「マンモンに続いてゲソモンまでやられただと!?」
「まったくテイルモンの連れてきた連中と来たら役に立たない奴らばっかりで――うしし」
「何がおかしいのだ、ピコデビモン」
「――――い、いえ。申し訳ありません」
「さっさと8人目を探しだすのだ!」
「了解しました!」
ピコデビモンが羽ばたき、足にひっかけた光の紋章のコピーを使ってデジヴァイスの反応を探す。しかし、デジヴァイスは探せども探せども見つからない。
他のデジモンたちも探し回っているが、一向に見つからない。
「おのれ……まさか子供たちが何らかの対策をした? いや、奴らにそんな能はない。だとすれば、まさか……」
ヴァンデモンも確保しようと考えていた”とある存在”が脳裏に浮かぶ。本来であれば確保するだけにとどめておくべきかと思ったのだが……
「0人目……どうしたものか」
思案が必要になる。情報が足りないのだ。エネルギーの問題もある。ヴァンデモンにとっても、まだこの世界には慣れていないため厳しい展開が続いていた。
カノンが工作したことにより、更に厳しい展開になっていたのだが――逆に、彼に味方してしまう者もいるのもまた事実だ。
カツンカツンと靴の音が鳴り響く。白衣をなびかせて、ニタリと怪しく笑う男がヴァンデモンの前に現れた。
「――――貴様、何者だ」
「なぁに、強いものの味方さ――あなたみたいな、力の強いモノのね。いい場所を紹介しよう。それに、情報ならこのパソコンを使うといい」
「……何が目的だ、人間」
そう、ヴァンデモンの前に現れたのは人間だった。
だがヴァンデモンは彼に対して攻撃を仕掛けることはなかった――自分以上に黒い何かを、彼から感じる。
「なぁに、ただデータが欲しいだけさね……デジタルモンスターの、データがねぇ」
「…………いいだろう。何か都合がつけば貴様にくれてやる」
「そうですかそうですか――ならば、私も秘蔵のデータを提供しましょう。偶然手に入れたものですが、私には無用の長物ですから」
「――――これはッ、貴様これをどこで手に入れた!?」
「こちらに漂流してきたものを回収したにすぎません。あなたも理解しているようですが、それは私では取り扱えない代物ですからねぇ……もっと扱いやすい素材なら良かったのですが」
「…………なるほど、私の目は確かだったようだな。いいだろう、貴様との取引に乗ってやる」
「ええ、お互いいい買い物にしましょう」
◇◇◇◇◇
他の子供たちをそれぞれの家に送り届けたのち、我が家のあるマンションにまでたどり着いた。タケル君だけちょっと離れていたから時間がかかったが、他のメンバーは全員お台場だからすぐに帰宅を確認できた。
で、残るは太一さんと僕だけ。まあ同じマンションだしね。
「ハァ……光が8人目か」
「一応デジヴァイスにプロテクトは仕掛けてあるので見つかりはしないと思いますけど、用心はしていてくださいね。とりあえず明日僕の家に集まりますし」
「まあ、デジモンたちも含めて話し合いができる人目を気にする必要のない場所が、お前んちしかないからなぁ……」
とりあえず、家の前まで来てお互いのデジヴァイスで反応を調べる。太一さんや他の子も完全体に進化できるようになってからデジヴァイスのサーチができるようになったそうで、二人でヒカリちゃんのデジヴァイスの反応を調べてみた。
「……反応、ないな」
「成功しているようで一安心です。まあ積もる話は中でしてくださいな」
まあ、太一さんの感覚では両親には数カ月ぶりに会うんだし、これ以上なにかいうのは野暮だな。
というわけで自分の家に入り、今日のことをまとめる。
いつものノートを開き、見たデジモンのイラストを描いていく。獣型、爬虫類型、虫型、植物に水棲生物……ヴァンデモンが完全な人型で、吸血鬼のような特徴を持っているという情報もあるし、本当に千差万別と言うか……なんでもありなのか。
「でもそれだけに対策を立てやすいな」
「どうして?」
「元となる情報から弱点を推察しやすいからだよ。軽く聞いた話だと、デビモンってのは聖なる力に弱いらしいし……となると、ヴァンデモンは吸血鬼。吸血鬼の弱点と言えば――ニンニクだ」
「…………にん、にく」
「そうニンニクだ。あとは心臓を杭で打たれるとか、銀の弾丸とか、十字架とか聖水とか……まあ、悪魔と狼男あたりの弱点も混ざっているからどれか効かないだろうけど……あらゆる媒体でこれはダメってのがいくつかある」
「それがニンニク?」
「まあ定番ではある。というか吸血鬼って有名だし色々と混ざったせいで弱点もものすごく多いんだよ」
あとは日光か……青白い肌の、大男が、日光に苦しんで急いで日陰に逃げる――そんな光景。
「……ぶふっ」
「カノン? 笑いすぎだと思うよ」
「いや、だって――滅茶苦茶強いらしいのに、なんか不憫ッ、だめ、おなかがよじれる」
――カノンのあずかり知らぬことではあるが、そのときヴァンデモンは無性に腹が立ってピコデビモンをなぶりたくなったらしい。もっとも、ピコデビモンは8人目の捜索中だったのでストレスだけがたまったのだが。
「はぁ、笑った笑った」
「まったくカノンは……結構、油断すること多いよね」
「え、なんで?」
「ほらニュース」
みてみると、ゲソモンとドルガモンの戦っている姿が映っていた。幸い、ノイズが走っていて微妙に分かり難い状態だったが。
「……やべ、戦闘中にステルス使うの忘れていたわ」
「おれもなるべく短期決戦にしたけど、野次馬やマスコミは早いねー」
「舐めてた。次から気を付けるよ」
すぐに別の話題に変わっていたし、今のところ不思議映像ぐらいにしかとられていないみたいだけど……どうするかと思った、その時だった。
頭の中に奇妙な映像が浮かんでいく。周辺は暗く、どこかの倉庫の上にいるような映像だ。
何度か轟音が鳴り響き、ヘドロのような怪物と巨大な昆虫が戦っているのが見えた。近くには光子郎さんがいて――怪物たちの戦いに巻き込まれ、船が転覆して……
「ッ、ドルモン……悪いけどまた厄介ごとだ」
「今度は何ー?」
「海の方にヘドロみたいなデジモンが現れる。巻き込まれる人が出る前に倒すぞ!」
◇◇◇◇◇
光子郎はテントモンが見つからないように自室に鍵をつけたのち、ゲンナイに貰ったパソコンの新機能をチェックしていた。意味がわからないというより、変なムービーが流れるだけのものがいくつかあったが。
「ゲンナイさん……何がしたかったんですか」
次も変なのじゃないよなと思いつつ、ファイルを開いてみると――なぜか東京の地図が表示された。
「あれ、なんで地図が――それにこの赤い点は」
地図を拡大していくと、ミニゲンナイが表示されて芝浦にデジモンが現れたことを教えてくれた。すでにあたりは暗くなっており、もう寝ようかと思った矢先だ。まだ、今日は終わらない。
「大変だ……急いで皆に連絡しないと!」
えらばれし子供たち全員の家に連絡をとる。流石にタケルに連絡をとるのは遠慮したが――全滅である。どうやら疲れからかすでに全員眠ってしまっているようだ。
「カノンはんならどうでっしゃろ」
「それが、少し前に飛び出したらしくて……もしかしたら、すでに現場に向かっているのかもしれません」
「完全体に進化できるいうてたし、大丈夫やと思うけど……どうします? 光子郎はん」
「いこう……テントモン!」
一方その頃、カノンたちは現場上空にたどり着いていた。速度ならサンダーバーモンの方が速いのだが、放電してしまうため夜だと逆に目立つので今はドルガモンに進化している。
夜で目立ちにくいが、一応ステルスはかけていた。
「……寒い」
「そりゃあ夜は冷えるでしょ。それで、大体どのポイント?」
「もうそろそろだと思う――来た!」
海が盛り上がり、ヘドロのようなデジモンが飛び出してくる。どろどろとした体は見ているだけで気味が悪い。
「というか気持ち悪い。えっと、レアモン……成熟期か。ウィルスでも仕込んで動きを阻害しようと思ったけど……ダメだ。ドロドロで構成情報の隙間が狙えない」
ある意味今までで一番厄介なのではなかろうかとさえ思える。カノンはドルガモンに地面へ降りてもらい、適当な場所でその背から飛び降りた。
「あと頼む」
「はいはい。任された!」
「もう一匹は見当たらないけど一応用心しておいてねー」
ドルガモンが単独でレアモンへ向かっていく。流石に海の上だと自分の出る幕はないかなと思いつつ、カノンは戦いを見守っていた。しかし、ドルガモンの吐き出す鉄球も柔らかいレアモンの体には効きにくいようだ。
「こりゃぁ、サンダーバーモンのほうが良かったかな」
「カノンくーん!」
「え――――光子郎さん!?」
呼ばれて振り向くと、光子郎がやってくるのが見えた。隣には、赤色の虫型デジモンがいる。
「えっと……」
「モチモンから進化したテントモンや」
「ああそっか。成長期――ってことはあの虫型のデジモンは……」
「カノン君?」
「いえ、こっちの話です」
そう話を区切ると、テントモンが光に包まれて姿が変わっていった。巨大な昆虫、カブテリモンへと。しかしデカいなぁ……ドルグレモンよりもデカい。カノンがそんなことを思わずつぶやくほどに大きかった。
「カノン君はどうやってデジモンが出てきたことが分かったんですか?」
「うーん……予知?」
「……えっと、どういうことですか」
「昔から何度かあったんですけど、なんというか未来の光景が見えることがあるんですよ。ネオデビモンとの戦いのひと月前から何度もやられる光景を見せられてひどいことになりましたし」
「…………”運命”の紋章の持ち主だからでしょうか?」
「さぁ……今となっちゃ便利なんでいいですけど」
ただ、時々勝手に見えるものだし、予知夢みたなものなんだよねぇと軽く言っている。そう簡単に済ませていい話なのではないかと光子郎は思ったが、そう言いだす前に何かが飛んでくる音が聞こえた。
「――ッ、光子郎さん危ない!」
「うわぁ!?」
とっさにカノンが身体強化を発動させ、光子郎を掴んで跳ぶ。先ほどまで立っていた場所には数本の注射器が刺さっており、当たれば危なかったことがわかる。
「いったい誰がこんなことを……」
「これは、ピコデビモンの!?」
「ご明察!」
バサリと小さな影が現れた。丸っこい身体に、コウモリの羽。一頭身のちっさいデジモンがカノンたちの前に現れたのだ。
「……うわ、弱そう」
「――テメェ! いきなり何言いやがる!」
「カノン君、あまり挑発しない方が……」
「大丈夫ですって。この程度なら僕でも
「なんか物騒ですよ!?」
「はっはっは! テメェみたいなガキがこのピコデビモン様を――」
カノンの両足にそれぞれ、三つのリングが展開される。それぞれ、負担の軽減、筋力の強化、スピード上昇の術式が組み込まれており、一気に解放することでピコデビモンの眼前に迫った。
「――は」
「オラッ!」
ドゴンと人が殴ることで出していいわけもない音を響かせながら、カノンはピコデビモンを殴り飛ばした。腕からいくつもの
「て、テメェ本当に人間か!? 実はデジモンじゃないだろうな!?」
「復活速いなぁ……よし次は構成情報を崩す式を試すか」
「ギャァアアア!?」
カノンの指先から、弾丸のようなデータの塊が射出される。
「ハァハァ……この悪魔!」
「いや
光子郎のツッコミが響くが、周囲にむなしく響くのみだった。
ピコデビモンはここなら攻撃も届かず、自分が一方的に攻撃できると何本も注射器のダーツを投げつけていく。
「ピコダーツ! ピコダーツ!!」
「いや、成長期の攻撃なんて今更効かないし」
完全体の攻撃にも耐えられるように汲み上げてきた盾が今更成長期の攻撃で壊されるわけもなく、ピコデビモンの攻撃はむなしく弾かれるだけだった。
「……だ、だがそちらの攻撃も盾が出ている間は――――」
「だったら試してみるかボーイ」
「…………」
その時、海の方で爆発が起きた。
「メガブラスター!」
「パワーメタル!」
二体のデジモンの技が決まり、レアモンが倒されてしまう。早期に決着がついたおかげで、被害もほとんど出ていなかった。これで残るは、ピコデビモンのみ。
「…………さて、決着をつけるか」
「――――お、覚えてろよー!」
古典的な捨て台詞を残してピコデビモンは飛び去って行く。結局、奴は何がしたかったのかと思わせるほどに。
「……とりあえずこの注射器回収しておこう」
「ゲンナイさんがカノン君は魔法を習得していると言っていましたが……本当だったんですね」
「色々研究する時間はありましたからねー。ヴァンデモンって本当に強いんですか?」
「ええ、とても強いですよ」
となると、部下には恵まれないタイプなのか……予想通りワンマンなのか。前者なら少し同情してしまいそうになるカノンであった。
成熟期の攻撃を防いでいたのに今更成長期に苦戦するはずもなかった。ただしアルカディモン。おめーはダメだ。
ちなみに最後の問いかけは両方ですね。ワンマンだし部下にも恵まれていない。
あと私事になりますが、何故公式はガイオウモンバーストモードは公式化してくれなかったのか。クズハモン巫女モードとかベルスターモンは公式化されたのに……
いや、まだだ。まだデジヴァイスバーストの復刻でワンチャン……あるといいなぁ…………