前回のあと忙しくなり、色々と手につかなくなったと今後の話の展開に思うところがあってプロットの見直しをしておりました。
とりあえずちまちまと書いていたモノを投稿することにいたします。
風の神殿までの道のり。いくつかの街などを経由したが大きな事件もなく平和な道中が続いていた。
こういう時こそ油断していたら何か大きなことが起こるのだが、一向にその気配もなく日々が過ぎている。この時代に来てからの色々を改造ゲーム機にテキストデータでまとめているのだが……少々気になったことが一つ。
どうもこの時代でははじまりの町はまだ存在しないらしい。というのも、クダモン曰く未来ではそこらへんのデジタマ転生システムを司っているデジモンは究極体で、究極体自体がほとんどいないこの時代ではいまだ誕生していないらしい。
一応他のシステムで動いていることには動いているため、デジタマにはなるらしいのだが……どうも勝手が違うようだ。僕自身もデジタマへ還元する力がある以上、何らかのシステムがあるのだろうとは思っていたが……
「あのデジモンが誕生するのはもう少し後のはずだ。私たちの知るデジタルワールドになる前に統合と分配が行われるのだが……」
「統合と分配?」
「ああ、詳細は不明だがすさまじい力を持ったデジモンが統合されたデジタルワールドを分断し、分配したらしい。次元を引き裂くほどの力を有していないとできない芸当だが……どこまでが本当かはわからない」
なんというか、スケールの大きい話で。シャカモンとかそれっぽいが、それはまた別の役割を持っているし次元を引き裂くとか絶対にしないか。そもそも彼はこのデジタルワールドのデジモンであるかと言われると微妙なところだ。
しかしそんなに強力な力を持ったデジモンか……アポカリモンクラスだったらちょっと会いたくない。戦うかはわからないけど、相対するだけでも怖いわ。
「それにしても、本当長いなぁ……」
「近くの宿場町までまだまだかかるぜ」
「うへぇ……ウチ、ちょっと休みたい」
「そうだな、一度休憩するか」
どこかに休憩できそうな場所は無いか見渡すが、ダメだ。荒野が続いている。一番近いルートじゃなくて休みながらでも行けそうなルートにしておくべきだったかもしれない。
「もう結構この時代にいるけど、あとどれくらいかかるのか」
「このペースだともう数か月はかかるのではないか? それに神殿だけでなくルーチェモンの問題がある。根本的な原因もいまだ不明なのだぞ」
「そっか。元々は時空の歪みを正すためだから……」
その原因を取り除かなくては、僕たちの時代に戻ることもできない。
神殿巡りはあくまで通過点でしかないのだ。
とにかく休憩できそうな場所まで歩みを進めるしかない。今は疲労を取り除くのが先決。
「だとしてもホント暑いな」
日光が肌を焼くようだ。
◇◇◇◇◇
その様子を一体のデジモンが見ていた。
「疲弊しているようだが、油断は禁物か」
メタリフェクワガーモン。ルーチェモンの配下の一体で、カノンたちを抹殺しようと観察しているデジモンだ。
カノンたちの動向を調べ、ルーチェモン軍のデジモンたちとも連携をとり彼らを倒す機会をうかがってはいるのだが、どうにも決定打が見つからない。
「疲弊はしている――だが、油断はしていないのが厄介だ」
下手に動けば究極体で迎え撃たれてしまう。疲弊しているとはいっても、数秒だけでも究極体を持ち出されればその時点で襲撃はご破算となる。
それどころか、わずかな油断さえもなくなってしまっては余計に状況が悪化してしまうだろう。
「手を打たねばならぬ……ザンバモンたちを倒した彼らを甘く見てはいけないのだ」
今、ルーチェモン軍の大半は氷の神殿の攻略をしている。かなり厄介な状況になっており、戦力の大半を投入している形だ。一度その戦力を他に回すべきだともメタリフェクワガーモンは思うのだが、なぜかルーチェモンは氷の神殿を重要視しているのだ。
「火を獲ることがかなわぬ以上、氷を確保することこそ最優先……一体どういうことなのか」
おそらくは属性に関連する何かだとは思う。
各地のレジスタンス勢力のこともある。現在の戦況は混乱の一途をたどっている。
「私にできることはこうして、奴らを監視し機会をうかがう事のみか」
すでに多くの神殿がカノンたちの手により攻略されている。勢力強化のために闇の神殿を制圧できたのは僥倖だったが、火の神殿を逃したのが大きい。あの神殿を抑えることが出来れば自軍のデジモンを進化させるためのエネルギーを確保できたのだが……ままならないものだなと、メタリフェクワガーモンはつぶやく。
勢力図は刻一刻と変化している。機械都市が奪還され、現状は不利が続いている。
「…………となれば、まずは時間を稼がねばなるまいて」
使える駒は全て使う。時には捨て駒さえも必要だ――そして、メタリフェクワガーモンはほくそ笑んだ。
◇◇◇◇◇
数日歩き続けてきたが、ようやく景色に変化も見られてきた。
草原地帯に近づいており、草食動物のようなデジモンたちもちらほらと見えている。中には、竜の頭に足だけ生やした奇怪な姿のデジモンもいるが……
「色々なデジモンがいるけど、元の時代じゃ見たことないのばかりだね」
「長い時間の中で淘汰されていったんだろうな……それが最終的にはアポカリモンのデータとなってしまったわけだけど」
しかし、それでもデジタルワールドの奥底で刻まれ続けている。完全にデータが失われたわけではない。地球においても絶滅した動物は数多くいる。でも何らかの形で情報が残っていることだって多い。わかりやすい所で言うなら、化石とか。
流石にデジタルワールドに化石があるわけではない――いや、探せばあるかもしれないがそれはひとまず置いておく――が、デジタルデータで構成された世界である以上保存領域というものがこの世界の土台に存在している。
その保存領域には今までのデジタルワールドのデータが蓄積されているため、完全消去もしくはサーバーの取り換えのようなことをしない限りはデータの一部でも残り続けるはずだ。
「もっとも、その完全消去を行うためのプログラムがXプログラムなわけだけど」
今現在、Xプログラムを持っているのは僕たち、そしてイグドラシルが保管しているであろうものだけであろうから気にする必要はないわけだが。
それにあのプログラムは諸刃の剣。情報を取り込んで進化するデジモンにとって、自身を消滅させるプログラムであろうと取り込んで力に変えてしまう可能性がある以上おいそれとは使えない代物だ。
(――となると、どうにも納得がいかないよなぁ……Xプログラムを取り込んだXデジモンたちが封印されていたってことは、僕たちが以前イグドラシルと戦うよりも前にXプログラムが使われて、それを取り込んだってことだろうし…………)
「カノンくん? どうかしたの」
「いや、ちょっと考え事。調べようもないし、元の時代に帰ってからにするわ」
今どうすることもできないんだし、気にしていても無駄か。
とりあえず今は先へ進まなくては。
「しかしのどかな風景だよなぁ……今までも結構な戦いがあったっていうのにルーチェモン軍の魔の手はここまで来てねえってことなのか?」
「どうかしらね。アイツらも神殿を中心に動いているみたいだし」
ストライクドラモンやライラモンの言う通り、のどかな風景が広がるばかりだ。
と、そんなさなかだった。
「――――?」
僕の耳に何やら悲鳴のような音が聞こえたのは。
「なにか聞こえなかったか?」
「風の音ぐらいしかしないけど」
「どうかしたの?」
「何か悲鳴みたいな声が聞こえたんだけど、気のせいだったみたい」
再び前へと進もうとしたとき、今度はハッキリと聞こえた。
「ッ!」
「あ、待ってよ!」
体の奥底が揺さぶられるように疼き、衝動的に駆け出してしまう。
その声を聴いたことはないはずだ。でも、知っているような気がする――よくわからないが、今はこの衝動に身を預けてしまおう。
音のした場所へ到着すると、赤いオオカミの様なデジモン――ファングモンの群れの中に小さな赤い丸い玉のようなものが見えた。
「ちょカノン速すぎ――って、オタマモンが襲われている!」
「でもオタマモンってあんな色だっけ?」
「そういう疑問は後回しだ。とにかく助けるぞ!」
「合点だぜ!」
「弱い者いじめは許さないわよファングモン!」
ファングモンは僕たちの出現に驚いていたようだが、数で優っているからか余裕そうに僕たちを取り囲む。
10は超えているし、普通のデジモン相手ならその態度も普通だろう。それでやっていることが一匹のオタマモンを襲っていることだからアレだが。
「とりあえず、ぶっ飛べ!」
まず僕が一匹を殴り飛ばす。続いてマキナが銃弾で弾き飛ばしていた。
ドルモンとプロットモンは体当たりしているだけだが、ファングモンの連携を乱すには十分だった。ストライクドラモンとライラモンが追撃することで一気に蹴散らしている。
「さて――とりあえず、首を斬られたい奴から前に出な」
そう言い、僕は背後に光の剣を十本ほど出す。このまま射出してもいいのだが、流石に問答無用で倒すのも問題である。脅しだけでわかってくれれば御の字であるが――予想以上に効果があったのか、一目散に彼らは逃げ出してしまった。
「カノン、極悪人みたい」
「流石にウチもひくわぁ」
「……正直やり過ぎたと思っている」
妖怪首おいてけみたいな感じになってしまった……フラストレーションが溜まっていたのだろうか。
とりあえず光の剣は消しておいて、改めて襲われていたオタマモンの様子をうかがう。やはり元の時代で見たオタマモンとは体色が異なっている。通常は黒、もしくはそれに近い青色というべき体色だがこのオタマモンの色は赤だ。
「通常種とは属性も違っているな。ウィルスじゃなくてデータ種だ」
「タマァ……」
少し疲弊しているようだが、大きな怪我もなさそうでとりあえず安心と言ったところか。
と、そこでライラモンが何かを考える様子を見せ、ぽんと手を打った。
「そういえば、聞いたことがあるわね。温泉地帯とかにいるオタマモンは色が赤いって」
「へぇ、確かにコイツには水じゃなくて火属性が備わっているみたいだな」
水属性を持っていないわけではないのだが、配分が通常種とは異なっている。DNAと属性のバランスか……このあたり研究すれば僕自身の進化も安定しそうではあるが……
「今はとにかく先に進むべきかな。ほら、お前を襲う奴は追っ払ったから今度は気を付けるんだぞ」
木の実を二、三個置いて僕たちは先へと進む。
別段こんな出会いは珍しいものでもなかった。この時代に来てからこういう小さな出来事というのは何度も起きている。中には未来にいない古代種もいた。そういったデジモンの情報は逐一まとめている。
ただ、この出会いが後に様々な形で未来へとつながることに今の僕は知る由もなかった。情報としてだけではない、確かな形で。
◇◇◇◇◇
ファングモンたちは逃げ出したのち、再び元の場所へと戻ってきていた。自身たちにとっても戦いやすい夜――しかし、カノンたちもオタマモンもすでにいない。
屈辱を晴らそうと戻ってきたはいいが、流石に彼らはもういるはずもなかった。
「――――ッ!?」
だが、誰もいないわけでもなかった。
形状は人型、だがその背に生やしたコウモリの様な翼とただならぬ威圧感。そして、尾を蛇にした同じくコウモリの羽の様な翼をもつ鳥と虎を合わせたような姿のデジモンを数匹従えている。
「力の残滓を見に来てみれば――失せろ。お前たちのような雑魚にかまっている暇はない」
あまりにも強大な力の前にファングモンたちは委縮し、逃げ出していく。昼間に感じた恐怖などとは比べ物にならない。このデジモンは容赦なく彼らを消し去るだけの力がある。
そして、ためらいもしないだろう。ほんの気まぐれで見逃されただけだ。ただただ、ファングモンたちは自らの本能に従って逃げていく。
「ふん……姿を見られて生かしておく理由は無いが…………奴らなら他のデジモンに伝聞する心配もあるまい」
ただ殺す理由もない。余計な力の残滓を残すデメリットの方が大きいだけだなと、そう呟いて彼は姿を消した。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。