これでゴジラ対ウルトラマン対デジモンが実現してしまうのか……
時刻は夜。みんなも寝静まったころ僕は一人抜け出して少々離れた場所までやってきていた。
ライラモンが死に、全員が状況をうまく消化できずに重苦しい雰囲気の中での旅が続いている。もう風の神殿はすぐ近く……この調子だと神殿を攻略できないかもしれない。
特にストライクドラモンとマキナが心配だ。ストライクドラモンは意気消沈として、小さな戦闘においても自分が暴走しないか恐怖している。そのせいで、今までの実力が発揮できずに危ない場面が何度もあった。
マキナもこの時代に来てからはライラモンとはとても仲良くしていた。そのライラモンが死んだことで彼女も取り繕ってはいるが、やはりまだどこか上の空だ。
「このままだとまずいよなぁ……」
僕を含めてみんな、どこか無理をしている。
一瞬のことでどうしようもなかった。そう言い訳することもできる――だけど、やっぱり僕たちは悔やみ続けるだろう。それほどまでに彼女の死は僕たちを苦しめてしまったのだ。
体の奥底に集中し、力を引きだす。死に際にライラモンから受け取ったデータによって新たな進化を獲得することもできた。それにより、ピエモンやメフィスモンにより体に受けた闇の力も進化という形で使えるようになった……
「代償は大きすぎたけどな」
頬を叩く。こんな事ではいけない。
できることが増えたのだから、とにかく反復あるのみだ。今こそ基本に立ち返ろう。
後悔しないように。自分にできることは精一杯やるしかない。
◇◇◇◇◇
太陽が昇り、ドルモンは眠気眼でカノンを探しに出た。
目が覚めてみるとカノンがテントの中にいないのに気が付き、周囲を探したのだが見当たらない。何かあったのかと思いながらもひとまずは周囲の状況を確認するべきだと、動き出したわけだが――
「あれ? 昨日まで森なんてなかったよね?」
なぜか、テントの近くに森が出来上がっていた。
この付近は草原だったはずだ。決して森ではなかった。なのに今広がっているのは森。
「……まさか、またやらかしたの?」
ドルモンが見つめる先には木にもたれかかって眠るカノンの姿がある。最近は少なくなってきていたが、この男……力の検証や技能の習得、開発などに集中しだすととんでもないことをやらかす悪癖があるのだ。
一番近くでそのことを見続けていたドルモンはこの現状で何が起きたのかおおよそ察してしまったらしい。と同時に、思わず吹き出してしまう。
「まったく……いつまでも落ち込んでいられないか」
やがて、眠っていたみんなも起き出して現状に驚き、自分が説明する羽目になるんだろうなとドルモンはため息をついた。それでも、そんな苦労もいいかもしれない。
自分が悩んでいたことを吹き飛ばしてくれた。みんなも、気持ちを切り替えられるだろう。
前に進み続け、運命を切り開こうとするカノンだからこそ、自分は彼のパートナーになったのだから。そして、その思いが伝播することで、多くのつながりが生まれたのだから。
時刻は昼。
カノンもようやく眠気と疲れが取れ、一行は風の神殿付近までやってきていた。
「まったくウチもびっくりだよ。カノンくんは一体何をやらかしていたのか」
「ははは……スマン。新しい能力の検証やら色々やっていたらついやり過ぎて」
「それで疲れ果ててあんなところで眠るんだから世話ないよね」
みんなからなじられて、カノンもばつが悪そうに頭を掻く。
だけど昨日までの憂鬱な雰囲気は緩和していた。
「しかしあれほどの力……一体何をすればああなるのだ? 森を作り出すなど究極体でも早々できることではないぞ」
クダモンの言う通り、規格外な力だろう。
「あれはエレメントが共鳴したせいかもしれない」
「共鳴?」
「ああ。エレメントが結構な数集まった上に僕が使った力、それに風の神殿が近いからこの付近に満ちている力が共鳴したことでああいう事が起きたんだと思う」
カノンたちの集めているエレメントには思わぬ特性があった。火と木のような相性関係にあるエレメントであっても複数あつまると共鳴するというものだ。
「なんていうか、そういう性質なんだよ。複数集まることでより大きな力になるんだ。もしも全部の属性を一つの力として発揮できるならすさまじいことになる……んだけど」
問題点が一つ。
「エレメントを収めるだけならデジメンタルに入れればいいんだけどね。力を発揮する器のほうが……」
「一端とはいえ、最古の究極体……十闘士の力の一部だ。十の属性全てを内包したうえで扱える器など早々存在しないだろう。むしろ保管できるそのデジメンタルが異常なくらいだ」
「凄い話です……途中からよくわからないけどです」
プロットモンだけでなく、マキナとストライクドラモンも頭に疑問符を浮かべている。ドルモンはまだついていけているが、そろそろ止めないとこの二人の話はマニアックかつディープなものになっていくだろうとも思っていた。
流石に話についていけなくなってきて、ストライクドラモンが斬りこんでいく。
「とにかく結論だけ教えてくれよ」
「まあ、全部揃えればルーチェモンを倒すだけの力になるだろうね……問題は全部のエレメントを体に宿したら死ぬけど」
データ量も膨大だし、普通にパンクする。デジメンタルに入っている状態は言うなれば圧縮された状態。解凍なんてしたら色々終わる。
圧縮された状態でも力が共鳴してすさまじいパワーを発揮するため、現状ではその必要もないが。
「最大五つ。究極体相当の力を持つデジモンが宿すことのできるエレメントはそれが限界だ」
「ってことは二つに分けて二体のデジモンがそのエレメントを使うの? っていうか集めて戦うために使うのかな……なんか違うような気もするけど」
「マキナの言う通り、戦いのために使うわけじゃないよ……デジモンじゃなくて、この世界自体に使用するのが最終的な目的だからね」
このエレメントは世界のバランスを正すために使われるべきものだ。だが、その前にルーチェモンに邪魔されてはいけないため、別の利用法も検討したまでに過ぎない。
「そもそも共鳴も偶然見つけただけだし。ただ、いざという時にルーチェモンを倒せませんでしたじゃ話にならない……そのために、出来ることはやらないと」
その言葉はみんなも理解できた。
出来ることはやらなければいけない。後悔しないためにも。今、自分に出来ることを精一杯。
「と、そんなこんなで到着だ」
目の前に見えたのは風の神殿。
これまでの神殿とは違い、まるでコロッセオのような外観だ。一瞬間違えたかなと思ったがマップでは確かにここを指示している。
「……ねえ、ここって本当に風の神殿なの?」
「そのはずだが……コロッセオにしか見えないな」
中に入っていくと、コロッセオのような場所としか思えない。現実世界のものとは差異こそあるものの大体同じとみていいだろう。
周囲を見渡してみてもここにいるハズの十闘士が現れる気配もないが……
「とりあえず、周りを調べてみるか」
手分けして周囲を調べてみることになった。怪しい所もないし、別段大きな力を感じる物もない。
みんなも色々と調べてはいるものの特に何も見つけることはなかった。
どういうことだろうと、考え込んでいた――その時であった。空に虹がかかり、突風と共に人影が突如としてコロッセオの中心に現れたのは。
「――!?」
「なになに!? 前が見えないッ」
やがて、風はその勢いを収めて人影もはっきりと見えるようになった。
そのデジモンは、美しい外見だった。白銀の鎧に、金の翼をはためかせた虹色に輝く女性型のデジモン……カノンも人型のデジモンは多く見かけたが、その中でも彼女を上回る美しさをもつデジモンはそうそういないだろう。
「――――お待ちしておりました。私の名前はエンシェントイリスモン。この風の神殿を司る十闘士です」
「すぐに現れないから本当に神殿なのか不安だったけど、こうして現れたってことは……」
「ええ。ここが風の神殿に間違いありません。試練を行うものとして、あなた方を観察し、試練を受ける方を選ばせていただくためにしばしの間気配を消させていただきました」
これまでの神殿の中でも一番の厳かさだ。しかも肌にピリピリとくるこの感じ――間違いない。この神殿、直接力を計りに来るタイプだ。
こういうのが一番厄介なのだが、一番の不安要素は試練を受ける相手をエンシェントイリスモンが選ぶという事。対策の取りようがない。
「そちらのシスタモン……貴女を指名いたします」
「え、ウチ!?」
カノンとしても、それは少々予想外だった。
そもそもエレメントを集めるために、その器を受け取ったのはカノンだ。そのパートナーのドルモン、どちらかが試練を受けるのだろうと思っていたがここでマキナを指名するとは予想外でもあったが……
(……マキナがこの時代にくるのも織り込み済みだったのか? それとも旅の同行者だから選ばれたのか……ストライクドラモンも試練を受けたことがある。いやでも、あれはたしかこっちが試練を受ける人物を選抜する形式だった。それなのに、マキナを指名したのはなぜだ?)
正直わからないことが多い。
何故マキナを指名したのか。だが、考えている暇はなかった。
「他の者の手助けはなりません。貴女が首から下げているそのデジモンを仲間に預け、中央へお越し願います」
そうしてエンシェントイリスモンは自身の周囲に風の結界を貼った。ちょうどコロッセオの舞台を覆うように。観客席にはその影響は届いておらず、他の者はそこで観戦しろということなのだろう。
「私の試練はただ一つ。貴女の力を示しなさい」
◇◇◇◇◇
思えば遠くへ来たものだと思う。
寂しさの中で死んだウチは気が付いたら幽霊になっていて、そのまま消えていくものだと思っていた。そんな時にカノンくんと出会い、ウチは幽霊でも人でもない中途半端な状態でウィッチェルニーという世界へと渡ることになった。彼に助けてもらい、再び彼に出会うため色々がんばってきた。
魔法の修行は辛かったし、楽しいことももちろんあったけど……やっぱり、どこか負い目みたいなのがあったんだと思う。
ウチは本当は死んだ人間だから。こうして、生きているわけでも死んでいるわけでもない中途半端なナニカになってまで彼と一緒にいていいのだろうかなんて悩んでいるのだ。
「我が名はエンシェントイリスモン……風の十闘士として、今より試練を始めます」
「ウチの名前は久末蒔苗。デジモンとしてなら、シスタモンノワール」
クダモンと共にウィッチェルニーでの日々の中でウチは色々なものを見てきた。
そして、デジタルワールドにて時空の歪みが現れたときに勘の様な何かに突き動かされ、ウチはカノンくんに手紙を送った。結果的に、それは彼の助けとなったわけだけど……今でもその時の行動は正しかったのか少々悩んでいる。
カノンくんはウチが思っていた以上に凄くて、そして重いものを背負っている。何でもない風にしているし、様々な困難を乗り越えて行っているけど、ウチがウィッチェルニーで修行していた間本当に大変な出来事が続いていた。
そんな彼を助けたいと思うと共に、こんな中途半端な自分が一緒にいていいのだろうかと思ってしまう。
「ガッ――!?」
今この場にクダモンはいない。カノンくんたちに預け、ウチは一人で彼女の試練を受けている。
悩んでいる場合じゃないと思う……それでも、頭からはライラモンの最期が離れない。
彼女の死で、ウチも死んだ人間だということを思い出してしまった――いや、今まで考えないようにしていただけだ。今のウチはデータで体を作ったデジモンでも人間でもない存在。魂そのものは生きた状態であり、肉体のみがない状態……本当に幽霊みたいなものなのだ。
肉体もちゃんと存在しているカノンくんとは違い、ウチのこの体はかりそめのモノ。デジモンならばデータそのものが確実な肉体となるが、元来人間であるウチの場合は魔力によって確立してはいるものの不安定な存在のままである。
「とにかく、今は……貴女を倒さないとッ」
「……いいでしょう。試練を続けます」
エンシェントイリスモンのレイピアは明らかに手加減された一撃となってウチを襲う。この試練の意味は分からない。単純な力比べならもっと本気だろうし、でもなぞかけであるならば直接戦わないのではないだろうかとも思う。
「迷いある心……であるからこそ、そこに本質も見えましょう」
最後に彼女がつぶやいた言葉は聞こえず、ただ烈風の様な攻撃がウチを襲う。
意識が飛びそうになるものの、それを耐えて銃口を彼女に向ける。
体は、鉛のように重かった。
どうしたらいいのか、未だ答えは出せそうにない。
アプモンのアニメもすさまじいことになっていますね。まさかバディアプモンたちがあんなことになるとは……
こちらも物語は次の展開へと移っていきます。