デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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実は今までの話でも地図を見つつ位置を確認している。現実世界編だとこれが結構面倒。
しかし今は便利ですね。ストリートビューとか色々とあるし。


30.決意の超進化

 このデジモンが一体何なのか。情報を見ようとするが――普段と様子が違う。デジコアがむき出しになっているからか、より多くの情報が頭に入ってくる。

 メタルファントモン、完全体。データ種。そんないつもと同じ基本情報と共に、X抗体(X‐antibody)という謎のコードが見えた。

 

「これって、いったい……」

「クカカ、まさかこれほどまでに力が高まるとはな」

 

 メタルファントモンは自分の力を確かめるように、手を握ったり閉じたりしている。自分がどれほどの強さとなったのか、その結果に満足したのか高笑いを上げた。

 ハハハハと奴の笑い声が響き渡る。場を支配する圧力が高まり、周囲にいたバケモンたちも静かになった。遠くで、人々のどよめきが聞こえる。当然だ。お化けに襲われている状況で、死神が現れたら自分たちは死ぬんだと思ってしまうだろう。

 その様子をメタルファントモンは少々煩わしそうに眺めている。

 

「――ヴァンデモン様には殺すなと言われているが……耳障りだな」

「ッ、ラプタードラモン!」

「分かってる!」

 

 ラプタードラモンがその硬い身体で体当たりを仕掛ける。幸い、体の硬度なら互角らしい。メタルファントモンも突然の奇襲には防御に出たようで互いの力が拮抗していた。

 その隙に、僕は指から魔弾を放つ。デジコアがむき出しになっているのなら、そこに撃てば効果は見込めるはずだ。

 

「喰らえッ」

「――効かんわ!」

 

 だけど、デジコアに当たった弾は何かに弾かれるように霧散して消えてしまった。メタルファントモンは鎌のエネルギーを消し、槍のように振るってラプタードラモンを弾き飛ばす。

 翼、首、体。各関節に連続で攻撃を仕掛けていき、ラプタードラモンの体からはいやな音が鳴り響きだしていた。

 

「な、ラプタードラモン!?」

「こいつ……強すぎる…………ごめん、おれじゃ無理だ………………」

「弱い。弱い。弱すぎるぞ! そんなものか0人目! それでも私と同じX抗体を持つデジモンだと言うのか!」

 

 X抗体が何なのかわからないが――どうやらそれにはデジモンを強くする力があるらしい。しかし、ラプタードラモンはそんなものを持っていただろうか?

 頭の中で何かがつながりそうな気がした。ラプタードラモンへ進化したときのこと。アーマー進化が使えなくなった理由。ドルモンの奥底に眠る何か――だけど、今それを考えている余裕はない。

 

「これで(しま)いだッ!」

「終わらせるかぁああああ!!」

「――カノン!?」

 

 身体強化を限界以上に発動し、一気に跳躍する。一瞬だが、奴の鎌の情報が頭に入った。どうやら防御力など関係なく魂そのものを刈り取るらしい。さっきは紋章の力で助かったが、次も大丈夫という保証はない。

 だったら、無茶でもなんでも引き出せるものはすべて引き出さないと負ける。

 

「負けられないんだ――喰らいやがれッ」

 

 僕の右手に雷撃が纏わる。薄く、黄金のハンマーのようなものの影が重なっていき、奴の鎌と衝突した。衝撃で突風が吹き荒れる。力は拮抗し、エネルギーが霧散していく。

 

「うおおおおおお!!」

「この力――聖なる力、だと!? ただの人間が生身で発するというのか!?」

「もう、一発――あ」

 

 ガス欠。限界を超えた代償は唐突な体の停止だった。幸い、意識はあるが……全く動かない。どさりと、地面に落ちてしまう。その様子を、奴はただ静かに見ていた。

 

「……貴様が何者なのかは知らない。だが、このまま生かしておくのは危険すぎるな。さらばだ、人間」

「くそっ……負けられないってのに」

 

 体に力が入らない。何度も立ち上がろうとするが、痙攣して倒れてしまう。どうする、ここからどうやって逆転する? デジメンタル――だめだ、こっちもエラーを起こしたみたいに動かない。

 魔法も使えない。ラプタードラモンでも勝てなかった。ドルグレモンに進化したところで、相性が悪すぎる。それに、気迫が段違いだな……

 

「死ね――」

 

 一瞬、僕が死んだ未来が見えた気がした。いや、これは予知とは違う。ただの悲観的な妄想だろう。だけど――周囲の人々がこいつに無残にも殺される光景が見えた。あたりには血の海が広がり、地獄と呼ぶべき光景が広がってる。

 最後のあがきとばかりに――奴を睨んだ時、奴の動きが止まった。

 

「――安心しろ、人間どもの命まではとらん。貴様のその最後まで諦めぬ気迫に免じてな」

「ッ、なん……で…………」

「私にも矜持というものがある――それだけだ」

「…………おま、え」

 

 なんでヴァンデモンの部下なんかやっているんだ。そう聞こうと思ったが――結局その言葉は出なかった。もう奴の鎌は振り下ろされていた。

 思えば、耳障りとは言っていたが怒りは感じられず、煩わしいといっただけだった。結局、このデジモンの本音はどこにあるのか――せめてもの抵抗に僕はずっと奴の顔を見続けていて、そして、目を血走らせたラプタードラモンが奴の鎌にかみついた。

 

「何ッ!?」

「グルウウウアアアアア!!」

 

 体から蒸気が噴き出るほどに、力が放出されている。そのまま体を回してメタルファントモンを投げ飛ばしてしまった。茫然とその様子を見ていたが……ラプタードラモンは僕に背を向けたまま、語りだす。

 

「ゴメン、カノン……おれ、諦めてた。もうダメだ。おれには勝てないって。なのにカノンは最後まで戦おうとしていた。おれ恥ずかしいよ。急に怖くなって、逃げたくなって……こんなカッコ悪いやつじゃダメだって思ったんだ」

 

 その表情は見えないが、どこか声が枯れている。

 悔しそうで、懺悔するような姿。

 

「アイツだって戦う気がなくなったおれなんて見向きもしないで……そうだよな。カッコ悪いおれなんか相手にならないよな……カノン、こんなカッコ悪いおれでもカノンのパートナーでいいのかな」

「なに、言ってんだよ……僕のパートナーはお前だけだっての…………お前だって、僕の目を覚まさせてくれたことがあっただろうが……お互いさまだっての。だから、一緒に強くなるんだろうが!!」

「――ああ!」

 

 直後に、ラプタードラモンの体が赤く輝きだす。その体に表示される情報に、何かが加わった――いや、解放された。Xの文字が見え、デジコアの奥底に眠る何かが呼び起される。

 咆哮と共に僕たちの周囲の霧が吹き飛ばされ――いや、消滅していく。

 

「――まさか、X抗体はまだ解放されていなかったというのか? しかし、反応はあった――――ならば、X抗体も進化するというのか!?」

「そのX抗体ってのが何なのかおれたちは知らない――だけど、これだけはハッキリ言える。おれはもうさっきまでのおれじゃない!」

 

 光が一層強くなり、ラプタードラモンの姿が大きく変化していった。同時に、紋章が強く輝き――僕のデジヴァイスが銀色に変わる。これはドルグレモンの時と同じ……

 

「ラプタードラモン、超進化ァアアアアア!!」

 

 竜の形から、人のような形へ。鎧に身を包んだ騎士のような出で立ち。背には青いマントをはためかせて、双剣を持った姿に。

 その体は金色に輝いていた。

 

「――新しい、完全体」

「バカな……貴様はいったい何者だと言うのだ!」

「――――グレイドモン」

 

 それだけ言うと、グレイドモンはメタルファントモンへ肉薄する。咄嗟に奴も防御するが、グレイドモンはすぐさま次の剣技へ移っていた。奴が鎌で防御するたびに、どんどん切り込んでいく。

 やがて、メタルファントモンにも焦りが見えてきて――左腕が、切り裂かれた。

 

「ガアアアアッ」

「ハァアアア! セイッ!!」

 

 剣の柄で鎌を弾き飛ばし、もう片方の剣で奴の体を切り裂く。デジコアに剣が届きそうになった。これなら勝てる――そう思ったと同時に、なぜか悪寒がした。

 新たな超進化をした影響か、瞳により多くの情報が入ってくる。

 

「ダメだグレイドモン! 奴を殺すな!」

「グオオオオッ」

 

 くそっ――どうやら、グレイドモンの双剣は諸刃の剣らしい。二刀流で戦っている間は、理性が飛ぶ呪いがかかっている。そこまでの情報を引き出せるレベルになったのは幸いか。

 だからこそ、X抗体を持つデジモンが死んだときに発生する事態がわかってしまった。幸い、人間界で消えたのならば他のデジモンに影響は出ないようなのだが……

 

「でも危ないことには、変わりないよな――ッ」

 

 回復したなけなしの魔力で弾丸をグレイドモンへ撃つ。呪いに対するアンチコード。少しの間だけでも理性をと思い、放ったそれに――なぜか違和感を感じた。

 たしかにアンチコードを放ったはずだ。だが、なぜか別のものも付与されていたような――外部から僕自身が干渉を受けたような感覚があった。

 

「まず――失敗した!?」

「クロスブレード!」

 

 そして、メタルファントモンは十字に切り裂かれてしまった――X抗体は何かのプログラムに対する抗体で、そのプログラムがとても危険なものであるのが見えたんだ。しかも、X抗体自体がそのプログラムを取り込むことで獲得できる代物。

 なんでドルモンにそれが宿っていたのかは知らないし、メタルファントモンもどこで手に入れたのかわからない。だけど、持っているデジモンが死んだとき、そのプログラムが放出されてしまう。だからこそ、殺してはダメだと思たんだが――

 

「……どういうことだ」

 

 メタルファントモンの体が輝きだし、その姿を変化させていく。どこかで見覚えのある光景だった……たしか、昔見たことがある。そうだ、ハワイで見たあの光景。マーメイモンがデジタマに還元された時の光景だ。

 やがて、メタルファントモンだったものは一つのデジタマになってしまった。目を丸くしていると、グレイドモンもアンチコードが効いたのか正気に戻る。

 

「――ごめん、意識がとんでいた」

「分かってる。次は二刀流はここぞという時だけにした方がよさそうだな……僕の方でも対策を考えるよ」

 

 とりあえずはデジタマを回収するが……デジタマの中にX抗体が入っているのがわかる。どうやら、デジタマへ直接還元することでプログラムを放出させずに済んだらしい。と言うことは、さっきの違和感はデジタマへ還元するためのコードだったのか?

 助かったからいいけど……なんだか釈然としない。

 

「カノン、バケモンたちが飛んできているぞ」

「流石に多勢に無勢だけど――あれ?」

 

 遠くに、バードラモンが見えた。と言うことは空さんか?

 追いかけた方が良いだろうか――いや、僕がやるべきことがある。この霧はヴァンデモンの使った魔術。なら、解除するために僕が行った方がいい。

 霧の濃度と魔力の量から放出点を探る。意識を集中させ、糸を引くようにたどっていく。

 

「――――」

「カノン、どうするか決めてくれ」

「大丈夫だ――フジテレビへ向かってくれ。バケモンたちに追いつかせるなよ」

「了解だ」

 

 グレイドモンは剣を片方だけ握り、地面に叩きつけて砂ぼこりを上げる。バケモンたち相手には十分な目くらましになり、僕らはフジテレビへと急行した。

 流石完全体、スピードが速いなと思っていると、目の前に見覚えのある影が見えてきた。隣には赤色の虫のようなデジモンもいる。

 

「って、光子郎さん!」

「カノン君、おはようございます――って、そのデジモンは!?」

「ああ。ラプタードラモンが超進化したグレイドモンです。ちょっといろいろあって進化した――――って痛いッ」

 

 どさりと、体が落ちてしまう。デジタマは割らないように持っていたがおかげで背中打った。

 どうやらエネルギー切れになってしまったようで……ドルモンに退化してしまったようだ。

 

「疲れたぁ……」

「そういえば、連続で進化していたからなぁ……」

 

 でもドルモンでとどまっているあたり、成長しているってことだろうか。

 

「と、そうだ。光子郎さんももしかして結界のことが分かったんですか?」

「ええ。と言うことはカノン君もですか……しかし、どうしましょうか」

「さっさと破壊するべきなんでしょうけど……フジテレビ壊すってのもなぁ」

「それに、中にまだ人がいるかもしれませんね」

「なら早いところ中に入って調べた方がええんとちゃいますか? 急がないとバケモンたちも来ますさかい」

「そうですね……とにかく行きましょう」

 

 と言うわけで、中に誰かいないか見に行くことになったわけだが……ドルモンの体力回復のためにも食べ物も探しつつの捜索となった。まあ、そっちはすぐに何とかなったわけだけど。

 

「そういえば、カノン君そのデジタマは?」

「倒したデジモンがこうなりました。原因はよくわかんないですけど……そのままにしておくのもまずいので」

 

 さて、出来れば誰もいない方がいいのだが……

 




と言うわけでグレイドモンへの進化。そして、色々な謎を残しつつ次回へ続きます。

改定前だとこの戦い自体なかったので、もう大幅に変わっていますね。合流相手も変わっていますし。

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