サブタイトルはイイの思いつかなかったので、適当にやりました。
ヤマトとタケルはタケルの家まで向かっていた。現在は電車の中、ゆらりと揺られている。
デスメラモンと、プテラノモンとの戦いに決着がついたあと。彼らは遠回りで東京タワーを目指していたため、結局戦いには参戦できなかった。その後、太一たちから連絡もあり、そのままヤマトはタケルを家まで送り届けることにしたのだ。
会話も少なく、電車に乗りながらゆっくりとした家路である。
そんな二人の様子を、ツノモンとパタモンは網棚に乗っかりながら見ていた。
「ヤマトとタケルの両親は、4年前に離婚したんだって」
「それで、二人は別々に住んでいるんだね……」
タケルはデジヴァイスを取り出し、時刻を確認する。すでに7時をまわっており、もう帰らなくてはマズイ時間だ。
「もうこんな時間……お兄ちゃん、次の駅でいいよ」
「いや。三軒茶屋まで送るよ」
「いいよ、別に」
「いいから。送らせろよ」
「……わかった」
二人にしかわからないものがあるのだろう。だからこそ、静かであったのだが――パタモンがそこに声をかけてしまう。
「別れがつらいの?」
「――うるさいッ」
「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」
「おいタケル、それにパタモンも冷静に……」
普段なら軽口ですんだ。だが、複雑な感情が入り乱れている今のタケルにはパタモンの言葉が嫌味にしか聞こえなかった。パタモンも、別れがつらいのなら一緒にいればいいのにと、親切心というか無邪気に核心をついてしまったがために、こじれてしまったのだ。
「いくらパタモンでも兄弟のことに口を出すなよ!」
「ああもうわかったよ! 口出さない!」
電車も止まり、パタモンは外へ飛び出してしまう。
ヤマトとツノモンも追いかけようとするが、入ってくる乗客とぶつかりそうになり、足が止まる。
「タケル、パタモン行っちゃったぞ」
「いいんだよあんな奴……」
「本当にいいのか?」
「……」
一瞬の逡巡のあと、タケルは踵を返して電車から降りる。
「結局、渋谷で降りちまったな――さて、パタモンを探しに行くか」
駅のホームから出て外を歩いていく。
空は黒いが、街中には光があふれていて暗いという印象は無い。
「……」
「タケル、いつまで拗ねてんだ」
「だって……パタモンが本当のことを言うから、つい」
「気持ちはわかるけど……な」
やはり会話は少なく、あたりを探しながらも少し足取りが重い。
そんな中、何か少々騒がしい声が聞こえてきて――ツノモンが何かに気が付いた。
「ヤマト、デジモンがくるよ!」
「何!?」
ツノモンが飛び出し、ガブモンへと進化して着地する。
そして、人ごみをかき分けて小さなデジモンが二体、飛び出してきた。
「パンプモンにゴツモンだ!」
「知っているデジモン?」
「たぶんヴァンデモンの手下だよ! ゴツモンは成長期だけど、パンプモンは完全体だから気を付けて」
そうして、その二体が眼前に迫って来て――
「ヴァンデモン様よりも怖い渋谷系女子に追いかけられているんだ!」
「お前も隠れた方が良い。さあ、こっちへ!」
――ヤマトには彼らが何を言っているのか理解できなかった。
しかし、あれよあれよという間に状況は進んでしまう。
ガブモンは二体につかまれて路地裏に入ってしまった。そして、向こうから仮装大賞がどうのと叫びながら鬼のような形相の女性が走ってくるではないか。
「仮装大賞、どっち行った!?」
「あ、あっちのほうへ……」
とっさにごまかせた自分をほめたい。そう思うヤマトであった。ちなみに、タケルは目を白黒させて何が起きているのか理解できていない様子だ。
なんとかその場はやり過ごしたが、問題は二体のデジモン。
「お前ら、8人目を探しているのか?」
「そうなんだけど……」
あっさりとバラすパンプモン。ゴツモンも慌てる様子はないが、そのあっさりした姿に警戒心を高めるヤマト。タケルも状況を呑みこめたのか、険しい顔になっている。
ガブモンがすぐにでもとびかかれるような体勢になった、次の瞬間だった。
「「俺たちすっかり渋谷系デジモンになっちゃったー!」」
――あ、こいつらただのバカだ。
ヤマトは、そう思ったという。
◇◇◇◇◇
一方その頃、カノンはというと――
「うぉおおおお!!」
「カノン、久々のスケボーだね!」
「魔法的改造済みのな!」
――女装のまま、東京を爆走していた。もはややけっぱちである。
道行く人々が何事かとみているが、そんなことは気にも留めていない。ちなみに、魔法的改造というのは、魔力ブースターで自走できるように仕込んであるということである。某漫画を参考に作った逸品なのだが、ドルガモンなどに進化してもらって飛んだ方が効率も速度もいいので普段は使わない品でもある。
今回は街中の捜索になるので小回りの利くスケボーを持ってきたのだ。
「渋谷ってことしかわかんないからな、ドリモン! においはするか!?」
「分かんない。人が多すぎて近くまで行かないことには……」
「とりあえずヤマトさんたちを探そう。ヤマトさんたちが遭遇するみたいだし!」
「電話で連絡をとれないの?」
「携帯電話なんて代物、光子郎さんぐらいしか持ってないっての! ポケベルも持っていないみたいだし――地道に探すしかない!」
ヴァンデモンと遭遇することになるため、ドリモンには体力を温存してもらわないといけない。そのため、コンビニで適当に何か買って食べてもらっている。
そのまま街中を捜索するが、一向に見つからない。
「渋谷も結構広いからなぁ……ハチ公前にでも行ってみるか?」
「なおのこと人が多そう――デジモンのにおいがするよ」
「本当か!?」
「うん。でもこれ、嗅いだことがある……」
ということは、パートナーの誰かだろうか? きょろきょろとあたりを見回してみても見当たらない。ならば、上かと思って顔を上げると、黄色っぽい色の生き物が見えた。
およそ地球上の生物には当てはまらないフォルム。まあ見たことがあるから今更驚きはしないが……デジモンって結構無茶な姿しているのも多いよね。
「おーい、パタモーン!」
「……あれ? どちら様ですか?」
「僕だよ、カノンだよ」
「――――なんで女の子の格好しているの?」
「……聞かないで」
そういえば僕、女装していたね。ドリモンもハァとため息を一つ。
パタモンに話を聞けば、どうやらタケル君と喧嘩してしまったらしい。詳しく聞けば、空気を読まない発言をしてしまったみたいだが。
「そりゃパタモンが悪い。ちゃんと謝りなさい」
「うん……でも、僕たちには親とかそういうのって基本的に無いからよくわからなくて。兄弟で生まれるデジモンはいるんだけどね」
「デジモンには家族の概念は無いのか?」
「ほとんどのデジモンはそうだよ。ただ、本当に一部例外があるって昔聞いたことがあるけど、見たことが無いから……」
結局、よくわからないと。
まあ誰しも触れてほしくない部分や、ナイーブになっている時に聞きたくない言葉はあるし、それについてはパタモンも理解している。だからこそ反省しているんだろう。
「まあとにかく、みんなを探さないと――もうすぐ、ここにヴァンデモンが来るぞ」
「それ本当!?」
「たぶん――絶対とは言い切れないけど、僕の予知でヤマトさんたちが渋谷にくるってのも見えていたから……そっちが当たったということは、もう片方も当たるよなぁ……」
とにかく速く探さないと。幸い、小回りが利いて空も飛べるパタモンがいれば何とかなるかもしれない。
僕らに追走してもらいながら、パタモンには上から周りを見てもらうことになった。
「何か他にヒントはないの?」
「うーん……戦闘するなら、人目につかないような場所に移動するかもってぐらいかな。路地裏とか、空き地があればいいんだけど」
「分かった、それっぽい場所が無いか見てみる!」
これで見つかるといいんだけど……しかし、いきなり飛び出したからこっちはひき逃げアタックぐらいしか手が無いってのも心もとない。
何か武器でもあればいいんだが――そういえば、近くにスーパーがあったような……
「財布は持ってきている……アレが効けばいいんだけど」
まあとりあえず購入しておくか。
やがて、パタモンが戻ってくる。どうやらパンプモンとゴツモンが騒ぎを起こしているようで、ちょうどヤマトさんたちも一緒にいるみたいだ。
「じゃあ、準備を終えたらすぐに行くぞ!」
◇◇◇◇◇
パンプモンとゴツモンは当然人間のお金を持っておらず、アイスクリームを盗んでしまっていた。お金での物のやり取りという概念自体をあまり理解していないため仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれないが巻き込まれたヤマトたちにはたまったものではない。
「まったく、お前たちは何をしているんだ」
「だってぇ」
「アイスクリーム食べたかったんだもん」
「だもんて……」
思わず脱力してしまうヤマトだったが、突如――体中に嫌な汗が噴き出た。
何かが現れた。場の空気が変わり、パンプモンたちも体が固まる。
「――――お前たち、なぜえらばれし子供とアイスクリームを食べているのだ」
ヴァンデモンがこの場に現れた。何故アイスクリームを知っているのかとか一応気にはなったが、元々人間界に詳しいこのデジモンだ。そのぐらいは知っていても不思議ではない。
鋭い眼光が二体のデジモンを射抜く。
「8人目はどうした……」
「そ、それは」
「まだ見つかっておりません!」
「ならばなぜ、そいつらから紋章を奪おうとしない」
「今やろうとしていたところです!」
がおーと声を上げながら、二体はヤマトたちを追いかける。ヤマトたちには急に暴れ出したように見えたが――ヴァンデモンはごまかされていない。
「アイツら……余計なことをされる前に、ここで始末しておくべきか」
ヴァンデモンは再び飛び上がり、パンプモンたちの様子を観察する。万が一ということもある。二体が裏切らなければそれでよし。そうでないのなら――やはり、ここで消すのみ。
二体は子供たちを路地裏へと追い込んでいく。そこまでは良い。だが、問題はここからだ。
「やーめた」
「おれも。こんな事よりえらばれし子供たちと遊ぶ方が楽しいし!」
「ハァ……お前たちは、なんでヴァンデモンの手下なんかやっているんだよ」
ヤマトも呆れるほどにあっさりした二体。ヴァンデモンも予想していたとはいえ、少々呆れてしまう。
しかし、もはやここまで。
赤い雷撃を巻き起こしながらヴァンデモンは二体の前に現れる。咄嗟に子供たちをかばって隠れるように指示する気概は認めるが……
「お前たち、えらばれし子供たちはどうした?」
「それが、逃げられてしまいまして」
「アイツら案外すばしっこいんですね」
「――この大嘘吐きどもめ。私がずっと観察していた事にも気が付かなかったようだな――――お前たちにもう用はない。消えろ! ナイトレイド!」
たくさんのコウモリたちが二体を襲う。成長期のゴツモンをかばうように、パンプモンが前に出て巨大なかぼちゃを呼び出して防御する。
しかし、同じ完全体でも力量が違いすぎた。ヴァンデモンは本当に完全体なのか、疑わしくなるほどに。
「アングリーロック!」
ゴツモンも攻撃を仕掛けるが――まったく効果が無い。ヴァンデモンは彼の攻撃は気にも留めずに、一歩近づいた。
「……死ね」
そして、赤い鞭が振り下ろされパンプモンたちに迫る――その瞬間だった。
赤い何かが猛スピードでヴァンデモンに迫り、ズドンという音を立てながら吹き飛ばしたのは。
「必殺ひき逃げアタック! アンドみんな回収して逃げるぞ!」
「思考が犯罪者だよカノン」
「今更だよ。言いっこなし!」
ヤマトたちとパンプモンたちもドルグレモンの背に乗せて再び急発進する。ついでにスーパーで買っておいたブツ、ニンニクをカノンはヴァンデモンへ投げつけた。
「グゥオオオオオオオ!?」
「うわっ、予想以上に効いている……でも今のうちに! 飛んでくれドルグレモン!」
そのまま空へと飛翔していくドルグレモン。ステルス効果とカノンが普段使っている身体強化をドルグレモンへ回して全力で逃げるために動いた。
時間にして数秒。だが、その数秒で二体の命を救った。今まさに、一つの運命を打ち破ったのである。
「おのれ……アレは0人目か…………奴を殺せばバランスがどう崩れるかわからないから生かしておく予定だったが――ソウルモン!」
「――はい、ここに」
「明日、貴様は0人目を殺せ。最悪、あのプログラムを起動してでも抹殺するのだ……予想以上に厄介な存在だ、他の子供たちとは連携をとらせるな」
「かしこまりました、わが君」
「この私にここまでの屈辱を与えたこと――後悔するがいい」
なんとか戦闘を回避できたようで、助かったカノンたち。ヤマトとタケルも最初のうちはカノンが誰なのかわからなかったようだが、やがて気が付いたようだ。
「カノン、お前なんて格好をしているんだよ」
「……カノンさん、そんな趣味が?」
「違う違う。母さんに無茶し過ぎた罰でこんな格好にさせられたんだよ……ハァ、もう二度と着たくない」
「っていうかなんでここに? また例の予知夢か?」
「まあそんなところで……そっちの二体のこともなんとなく知っていますよー」
それだけ言うと、ヤマトは何かを察したのか黙り込んだ。カノンとしてもそちらの方が助かるので何も言わないが。
「あ、パタモン……」
「タケル、その……ごめんね」
「ううん。ぼくも言いすぎたよ」
パタモンとタケルも仲直りし、ひとまずは一件落着である。
「でも、オレたちはどうすればいいのかな?」
「ヴァンデモンのところには戻れないし」
「ならウチにくるか? ウチの親はデジモンのことも知っているし、事情を話せば大丈夫だと思うぞ」
「ホントに!?」
「助かったぁ」
「いいのか? こいつら結構無茶するぞ」
「はっはっは。僕ほどじゃないよ」
「……」
「黙らないで反論してくださいよ」
自分でも無理だとは思っているが、他人には反論してもらいたいカノンであった。
その後、ついでだからとヤマトとタケルを家に送り届けカノンは家へと戻った――ヤマトたちを送り届けている間に、状況が動いたことを彼は知ることになる。
ヒカリのパートナーデジモンが誰なのか。一つの運命を変えることはできた。だが、大きな流れは動き続けている。まだ、戦いは終わらない。
パンプモンとゴツモンは生存。
あと、完全にヴァンデモンさんに目を付けられました。