デジモンアドベンチャーのころはデジタル機器がここまで身近どころか生活に根付きすぎる世界になっているとは思わなかった今日この頃。
今回の話は完全新規となります。
改定前と比べて新しい設定やデジモンたちも増えましたので、色々と資料をチェックする感じです。
光子郎さんと出会ったことで、色々と作業がはかどるはかどる。
まだ資料を纏めてみないとわからないけれど、デジモンのことを理解するにはコンピューターやネット関連のことから勉強するのが一番みたいだ。
現実世界とデジタルワールドの違いについてはまだ何とも言えないが、ドリモンの体は問題なく現実世界に適応しているらしい。毛も普通に抜けてたし。
デジモンには属性があるらしく、ジャンケンみたいに優劣があるというのも聞いていたんだけど、なんとなく理屈が分かった。
ワクチン、データ、ウィルスの三種がほぼすべてのデジモンに割り振られており、
データはウィルスに侵されるため、ウィルスには弱いがワクチンには強い。
ウィルスはワクチンに駆逐されるため、ワクチンには弱いがデータには強い。
ワクチンはデータを守るためのものなので、データには弱いがウィルスには強い。
このような力関係になっているみたいだ。中には例外があったり、同じ種類のデジモンでも属性が違う場合もあるらしい。ちなみに、幼年期はまだ属性が大きく分かれていないため属性はない。
進化はデジモンが多くの経験を積むことで成長するということをデータのアップデートとして表しているのか……父さんがこの前取ったバーコードを読み取るアレで出たデータを言語データに置き換えてみたところ、獣や竜みたいな単語がいくつか見て取れたらしいけど、現段階じゃまだなんとも言えないか。
「うーん……目が疲れてきた」
「でもすごいですね、もうこんなに読み込んで理解しているなんて……」
「あー、片付けないとなぁ」
僕の横には読み終わった本が色々と積まれている。時間にして結構な時間が経っているし、そろそろ片付けないとダメだな。ちなみに、ドリモンは眠った。寝息が静かで助かったけど。
光子郎さんも人のこと言えないとは思うんだけど……今読んでいるの、プログラムの製作ってどういうことなのだろうか。え、作れるの?
「まあ、まだ勉強している段階ですけど」
「へぇ」
少し読んでみたけど、まだ僕には無理なようだ。なんというか言語が違う。数字や文字の羅列をみてそこに意味があるのを理解できていないというか――
「そっか、そういうことか」
「ど、どうかしましたか?」
「ううん。こっちの話」
そうだ。まだ言語を習得していないから読めないのだ。彼らがデジタルな生命体というのなら、バーコードリーダーで読み取れた情報を置き換えるのではなく、そのまま読むのだ。
必要な情報は既にそこにある。ならば、あとは簡単。
「さてと――ちゃっちゃっと片付けますか」
本を全て元の位置に戻し、帰る支度をする。光子郎さんはいきなり僕がすっきりした顔で動き出したのに驚いていたけど、生憎と僕はするべきことが分かって前しかみていない状態だった。
タイミングよく、父さんが迎えに来たところで光子郎さんのことを思い出してお礼を告げる。
「今日はありがとうございました。おかげで、なんとかなりそうです」
「そ、それは良かったです……えっと」
「では!」
「あ――――なんというか、変わった子だなぁ」
◇◇◇◇◇
「カノン、一緒にいたあの子は?」
「泉光子郎って人。パソコンとかに詳しくて色々とおすすめの本とか教えてもらった」
「そうか……知人に似ているとも思ったのだが…………まさかな」
「父さん? どうかしたの」
「いや、何でもない。少し昔のことを思い出しただけだ」
帰りの父さんの車の中で、どこか寂しそうな父さんの横顔が印象に残った。
この時の僕はその顔に感情を言い表すことはできなかったけど、後に思い浮かべたとき、こういうだろう。それは、哀愁であると。
◇◇◇◇◇
父さん曰くデジモンは、データであるはずなのにそこに生き物として存在している。すなわち、この世界とは違う法則で成り立つ生き物である。そう評していた。
イグドラシルという単語からヨーロッパ方面で調べれば何かわかるかもしれないとも考えていたが……学会で向こうに行く用事があり、少し調べてくれたらしいが、やはりデジモンについては何もわからなかったそうだ。お土産を持ってくると言っていたが……変な民芸品じゃないだろうな。あの人はそういうの好きだし。今日の夜に帰ってくるみたいだけど……期待しないでおこう。
まあ、別世界の証明でもある以上、色々と世間に知られたら危うい存在でもあるらしいそいつは、とてものんきなものであるけどね。
「うがぁ……負けるなぁ!」
「戦隊ヒーローを応援する謎の生物、か」
日曜朝の特撮を真剣に見ているし……幼年期デジモンは中身も幼いようだ。こいつを見ていると、僕が子供としていかに間違っているかを思い知らされる。そもそもこういう事を考える時点でおかしい。
「んー、やっぱり意味のない文字や数字の羅列だと思っていたけど……」
そのままでは文字化けした文面だと思っていたバーコードリーダーを当てて出てきた文字だが、ドリモンの体毛だけを読み取ったり、デジヴァイスやペンダントも調べてみたりである程度の単語は理解できるようになった。
日本語への変換が恐ろしく面倒で、ここまで来るのにもう半年も経ってしまっている。あれ以来、図書館で光子郎さんと出会うことも多く、色々と面白い話を聞けている。彼は僕の一歳上で、来年小学校に入るらしい。お互い、まともな幼稚園児じゃないよなぁ……
「ふぅ、とりあえずまとめてみると……」
獣や竜という単語はドリモンのデジコアに蓄積されている属性データらしい。DNA(DIGIMON NATURAL ABILITY)という進化の方向性を決めるためのものみたいだ。あと、ドドモンのデータも内部に残っていたため、進化の道順をデジコアに記録しているのもわかった。
DNAは全部で8種類で、獣、竜、鳥、虫、水、機械、聖、暗黒が存在しているみたいだ。データを日本語に直すと、それぞれの単語の後ろにパーセンテージで表示できた形の言葉になった。ちなみに、ドリモンはこのうち獣と竜のDNAで構成されている。他のDNAもなくはないのだが、表示するほどの量ではなかった。
「ふわぁ……なんだか、眠く…………」
唐突に、意識がぼやけてきた。最近、考え事をしていると急に眠くなることがある。
なんでかは分からないが、抗えないぐらいに力が抜けて……
「……」
「カノン?」
ドリモンの声が最後に聞こえて、僕の意識はどこか遠くへ行くかのように真っ暗になっていき――
◇◇◇◇◇
僕はどこか知らない場所を走っていた。ココがどこかは分からないが、ただ目的地だけを目指しているのは確かだ。
空は燃えるように赤く、あたりに何かの機械の残骸が落ちてくる。
黒い影があたりにたくさん見え、逃げまどっているのがわかる。
不安に駆られそうになるが、腰に提げた笛に手をあて平静さを取り戻す。走りながら周りを見回してどこかを把握しないと……
「ここは……いったい」
見回してもわからない。だけど、どの方向に行けばいいのかは分かったから更に速く走る。
そこで、誰かが助けを求める声を出していた。
「危ない!」
助けなければいけない。そう思っても、僕にはどうすることもできなかった。なぜかは分からないが、彼らに触れることができない。触れようとすれば、僕の体がまるで立体映像のように透けて彼らの体を突き抜けるからだ。彼らも、僕らを認識できていないらしい。
……結局、立ち止まってはいられないのか。
「――ッ」
黒い影たちの悲鳴が上がる。爆炎に包まれて彼らが細かい粒子になるように消えていく。
なんだこれは……こんなことがあっていいのか。誰ともわからないが、こんな非道なことをしている奴がいる。それだけで、僕の中から何かが湧き上がってくるようだった。
立ち止まるしかないとあきらめかけた自分が嫌になった。そんな無力感が許せない。
飛び上がった先にいたのは、巨大な始祖鳥のような怪物。力の差は歴然だった。だが、不思議とどうにかなるような気もしていた。
心の内から言葉が出てくる。ただその言葉と共にこの力をぶつければいい。それだけは分かったから――
「スタンビー 』
ブツリと、何かが切れるような感覚があった。
意識が再び遠くなる。まだ早い。これは過去にあった出来事。そして、僕がいまだ経験していない出来事。
これはただの断片。可能性の夢の話。
◇◇◇◇◇
「カノンッ!」
「――うわっ!?」
耳元で大きな声で叫ばれて、飛び上がってしまう。いったい何事であるか。
「どうしたの? なんかすごいうなされていたよ」
「…………大丈夫、変な夢を見ただけだったから」
「変な夢?」
「……あー、ごめん。もうよくわからないや」
とても大事なことだったようにも思えるのだが……とてつもない疲労感が襲ってきて、どんな夢だったのか忘れてしまった。なんか、視点がいつもより高かったのは分かるのだが……
どうにもスッキリしないまま、日は登り、そして暮れていった。母さんもどうしたのーといつもの調子で聞いてきたが、夢見が良くなかっただけなので何も言うことができずにそのまま夜を迎えた。
「ただいま帰ったよ」
「おかえりなさいー。今度はまたながかったわねー」
「息子の頼みもあったからね。まあ、そちら自体はそれほど時間がかからなかったが……デジモンについてはグレムリンのような都市伝説染みた話として残っているのではないか、ぐらいしかわからなかったよ」
父さんが帰って来て開口一番、そんなことを言い出したけど……それってたしか機械に悪戯する妖精だか妖怪の名前だっけか?
「ああ。もしもデジモンがコンピューター内に入り込むことができるのなら、そういった話として残っているかとも思ったのだが……ドリモンがコンピューターの中に入ったりといったことは?」
「イエネコのごとくのんびりしてるよ。今日は特撮みてたよ。ずいぶんと気にいっている」
「一般的な子供レベルの思考パターンというところか。内面は人間とさほど変わらないのかもしれないな」
むしろ、僕以上に普通の子供だからなぁ……中身だけならだが。
「そうだ、カノン。お土産だ」
「また変な民芸品だろうけど――なにこれ、笛?」
「ああ。パンフルートという立派な楽器だ。向こうではシュリンクスとも呼ばれていたな」
――不思議と、その笛はどこかで見覚えがある気がした。初めて見るハズなのに、何故だか惹かれるものがあっておもむろに口に近づけて息を吹きかける。
「――――」
初めて使うはずなのに、どこか悲しいような、懐かしいような旋律を奏でる。聞いたことも無いような曲なのに、なぜか楽譜が頭に浮かんでその曲を奏でていく。
「……驚いたな。どこで覚えたんだい、その曲」
「不思議な曲ねーなんだか涙がでてきそう」
「…………わかんない。自然に出来た」
父さんのお土産にしてはあたりだなーと思うけど、他が変なお面やなんか長い棘のようななにかだったりだからこの笛とは比べようがないけど。
「だけど、どうやら気にいってくれたようで良かったよ」
「うん。今までのお土産の中じゃ一番かな……っていうかあの長い棘はいったい何なの? 母さんが怖い顔してたよねその時」
「うふふー、子供は知らなくていいのよー」
「……若気の至り、かな」
「?」
何だかわからないが、その棘については気にしない方が良いらしい。ジャングルの奥地的な雰囲気がある一品なのはわかるのだが。
その後も、なんとなく笛を吹き続けていた。何かを思い出しそうで、思い出せないモヤモヤした気分もありながらその日は終わろうとしていた。
寝る前になってようやく思い出せたが、アレは変な夢の中で僕が腰から提げていた笛にそっくりだったのだ。
というわけで、主人公カノンに新たな設定が付与されています。
最近の関連作品はあまりプレイしていないのですが、設定を拾うのもちと大変。
この当時はまだポケベルだったんだよなと今更ながらに戦慄。
パソコンも地方にはあまり普及してなかったですからね。
きっと、今の子供が窓98の画面とか見たら驚くんだろうなぁ……