結局さんざん怒られた上、なぜか罰を与えられることとなったが――なんでこんな格好をせねばならんのか。
「ぷふっ、可愛いわよ、カノン
「解せぬー」
ひらひらのスカートに、プリティな服。極めつけは頭のリボン……
「どうみても女装じゃないですかやーだー」
「とっても似合っているよカノンちゃん!」
「やっぱりアタシたちの見立てに間違いはなかったわね!」
「ヒカリちゃんはなぜノリノリなのー、そしてミミさんもどうしてそんなにほこらしげなのかなー」
あと、男性陣は笑いすぎだと思うのー。というか、見てないで助けてくれよー。
というか太一さんはさっきからなぜ僕が口を開くたびに笑うのかー。
「お前、口調が母親みたいになってんぞ――ヤバい、腹がよじれる」
「そうかー……テメェラも同じ目に遭うがいい」
「ちょ、まて――ヤバい笑いすぎで体が動かなッ、なんでそんなに力が強いんだよ!?」
「こちとら魔法で身体強化しているんじゃぁ!!」
死闘の末、なぜか母さんが持ってきた服を全員に着せていく。色々なサイズがそろっているところを見ると、どうやら僕が成長していくごとに着せようと思ってため込んでいたものと思われる……
ああ、どっちにしろ僕の運命は変わらなかったわけね……なお、一番女装が似合わなかったのは丈さんだったことをここに記す。ちなみに太一さんはブービー。
◇◇◇◇◇
さて、いろいろ話が脱線してしまっているがそろそろ本題に戻らないといけない。
「今後どうするかだな」
「まずはヴァンデモンたちをどうにかするべきだよなぁ……」
「でも、どうにかするって具体的には?」
改めてえらばれし子供たちを観察してみると、リーダーシップを発揮しているのは太一さん。太一さんが暴走したりするときにツッコミを入れたり、バランスをとっているのがヤマトさん。なんというかコンビって感じだ。
ミミさんは空気が読めないタイプかと思ったが、読まないタイプみたいだ。触れたくない話題だったり斬りこまなくてはいけないときは斬りこむというか……一人はいてくれると話がスムーズにいく感じの人である。
「やはり手下のデジモンからどうにかするべきでしょうか」
「だからって周りに被害が出たら本末転倒だぞ」
「そうだね。それに僕らにも普段の生活がある――明日は夏期講習があるし」
光子郎さんはやはりというか参謀役。この中じゃ一番頭いいし。丈さんはモラルというか一般常識を一番身に着けている。まあ一番上だからか。おかげでストッパーとして働いていた。
「それにヒカリちゃんのパートナーも探さないといけないし……ねえ、カノン君、本当にこっちの世界にヒカリちゃんのパートナーデジモンがいるの?」
「デジヴァイスとパートナーデジモンの間にはリンクがあるんですよ。断線した感じはしなかったので、こちらの世界にいるハズですよ」
「ヒカリちゃんのパートナーか……どんなデジモンなのかな? パタモンたちは何か知っているの?」
「うーん……わかんない。ファイル島でぼくたち以外のパートナーデジモンは見かけなかったし」
空さんはお姉さん的ポジションというか、母親的ポジションというか……背中を押す人って感じ。タケル君は無邪気で、だからこそデジモンたちに一番近い。デジモンたちを入れれば結構な大所帯だけどタケル君っていう存在がある意味緩衝材になっている。
「はやく、会ってみたいな……」
「会えるといいね、ヒカリちゃん」
「うん。ありがとう、アグモン」
ヒカリちゃんは半歩ずれた立ち位置だけど――よりデジモンたちと近い場所にいる。彼女の中にある何かがそうさせているのだろうか……確証はないけど。
で、僕はと言うと…………さらに一歩ずれた位置にいる。いや、仲間内に入っていないわけじゃないんだよ。ただ、何というか……このメンバーに加わるというより外部で協力する感じと言うか……
「なあカノン、昔会ったっていうバステモンみたいにこっちに来ているデジモンって他にいないか知らないか?」
「いや知っていたら先に言っていますし、アナライザーで出てこない……いや、それっぽいのがいたな」
「本当か!?」
「ただ、アナライザーに表示されていませんのでデジモンかどうかわかりませんし――――どこにいるのかも知らないうえに下手に手を出すと、死にかねませんよ」
僕がそう言うと、冗談かと思ったのか何を言っているんだよと突っ込まれる――だが、僕の顔が真剣なのを感じたのだろう、みな口を閉じた。
「いったい、どういう事ですか?」
「ものすごい力の差を感じた男を昔見たんです。あれ以来見ていませんし、戦うつもりはなかったようなのであまり気にしないようにしていたんですけど……」
昔見た全身黒色の格好の男。まだ日本にいるとも限らないし、出来れば会いたくはないのだが……
「ドルモンがデジモンのにおいがするって言っていたので、もしかしたらパートナーデジモンでも連れていたのかもしれないですね。他にデジモンを連れた人間がいないとも限りませんし」
「だったら、お台場のニュースをみてこっちにくるんじゃないのか?」
「あれはそんなお人よしの雰囲気じゃないからなぁ……」
まあ、アナライザーに該当する情報は見当たらなかった以上気にしても仕方がないわけだが。
「このアイギオモンは?」
「成熟期ですから確実に違います。というか、なぜかは分かりませんがそれだけは絶対に違う……」
そして否定するとなぜか悲しくなった。本当になぜなのだろうか……
結局のところ、ヒカリちゃんに誰かがついていて、他のメンバーで出来る範囲でお台場周辺を調べまわることぐらいしかできそうにないなという結論に至るのだが――僕は一つ情報を入手していた。
会議も終わりというところで出すことになってしまったが……
「東京タワーにデジモンが出てくる夢を見ましたよ。炎を纏った巨人みたいなデジモンが出てくるんですけど」
「炎――メラモンでしょうか? このデジモンなんですけど」
「……オレンジじゃなくて、青色でしたし、なんか鋼の体見たいのも見えました」
「それ、本当に起こるのか?」
「起こるはずですけど……ネオデビモンの時の例もありますし、皆さんがデジタルワールドに行くときの光景も見ましたよ」
「…………出かけるときに意味深なことを言っていたなぁって気になっていたんだけど、それが理由かよ」
そういえば太一さんに言っていたなぁ……忘れてたわ。
僕がその時の光景を語ったら、やはり同じ状況になっていたので僕の能力が本物と理解してもらえたが……夢で見てもアナライザーに表示されるんじゃないのとツッコまれた。
「そういえば表示されなかったな」
「……バグラモンとブラックセラフィモンの時は夢とはまた違ったかもしれません――そうだ、今思えばあれは…………」
「カノン君?」
「まあ気にしても仕方がないか。また行くことになるんだし」
「?」
改めて人に指摘されてようやく思い出せた。バグラモンだっけか……彼が言っていたことを考えるとまたあの場に行くことになるのだろう。まあいつになるのかわからないが。
とりあえず、これは僕とドルモンの問題になるだろうしみんなは関わらない気がする……結局のところ目先の問題を何とかしないといけないわけだ。
「ってことで、今日のところのチーム分けをしましょう。丈さんは夏期講習ってことでヒカリちゃんの護衛……図書館にでも行ってきてください」
「なんか心配だけど丈先輩、ヒカリのこと頼むな」
「……なんだか不愉快なんだけど」
「となると、完全体に進化できる僕らは分けた方が良いでしょうか?」
「いや、暴走しない組み合わせにするべきかと」
「そうだな。お互いの相性を考えて組み合わせを考えた方がよさそうだ」
と言うわけで、太一さんと光子郎さんのリーダーと参謀チーム。ヤマトさんとタケル君の兄弟(髪質そっくりですねと聞いたら教えてもらえた)チーム。
そして――僕と空さんミミさんの、大丈夫かこれチーム。
「――――え、この二人が突っ走りだしたら僕には止められないと思うんですけど!?」
「カノン、頑張ってくれ――――俺たちだって心苦しいとは思う。だが、この組み合わせがベストなんだ」
「何かあればサポートできますしね。頑張ってください」
「それじゃあ、みんな別々のルートで東京タワーを目指すということで。それじゃあ頑張れよカノン!」
「あ、あんまりだ……」
「ちょっと、失礼じゃないの?」
「そうよ。それに心配しなくても大丈夫。ちゃんとやることはやるから」
嫌な予感しかしないなぁ……いや、信じなくてどうする。そうだよ、だから二人を信じて――――あ、やっぱり護衛で……え、ダメ? そうですか。
◇◇◇◇◇
肩を落としながらカノンがドナドナと連れていかれた後。ヒカリはミーコが飛び出して行ってしまったので外へ出ていった。丈は図書館に行こうとも思ったが、カノンの家の蔵書を見てもいいと言われたため、そちらを先に見ることにしたので部屋に残留している。一応、ヒカリのデジヴァイスを預かることで8人目と思われないようにしたが。
「ミーコ? どこー?」
あまり遠くに行かないように言われているので、ヒカリも近くの公園まで見に行こうと思って、そろそろ引き返すべきかと思った時だった。
白色のネコが目に入る。どういうわけか、そのネコから目が離せず――ふと、気が付いた。
「あなた、アグモンのお友達?」
「――――ッ!?」
なぜか話しかけてしまっていたが、この子は悪い子じゃない。ヒカリには不思議とそのことが理解できた。いや、ヒカリ自身には当たり前のようにそれが理解できたのだ。
ネコ――テイルモンは固まっていたが、やがて動き出し、鳴き声を上げる。
「ニャーオ」
「? なんでネコの鳴きまねをするの?」
「……」
テイルモンはじっとヒカリをみつめ、彼女を観察するが――やがて踵をかえして走り去ってしまった。その様子をヒカリも見つめていたが……別の鳴き声が聞こえてきてその視線も外れた。
「あ、ミーコ!」
「にゃぁ」
「もうどこに行っていたの?」
そのままミーコを抱き上げ、ヒカリは家へと戻っていく。あたりには人がいなくなり――再びテイルモンが姿を現した。
「……なぜ、アグモンのことを…………まさか8人目の子供?」
だが、テイルモンのもつ紋章――8人目の子供の紋章のコピーは全く反応していなかった。
どうするべきか、このことを報告するべきか否か……テイルモンが悩んでいる時、背後から人影が現れる。
「――ウィザーモンか」
「ええ。テイルモン、どうしたのですか……そんなに悩んで」
「お前も見ていたか? さっきの子供がアグモンのことを知っていたのを」
「…………気になるのならば調べればいいでしょう。あなたが悩んでいるのはそのことではないはずだ」
「………………」
「まあ、こちらへ来たのは別の報告があったからですが」
「別の報告?」
「ええ――ヴァンデモンがあのデジモンを解き放つようです」
「なに? まさか回収した古代種をか!?」
「ええ……0人目に対するカウンターを用意するそうで」
「だがアイツはコントロールできるようなデジモンじゃないぞ!?」
自分よりも圧倒的に強いデジモンだからこそ、テイルモンもヴァンデモンにしたがっている。しかし、そのやることはある種の合理性があることも知っていたのだが――かつてヴァンデモンが回収した古代種のデジモン、それを解き放つとはいったいどういうつもりなのか。
「いったいどれほどの被害がこの世界に出ることか……自分たちの行動も阻害されるはずなのに」
「普通に行動を起こせば、0人目は他のえらばれし子供と共に立ちはだかる。件のデジモンはそれほどまでに強力な存在なんですよ」
「あの紫色のデジモンがか? 私にはそこまで強いデジモンには見えなかったのだが……」
「かつて、あの世界でみた文献……その通りの存在だとしたら、とても厄介なデジモンですよ」
テイルモンはいぶかしげにウィザーモンを見るが……そういえば、このデジモンは自分のしるデジタルワールドとは異なるデジタルワールドから来たと言っていたこと思い出した。
眉唾ものだと思っていたが、時折ヴァンデモンよりも深い知識が出てくることがある。それに今回のことで何か知っている様子となると……
「一体、あのデジモンに何があるのだ?」
「古代種よりも更に古きものにして、デジタルワールドに滅びをもたらす存在。ウィッチェルニーでは病原体とも評されていたデジモンですよ」
「……その割には、怖がっていないようだが?」
「ええ、非常に面白いと思っていますから」
ウィザーモンはそう言うと、にこりと笑った。あまり表情を見せないこのデジモンが笑ったことなど、幾度あっただろうか。なんだか気恥ずかしくなり、テイルモンは顔をそらしてしまう。
「――まあいい。私はあたりをもう一度捜索してくる……どうせ古代種は捨て駒扱いなんだろう」
「ええ。それも含めて織り込み済みのようです」
結局のところ、自分たちのやることは変わらない。
そう――何一つとして変わらない。彼らは、ヴァンデモンの手下でありながら、仲間ではないのだから。
と言うわけで、デスメラモンと何かは次回へ続く。
そして結局改定後も女装することになるカノン。ただし、他を巻き込むスタイルに。