デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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とりあえず原作開始前はここで終わります。
次回より、原作突入かな。


16.超進化! 赤き獣竜ドルグレモン

 ドルモンの完全体、ドルグレモン。

 カノンのあずかり知らぬことではあるが、進化が行われた一瞬。周囲に電波障害が引き起こされていた。

 現実世界への適合率が高まっているドルモンであったが、完全体への進化の際に放出された波動はそれでも影響を与えるほどに強かったのだ。

 そして完全体へと進化したことによりデジヴァイスの機能が解放されていく。それによって、カノンの側にも変化が訪れた。

 

「――――あれ」

 

 視力強化の術式が変化していく。そもそもエネルギー切れだったはずなのに最大まで回復して――否。最大値が上昇していた。

 デジヴァイスの方からカノンに新たなプログラムがインストールされる。

 

「ドルグレモン、行くぞ!」

「おう!」

 

 ネオデビモンの姿を見ると、いくつかの文字や数字が表示されている。名称と属性、グラフみたいのも見えるがすべてを読み取ることはできない。

 それでも――奴の性質を掴めた。

 

「そいつに高度な知性はない! 誰かは知らないけど、個体の意思をはく奪した戦闘人形だ!」

 

 デジモンはデジタルデータで構成された生命体。それゆえに、体に自分がどういったデジモンなのかという情報を持っている。ドルモンが生まれたときからデジタルワールドなどの情報を持っていたり、進化してすぐに技が使えたりなどというのはここに由来する。

 今、カノンはその情報を閲覧する力を身につけた。視界にとらえたデジモンの情報を見るアナライズ能力。それが新たに獲得した力の一つだ。

 

「ギルティクロウ!」

 

 ネオデビモンもすぐさま攻撃を仕掛けてくるが、ドルグレモンは翼でネオデビモンの爪をいなす。デジモンの中でも悪魔を模した者は特に強い力を持つが――ドラゴンを模した者も同格かそれ以上に強い力を有する。

 

「薙ぎ払え!」

「うおおおおおおお!!」

 

 カノンの指示でドルグレモンが体を回転させ、その強靭な尻尾でネオデビモンを弾き飛ばす。

 とっさに腕を交差させて防御するものの――そのパワーはドルガモンとは比べほどにもならない。ゴキリという嫌な音と共に飛ばされたネオデビモンは木に激突してしまった。

 嫌な方向に曲がった腕を眺め――バキバキと音を響かせながら腕が再度曲がっていく。

 無理やりに折れた腕をもとの形へと戻していく。まるで痛みなど感じないように、再び正常な状態へと戻っていった。

 

「キモイっての……ドルグレモン。もう一度吹き飛ばせ」

 

 今度は奴も学習したのか、空へと飛びながらその爪を振り下ろしてきた。ドルグレモンは再び尻尾を振り回すだけ。先ほどと同じ行動ゆえに対処法を見出し、模範通りに動いた。

 

「――だけど、それが命とりだ。自分の意思がないってことは機械みたいにしか動けない。だからこそ、そこに付け入る隙がある」

 

 カノンが右手をネオデビモンに向けて構えていた。チャージされた魔弾は放電をしており、あたりにラップ音が響き渡っていた。

 ネオデビモンの構成情報を見抜き、それに合わせてアンチプログラムが組まれていく。

 気が付いたときにはもう遅い。ネオデビモンの眉間に弾丸が迫っていた。

 

「特製クラック弾。お味はいかがかな」

「――――グッ、ゴッ」

 

 ネオデビモンの全身が痙攣していく。無理やりに体を動かそうとするが――体を動かすという命令をブロックされる。復帰ができない。行動を起こそうとするたびに別の命令が無理やり挟まっていく。

 デジモンがデジタルデータやプログラムで構成された生命体ならば、体を動かすという挙動一つ一つにプログラムが存在するはずだ。

 腕を動かそうとすれば、その前に体が痙攣する命令を挟まれる。そんなウィルスを仕込む弾丸を作り出して放ったのだ。その影響でネオデビモンの動きが止まった。

 

「ドルグレモン――貫けぇ!」

「ハアアア……ッ」

 

 ドルグレモンが飛び上がり、ネオデビモンにとびかかる。赤く染まった角が突き刺さり、鮮血のようにデータの破片が飛び散っていく。

 声は上がらなかった。表情もわからないが、そこには確かに苦悶の表情がある。

 ドルグレモンはそのままネオデビモンを地面へと投げ飛ばす。土煙が上がり、ネオデビモンが転がっていく。

 想定外の事態が起こり続けてネオデビモンにエラーが蓄積されていく。最適解を導き出そうとするが――その全てが失敗し、やがてネオデビモンは何かに突き動かされるように行動を起こした。

 

「ゴ、オオオオオ」

 

 仮面に手を当て、はがそうとする。黒い靄のようなものが仮面の下から広がろうとしており――そのままにしておくのは危険だと告げていた。

 

「コロス――エラバレ、シ…………コロス。エラバレシコドモ、タチ、コロス!!」

「仮面を外して制御から外れようとしている? でも、選ばれし子供って……」

 

 何か気になることを言っているが――その隙にドルグレモンがネオデビモンに迫っていた。流石に無防備になり過ぎたと判断したのか、仮面をはがそうとするのをやめて、迎え撃ってきた。

 爪と翼がぶつかり合う。何度か金属音があたりに響きわたり、ネオデビモンの爪がドルグレモンの頬を傷つける。

 

「――ッ」

「ドルグレモン!」

「大丈夫。次で、決める!」

 

 ネオデビモンの伸びきった腕にかみついた。体を振り回しネオデビモンの体の自由を奪っていく。遠心力で体勢が崩れきってしまったネオデビモンは混乱の状態にあった。それでも、反撃を行おうとしたまさにその時。

 ドルグレモンが上空に向かってネオデビモンを投げ飛ばしたのだ。

 

「――メタルメテオ!」

 

 巨大な鉄球が吐き出され、ネオデビモンの体を直撃する。

 最後のあがきとばかりにギルティクロウを発動させて迎え撃ってくるが――その爪もすぐに砕け、やがてデータの塵へと還元されていった。

 

「――――ふぅ」

「やったなドルグレモン」

「おう!」

 

 バシッと、お互いの手をハイタッチさせる。今ここに、運命を乗り越えた。

 

(まあ、気になることはいくつかあるけど上々だな)

 

 ほどなくしてドルグレモンの体が光に包まれて小さくなっていく。流石に体力を使いすぎたのだろう、どんどん小さくなっていって、そして――――

 

「あれ?」

「……むぅ」

 

 ――――ドドモンにまで、退化してしまった。

 

 茫然とするカノンだが、ある意味当然かもしれない。完全体のあのパワーだ。消耗も激しいものだろう。今後力を使いこなせるようになれば幼年期まで退化する必要はなくなるかもしれないが……

 

「さて、どうやって帰るかぁ」

「…………頑張って泳いでね」

「せめてちょっと休ませてくれ」

 

 ダウンジャケットやめておけば良かったと後悔するカノンであった。

 夢の通り薄着の方が良かったかもしれない……また、びしょ濡れで帰ることになるのかと憂鬱になる。

 

「雨でびしょ濡れだから今更」

「そうだけど、海水には海水の悪さってあるだろ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その後、なんとかマンションにまで戻ってこれたが……ヒカリちゃんが玄関のあたりで待っていた。最初に安心して走り寄って来て……立ち止まる。

 

「……おさかなくさい」

「暖かくなってきても、海水は冷たいのさ」

 

 あと魚に突撃されまくった。

 

「また、戦った後が大変なことになったね」

「それを言うな……毎度のパターンになってきたのが嫌だ」

 

 結局のところ、一番の被害は帰る時に泳がざるを得なかったことだった。ドドモンの回復のためにお菓子でももっていけばよかった……

 詰めの甘さを感じつつ、びしょ濡れのまま帰ってきたけど……さて、ラスボス(母さん)はどうするか。

 

「あらぁー、あらあらー、あらまぁ……二人とも随分と遅い御帰宅ねぇ。将来は女泣かせかしら?」

「た、橘さん……」

「ヒカリちゃん、お母様が呼んでいらしたわよー」

「――」

「まって、逃げないで!」

 

 おいていかないでくれ――――そんな叫びもむなしく、ヒカリちゃんは自分の家へと入っていく。そして、僕らの目の前には母さん()が残された。

 

「また、無茶したのね」

「でもほら、無傷ですよ!」

「(コクコク)」

「ふぅん……ドルちゃん、なんでそんなに小さくなっているかしらねぇ」

 

 ――――あ、詰んだ。

 結局僕らにどうすることもできずに、説教コースとなったわけである。

 あ、夕食は普通に出してもらえました。ハンバーグおいしかったです。

 

 

 

 夕食後。雨に海水に、戦いの疲れとかなりへとへとになっている……もうすぐにでも眠りたい。

 だけど、父さんがまた面白いものを持っていくから楽しみにしていろと言っていたのを思い出して、待っていることにしたんだが……

 

「帰ってこないなぁ」

「どうしたんだろうね? いつもならすぐに帰ってくるけど」

 

 もう先に寝るかと思っていると――玄関の開く音がした。帰ってきたのかと思い、玄関に向かうと……父さんと誰か知らない大人がいた。ドドモンには隠れていてもらい、僕だけが向かう。

 父さんも気が付いたようで、ただいまと言ってくるが……なぜか隣にいた男に目がいく。白衣を着ていて、少し猫背だ。眼鏡をかけており、光を反射して瞳が見えにくい。

 

「これはこれは……御子息ですかな」

「……こんばんわ」

古崎(こざき)、いい加減に帰ってくれないか。私は何も知らないと言っているだろう」

「そうですか……まあ、いいでしょう。4年前に観測した揺らぎと似た波形を感知したんですがねぇ」

 

 4年前……ドクンと、心臓が強く鳴るのを感じた。

 この人の瞳の奥に何か言い知れぬ悪寒を感じる。だけど、蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。何か、得体のしれない気味の悪さがそこにあるのだ。

 

「私の名前は古崎崇人(むねひと)。しがない電子工学の教授です。今日この付近で強い電波障害が観測されましてねぇ……原因を調べていたところなんですよ」

「――――へぇ」

 

 何かを探るようにこちらを見ている。値踏みするような、ねっとりとした顔。

 一通り観察するような視線はほどなくして逸れる。

 

「まあいつまでもここにいてはお邪魔なようですね。ですがまたお会いする日もあるでしょう……御子息、お名前は?」

「……橘、カノン」

「そうですか――ではまた、いずれ」

 

 それだけ言い残すと、古崎教授は帰っていった。と、同時に母さんが奥から出てくる。

 苦虫をかみつぶしたような表情をしていて、まさに虫唾が走るといったところか。

 

「わたし、あの人嫌い」

「……あれでも優秀な科学者なんだ。それなりの社会的地位もあるしね…………性格に難があるのは否定しないが」

「ねえ、4年前のことって?」

「…………ちょうど、光が丘の爆破テロの時に奴が観測したという電磁波の揺らぎだよ。電子工学とは言っているが、奴の研究は多岐にわたるんだ……それこそ、オカルトともいえるようなものまでね」

 

 ドクンと、再び心臓が鳴る。あの爆破テロは――僕が初めてデジモンに出会った日。二体のデジモンが戦ったあの日の電子機器の異常の原因はデジモンだ。

 まさか、デジモンに気が付いているのか?

 

「デジモンについてまでは気が付いていないと思うが……カノン、気を付けるんだぞ。彼らの力を悪用する人間は必ずいる。同僚みたいなものだから、あまり悪く言いたくないが……奴もその口の人間だからな」

「う、うん……」

 

 だけど、今日観測したという揺らぎは――心当たりが一つ存在する。

 本当にデジモンに気が付いていないのだろうか……疑念は晴れないが、僕に確認する術はない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 流石に疲れと濡れたことにより風邪をひいてしまった。それも、かなりヤバいレベルで。最後に変な心配事が増えたのも原因だろう。

 ちなみに、父さんの持ってきたお土産はなんか民族衣装を着た胡散臭いオッサンがお札とか小物をくっつけている人形でした。あんた、どこまで行っていたんだ……

 

 怪我はしなかったものの、予想以上に体力を持っていかれたりでサマーキャンプには参加できなくなってしまった。

 少し楽しみにしていたんだけど……仕方がないか。一応検査入院することになっちゃったし。

 まあ、やるべきことも出来たし今回は諦めよう。

 

「超進化したとき、紋章が輝きを増した」

 

 完全体に進化するためのアイテムだったと考えるべきなんだろうが……結論をすぐに出さない方がいいか。

 退院したら完全体に自由に進化できるように特訓することも必要かもしれない。戦っているたびに幼年期まで戻るようだと危険かもしれないし。

 

「やること山積みだなぁ……しかし、あの時のネオデビモンの言葉…………」

 

 仮面を外しかけたときに聞こえた言葉。片言で分かり難かったが……ちゃんとした言葉に直すとおそらく――殺す。選ばれし子供たち、殺す。となるはずだ。

 選ばれし子供たち……『たち』か。

 

「何人いるんだろうなぁ……」

 

 空は快晴。すっかり夏だった。願わくば何事もなければいいのだけど……

 運命の歯車はもう止まらない。8月1日。本当の戦いはもうすぐ幕を開ける。

 




最後のお土産については、知っている人がいたらなぜ知っているしと返します。

サマーキャンプに行かない理由? メタ的に言えば無双しちゃうか、いきなりダークマスターズ戦になるかだから。

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