あと感想で指摘受けたので前回を修正。カノンが投げつけたブツについての記載がありませんでしたので――アレはニンニクです。
カノンがヴァンデモンに激突しているころ。八神家の様子をじっと観察しているデジモンがいた。
向かいのマンションからヴァンデモンの部下のテイルモンがその場でずっとヒカリのことを見ていたのだ。
「……なぜ、わたしはあの子供から目が離せないのだ」
どこか哀愁にも似た気持ちがテイルモンの中に駆け巡る。同時に、ヴァンデモンに痛めつけられていた過去がよみがえる。ただその眼が気に入らない。そんな理由で何度も鞭うたれた過去。
「この目は生まれつきなんだ……生まれつき、か。わたしはいったいどこで生まれたのだろうか」
ヴァンデモンに出会う前のことが思い出せない。ずいぶんと昔のことのようにも思えるが、どうにもはっきりしない。
自分はいったい何者なのか、それが全くわからないのだ。
「テイルモン、また昔のことを思い出していたのですか?」
「心を読むな……ウィザーモン」
ふわりと、空から魔法使いの格好に身を包んだデジモン。ウィザーモンが降りてきた。
流石に不躾だと思ったのか、顔を伏せてすぐに謝罪する。
「すみません。そんなつもりではなかったのですが……」
「そんなことより、8人目はどうした?」
「それでご報告が。誰一人としていまだ反応を見つけることが出来ていないようですね」
「まったく、どいつもこいつもたるんでいるのではないか?」
「まあ、それについては否定しません。先ほども、パンプモンとゴツモンが渋谷で遊びまわっていたそうですよ」
「アイツらは……」
「それで、ヴァンデモンに殺されかけたとか」
「――――」
「もっとも、0人目が助け出したそうですから無事だそうです」
「……そうか」
口には出していないがテイルモンは安心した様子だ。能天気な奴らではあるが、悪い奴らではない。理不尽に命を奪われなくてほっとしているのに自分でも気が付いていないが……
(やはり、あなたはこちらにいていい存在ではない……しかし、どうするか)
「ウィザーモン、それで……わざわざそれを報告しに来たのか?」
「……いえ、来たのは別件です」
「なに?」
「あまりにも反応が無い――そこで、少々調べてみたのですが……八神太一の家の中に魔法で隠蔽された何かがあるようです」
「それは本当か!?」
「ええ……もっとも、微弱な反応しかしませんでしたし、ヴァンデモンが気が付かないのも無理はありませんが」
「……なるほど、0人目か」
「ええ。あの少年はどうやら相当な使い手らしい」
「…………それで、それと8人目がどう関係するのだ」
「それなんですがね、テイルモン」
ウィザーモンは呼吸を置いてから、再びテイルモンへと問いかける。一緒に旅をしてきて、彼女が恐れている物――その奥に、答えがあるのは分かっていた。
「8人目の居場所はあなたの心の中にあるのではないですか?」
「心の中?」
「ええ――あなたが忘れようとしている過去。その中に答えがあるはずなのです。何故恐れるのですか、昔の記憶がそんなに怖いのですか?」
過去にウィザーモンはテイルモンに助けられた。その時から、彼はテイルモンと行動を共にしている。その助けられた日の晩のことだ。テイルモンは言っていた。
誰かを待っている。生まれたときから探している。そんなことを。
「わたしが? 誰を待っていたのだろう……誰を探していたのだろうか」
「――やはり、確かめてみるしかありませんね」
「おいまて!」
テイルモンの制止も聞かず、ウィザーモンはふわりと向かいのマンション――八神家のベランダへと降り立つ。遅れて、テイルモンも跳んできた。
ちょうど、ミーコが外に出ていたので部屋に戻そうとヒカリがベランダへ出ていたところだ。
「あなたは、だぁれ?」
「私はウィザーモン――なるほど、0人目もですがこの子もどうやら特異な力を持っているらしい」
「おい先走るなウィザーモン!」
「あなたは昼間の……やっぱりアグモンのお友達なの?」
「わたしはあいつらとは――」
否定しようと、ヒカリに近づいた時だった。ヒカリのポケットから光があふれだした。テイルモンに反応するかのようにまばゆい輝きがあたりを照らす。
ドクンと、テイルモンの体の奥底に何かが湧きたつような鼓動が響いた。
「これは――いったい」
「やはりこの子が8人目のようですね……なるほど、しっかり隠ぺいされている」
「それじゃあこの子のパートナーはどこに?」
「テイルモン……本当は分かっているんでしょう。もう、答えは出ているはずだ」
テイルモンの記憶が開いていく。幼年期のころから何かを待っていた。ヴァンデモンにつかまり、彼の部下として暮らす絶望の日々の中で忘れていたが――心の奥底で眠っていた感情が呼び起された。
「そうだ私は――わたしは8人目のパートナーデジモンだ」
「テイルモンが、私のパートナー?」
と、その時だった。ちょうど家に送り届けられたヤマトから太一にヴァンデモンと遭遇した連絡が入っており、電話中だったが騒ぎを聞きつけて太一とアグモンが飛び出してきた。
「――テイルモン!? ヒカリ、そいつから離れろ!」
「待ってお兄ちゃん!」
アグモンも臨戦態勢に入るが、ヒカリが飛び出してしまう。
マズイと思うのもつかの間、アグモンは炎を噴き出そうとしていた口を無理やり閉じてしまい――小さな爆発が彼の口の中で起きた。
「い、痛い……」
「大丈夫、か?」
「なんとかね」
しかし、太一にはわからない。なぜヒカリがテイルモンをかばったのか。後ろには魔法使いみたいなデジモンがいる。もしや、8人目のことがばれたのではないだろうか。
「テイルモンはね、ヒカリのデジモンなんだよ!」
「――――なに?」
そんな太一の不安を吹き飛ばす一言。予想よりもはるかに斜め上に事態が動いている。一瞬、頭が真っ白になったのも無理はないことだろう。
そのままテイルモンはヒカリに抱き着き、彼女にもたれかかるようにしている。
「……テイルモンがヒカリのパートナーデジモン…………でもなんで、ヴァンデモンの部下なんかに」
「ヴァンデモンの部下を好きでやっているデジモンの方が少ない。私のようにテイルモンや他のデジモンについてきている者の方が多いんです」
「お前は?」
「ウィザーモン。あなた方はピコデビモンのようにヴァンデモンに忠実な部下たちを見てきたでしょうが……実際のところ、恐怖で縛り付けるやり方をとっているので、付き従うというより服従していると言った方が正しい。パンプモンとゴツモンという二体を知っていますか?」
「ああ、さっき仲間から連絡があった」
「ならば説明も不要でしょう。彼らのようにきっかけさえあればすぐに寝返るデジモンも多い。それがヴァンデモンの部下です」
「でもさ、それならなんでヴァンデモンの部下なんてやっているの?」
「……あのデジモンは、ただのデジモンではありませんから」
「? どういうことだ」
「いずれ分かりますよ――それよりも私たちはやらなければならないことがある」
そう言うと、ウィザーモンは再びふわりと飛び上がった。テイルモンも彼につかまり、一緒に行くようだ。
「どこへ行くんだ?」
「まずはヒカリさんの紋章を取り戻さなくてはなりません。今現在、私たちにはそのコピーが配られていますが……オリジナルはヴァンデモンのアジトの中だ」
「ヴァンデモンのアジト!? なら、俺もいっしょに……」
「危険すぎる。デジモンだけならともかく、生身の人間はいかない方が良い――それに、彼女を一人にするつもりですか?」
「……あ」
「なら、僕だけでも」
「アグモンはパートナーがいなければ進化できないだろう? 私とウィザーモンだけでいく。それに、お前たちを連れて行ったら寝返ったことがばれてしまう」
「うう……」
それと、と前置きしてウィザーモンはもう一つ言わなければならないことを言い出した。彼らの不安を取り除くためにも、これは必要な言葉だろう。
「0人目の施した魔法は素晴らしいですよ。魔法に特化した私だったから気が付けましたが、ヴァンデモンも含めたこちらへ来ているデジモンたちが気が付くことは無いでしょう。8人目が見つかる心配はほぼありません」
それだけ言うと、彼らはヴァンデモンのアジトへと飛び立っていった。なすべきことをするために。
◇◇◇◇◇
テイルモンたちは紋章を手に入れた――だが、すぐにヴァンデモンが戻ってきて見つかってしまった。
そして、すぐに戦闘が始まった。やはり力量の差が大きく、テイルモンたちはボロボロになっている。
「貴様ら、私を裏切ってタダで済むと思うなよ」
「ふふふ……元々私はテイルモンに付き従うもの、初めからお前にしたがってなどいない!」
ウィザーモンの魔法とヴァンデモンの赤い鞭がぶつかり合う。何度も火花が飛び散り、ヴァンデモンの攻撃がいま直撃する――その時だった、ウィザーモンの体がノイズのように消え、ヴァンデモンの攻撃が外れたのは。
「なに!? ――ぐっ」
「よそ見は禁物ですよ、テイルモン!」
「ああ……ッ!」
ウィザーモンがテイルモンへ紋章を投げ渡そうとしたその一瞬、ヴァンデモンの拳がウィザーモンへ届く。咄嗟に紋章を守ったが、ウィザーモンは飛ばされてしまい――現れたたくさんのコウモリたちに攻撃され、海の中へと落ちて行ってしまった。
「ウィザーモン!?」
「少しはできると思ったが……所詮この程度か。さて、次は貴様だテイルモン……なんだ、その眼は」
テイルモンはヴァンデモンを睨んでいた――鋭い眼光ながら、どこか強い光を携えた瞳で。
そうだ。この瞳が気に入らない。ヴァンデモンはこの瞳が気に入らないのだ。
「――その希望の光を宿した瞳。それが気に入らないのだ」
「ああ……わたしは待っていたのだ。それが、わたしに希望を与えてくれた。必ず会えると信じて待っていたからこそ、光を失わなかったのだ」
「――――――待っていた? まさか、貴様8人目の」
ヴァンデモンが一瞬驚愕した、その時だ。大きな火の玉がヴァンデモンを襲った。咄嗟にマントで弾き飛ばしたものの、防御をさせられた。その事実が彼を苛立たせる。
「まったく、今日はどいつもこいつも小賢しい日だ……そうは思わないか? 八神太一」
「へっ、どっちがだよ」
「無事かテイルモン」
「ああ、だがウィザーモンが……」
「やはり――貴様が8人目の子供のデジモンなのだな、テイルモン」
「ち、違う! わたしは8人目の子供などでは……」
「こうしてえらばれし子供が助けにくるのが何よりの証拠! 紋章がウィザーモンと共に海の底に沈んだ今、打てる手は打っておかねばなるまい」
ヴァンデモンはそう言うと、テイルモンへ肉薄する――だが太一と一緒に来ていたグレイモンがすぐに進化し、メタルグレイモンとなってヴァンデモンの攻撃を防ぐ。
一度目は防げた、だが次に振るわれた鞭に打たれたメタルグレイモンはすぐにアグモンへと退化してしまう。
「うう、太一……ごめん」
「そうか、昼間にも戦ったし……まだこっちには慣れてないから」
「フハハハ、これは好都合! ナイトレイド!」
コウモリたちが太一たちを襲う。思わず防御に回ったせいで、テイルモンが無防備になってしまった。
「うぐぅ!?」
「貴様を使い、8人目をおびき出す……そのための下準備もある。さらばだ、えらばれし子供よ」
そうして、ヴァンデモンは飛び去ってしまった。残されたのは、太一とアグモンのみ。
しばらく茫然と立ち尽くしていた太一だったが、拳を地面に打ち付け、悔しさに振るえた。
「ちくしょう……」
「太一、とりあえず今は戻ろう……みんなにも連絡しないといけないしさ」
「……ああそうだな…………次は絶対に勝つぞアグモン」
「うん! それでこそ太一だよ」
◇◇◇◇◇
ヤマトさんとタケル君を送り届けるのに結構時間がかかったな……なんだか雲行きも怪しくなってきたし、ドルグレモンも疲れているから急いで戻らないと。
そのとき、ベランダにヒカリちゃんの姿が見えた。なぜか悲しそうな顔をしていて、ずっと台場の方をみている……第六じゃないよな?
とりあえずドルグレモンから降りてヒカリちゃんのところへ来てみると……ようやくこちらに気が付いたようだ。
「ヒカリちゃん、どうかしたの?」
「……テイルモンが、テイルモンが…………」
さて、何が起きたのかよくわからないが……どうやら、事態が動いてしまったようだ。それも、悪い方向へ。
事のあらましは後で太一さんに聴くことになるが……多少無茶でも、ヴァンデモンと戦闘していたほうが良かったと後悔してしまう。
……こっちも綿密な作戦が必要になるかもしれないな…………
デスメラモンの回はあんなに長引いたのに、なぜここはすぐに終わるのか。
さて、次回ようやく8月3日に入れます。
ちなみに、シリアス優先して本文には書きませんでしたが――カノンはまだ女装しています。流石に次回は脱ぐよ。