あと、前日の妙な時間に更新しています。
これは、プテラノモンが放たれる少し前の光景だ。ヴァンデモンのアジト、位相をずらした場所にあるそこでピコデビモンとソウルモンが水晶に封印されているデジモンを解放していた。
「なぜこいつを解き放てばならないのか……」
「ヴァンデモン様に忠実なお前らしくもない。何が不満なのだピコデビモン」
「こいつがなぜ封印されているのか知らないのか?」
「知っているさ――かつて、古代種が進化したアーマー体のデジモン。当時はそれは繁栄したそうだが……こいつのように危険な暴走体が生まれてしまったために、現代では残されていない進化だ」
「……だからこそ、こんな我々にとっても危険なデジモンをどうするというのか」
水晶の中に封印されているにもかかわらず、プテラノモンの瞳は血走っている。ただ暴走しただけでなく、厄介なウィルスにも感染しているのだ。
強力な封印が幾重にも仕込まれており、出てくることはないはずなのに身構えてしまう。
「だからこそ、貴様と私が封印を解く役目を任されたのだ――ピコダーツをだせ。プログラムを仕込む」
「まったく……なんで俺様がこき使われなければいけないのか」
「ぼやくな仕事しろ」
ぶつくさ言いながらも、ピコデビモンはソウルモンにピコダーツを渡す。そこへ、ソウルモンは特殊なプログラムを仕込んでいく。暴走をしているのならば、ある程度行動を誘導させればいい。今のプテラノモンはターゲットの定まっていないミサイルみたいなものだ。だったら、ターゲットを定めておけば、勝手に突っ込んで爆発する。
プログラムが完成し、ソウルモンが封印を解くのと同時にピコダーツが刺さる。
「――――ガアアア!!」
「ひぐ!?」
「騒ぐな――ほうら、奴が飛んでいったぞ」
そうして解き放たれたプテラノモンは東京タワーへと飛んでいったのだ。
あまりにも速く、目標を駆逐するためだけに――しかし、それが新たなる力をカノンたちにもたらしてしまった。ケンキモンに進化したことで得た機械のDNAと、竜のDNAが結びつき、新たなる姿へと進化したのである。
◇◇◇◇◇
「ラプタードラモン、成熟期。サイボーグ型のデジモン――ドルモンの進化した姿」
「ドルモンはドルガモンが成熟期じゃないのかよ!?」
光子郎がアナライザーを起動し、ラプタードラモンのデータを閲覧する。そこに書かれていたのは、ラプタードラモンがドルモンの進化として扱われていること。
しかしだからこそ太一には驚きなのだ。グレイモンから進化するデジモンで、メタルグレイモンが正式なルートであり、スカルグレイモンは失敗した姿。そう思っていたのだから――ドルモンのように、違う進化も失敗ではないというのに驚きを隠せなかった。
「……進化は一つじゃないのかもしれません」
「なに?」
「確かにスカルグレイモンは間違った進化だと思っていますよ――ですが、進化であることには変わりなかった」
「たしかにそうだけど……」
「そして、正しい進化が一つとは限りません」
「――――」
「もっとも、僕らのデジモンとドルモンは根本的に何かが違うのかもしれませんが」
そこで光子郎たちが自分のデジモンたちの方を見ると、ちょうどメタルグレイモンが生体ミサイルのギガデストロイヤーを使用してデスメラモンを撃破しているところであった。
生体ミサイルであるがゆえに、周辺に被害を出さないように威力調整がなされていたらしく、デスメラモンだけ倒して戦いは終結した。
「このままこの場にいてはまずいです――カノン君たちが上空で戦っていますが、僕らもこの場にいては後々厄介になりますよ」
「……仕方がない、後を追いかけながら戦いが終わるのを待つぞ」
その上で、彼らを回収しなくてはならない。空とミミへ声をかけ、彼らと共に飛び立つ。幸い、カブテリモンには余力が残っており、彼らが乗るには十分であった。
皆の視線は上空で戦うカノンたちの方へ――その速さは、今まで見たことが無いほどで、目で追うことができない。
「本当に成熟期のデジモンなのか?」
太一にも何かが感じ取れていた。ドルモンは、普通のデジモンとは何かが違うと。
◇◇◇◇◇
ドルモンが新たな姿へ進化した、あの瞬間。ドルモンの中に眠っていた何かが目覚めた気がした。
プロテクトが解除されていくのを感じ、ドルモン自身の力が増大していく。
「ラプタードラモン、しっかり狙いをつけろよ!」
「分かっているさ。カノンこそ、振り落されるなよ!」
「僕を誰だと思っているんだ――母さんの血は伊達じゃないよ」
飛行帽を深くかぶり、ゴーグルを下ろしている。視界がつぶれないようにしたうえで、奴の姿を捕えていた。まるでノイズのデジモンのようにどこか不安定。しかし、デジコアも存在してるようだし――今にも崩れ落ちそうな状態だ。
言うなれば、寿命が尽きかけているのに無理やり動かされていると言ったところか。
「ガアアア!!」
「こいつの装甲、結構硬いぜッ」
「音でわかる! さっきから金属音がうるさい」
何度も激突しあっている。ラプタードラモンは遠距離ではなく近距離に特化した能力を持っているのか、先ほどからこのとてつもない強度をもつ翼をぶつける攻撃しかしていない。
メタルキャノンの類はなくなっていると見た方がいいのか?
「ああ。そっち系の技はどうにも使えないみたいだ」
「ってことは、射撃は僕が担当するしかないか――ラプタードラモン。頼む」
「まかせろ」
一瞬の交差、今度は翼をぶつけずにお互いが交差するのみにとどまったが――その一瞬でカノンは懐に持っていたモノをブーストさせて放つ。残りのエネルギーはほとんどない。しかし、こんなこともあろうかと昨夜回収していたモノの中に特製のスタンウィルスを仕込んでいたのだ。
「喰らえピコダーツ!」
「――ッガ!?」
バチリと放電が始まり、プテラノモンの姿が一瞬ぶれて、その場に止まる。そうなれば、帰結する結末はただ一つだ。ラプタードラモンの体が加速していき、体にエネルギーが集まり――必殺の一撃が放たれる。
内部の力も解放されていき、全身が赤い光に包まれた。
「喰らえ――クラッシュチャージ!」
再び、両社が交差する。しかし、此度はラプタードラモンの側のみが動いていた。巨大な風穴を開け、プテラノモンはデータの塵へと還元されていく。
そのまま、ラプタードラモンは前へと飛んでいき――光を放出して、その姿が小さくなっていった。
ふわりと空中にその身が投げ出され、そのまま落ちていく。そんな時だった。巨大な手が僕らの下に差し出され、その体をキャッチした。
「まったく、えらい無茶しますなぁ」
「本当だぜ……二人とも、大丈夫か?」
カブテリモンが二人をキャッチし、僕らを助けたのだ。その様子に呆れながらも太一さんが声をかけてくる。
「え、えへへ……すいません、僕の方もエネルギーを使いすぎて体がロクに動かなくて」
「まったく無茶するわね」
「太一さんも人のこと言えないぐらい無茶するときありますけどね」
「……悪かったな。でも、流石の俺も飛び降りることなんてしねーよ!」
流石にあの時はどうかしていたと思うしかない――もっとも、どこかできるような気がしていたのだ。エネルギーの回復については似たような例はあったし、最悪でもドルガモンになってもらえたと思う。
しかし新たな進化が起こるとはびっくりだけど。
「ドルモン、大丈夫か?」
「なんとか……へとへとだけどね」
「そりゃそうだ――」
僕も大分疲れたし、ひと眠りしたい――眠気が強まっていき、瞼が落ちていく。
ああでも、ヴァンデモンの捜索もしないと……それに、こんなに騒ぎが大きくなってどうすればいいのやら。
結局抗えない眠気に負けてしまい、瞼を閉じた。閉じてしまったんだ――
――その光景は、酷いものだった。ヴァンデモンの仲間だったのだろうか? おかしなデジモンが二体。なぜかヤマトさんとタケル君と遊びまわっており、人間界を満喫している。
やがて、ヴァンデモンに見つかることとなるが、一緒に遊んでくれたヤマトさんたちをかばって、彼らは殺されてしまった。データの塵となっていく。慈悲もなく、ヴァンデモンは彼らを殺していく。
赤い鞭が、彼らの体を傷つけていく。勝負にもならない。ただ一方的な虐殺――
だけど、まだ変えられる。この運命は、まだ変えることができる。
ヴァンデモンの手下が死ぬ。だからどうだというのだろうか――彼らはただ楽しんでいただけだ。映像の中には怒られるべきことも見えたのだが、それでも悪い奴らじゃなかった。
泣いて、笑って、僕らと敵対する必要なんてない連中なのに――なぜ死ななければならないのか。
僕たちの都合でデジモンを倒してきた。そんな僕に何かを言う資格はないのかもしれない――でも、助けられる命があるのならば、僕らが動くことで何かが変わるというのならば――変えたい。この運命を。
――そう、強く望んだ時、再び意識は浮上した。
紋章が輝き、デジメンタルのエネルギーが回復していくのを感じる。同時に、体中に力が駆け巡っていくのも感じた。体が動く。
目が覚め、飛び起きると――そこは、僕の部屋だった。
「そうか……疲れて寝ちゃっていたから運ばれたのか――――って時間!?」
正確なことは分からないけど、アレは夜だったから……もう夕暮れじゃないか。時間がないぞ。渋谷でことが起こるのは分かったが……ドルモンも回復しているかわからないし、どうする?
そうして立ち上がると、妙に体の動きが悪いことに気が付いた。あれ? まだ疲れている――いや違う。なぜか服装が変わっているのだ。なんかフリフリのたくさんついた服に――っていうか女もの。それは、後の世でロリータとか呼ばれる類の衣装だった。
「また女装させられている!? 誰だよ!?」
「また無茶したみたいだからお仕置きよー」
「似合ってるよ、カノン君!」
ドルモンもあくびをしながら起きてくるが、僕の姿を見て唖然とした。
「カノン……ついに、目覚めて」
「目覚めてないからー。この二人が眠っている間に着せただけだからー」
くそっ――なんか最近、こんな目にばかり合っている気がする。
「っていうかヴァンデモンの出る場所が分かった! 行けるかドルモン?」
「エネルギー自体は大丈夫だよ。見ての通り、ドルモンにまでしか退化しなかったし」
「なら――できるな?」
「モチのロンさ」
さらに古いなそれ……
「カノン、また無茶するのー?」
「……流石に、死ぬ奴を見過ごせないっての」
「ハァ、お父さんに似て頭のいい子に育ったかと思ったら、やっぱり私の子なのねー。無茶ばかりするんだからー」
「ってことで、止めてもいくよ!」
「なら――女装したままで行きなさい」
「――――なぜ」
「うん。無茶ばかりするから、罰ね」
こ、この屈辱的な姿で外に行けと? そしてヒカリちゃんはさっきから、何故カメラを回しているんだ。
「永久保存」
「やめてくれ……クソッ、これじゃあ太一さんたちに援軍を頼んでも生き恥じゃないか」
「もう、女の子がそんな言葉づかいをするんじゃありません」
「女の子じゃない!」
「でも太一さんたちも力使いすぎて、今回復中だよ。おれは案外イケそうだけど」
「……それでも、直接戦うのはマズそうだからひき逃げアタック作戦で行くぞ」
「えっと、それって?」
「ヴァンデモンに激突して仲間回収したら逃げる」
「不安だなぁ……」
結局のところ、母さんも他の服を死守したために僕は女装で外に出るしかなくなった。
もはや何のために戦うのかわけわからないことになりながら、渋谷へと向かうこととなる。
「この恨み、ぶつけてやるぞヴァンデモン!」
「趣旨変わってる……」
寝起きであることと、こんな目にあわされたことで変な方向にスイッチが入っていたのだろう。後々、恥ずかしさで死にたくなるのだが……まあ、それは別の話である。
Qなぜ女装? A改定前もここで女装させてた
よかったなピコデビモン。大活躍だぞ……ピコダーツは。