『ヨウコモン、成熟期、データ種』
ドルモンとの間にラインを構築し、情報を閲覧するが……やはりそう多くの情報は引き出せないらしい。
弱点とかわかればいいなとは思ったが、そううまくいくわけもないか。
もう一つ気になったのは屋上にたどり着いたというのに、濡れないことであるが――どうやらアイツが何かしかけていたらしい。
「ドルモン、迎え撃つぞ!」
「うん! ドルモン進化――
――ドルガモン!!」
「わらわにたてつくつもりかい? 面白い、相手になろう」
対峙する二体のデジモン。屋上という狭いフィールド内でどこまでやれるか……それにあたりが暗い――ここでも奴が何かしかけているとも思ったが、単純に夜になっているようだ。
というよりは夜になるまで足止めされていたというべきか。
「油断し過ぎた! 隠ぺい能力が高い相手だっているだろうに」
「反省は後だ――来るぞ!」
ドルガモンの呼びかけに合わせ、マキナを抱えて走る。ヨウコモンの放つ炎が迫っており、回避に専念する。ドルガモンも食らいつこうとするが、ヨウコモンはしなやかな動きでかわしていく。
ドルガモンに進化したことで力は増したが、相手は素早さで優っている。
「それに、狡猾だこと! さっきから火の玉が狙ってきすぎやしませんかね」
「おほほ。策略家と言ってほしいわ」
ずっとこっちを見ているのも不気味だっての。しかし、奴の狙いは僕というよりは……
予測の域を出ないが、狙う理由もわからない以上このまま撃退を狙うしかない。炎を操る相手である以上、サラマンダモンには進化できないな。
「ドルガモン、風をつかえ!」
「わかった――はあああ!!」
ドルガモンが強く羽ばたき、あたりに突風を起こす。ヨウコモンもそれで動きが止まり、体が硬直する。
僕たちはすぐさまドルガモンの背に乗り、屋上から離脱した。
「――な、逃げるんかえ!?」
「こんな狭いところじゃ不利だからな! ドルガモン、あの場所で迎え撃つぞ」
「と、飛んでる!? 空飛んでる!?」
「マキナしっかりつかまってろよ!」
「う、うん」
マキナを抱えて、僕らは再びあの場所へと降り立つ。
ダークリザモンと戦った場所、第六台場へと。
「やっぱ追いかけてくるよな」
顔を上げれば、ヨウコモンが空を走るように飛んできていた。ほどなくして地面に降り立ち、こちらを睨んでくる。殺気もきているし、こりゃ怒っているな。
だけどこちらもただでやられるわけにはいかない。
「焔玉!」
炎の塊が僕らめがけて襲い掛かってくる。マキナは頭を抱えて身を縮ませるが、僕らはそれに真正面から向かい、迎え撃つ。ドルガモンがとびかかる――前に僕が右手を突き出し、魔力を循環させる。
いつもの通りに、術式を構築してこの場における情報を書き換えていく。
「
炎の塊と壁がぶつかり合い、データの火花が飛び散っていく。持って三秒。その間に僕はマキナを抱きかかえ、横へと飛ぶ。
そして、ドルガモンは上空に飛び上って急降下を行い、ヨウコモンへとめがけて突撃する。
「なっ――ただの人間が異界の術を使うだと!?」
「隙だらけだよ!」
急降下からの蹴り。ドルガモンの一撃がヨウコモンに決まり、ヨウコモンは弾き飛ばされる。
もちろんこれで倒せたとは思えない。次の攻撃に備え、すぐに術を起動できるようにしておく。
どこから来るのか――しかし、流石にこれは僕も予想外だな。
「あちっ!?」
「全体攻撃かよ……」
僕らの周囲が炎の円を作り、迫ってきた。流石にこれはまずいとドルガモンの背に乗り飛び上がってもらうが――地面に集まった炎が龍の形になり、追いかけてきた。
「マズイなこりゃ」
「どうするのカノン?」
「短期決戦しか、ないだろ!」
炎めがけて突っ込む。そして、当たる直前でドルガモンは体を回転させて炎の周りをグルグルと螺旋を描くように飛行する。
以前、サラマンダモンの時に使った動きを体で覚えていたんだろう。軽やかに攻撃をかわし、ヨウコモンへと肉薄する。
「なっ――」
「生憎と、この程度なら前に戦った奴らの方が強いよ!」
至近距離から鉄球を放つ。すでにチャージが完了しており、強力な一撃がヨウコモンに炸裂した。
断末魔をあげる暇もなく、ヨウコモンは炎に包まれて消えていく。
◇◇◇◇◇
「ふぅ……なんとか撃退出来たかな」
「そうだねぇ」
ドルモンも肩を回し、ふぅと一息ついていた。
あとは、おそらくあいつが襲ってきた原因だけど……
「なあ、マキナ……やっぱり話せないか?」
「…………ごめん、なさい。わからないの」
「そっか……なら仕方がないか」
おそらくは彼女を狙ってきたのだろうが……理由がわからない以上、何もできない。
まあ一つ気になっているものがあるからそっちを片付ければいいのか。
「じゃあその薬莢は? デジモンに関連するものだと思うけど」
「このペンダントのこと? 気がついたら首から下げていたからよくわからない……それに、デジモンって?」
「デジモンを知らない?」
それに、気がついたらって……記憶喪失なのか?
いぶかしむ僕の視線に気が付いたのか、マキナはすぐさま訂正してくれた。
「ウチ、体が弱くて病院にいたんだ。でもこうやって自由に動けるようになってはしゃいでいたらカノン君に会ったの。で、色々遊びたくなってトランプとか持ってきたんだ。だから、ペンダントもお母さんか誰かがお見舞いでもってきてくれたものだと思う」
「それにしては物騒な代物なんだけど」
「ぶっそう?」
「だって、それってピストルとかライフルの銃弾の――」
と、そこで再び体中に悪寒が走る。
マズイと思う暇もなく、黄色い炎が縄のようになりマキナの体を捕えた。
「うわあああ!?」
「マキナ!」
「なんで、確かに倒したはずだよ!」
そう、手ごたえはあったし強さ的にもあれ以上はないはずだ。
しかしヨウコモンは再び現れた。いや、現れたというには語弊があるだろう。
「ウグォオオオ……よくもやってくれましたなぁ…………キッチリ落とし前はつけてもらいますえ」
「テクスチャが、はがれている?」
ヨウコモンの体のあちこちがまだらのようにテクスチャが剥がれていて、ワイヤーフレームが見えている。満身創痍なのは違いない。確かに倒せていたのだ。それでも執念で奴は起き上がってきた。
目を血走らせて、マキナを捕えたまま放さない。
「マキナをどうするつもりだ! デジモン由来の物をもっているが、その子自体はなんの関係もないだろ!」
「関係ない? 本当にそう思っとるんか……くくく、偉い滑稽やわぁ」
「何がおかしい……」
「それに、この子もこの子や……まさか気が付いておらんとはおもいもしませんで」
「な、なに……ウチをどうするつもりなの?」
「なぁに――その体の中にある電脳核をいただくまでです」
――――電脳、核? しかしそれはデジモンにしかないはずだ。人間の彼女にあるはずがない。
茫然とする中、ヨウコモンは言葉をつづける。
「まったく覚えておりませんようですが、この子は既に死んでおるんよ」
「う、うそよ……でたらめ言わないで!」
「本当は分かっておるはず。病室の中、外にも行けずに寂しく死んでいったことを」
「あ――ああ」
「友達もできずに、暗い暗い世界へ消えていこうとしたことを」
「やめて…………やめてよ」
「病気は治らなかった――――もう、この世の住人じゃないのにまださまよっているんとは悪い子」
「やめてぇええええええええええええええ!!」
絶叫と共に、マキナの体が光を放出していく。
体から電気がスパークし、あたりを照らすが――その体の中央に光り輝く球体の何かが見えた。
「――うそ、だろ」
「この子は死んだあと、魂が体に繋がれていた機械を通してデジタルワールドに迷い込んだんよ。あんさんならしっとるはずや――二体のデジモンが戦った日のことを」
「――――ッ」
「まさにそのタイミングで死んだこの子は、あの時の時空の歪みに巻き込まれた。すぐにこちらに戻ってきたけど擬似電脳核を手に入れてしまったがゆえにさまよい続けて――あんさんに反応して出てきたってことや」
「…………それで、マキナをどうするつもりだ」
「死人をどうしようが別にあんさんには関係のないこと。今ならみのがすえ」
死人。マキナが……この数日の思いでは嘘だったのか。そう思うほどに言い知れぬ無力感が体を駆け巡る。
ヨウコモンの背後に炎の輪が出現し――その先に空間のひずみが現れた。
「それでは――さいなら」
「いや――」
死人一人いなくなる。別に世界には何の損失もない。もう戦わないと言っているのだから、無益な争いはここまで。すでに死んでいるのだから、マキナをどうしようとヨウコモンの勝手――――
「――――なわけ、ないだろうがッ!!」
「カノン君、助けて!!」
彼女がそこにいて、助けを求めるのならば答えよう。
たとえ死人だったとしても、この数日に築き上げた友情は決して、偽物などではないのだから。
「ドルモン!」
「ああ――いくよ!」
体の内側から、光と共に卵型のオブジェが現れる。今度の色は青。炎を纏ったような前回とは異なり、電を纏ったような模様をしたデジメンタル。
紋章とデジヴァイスが輝きだし、新たな進化をここに誕生させる。
「デジメンタル、アップ!!」
「ドルモン、アーマー進化!
ケンキモン!!」
今までの進化は生物を基にした姿だった。しかし、今度の姿は全く異なる。
フォークリフトと大型ショベルの腕を持ち、足ではなくキャタピラを装備している姿。尻尾はプラグとなっているその姿はまさに
「ヨウコモンを引きずり出せ!」
「オウよ!!」
頭の後ろについたクレーンを振り回して、ヨウコモンめがけて飛ばす。あっという間にヨウコモンの下へたどり着いたロープはぐるりと彼らを巻き取り、こちらへと連れ戻した。
「なっ――――アーマー進化だと!?」
「マキナを、放せ!!」
電撃を拳にまとわせ、ヨウコモンを殴る。テクスチャが剥がれて弱っているのが見てわかる。僕の一撃でも、ヨウコモンは体勢を崩してマキナを落す。
すかさず、マキナを抱き留めて離脱してケンキモンに任せる。
「おりゃぁ!」
「グぬ――負けぬ、負けられぬのだ!!」
激しい攻防が続く。炎と重機の腕がぶつかり合い、轟音を響かせる。
ケンキモンは力こそ強いが、スピードだと更に遅くなっているようだ。
「どうする……どうやってアイツを倒す」
しぶとさなら今まで見たデジモンで間違いなくトップ。いったい何が奴をそこまで突き動かすのかはわからないが――やがて均衡が崩れた。
流石に、限界が来たのかヨウコモンが倒れかけたのだ。その隙を逃さずにケンキモンが強力な一撃を浴びせる。
「どっしゃぁああああ!!」
「――――ガアアアア!?」
吹き飛ばされ、木に激突してそのまま落ちていく。
これならばもうやつは……いや、まだだった。
「まだだ――勝たねばならない。わらわはさらなる高みへ上るのだ。そのためには、そのおなごの電脳核を喰らわなければならない。よこせ、電脳核を寄越せぇえええ!!」
「他人を喰らってまで強くなろうってのか? そんなことをする前に、やることがあるだろうよ」
「黙れ! 貴様らにはわからぬのだ! 進化の過程で切り捨てられていく者たちの思いが――無念が!」
「だからって他人の思いを奪って強くなったって未来はない!」
「――――ふはは、はははははは! 消す。人間界とデジタルワールドのバランスなど知らぬ。イグドラシルもホメオスタシスも勝手に踊っていればよいのだ! いずれ、全てが取り返しのつかぬ事態となるだろう! どうせ滅びるのだ、今すぐに消し去ってくれる!!」
バチリとショートする音が響いた。ヨウコモンのテクスチャがすべて剥がれ、まるで赤黒い龍のような姿となって空へと飛び上がる。
それと同時に、嫌なビジョンが頭を駆け巡った。
地上に落ちてくる赤黒い光。そして、街は炎に包まれて――――
「マズイ、アイツここら一体を焼け野原にするつもりだぞ!」
「でもオレたちのスピードじゃアイツには追い付けない」
「だったら――――追いついてみせるしかないだろ! ケンキモン、根性見せろ!!」
「……合点承知!」
デジヴァイスが再び輝きだす。いつもの進化とはまた異なるが、不思議と次にすべきことが頭に浮かんだ。
ケンキモンの背に乗るように飛び乗る。そして、ケンキモンの体が光に包まれていった。
「ケンキモン、スライド進化!」
形が劇的に変化していく。アーマー体なのは変らず、同じ属性のデジメンタルのままだ。
しかし、まったく別のデジモンへと姿を変えていく。大きな翼に、稲妻を模した鎧。
「サンダーバーモン!!」
巨大な翼をもった鳥形のデジモンへと、その姿を変えたのだ。
「鳥になった……」
「いくぞサンダーバーモン! あいつを追いかけろ!」
「分かってるさ」
大きな羽ばたきと共に空へと飛び上がる。今までのスピードなんて比じゃない。とてつもない速さで、高く飛び上がっていたヨウコモンのところにたどり着いたのだ。
もう奴の顔は見えない。しかし、驚愕したのは分かった。
「――――ッ」
「勝手な悪意で無茶苦茶にしようってんなら、自分が破滅する覚悟ぐらいできているんだろうな」
「――――」
往生際悪く、奴は焦りを見せて逃げ出そうとした。
……後追いするべきなのか否か。それは分からないが――勘がつげた。こいつは狡猾に執拗に狙い続けるだろう。そして、最後にはすべてを巻き込んで多くの命を消し去ると。
「サンダーバーモン!」
「サンダーストーム!!」
雷撃が奴を消し去っていく。執念深く、生き延びようとする奴であったが――もう、再生もできなかった。
数秒もすればデータは崩れ、粒子となって消えた。こうしてヨウコモンというデジモンは姿を消し、月下の戦いは幕を閉じるのであった。
マキナについては次回で。
アドベンチャーの物語には黒幕がいますが、tryより前にそいつはすでに倒されている。
となると、tryの黒幕って一体誰なのか。02で倒されないまま消えた奴なのか……さあ、どうなるのか。