デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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繋ぎ回。普段こんなことしていますという感じで。


13.安息の日々

 マキナとの別れから力のコントロールが向上したのか、不穏な気配はなくなったようである。

 あれ以来、デジモンが現れることもなく平和そのものだ。

 予感として感じ取った時期まで何事も起きなければいいとつくづく思う。

 そして、これはただの普通の日常の物語。

 

 ◇◇◇◇◇

 

〇特訓風景

 

 ヨウコモンとの戦いを経験して、僕自身のレベルアップも必要だと痛感した。

 まだまだ魔術に改良の余地がある以上、努力を怠るわけにはいかないのだ。というより、成熟期相手でなんとか実戦に使えるレベルだと心もとないものがある。

 

「特訓って言うわりにはずっと机に向かっているよね」

「まあデジモンの魔術はプログラム言語で書くからなぁ……パソコンの画面に文字とか羅列が動いているシーンの映っているドラマとか見たことあるか?」

「そういえばこの前の特撮でやってたね」

「相変わらず特撮好きだな……簡単に言うと、僕が使っているのはアレだな。何もない所に壁があると言う風に上書きするためのプログラムを作っているんだよ…………条件設定とか面倒だし、根本的に別の作り方を模索しているんだけどね」

 

 これがなかなか上手くいかない。原理というか近いものでデジモンの技があるが、アレは本能的にやっているみたいだし……

 壁とか物質的な感じじゃなくて、もっとエネルギー体をそのままバリアーみたいに構築できる方法を考えた方が良いかもしれない。

 

「身体強化の方は上手くいくんだけどなぁ」

「前にやっていた電気が出てたあれは?」

「…………あー、あれはもういいや」

「?」

 

 電気の発生と着弾地点の指定で雷を簡単に落とせた時点で、危険すぎるからあまり手を出したくないのだ。

 もうちょっと被害が大きくならない利用法も考えているのだが……相性が良すぎるのも考え物である。

 

 

 新しいコードが書きあがれば、あとは実戦してみる。上手くいかないときはその都度修正し、望み通りの性能を出すまで繰り返し実戦あるのみだ。

 これまでのことで防御手段がいかに大事かは分かっている。だからこそ、こうやって色々と試してみているのだが……

 

「うーん、牽制用に魔力弾みたいのも作っておくか?」

「おれが言うのもアレだけど、カノンってどこを目指しているの? 本当に人間?」

「……自分でも自身が無くなってきたからやめてくれ」

 

 おそらくは母方の血のせいだと思う。母さんも大概だし。

 とりあえずは成果もそこそこにこうやって日々開発と習得を行っている。

 筋トレ? 小学生じゃどうあがいても普通に鍛えたところであまり意味がない。身体強化をかけ続けて負荷に耐えられるようにするだけでかなり強化されているから大丈夫である。

 

 

 

 

〇隣のヒカリちゃん

 

 唐突だが、八神ヒカリという女の子について語ろう。

 太一さんとは異なりデジモンと出会ったことを覚えており、何らかの特殊な力を宿していると思われる。マンションの隣の部屋に住んでいるので、何かと遊んだりと家で預かったりなど多いので色々知っているのだが、時折僕もよくわからない部分がある。

 辛くても人に言わないで自分でしまい込むというのは、性格的に分からなくもないのだが……

 

「だからって熱が出ても何も言わないってのもなぁ」

「? どうかしたの」

「いやこっちの話……ドルモンもなんで腹をなでられてんだよ」

「なんか気持ち良くて」

 

 流石に生死の境をさまようまで我慢するってのはどうなんだよ。いや、僕も人のこと言えないんだけど。

 あと、その撫でテクは自分ちのミーコによって培われたのだろうか……

 

「カノン君、いつもパソコンいじっているけど怒られないの?」

「いや別に……いつものことだし」

「でも、お父さんとかが使えなくて困らない?」

「……ああ、そういうこと。大丈夫だよ。これ僕のだから」

「――――え」

 

 初めてヒカリちゃんが面白い表情をするところを見た。そういえば、この子も年齢の割には頭良すぎるよな……太一さんを見てみろ。リーダーシップを取れたりとかスゴイなと思う時もあるけど、基本的に普通だから。

 しかし、すぐにヒカリちゃんも納得したのかドルモンをなでる作業に戻る。

 

「気持ちいい?」

「うへぇ」

「……ドルモン、だらしない顔すんなよ」

 

 下ベロを垂らして……お前は犬か。

 しかし改めて考えると、この子についてもよくわからない。

 ワイヤーフレームのアイツとダークリザモンはおそらくヒカリちゃんの内にある何かを狙っていたとは思うんだけど……しかし最近はデジモンも襲ってこないし、結局確かめようがないわけだけど。

 今思うと見間違いという気さえしてくる。

 だけど……見間違いじゃないというのなら、あの時ドルモンに進化することができたきっかけって……いや、ドルガモンの時だって影響はあったと思う。

 

「まあ考えても仕方がないことかな」

「そういえばカノン君は他にデジモン見たことあるの?」

「あるけど……あんまり人に話すようなことじゃないしなぁ…………いや、アイツがいたか」

「アイツ?」

「バステモンって言ってな、ヒトみたいな見た目のネコのデジモンで……ヒカリちゃん? なんで機嫌悪そうなの?」

「よくわかんないけど、その名前を聞いたらなんとなく」

 

 …………なぜ機嫌が悪くなるのか、わけがわからない。

 しかし、どうも本能的な部分というか何かがバステモンに対して拒否反応を起こしているらしい。

 いったいなぜなのか……あんまり突っ込んでもアレなのでこの話題はここで打ち切ろう。

 

「また、コロモンに会いたいな……」

「会えるさ、きっと」

 

 まあ普段はこうして、普通の子供だし。

 色々と見ていて心配な部分も多いし、聡明ではあるけど……ただの女の子だと思う。

 とまぁ……そこで話は終わっていれば綺麗だったんだろうなぁ…………

 

「それじゃあ、お兄ちゃんが帰ってきたから戻るね」

「お、おう……」

 

 …………何の音も聞こえなかったのに、なんでわかったんだろうなぁ。

 

 

 

 

〇ドルモンの一日

 

 普段カノンが学校に行っている間、ドルモンが一日何をしているのかを追ってみよう。

 

 朝。まずはカノンが起床する。その間ドルモンは眠ったままである。

 その後、カノンが朝食を食べ終わり着替え始めてもまだ起きない。

 カノンが学校へ行く前に忘れ物が無いかチェックしている間にようやくドルモンが起床し、あくびと共に挨拶をする。

 

「ふわぁあ……おはよう」

「はい、おはようさん。相変わらず起きるの遅いぞー」

「別に普通だと思うけど……今日はベーコンエッグか」

「……お前、本当ここでの暮らしに慣れたよな。案外デジタルワールドも変わらないのか?」

「さぁ?」

 

 ドルモンはそう言うと、見た目とは裏腹に器用に箸を使って朝食を食べ始める。

 カノンはもう慣れているが、改めて考えるとこれはいいのだろうかと疑問に思い始める。こう、色々な法則に喧嘩を売っているような気がして。

 

「カノンー、遅刻するわよー」

「時間もないか。それじゃあ行ってきます!」

いっふぇらっふぁい(いってらっしゃい)

 

 もぐもぐと、ちゃんと咀嚼しながら朝食を食べ進める。見た目とは裏腹に綺麗な食べ方をするものだから、奇妙なシュールさを演出していた。

 ほどなくして食べ終わると、箸をおいて手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 その後は食器を流しに持っていき、水に浸ける。

 のっそのっそと歩いていき、流れるような動作でテレビのスイッチを入れた。

 

「この時間は何がやってたかなぁ」

 

 人間の文明の利器を熟知した思考。しっかり新聞のテレビ欄をチェックしつつ、面白そうなテレビ番組が無いか探している。

 ちなみに、教育テレビやニュース、趣味の特撮などとみているものは幅広い。

 

「あ、パパさん映ってる」

「あら本当……何か発掘でもしたのかしらねー」

「パパさんって……何の教授だっけ」

「さぁー?」

 

 趣味の民芸品集めなどもあって、他の分野の知り合いも幅広いためやっていることが多岐にわたっているため家族のだれも詳しいことは知らないのである。

 カノンが大まかに聞いたことがある程度で、詳しくは知ろうとは思わない二人が適当に済ませるのも無理はないことだ。興味がわかない上に、理解はできないのに聞きたいとは思わない。

 

「お寿司でも取ろうかしらー」

「この前も取らなかった?」

「そういえば、そうだったわねー……えっと、あの時はー」

「結婚記念日」

「そういえばそうだったわねー」

「……言わせたでしょ絶対」

 

 ドルモンは溜息をつくと、やれやれと言った表情で部屋に戻る。お目当ての番組は特になかったらしい。

 

「今度はピザの方が良いと思うけど。あと、パパさん帰ってくるまでしばらくかかるんじゃない?」

「あー、そうねー」

「急にテンション下げないでよ」

「だってマイダーリンが帰ってこないんだものー」

 

 マイダーリンって……思わず口から出そうになったドルモンだが、それを言うと面倒になるのは目に見えていたので呑みこむ。

 こういう時はスルーが一番と学習しているのだった。

 部屋に戻ると、適当に漫画を一冊取り出し読み始める。ちなみに、買ったのはカノンである。別段漫画やアニメに興味が無いわけでもなく、普通にいくつか部屋に置いてある。

 ゲーム機も置いてあるあたり、部屋だけ見れば普通の子供と何ら変わりはない。一部区画(パソコンや専門書籍の数々)を除けばだが。

 

「……うーん、読みつくした感じがあるんだよねぇ」

 

 流石に何度も読んだからか、飽きが出てきた。

 となると、暇をつぶせる物はあと一つとなるわけだが……

 

「チャレンジするべきか――ショートカットなしで制覇を」

 

 ドルモンが挑もうとしていたのは、横スクロールというよりテレビゲームで最も有名な存在であろう一本。赤い配管工を操って姫を助けに行く名作である。

 ショートカットの裏技などもあるが、それらを一切使わない場合は意外と時間がかかる……その挑戦が今まさに、始まった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ただいまー」

「おかえりー。手を洗ってドルちゃん呼んできてー」

「…………母さん、何やっているんだよ」

「ホットケーキ焼いているのよー?」

「それはいいんだけど……椎茸をトッピングするのはやめてね。人参とか野菜入りなのは別にいいから」

「椎茸体にいいのにー」

 

 物事には限度がある。そう言い残し、カノンは手を洗って部屋に入ると――そこには、やりきった顔で倒れているドルモンの姿があった。

 

「いったい何をしていたんだよ……」

 

 そんな風に、ドルモンも色々なことをして日々を過ごしている。

 基本的に家から出られないので、家で暇をつぶしていることがほとんどではあるのだが。

 

 

 

 

 

 こうして、穏やかな日々は過ぎ去っていく。

 そして三年の猶予は終わった。話はカノンが三年生になった後、ゴールデンウィークのことだ。

 世界中で異常気象が発生し始め、カノンの予感が間違いではなかったことが分かり、テレビ中継でみた影が否応にも異常の中心に何があるかを実感させる。

 

 異常気象が起こる場所には、デジモンのような影が現れ始めていたのであった。

 




別に息抜きをしていないわけでもない。

しかしドルモンが……どこかの腹ペコみたいになってしまうんじゃないかと。


あと、やっぱりヒカリさんはブラコンの方が似合いますね(オイ

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