火山地帯から降りていく間、それぞれの疲労感はかなりのモノだった。
ドルモンも口には出さないがバーストモードの負荷によりだいぶ動きが悪くなっている。
「そろそろ休憩にするか?」
「それがよさそうだけど、休めそうな場所ってあるかな」
「うーん……」
マップデータを展開して、近くに休めそうな場所がないか見てみるが――ちょうどよさそうなのを発見した。そんなに遠くないし、ここならば体力の回復になりそうだ。
「温泉を見つけた。疲労回復にも役立ちそうだし、行ってみるか」
「いいね温泉。ウチも行ってみたい!」
「確かにいいかもしれないが、ライラモンが……」
「だ、大丈夫だよぉ……火の属性が強すぎて当てられたわけだから温泉なら大丈夫」
「なら行くとするか」
というわけで、急きょ温泉まで向かうことに。
大分疲れとかもあったが、道中襲われることもなくゆっくりと目的地へと進んでいる。
そうしていると、色々と後回しにしていた疑問とかもわくわけで、唐突にドルモンが話しかけてきた。
「そういえば試練中にデジメンタルが使えたんだけど、エレメントを保管しているから使用不可じゃなかったっけ? あの時は無我夢中だったから気にしてなかったんだけど、改めて考えると……?」
「ああ、たぶんドルモンが自己進化していたんだろうな。体内に直接取り込んでいたからスムーズに使えたって所だと思うぞ」
僕の側でドルモンに合わせて使用することはできなくなっているが、ドルモンが直接データを引き出す分には大丈夫だったんだろう。もっとも、デジメンタルの方が出てきてくれない以上試練の最中しか使えなかったんだろうけども。
というわけでそれ以上話のふくらみようもなく、とりあえずこの話はそこまでとなる。
他にも疑問に思うところは色々とあるが、例えば巨大ゴーレモン。いや、暗黒のデータでサイズ情報がおかしなことになっていたってのは分かる。わかるんだが……
(あれは外部から改造しないとできないよなぁ……しかも崩壊させずに適切な処理を施してある。力だけじゃなくて技術に秀でた奴もいるってことか?
でもネオデビモンの改造はかなり危ない状態だった。何か条件でもあるのか? それともそれぞれ別のデジモンが改造していた? うーん……)
「疲れたぁ……まだつかないの?」
「――あ、ああ。もうそろそろだと思うよ」
思考を打ち切り、マップを改めて表示する。
道も間違えておらず、すぐに目的の温泉にたどり着くだろう。
◇◇◇◇◇
さて、もう結構な期間デジモンとして過ごしていると忘れてしまっていることがあるわけだが――温泉に来たのはいいものの、マキナもいるわけで……服、どうしよう。そして仕切られているハズもなく当然のごとく混浴ということになるわけだが…………
「ねえカノンくん……そもそもこの服って脱げるのかな?」
「――――そこからだったかぁ」
そういえばこれって脱げるのだろうか? いや、上着の方はたぶん脱げると思うけどそこのところどうなんだろう? ストライクドラモンを見ると普通にズボンを脱いでいるが……あ、脱げるのね。そういえば前にガブモンは毛皮を脱ぎたくなくて一緒に風呂に入るのを拒んだって聞いたことあるわ。
「さて、それはそれで問題なわけだが」
「お前らさっさと入ればいいだろうが……なんでそんなに悩んでいるんだ?」
「?」
ライラモンも不思議そうな顔をしているが、そうだよな。デジモンにはそこら辺の性別差ってないんだったよな。人格的にどちらかには属しているのだが、明確に性別として現れているデジモンは少ない。
うーん――――と、そこで一つひらめいた。何かに使えないかと思ってしまって置いた布を取り出してデータを書きかける。
「よし、こんなものか」
「……水着?」
「マキナのデータを参考にいじってみたんだけど、これなら大丈夫か?」
「うん、ありがと……でも何だかそうやってストレートに対処されると釈然としないものがあるんだけど」
そうは言われても、何も返せないのだが……
とにかく、これで問題なく温泉に入ることが出来たわけだ。ちなみに僕は下半身毛におおわれているのでズボンや上着を脱げば大丈夫だった。なお、マフラーに関してはすっと消えたけど……人間の時に出ていたマフラーと同様だったと今更気が付いた。
「ふぅ、生き返る」
「これまで結構な長旅だったからなぁ」
もうずいぶんと時間が経ったようにも思える。実際のところはどうなんだろうか? デジヴァイスのログから割り出してみるが……たぶん2、3カ月ぐらいか。どうにもあやふやになってしまうのは元の時間とのずれの影響であろう。
「残り4つの神殿も速いところ攻略したいけど、まずたどり着くのが長そうだ」
「しばらくすればロコモンの線路も開通するからそれまでの辛抱だよ」
「そっか、ライラモンの言う通りそれがあったか」
ロコモンが復活してから、各地のデジモンたちで線路を広げているらしい。それがあればもっと短縮できるかもしれない。マップに反映されている限りだと……風の神殿の後で海の方へ行くのが良いだろう。水の神殿はどうやら海の上にあるらしい。ロコモンの線路を使えば結構時間が短縮できる。
「とは言っても、風の神殿までは完全に徒歩だな」
「やっぱりか。それにしても、ルーチェモン軍の奴らは何がしたいのやら」
「――――それはハッキリとはしないが、ロクなことにならないのは間違いない。少なくとも、未来はひどいありさまになってしまうだろう」
「く、クダモン!? 今まで起きてこないから心配したんだよ!?」
そう、唐突にクダモンが話に入ってきた。
今の今までマキナが首から下げている薬莢から出てきていなかったのに、大丈夫なのだろうか。
「すまないな。この時代の空気が肌に合わなかったのかもしれない。色々と迷惑をかけた」
「それはいいが、この時代?」
「そういえば二人にはまだ説明していなかったか」
ストライクドラモンとライラモンにはまだちゃんと説明していなかったな。触りは言ってあるのだが、いい機会だからちゃんと説明しておこう。なんだかんだで旅の仲間として共にいるわけだし。
「僕たちは今からずっと未来からこの時代にやってきたんだよ。この時代に紛れ込んだ何かのせいで未来が大変なことになったからそれを何とかするのが僕たちの役目なんだ」
「未来ねぇ……時間を越えられるならもっと戦力を集めたりはできないのか? それこそカノンが分身するんじゃなくて自分をもう一人つれてくるとか」
「いや、それはできない」
と、そこでクダモンがストライクドラモンの問いに答える。
「そもそも時間を超える行為自体がよほどのことがない限り行ってはいけないことなのだ。我々は様々な事情からそれができる立場にいるが、それでも最低限のメンバーで時を越えなければいけない。余計なことをして我々が未来を破壊してはいけないからな。
確定事象として組み込まれているからこそ、異常を出さずに時を超えることが出来ているわけだがそれを逸脱した行為をした場合に起こりうる因果の逆転は非常に厄介な代物だ」
「因果の逆転?」
「
「それって……」
以前、ドルモンが起こしたことだ。
そうか、頭の片隅にだがずっと疑問として残っていたのだ。デクスドルゴラモンとの戦いでなぜドルモンはデータを破壊されなかったのか。本来ならばデジモンのデータを消し飛ばす能力が備わっているハズのあのデジモンとの戦いでドルモンが平気だった理由。
「それこそ、因果の逆転――いや、時間のエラーとでもいうべき現象だ。同一の魂を持つ者同士が接触することで起こってしまう現象だ。デジモンの能力がまともに作用しなくなったり、時間軸において不可思議な現象が起きたりなど色々と厄介なことが起こる。特に気を付けてもらいたいのはプロットモン、お前だがな」
「プロちゃんがです?」
「ああ。マキナとカノンに関しては同一の魂を持った存在はこのデジタルワールドにいないであろうからな。気にするだけ野暮だ。ドルモンに関してもおそらくは最深部に保管されているハズだ。であるならば、私とお前になる前の――同一の
「相当時間が経っているのにです?」
「予感がするのだ。こういう嫌な予感は昔から当たってな――気を付けた方がいいだろう。何が起こるかわからないのだから」
同一の魂を持った存在との接触か……ドルモンの時はそれに助けられたけど次もそううまくいくとは限らない。とにかく、そうなった場合は別の人に戦ってもらうべきってことか。
「ああ、その認識で構わない。デジタルワールドも広い。そうそう出会うこともないであろうが……やはり気を付けておいてくれ。カノン、お前なら読み取れるはずだ」
「分かった。気に留めておくよ」
◇◇◇◇◇
疲れをとるということもあり、今日はそのまま温泉近くにテントを張って休むことになった。
色々と使えそうな魔法の式を地面に書き出し、エラーが出そうな箇所を修正する。
火山地帯で思ったのは、低燃費で広範囲に攻撃できるようなものが必要ということだ。別に殲滅する必要はない。自分がガス欠になったら意味がないため、とにかく戦況をよくするための一手を用意しておくには越したことはない。
「うーん……今までが近接攻撃と大火力砲撃に頼っていた面もあるからなぁ…………味方を巻き込みかねない攻撃もまずいし、どうしたものか」
「んぅ、カノンくん? まだ起きていたの」
「あ、悪い。起こしちゃったか」
気が付けば結構時間が経っていたらしい。離れて作業していたが、どうやらマキナを起こしてしまったようだ。
「他のみんなはぐっすりだけど、カノンくんも寝た方がいいよ」
「それは分かっているんだけどね。色々と手札を用意しておきたいんだ」
「心配性だなぁ……気持ちはわかるけど、休むことも大切だよ」
「あはは、ごめん」
確かに休むことも大切だ。それでも、考え出すと止まらないのである。
「考えていると寝れなくて、どうしてもこれだけは完成させたいんだ」
「魔法式か……砲撃ベースに無数の追尾弾を放つ感じ?」
「その方向で作っていたけど、どうにも使い勝手と燃費が……」
「だったら自分の得意なことを使えば?」
「得意なことって……」
「ほら、電撃能力だよ。アレを使って扇状に広がるとかそんな感じで」
「……扇状、いや対象から対象に感電していくように広範囲に広がる感じなら……」
電撃なら僕のほうで制御も効く。かなり有効な方法かもしれない。
「ありがとうマキナ、おかげで一つ片付いたよ」
「どういたしまして。それじゃあ早く……って、今度はどうしたの?」
「次は飛行魔法の改良を」
「いいから早く寝なさい」
「……はい」
流石に、怒らせるのはまずいと思ったので、無理やりにでも寝ることにした。
まあ、休息も大事だからね。うん。
決してマキナが怖かったとかそういうわけではないのだ…………うん。
今入れないと次入れる機会なくなるので前に起きた話で解説していなかった部分も含めての説明回でした。