例外処理・名称_橘カノン_アイギオモンの第二コードの解放を確認。
確定事項・Xコードの利用可能デバイスが登録されました。
デジタルワールドクライシスまで、残り時間__
プログラムコード・ラース_利用可能。
深刻なエラーが発生しました_例外処理に基づいてリブートを__失敗。
不明なデバイスが接続されました_プログラムの許可。
コードJがインストールされました。
__第四コードは解放されています。
プログラムTの設定を完了しました。
デジコアシステム再起動__
◇◇◇◇◇
意識が浮上する。
妙な体のだるさを感じながら、起き上がってみるとマキナが僕のわきの椅子に座りながら眠っていた。
……そうか、また無茶しすぎたんだっけか。
右腕を見てみると、薄っすらとだが腕に一本の線が出ている。ちょうどひじの上のあたり。そこをぐるっと一本の線、いや斬られた痕が残っているのだ。
「……起きたらお説教かな、これ」
随分と心配をかけただろうが、あれからどれほど時間がたったのだろうか。
腕を軽く動かしてみるがそれほど違和感はない。切断面も綺麗にスパッといっていたから思いのほか簡単にくっ付いてくれたみたいだが……なんだろう、若干重いような…………?
「うーん、どういうことなのか」
「――――それは、ウチに先に言うべきことを言ってからだと思うんだけど」
どこか底冷えのする声で僕の目の前に修羅となったマキナがにっこりとした笑顔で覗き込んできている。
……いい言い訳が思いつかない。
「この期に及んで逃げないよね?」
「……ハイ」
その後のことは僕の名誉のためにも黙秘させていただきたい。
とりあえず、マキナは怒らせると怖いというのだけは分かった。
そんなこんなで、とりあえず動けることは分かったしみんなのところへ顔を出すことに。
ものすごく驚いた顔をしていたのだけど、どういう事だろうか?
「そりゃ三日も眠っていればそうなるよ」
「……マジで?」
「マジで」
ドルモンの話によると、栄養剤を飲ませて術後の経過を見ていたのだが、それでも今まで何の反応もなかったらしい。起きるのがいつになるかわからないと思っていたら、唐突に起きてきてびっくりしたという事か。
そりゃ昏睡状態だったのに起きてすぐ動いていたら驚くよなぁ……
「それで、右腕は大丈夫なの?」
「動きはするんだけど、なんか妙な違和感があるんだよ」
「すいません。ぼくたちも最善を尽くしたのですが、思いのほかダメージが深刻でして……」
チビマメモンたちも色々と手を尽くしてはみたものの、怪我をした状態で戦ったこともあり簡単には治りそうもない状態にまでなっていたらしい。
何よりも、データが漏れた状態だったため時間もかけていられなかったのがヤバかったと。
そこで最終手段として取られたのが右腕内部をサイボーグ化することだった。
「ってことは、右腕サイボーグになってるのか?」
「言葉で言うほどのモノではありませんが、そうですね。腕の接続とメタルグレイモンのように肉体の腐敗を起こさないように色々と手を尽くした結果、右腕のデータ構造が若干変わってしまったのが違和感の原因だと思います」
そう言われたので、右腕を久々にデータを読み取る魔法を使ってみて調べたが……確かにちょっと構造が変わっている。右腕だけよりデータ体に近くなってしまったという感じだろうか。
そのうち慣れる範囲だしそこまで気にする必要はないと思うけど……
「これは教訓ってことにしておくか」
今回は命を失うことはなかったが、それでも限界を超え続けたときの代償としての結果がこれだ。
今後は無茶をし過ぎないようにすることも重要になる。
「ってわけで、次無茶したら流石にマキナちゃんもブチギレよ」
(口調がすでにおかしくなっていることに関してつっこんではいけないんだろうなぁ……)
「返事は?」
「は、はい」
とりあえず、しばらくは街でやることもあるしほとぼりが冷めることを祈ろう。
◇◇◇◇◇
やること、と言っても僕も工房に籠らせてもらって色々と改造をすることなんだけどね。
ゲーム機の方を改造したり、デジメンタルについて色々と調べたりなどだ。
マキナ達もこの機会に休息と色々とこの先に必要なものを集めに行ったりなどしている。そういえば、一つ気になるのはこの前の戦いの間もそうだがクダモンが妙に眠っている時間が多くなったことだ。
話を聞いてみても、この時代に慣れないんだろうとはぐらかされたが……どうにも気になる。
「……まあ気にしていても仕方がないか」
「どうかしましたか?」
「いや、こっちの話」
チビマメモンが話しかけてくるが、彼には関係のない話だし適当に切り上げる。
それにクダモンも必要な時になれば話してくれるだろう。
僕もやることはやっておかないと。
「カノンさん、もうデジメンタルをそんなに作ったんですね。それにデジメンタルに使ったその紋章データはどこで入手したんですか?」
「前にちょっと、ね」
メフィスモンとの戦いの時に流れ込んできたみんなの紋章データ。僕の体に残留していたそれを基にデジメンタルを製作したのだ。
それぞれがX抗体を持つデジモンが使用しても耐えられるものとして仕上げたが……壊れる可能性もあるし今後使い捨てのような形になるかもしれない。
「……耐久度の問題をクリアするには、やっぱこいつを材料にするしかないか」
「でもそれってかなり希少なものだと思いますよ。鉱石にデータをコピーして使った方がいいのでは……」
僕が取り出したのは運命の紋章。これをベースにすれば強度の問題はクリアできるとはおもうのだけど、流石に止められてしまう。
たしかにリスクも大きいか。一応これ僕の力を封印するためのものでもあったわけだし、ここで無くすのも危険かもしれない。
「仕方がない、これはそのままにしておくか」
「その方がいいですよ」
そう言われて作業に戻ろうとするが、流石に長時間の工房での製作は疲れる。
ちょっと休憩がてら書庫から借りてきた本を読むことにしよう。
この街には大きな書庫があり、色々と貴重な資料も残っている。面白いデータなども見ることが出来たのだが、あまり利用できそうなものはないのが残念だ。
……この本、なんとなく借りてきたものだったが…………
「……マメモン、このゼロアームズってなんだ?」
「噂には聞いたことありますけど、確かかなり昔の兵器だったかと。擬似的なデジコアを搭載していたデジモンの一種とも聞いたことはありますけど……所詮は噂ですし」
「そう、か」
詳しいことはこの本だけでは分からない。
ただ、どこかで聞き覚えがある気がしたのだ。アームズという言葉を。
イグドラシルに接続できたのなら何かわかったかもしれないが、生憎今はそんなことできない。そもそも接続したら何が起きるやら……
「まあ未来で、いつか調べればいいか」
いまは記憶の片隅にでもとどめておいて、やるべきことをやろう。
ゲーム機のほうも画面の大きさを活かしてマップ機能などもつけたいし、いろいろとやることが多い。
とりあえず容量超過にはならないけどあまり無茶な改造をしないようにしながら調整をして……そういえば前にデジヴァイスとの接続端子は作ったことあるんだよな。光子郎さんのアナライザーを使うのに変換アダプタを作ったときに接続端子の構造はみたからおぼえているし……
「……あの時のログデータを使えばアナライザー機能はつかえるか?」
といっても出会ったデジモンの情報を呼び出すだけだが。いや、それはもともとできないんだっけ? 使ったのかなり前だったからよく覚えていないんだよなぁ……この時代でも結構な時間がたっているし。
まあ、接続できるようにはしておくか。一応。
◇◇◇◇◇
まったくもって不愉快ではあるものの、彼の気持ちもわからなくはないのだ。
ウチだって意外と似たようなことはしでかしていたりする。最も、ウィッチェルニーでのことだからクダモンぐらいしかしらないけど、彼女も最近は寝ていることが多いし。
「はぁ……それでもカノンくんは無茶しすぎだよ」
「まったくです」
頭の上にデジメンタルをのせたプロットモンが同意してくる。
ウチとしては貴女も無茶するよね、って思っているけど。とりあえずデジメンタルを取り上げておく。
「なにするです」
「発動したらまずいでしょうが。っていうかカノンくんに預けなくていいの?」
「リンクがあるわけじゃないのでカノンじゃプロちゃんには使えないです」
「そうなの?」
「はいです。一番相性のいいのを無理やりに使ったからプロちゃんも体があちこち痛いです。それでも、必要だったです……だから、頑張ったん…………ですけど」
はぁとため息を一つついて、プロットモンは寝転がる。
彼女もいろいろと考えてはいるみたいだが、どこかの誰かの無鉄砲さが移ったのだろうか。
「マキナはどうして戦うです?」
「ウチは……なんでだろうね。向こうの世界でも師匠たちにいろいろと言われていたんだけど、結局成り行きで前に進んでいたところはあるかなぁ」
家族はもういなく、クダモンと一緒に暮らしてきた。
カノンくんは命の恩人で……ウチにとってはとても大事な人だ。だから、彼が無茶をしすぎるとどうにもイライラしてしまう。
そんな中でも、ウチはまだはっきりと自分が戦う理由を見つけられていない。なんとなく、逃げてはいけないってのはわかるんだ。ウチにとっても大事な何かがこの時代で見つかりそうな気はする。いつの日か、向き合わなければいけないことが待ち構えている予感はするのだ。
「……まだ、考え中かな」
「です、か……なら、それはマキナに預けるです」
「それって、このデジメンタル?」
「はい。必要になったときにマキナが使ってください。おねがいです」
「…………わかった、ウチが預かっておくね」
たしかにウチなら回路をつなぐことができるからプロットモンに合わせて調整できると思う。だけど、彼女が言っているのは自分が無茶しすぎないように、持っていてくれってことなんだろう。
一つ責任がかかるだけで何かがかちりとはまったような気がした。
「迷わないでくださいです。後悔するのは、つらい……です」
「そうだね。後悔はしたくないよね」
だったらウチたちも前に進まなくてはいけないのだ。
どんな運命が待っていようとも。
◇◇◇◇◇
いろいろと準備もあって、合計で2週間ぐらい機械都市に滞在していたと思う。
ドルモンやストライクドラモンたちは街の外で体を鍛えていたらしく、いろいろとボロボロになって戻ってきていた。ライラモンがかなりあきれていたよ……
マキナたちも何やら新たな魔法の開発や新技に着手していたが、どうにか試作段階にまではこぎつけたらしい。調整をしてはいるものの、いざとなったら実戦で試すとか言っていたが……何も言うまい。僕も割と似たようなことしているわ。
そして、機械都市を出ていよいよ火山地帯へと向かうこととなる。
「みなさん、たいしておもてなしもできませんで本当にすいません」
「顔を上げてくださいよ。あなたが王様なんだから簡単に頭を下げないでください」
こうしてプリンスマメモンと住民たちが見送りをしてくれているが、さすがにここまで大仰だとこっちが委縮してしまう。
「いえ、あなた方はこの街の恩人です。できれば手伝いとして誰かを向かわせたかったのですが……」
「いいえ。気持ちだけで十分です」
「それにこの先はキングエテモンがかわいく思えるほどの強敵が現れるかもしれないしな。なにせ、最後に待っているのは……」
ああ。ストライクドラモンが続けてくれた通りだ。最後に待っているのはルーチェモン。
「過酷なたびになります。たぶん、今後は今まで以上に気を引き締めていかないといけませんから……だから、皆さんはちゃんとここを守ってください」
「はい。必ず」
それがこの世界のバランスを保つことにつながるのだ。
真のタイムアップはバランスの完全崩壊。少しでも長く時間を稼ぐことこそ、僕らにとって一番助かることだ。
「それと……そのデジタマは」
「大丈夫ですよ。彼は私たちをだましていたのでしょう。それでも、私にとっては気の置けない友人だったんです……だから、彼のデータを引き継いだこのデジタマは私たちが育てます。今度は、間違えないように」
「ええ、きっと大丈夫です……それに、やろうと思えばすぐにでもあなたを倒すことができた彼がずっとそれはしなかった。自分をだましすぎてそれに気づけなかった彼の本心を、僕も信じています」
もしかしたら違う未来があったのかもしれない。
僕では手の届きようのないところで何かが狂ったのかもしれない。でも、まだ未来は残されている。
記憶を引き継ぐことはないのだろうが、それでも残るものがあると信じたい。
「それでは、僕たちは行きます」
「旅の無事を祈っております――みなさん、お元気で!」
みんなに見送られながら、僕たちは先へと進む。
最後に、チビマメモンのありがとうという言葉に手を振り、笑顔で別れた。
目指すは火山地帯――火の神殿。
さて、これにて機械都市編が終了しアーマー進化とブルーが解禁です。
というわけで次回からは火の神殿編へと入ります。
それほど長くはならないと、思う……かなぁ…………