デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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こいつ、無茶苦茶やるな……


20.よみがえる記憶! 光が丘の戦い

 さて、目下の問題はこのデジヴァイスである。僕のではないし太一さんのでもないだろう。だとすると、これは誰のデジヴァイスになるのかということだが……

 

「えっと、カノン君?」

「一人しかいないよなぁ…………どうしたものか」

 

 となるとパートナーデジモンもいるハズなんだろうけど、見当たらない。というかこれそのままでもいいのか? 何か嫌な予感がするのだが、どうするべきか僕たちだけじゃ判断ができない。

 と、そこで電話の音が鳴り響く。いったい誰からだろうと思い、受話器をとってみると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『もしもし……えっと、太一だけど」

「た、太一さん!? まだ数分しか経ってない――いや時間の流れが違うんだった。っていうか帰ってこれたんですね」

『ついさっきな。今から光が丘に行くところだ』

「――――え」

 

 なんで光が丘? そのまま帰ってくればいいだろうになぜ光が丘へ行く必要があるのだろうか。

 疑問に思ったものの、電話の向こう側も忙しいらしく用件だけどんどん言っていく太一さん。

 

『ヴァンデモンがこっちの世界にいるもう一人のえらばれし子供を狙っているんだ。で、どうも光が丘にその子供がいるらしくて俺たちもこれから向かうところなんだよ』

「でも、たぶんそのえらばれし子供って……」

『ああお前じゃなくてもう一人いるらしい。なんでもお前だけ少し事情が違うとか――ああスマン、これ光子郎の携帯電話で、そろそろバッテリーがヤバい。後でまた連絡するからな!』

「いやだからその子供は――――切れた」

 

 たぶんヒカリちゃんのことなんだけどなぁ……言う暇もなかった。というかヴァンデモンって誰? え、こっちにデジモンが来たの? なんかヤバそうなの来ちゃったの?

 また厄介ごとの始まりってわけですかそうですか。

 

「……少しは落ち着けよ」

「カノン君、なんか怖い顔している……」

「あちゃぁイライラしている時の顔だね」

「…………結論から言うと、大分マズイことになったらしい。とりあえず僕らの目下の問題はこのデジヴァイスをどうするかだ。たぶんヒカリちゃんの」

「わたしの?」

 

 まあ、おそらく。というか十中八九。いやほぼ確定でもいいだろう。

 光が丘って言っていたし……デジモンと光が丘って言ったら4年前の事件だ。アレの当事者だったヒカリちゃんがえらばれし子供じゃないってのは違和感があったから、これで納得である。

 

「で、ヴァンデモンとやらが狙っているらしいけど……このデジヴァイスどうするか」

「どうするって、どうするつもりなの? ヒカリちゃんのなら渡しておけばいいんじゃないの?」

「……わたしのなら、わたしが持っている方がいいと思うけど?」

「いや、問題が一つ。デジヴァイスを見つけたときに気が付いたんだけど、デジヴァイスには他のデジヴァイスのサーチ機能があるらしい。ヒカリちゃんのデジヴァイス(おそらく)にはその機能が働いていないけど……

 そういえば完全体に進化してから機能が一気に解放されたよな」

「うん。そうだったね」

「となるとサーチは完全体に進化すると解放か……」

 

 まあ、デジヴァイスの反応を検知できるってのがわかればいいのだ。

 

「となると、ヴァンデモンもデジヴァイスをサーチしている可能性が出てきた」

「子供を直接狙うんじゃなくて?」

「いくらなんでもそこまでするかね……光が丘って場所に絞っている時点で事前に調べているのがわかるよ。あそこは以前にデジモンたちが戦った場所だからね」

 

 まあ僕がやるべきことが分かったのだから良しとしよう。あと、心配だから太一さんたちのことも気になるし。とりあえずヒカリちゃんのデジヴァイスを掌に載せて、魔法陣で取り囲む。

 

「え、カノン? どうするつもりなの」

「サーチされないようにプロテクトかける」

「そんなこと出来たんだ……」

「いや、今思いついた。別に難しいことじゃないし」

「さらっと言うね……」

 

 褒めても何も出ないぞドルモン。え、褒めてないって? 知ってる。

 デジヴァイスはそれぞれの持ち主とパートナーをつなぐアイテム。リンクが伸びてるのが感じ取れる……うーん、ヒカリちゃんとの間にリンクがあるみたいだけどパートナーとの方は分かり難い。出会っていないのが原因だろうか。

 まあ今は仕方がない。いくつかのリンクもあるし完全とはいかないが一時的に外部と遮断していく。言うなれば休眠状態に近いだろう。

 

「とりあえず、これで良し」

「……うわぁ、カノンが人間やめちゃってるよ」

「はっはっは。今更だよ――っていうか母さんの息子である時点で諦めている」

 

 あの人の本気って知っているか? 前に戦ったワイヤーフレームのデジモンもどきに後れを取ったの気にしていて鍛え直していたんだけど、この前虎を投げ飛ばしているのを見たぞ。

 

「デジモンにも勝てるんじゃないの?」

「やめろ」

「カノン君のお母さんって……生き物なの?」

「そのレベルで疑うのか!?」

 

 なんともまぁ、しまらない話である。

 と、こうしている場合じゃなかった。とりあえずドルモン、屋上に行くぞ。

 

「なんで屋上に?」

「行ってからのお楽しみ……まあ、迎えに行かないとマズいよなぁとも思うわけで」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、子供たちは全員が過去に光が丘に住んでいたことが分かり、自分たちがこの地にどの程度住んでいたかを話していた。程度の差はあれど短い期間のみであり、同時期に引っ越したことが分かって疑問が浮かんだのである。

 それに、全員が光が丘に住んでいたということはただの偶然とは考えられないことであった。その後引っ越したことも含めて、全員の共通点となるのはやはり何かるのではないかという結論に至った。

 しかしそうなると気になるのは引っ越した原因だが……そのことについて覚えている男がいた。

 

「それについては僕がお答えしよう」

「丈先輩が?」

「君たちが忘れているのも無理はないと思うけど、4年前にここで爆弾テロ事件があったんだ」

 

 一番年長の丈でさえ、4年前と言うと小学生になったかどうか。大きな事件だったとしても、幼稚園児に爆弾テロという話は入ってはこないだろう。

 そのため、みんなは爆弾テロということは知らなかったのである。

 

「そんな理由だったか? うーん……? そういえば、なんか引っかかるような…………」

 

 太一の記憶の中に4年前というのが引っかかっている。つい最近どこかで聞いた覚えがあるのだが……なかなか出てこない。

 

「太一、どうかしたの?」

「……そうだ、カノンの奴がデジモンに出会ったのも4年前って言っていたな。たぶん、同時期――ってまさか、アイツ何か知っているんじゃないだろうな……会ったときに教えてくれれば今悩まずに済むものを」

 

 確かにカノンは当時のことを覚えていたし、色々と感づいている。だが、別に話さなかったわけではない。太一がナイーブになっていたので後回しにしていたら太一がデジタルワールドに帰還しただけだ。

 しかしそんな事情は知らない太一は後でとっちめてやると意気込んでいた。

 

「ま、まあそのことは後でもいいじゃないですか。それよりも先に8人目を――なんでしょう、向こうが騒がしいようですが」

 

 どこかで聞き覚えのある――緊急事態を知らせる音。数か月もデジタルワールドを旅していた子供たちはすぐにその音の正体にたどり着けなかったが、やがて思い出す。

 

「これは、パトカーのサイレン!? もしかして……」

「ヴァンデモン、かもしれませんね。行ってみましょう!」

 

 すぐさま音のする方へ向かうと、轟音と共に巨体が街を爆走しているのが見えた。見た目は巨大な象。しかし、その顔は生き物のそれではない。金属の仮面をつけた巨大な象――いや、マンモス型のデジモン。

 パトカーもどうやら周辺の住民の避難を促すために動いているらしく、すでに遠ざかっていた。あたりに人がいなくなっていき、残されたのは子供たちのみ。そして、デジモンは子供たちに気が付いた。

 

「まってください、今アナライザーで調べます――でました!」

「いいからはやく! あいつ気が付いたぞ!」

「マンモン、完全体のデジモンです!」

「ああもうよりによって完全体かよ!」

 

 現在、完全体に進化可能なのは4体。しかし、日本へ来る途中でのごたごたでピヨモン以外の3体は力を使いすぎて幼年期にまで戻っていた。

 

「ここはアタシに任せて!」

「ピヨモン、お願い!」

 

 空のデジヴァイスが輝きだし、ピヨモンの姿が変化していく。炎を纏った巨大な怪鳥。成熟期のデジモン、バードラモンへと進化していく。そして、二体のデジモンが相対するが――その光景が子供たちの脳裏に焼き付く。既視感と共に目の前の光景が何かと重なる。

 

「怪獣、怪獣が二匹!」

「な、何を言っているんだタケル?」

「そうだ、覚えてる。昔タケルの奴、怪獣を見たって言い張って母さんにしかられたんだ」

 

 ヤマトの記憶に過去の思いでがよみがえる。自分もタケルと同じように二匹の怪獣を見た。しかし、タケルが叱られたことで自分は何も言えず、その時のことは記憶の奥底へと沈んだのだ。

 

「それは、いつのことですか?」

「たしか爆弾テロの時だ……」

 

 そして、バードラモンたちがある場所に来た時、あることに気がついた。

 

「ここは……」

「爆弾テロのあった場所だ」

 

 過去の記憶と今の状況が重なっていく。徐々にだが、全員の記憶の扉が開いていく。

 

「この陸橋は……」

 

 以前も来たことがある。前は夜だった。あの時、ここで何があったのか。太一の脳裏に4年前の出来事が鮮明に浮かびつつあった。

 

「あの時も……こんな感じだった」

 

 デジモンたちが戦っている。バードラモンがマンモンに向かって炎の球をぶつける。その光景も既視感がある。

 

「あの時と同じだ……火の玉が陸橋を壊したんだ!!」

「いや、火の球をはいたのは飛んでたほうじゃない。もう一匹のほうだ!!」

 

 ヤマトの言う通り、火球を放ったのは飛んでいたデジモンではない。大地に立ち、オレンジ色の恐竜のような姿をしたデジモン。

 みていた場所はそれぞれ違う。だが、全員の脳裏にはあの時の出来事が浮かんでいた。

 

「そうだ、戦ってたんだ……何かと何かが」

 

 太一がそう呟いたとき、バードラモンがマンモンの放つ冷気で凍らされ、吹き飛ばされる。

 

「バードラモン!」

「空――――、バードラモン超進化!

 ――ガルダモン!」

 

 ガルダモンへと進化し、再び飛び上がっていく。子供たちはこの時、答えにたどり着いた。そう、あの時の出来事を完全に思い出したのだ。

 

「あの時戦っていたのは怪獣じゃない。グレイモンだ!」

「そうだった――あれはグレイモンだった」

「ボクも思い出しました。たしかに、アレはグレイモンでした」

「あの日、うちのコロモンが来たんだ……コロモンはアグモンになり、そしてグレイモンになってもう一匹のデジモンと戦ったんだ。そうだ、間違いない」

 

 パソコンの画面から出てきたデジタマ。そこからボタモンが孵り、コロモンになって最後にはグレイモンへと進化した。忘れてしまっていた思い出が完成し、同時にガルダモンの必殺技、シャドーウィングがマンモンを貫き、戦いに決着がついた。

 

 あたりには静寂が戻り、戦いの爪痕が生々しく残っている。

 

「あの後2匹のデジモンはどこかへ消えていて、まるで夢でも見ていたんじゃないかって思っていたんだ」

「そうですね……凄い光と音がしたと思ったら、何も残っていなくて……」

「証拠も何もないし、爆弾テロってことで処理されたのかぁ……」

「光の奴がコロモンのことを知っていたわけが分かったよ。アイツは覚えていたんだ……ってことはカノンが覚えていないんですかって言っていたのはこのことだったんだな」

「カノン君も現場にいたってことでしょうか?」

「たぶんな――でも、アイツって生まれも育ちもお台場のはずだけど」

「そういえば以前、親戚が光が丘にいると聞いたことがあります」

「本当か光子郎?」

「ええ。あの時は春休みだったはずですし、遊びに来ていてもおかしくは無いですね」

「そっか……でもコロモン、お前は覚えていないのかよ」

「たぶん別のコロモンだよ。でも、太一と初めて会ったとき懐かしい感じがしたんだ。ヒカリちゃんもなんだか初めて会った気がしなかったよ」

「それ、お前も忘れていたってことなのか?」

 

 もっともコロモンはファイル島の生まれ。過去に来たグレイモンと同個体だとしてもデジタルワールドの時間で数万年以上は経っているであろう。死んでデジタマに還り、何度も生まれ変わった末に今のコロモンになったのかもしれないが、ここでそのことを追求する意味はないだろう。

 今一番大事なことは他にある。

 

「マズイ――パトカーのサイレンが聞こえてきた。捕まると厄介なことになりそうだ」

「そうだな、急ぐぞ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 近くの公園に避難した子供たち。ここでならようやく落ち着いて話ができそうだと、光子郎が口を開く。

 

「前々から気になっていたんです」

 

光子朗は自分が考えていたことを語りだした。

 

「キャンプ場にはあんなに子供たちがいたのになぜ、ボク達だけが選ばれたのか。でも、今日謎を解く手がかりがやっとつかめました」

「4年前の事件」

「ええ、ボク達には4年前デジモンに会っていたという共通点があるんです」

「ということは8人目も……」

「ええ、光が丘に住んでいたんでしょう」

 

 子供たちの間に沈黙が走る。一つ謎が解け、目的もはっきりした。しかし、それでも不安は残る。まだ解かなくてはならない謎も残されており、ヴァンデモンのことも何とかしなくてはいけない。

 誰かが何かを言おうとしていた、その時だった。子供たちのいる場所が急に暗くなったのは。

 

「あれ――なんでいきなり暗くなっているんだ?」

「キャァアアア!?」

「どうしたのミミちゃん!?」

「あれ! あれ!!」

 

 ミミが上空を指さす。その指の先には、青色の怪鳥がこちらへと降り立つ姿があったのだ。

 

「なっ――新手のデジモン!?」

「まずいですよ、あのデジモンが完全体だったら……」

 

 しかし謎のデジモンは子供たちを視認しているものの、襲い掛かる様子はなく静かに降り立つのみであった。それに、あたりが騒がしくならないのも気にかかる。

 

「おーい、太一さーん! 僕的にはさっきぶりですけど、そっちは久しぶりですかねー!」

「――――え、カノン!?」

 

 怪鳥――サンダーバーモンが光に包まれ小さくなっていく。ドルモンへと退化し、背中に乗っていたカノンもふわりと地面に降り立った。

 

「というわけで、迎えに来ましたよ」

 

 ニコリとカノンは子供たちに笑いかけたが、唐突な展開に反応出来る者はいなかった。




というわけで、カノンやらかしスペシャルでした。

ヴァンデモンの紋章のコピーによる捜索の失敗が決定いたしました。
さあ、思いっきり笑ってやってください。

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