋上に飛び出る。周りを見ると、続々とえらばれし子供たちとそのパートナーデジモンが集ってきていた。

 父さんたちもここまで来ちゃっているし……デジタマは父さん預かりか。とりあえずは大丈夫そうで安心した。話に聞いたウィザーモンってのはあの魔法使いそのものの見た目の奴か。彼はヒカリに気が付くと、魔法でヴァンデモンを攻撃し、手に持っていた何かを投げ渡してきた。ヒカリちゃんもすぐにそれをキャッチし――ヴァンデモンの顔色が変わる。

 

「それは、8人目の紋章!? ウィザーモン、貴様生きていたのかッ」

「借りは返す主義でね。一矢報いたかな」

「おのれ……それに、パンプモンにゴツモン。貴様たちもおめおめと顔を出せたものだな」

「あ、あわわわ」

「やべっ」

 

 そのまま母さんの後ろに隠れる二人だが……いや、わからなくはないんだが微妙な気持ちになるからやめてほしい。

 しかし、これで形勢逆転。

 ピコデビモンがヒカリちゃんを狙って攻撃してくるが、僕が近くにいるのにそう簡単にいくはずもなく、ふっとばしてやった。

 

「チィッ……ブラッディストリーム!」

 

 赤い鞭が放たれる。グレイドモンがすかさず防御し、他のデジモンたちの攻撃が迫る。さらに、遠くからミサイルまで襲ってきた。

 だけど、その全てをヴァンデモンはいなし、消し去り、はじき返した。

 

「強すぎるだろ!? 本当に完全体なのかアイツ!」

「あきらめるな! 今の俺たちなら勝てる!」

 

 ミサイルの出所――メタルグレイモンに乗って太一さんたちが駆けつけた。ミミさんもいるし、これでえらばれし子供は全員集合したようだ。

 母さんたちの方からまばゆい光がしたかと思えば、天使のようなデジモンが現れた。

 

「ヘブンズナックル!」

「ヴァンデモン様――ギャアアア!?」

「ぐぅ!? 聖なる、力か……だがこの程度では私はやられはせん!」

 

 特徴が合わないが、他の子供のデジモンと照らし合わせると、あのデジモンはパタモンが進化したってところか。タケル君もエンジェモンって呼んでいるし。

 そのエンジェモンの攻撃で、ヴァンデモンをかばったファントモンが消える。ヴァンデモンも多少だがダメージを受けたようだ。

 

「調子に乗るなよ――ナイトレイド!」

「この程度の攻撃で、俺たちがひるむと思ったか!」

 

 グレイドモンが肉薄し、斬りかかる。しかしコウモリを目くらましに使いヴァンデモンは飛び上がった。ワーガルルモンが蹴りを入れるが、その足を掴みアトラーカブテリモンへ投げつける。

 ガルダモンがつかみかかろうとするものの、赤い鞭で子供たちの方へ弾き飛ばしてします。その防御のためにエンジェモンがみんなを守る。パンプモンとゴツモンも一緒になんとかガルダモンの腕をそらそうとしていた。

 メタルグレイモンのミサイルとリリモンやズドモンの放つ技がヴァンデモンへ迫っていくが、全て消え去ってしまう。

 

「おかしい、コイツもしかして……」

「消えろッ! ブラッディストリーム!」

「マズッ!? 全力防御!」

 

 シールドを出して全力で防御するが、やはりヴァンデモンは何かが違う。術式が力ずくで破壊されていくのを感じる。防御力にすべてを注ぎ込んだからか、攻撃は届かなかったが僕の体も弾き飛ばされてしまった。

 

「ぐぅ!?」

「カノン君!?」

 

 慌てて、ヒカリちゃんが駆け寄ってくるが――その隙をヴァンデモンは逃さなかった。

 高笑いと共に、コウモリたちが襲い掛かってきたのだ。

 

「貴様たちさえ消えれば、我が野望は成就する! ナイトレイド!」

 

 今この時、動けるものはいなかった。あまりの強さ、さらにお互いの動きを殺すように立ち回られたために追撃することが出来なかったのだ。

 これでおしまい――そう思った時だった。1人だけ、動ける者がいた。状況を見据え、自分が動くべきタイミングを計り続けていたものが1人。

 

「――――え」

 

 ヴァンデモンの攻撃を全て一人で受けきり、体がぼろぼろになっていく。

 

「ザコが……邪魔しおって」

 

 どさりと、彼が倒れていく。慌てて駆け寄ると……もう、手遅れだ。

 ウィザーモンは僕らをかばって倒れてしまった。

 

「テイルモン……それに、お二人も…………無事でよかった」

「ウィザーモン……なんで」

「私は、テイルモン……貴女に出会えなければ意味のない命を長らえただけ……貴女に会えて、良かった」

 

 そう言うと、ウィザーモンは人が息を引き取るように倒れる。彼が力尽き、その手から小さな光の球がこぼれ僕の中に入って来て、そして――

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ここは……」

「あなたの精神世界です」

 

 真っ白な空間。そこに、僕とウィザーモンが立っていた。

 

「私の最後の魔力であなたと話をするために、こうしています」

「なんで、そんなことを……そんなことをするぐらいなら、自分のために使えばいいだろうが!」

 

 ウィザーモンはただ静かに首を振るのみ。

 

「元々、昨夜の戦いで私の体はボロボロでした。あなたの魔法を見てから一度でいいから色々と話してみたかったんですよ……見事な構築でしたが、それだけに残念なことが一つありまして。それを伝えないまま消えるのが心苦しいだけです。だから、これは自分の学者としてのエゴですよ」

「なんだよ、それ……」

「いいですか。私たちの使う魔法はこの世界でいうプログラムと同じものです。しかし、違うものもある。本当なら私がいた世界、ウィッチェルニーへ行くことをお勧めするんですが、生憎追放された身で……と、そのことを話す時間はありませんね」

「……」

「いいですか、我々の魔法は高級プログラム言語で構成されているのです。ですから、基盤さえしっかりしていればもっと抽象的でも発動は可能になる。あなたは、緻密に組み過ぎているのです――もっと結果をイメージし、そこに至るまでの過程を考えれば、おのずと答えは出ます」

「結果をイメージして、過程を考える……」

「と言っても、そう簡単ではありませんか――私の力の一部を残していきます」

「でも、それって人間に扱えるのか?」

「あなたなら大丈夫――自分を信じてください。テイルモンのこと、お願いしますね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ――時間にすれば刹那のことだった。魔法使いとの邂逅は終わり、元の時間に戻ってきた。

 ヴァンデモンが高笑いをしているが――ああ、癇に障る。

 

「ありがとうよ、ウィザーモン……静かに眠っていてくれ」

「ウィザーモン――ッ」

 

 ヒカリちゃんの瞳がヴァンデモンを射抜く。同時に、彼女の紋章が強く輝きだして――テイルモンの姿が変わっていく。

 

「しまった――この光は!?」

「超進化、エンジェウーモン!」

 

 ならばこちらもいこう。グレイドモンが僕の隣までやって来て――ドルモンへ退化する。

 

「あれ? 戻っちゃった……カノン?」

「デジメンタルとドルモンの規格が合わなくなったのなら、さらに調整すればいい。今までのままじゃダメなら、更に構築し直す」

 

 カタカタと頭の中にキーボードを叩く音が響くようだ。高速でプログラムが組まれていき、結果が引き起こされる。そして、僕の中に渦巻く力に呼応するかのようにウィザーモンから受け取ったデータが可視化した。

 青色のマフラーが首に巻き付き、風邪になびいている。

 

「力、借りるよウィザーモン――デジメンタルアップ!」

「――――ッ、ウオオオオオ!」

 

 大きさは太一さんたちぐらい。完全な人型。そのフォルムはどことなくウィザーモンのようでもあった。

 

「アーマー進化! フレイウィザーモン!」

「――おのれ、どこまでも小賢しい真似を!」

 

 赤い鞭がフレイウィザーモンに襲い掛かるが、彼の操る炎がヴァンデモンの右手を焼き焦がした。防ぐこともかなわず、ヴァンデモンの絶叫がこだまする。

 

「アガァ!? これは、浄化の炎だと!? それに体がッ――」

「ヴァンデモン、我が友ウィザーモンを殺し、あまつさえこの世界にまで侵攻したあなたの罪、悔い改める気はないのですね」

 

 エンジェウーモンがヴァンデモンに問いかける。どうやら彼女がヴァンデモンの動きを止めたようだ。ヴァンデモンも必死に抵抗しようとしているが無駄だ。もう、逃れることはできない。

 

「二つの世界を一つにし支配する、我が野望のためだ! 我が道を邪魔するというのなら、もう容赦はしないッ」

「――――ならば、答えは一つです」

 

 エンジェウーモンが手を空に掲げ、巨大なリングが出現する。

 

「みんな、エンジェウーモンにパワーを渡すんや!」

 

 アトラーカブテリモンの呼びかけに応え、全てのデジモンがそのリングへ技を放つ。まあ、最後になるから僕からも一つだけ言っておこう。

 

「ヴァンデモン。あの甘っちょろい構成の結界は何なんだ? 魔力で逆探知可能とか愚の骨頂」

「0人目ッ貴様どこまでも――」

「うるせぇよド三流。妙に人間に詳しいし、それに信頼とか友情を嫌いすぎていないか――まるで、何か嫌なことがあったみたいに。それか、そう教え込まれたか」

「――――」

 

 一瞬だが、ヴァンデモンの目が見開いた。まるで、触れてはならないものに触れられたかのような――しかし、答え合わせはできないだろう。

 エンジェウーモンは光の矢をつがえ、放とうとしていた。

 

「これで終わりよ、ヴァンデモン。ホーリーアロー!」

「や、ヤメロオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 ヴァンデモンに矢が刺さり、仮面だけ残して消滅してしまった――なんともあっけないが、これで終わりとは……

 

 

 

 

 だけど僕たちはまだ知らなかった。

 本当の決戦はまだ始まってもいなかったと。

 




改めてアニメを見ていて思ったのは、ウィザーモンって体が消えるシーンなかったような……

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